“男と女” 第16話 『写真 ①』
2019-06-23
第16話 『写真 ①』
「ハァ~」
女が溜息を吐いた。
それは、3年間同棲していた男との別れが決まり、男の留守中その男の部屋を去る支度をしていた時に出て来たアルバムを見ての事だった。
そのアルバムには、5年前初めて男と出会った時から始まり、同棲を始めた3年前、そしてつい1か月前に一緒に行った北海道スキーツアーの写真までが順を追って張られていた。
それらの写真を1枚1枚繁々と眺めながら、女はそこに写っている出来事を思い返していたのだ。
女は懐かしさで目頭が熱くなった。
そして別れの原因を考えてみた。
特に何かがあったからではなかった。
浮気とか、喧嘩とか、憎み合ったとか、・・・とか、といった。
ただ、倦怠期に入り、互いが互いの存在にプレッシャーを感じ始めそれが限界に達した時、別れが決まったのだった。
つまり、男も女ももうそれ以上の惰性の生活に踏ん切りを付けようという事になった、という訳だ。
そして今日。
女は男の部屋を出て行こうとしていた。
そんな中で見ているアルバム。
その写真が最後の1枚になった。
その中の男はこっちを向いて微笑み掛けていた。
並んでその隣りにいる自分も同じ事をしていた。
しかしその笑いにはどこかぎこちない物があった。
それを見て女はこう思った。
『この時点でもうアタシたち、やっぱ、仮面被(かめん・かぶ)ってたんだ・・・』
それから女はもう一度一番初めのページに戻り、付き合い始めた頃の写真を見た。
その写真の中の男もこっちを向いて微笑み掛けていた。
やはり、並んでその隣りにいる自分も同じ事をしていた。
それをジッと懐かしみながら女はもう一度、
「ハァ~」
溜息を吐いた。
それからその写真をアルバムから丁寧に剥がしてテーブルの上に置き、その写真にカラーペンの白でメッセージを書き残した、笑顔でこっちを向いている二人の胸の辺りに。
その写真の中は最後の写真とは場所も違えば季節も服装も、そして二人の若さも、それら全部が違っていた。
何もかも全部が違っていたのだその写真の中は、最後の写真と比べると。
だがその中でも一つ、取り分けて決定的な違いがあった。
そぅ。
他を差し置いて一目でそうと分かる決定的な違いが。
その決定的な違い、それは・・・
こっちを向いている二人の・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・笑顔だった。。。
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第16話 『写真 ①』 お・す・ま・ひ
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