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アリスのお家 『 Rick's Cafe Tokio 』
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アリスのお家

創作お話作ってます。。。

『 Rick's Cafe Tokio 』 番外 『 CASABLANCA (カサブランカ)』

以下は、2006/12/27の当ブログ管理人のコラムです。


『 Rick's Cafe Tokio 』 番外 『 CASABLANCA (カサブランカ)』


皆さんは 『 CASABLANCA (カサブランカ)』 という映画をご存知でしょうか?

ハンフリー・ボガート(通称・ボギー) 主演
イングリッド・バーグマン 共演

による、ラブ・ロマンスです。
当ブログ管理人的オススメ映画の一つです。
1942年にワーナー・ブラザーズ・スタジオによって公開されました。
" casablanca " とは、スペイン語で 『白いお家』 と言う意味だそうです。
 casa が『お家』、 balanca が『白』ですネ。
ただし、 Casa Blanca と綴(つづ)るとメリケンの 『ホワイトハウス』 の意味になってしまいます。


さて、

この映画・・・

舞台は、第二次世界大戦中のヨーロッパとアフリカのモロッコ。

そして、

ハンフリー・ボガート演じるリチャード・ブレイン (通称・リック 時に リッキー) は、 " The New World (新世界)" つまり自由の国アメリカへの亡命を希望するヨーロッパ人達の寄港地フランス領モロッコの都市カサブランカで、 " Rick's Cafe American (リックス・カフェ・アメリカン)" という名の酒場を経営していた。

ある時、

そうとは知らずその酒場に昔の恋人イルザ(イングリッド・バーグマン)が、反ナチ運動を指揮する夫ヴィクター・ラズロと共にやって来る。

かつてイルザに裏切られながらも、今なお彼女を忘れられないリック。
愛していながらリックから離れていかなければならなかったイルザ。
真実と、イルザのいまだ捨てきれないリックへの思いを知った時・・・。
リックは命を懸けて、愛するイルザとその夫ラズロをアメリカへ脱出させようと決意する。


ムーレイ・バーネットとジョアン・アリソンの未発表の戯曲 『 Everybody Comes to Rick's (誰もがリックの店にやって来る)』 をベースに、マックス・スタイナーによる美しい音楽と、二人の男と一人の女、その三角関係を数々の名台詞でつづったラブ・ロマンスの傑作です。


その "リック" の名台詞を二つご紹介しましょう。

" Rick's Cafe American (リックス・カフェ・アメリカン)" でのやり取りです。



女 「昨夜はどこにいたの?」 Where were you last night?

リック 「そんな昔の事は覚えていない」 That's so long ago, I don't remember.

女が又 「今夜は会える?」 Will I see you tonight?

リック 「そんな先の事は分からない」 I never make plans that far ahead.




そして、もう一つ。

リック 「君の瞳に乾杯」 Here's looking at you, kid.


この最後の台詞は、映画の中でリックがイルザに3回言った台詞です。

 ① パリでの恋人時代

 ② カサブランカで再会の後

 ③ ラストの別れのシーン

この3回です。


ココまで読んだら、

"ピン!?" 

と、来た方もいると思います。

ハィ、その通りです。

『 Rick's Cafe Tokio 』

の中で、いくつか使わせてもらいました。

先ず、

 Rick's Cafe American → Rick's Cafe Tokio

リチャード・ブレイン ( Richard Blaine ) → リチャード・古井

「君の瞳に乾杯」 Here's looking at you, kid.


その他、

この映画の中で、 " As Time Goes By " という曲が流れます。
沢田研二が歌って大ヒットした 『時の過ぎ行くままに』 という曲は、実は、作詞家の阿久悠がこの " As Time Goes By " をヒントに書いたそうです。

コレも使わせてもらいました。

又、

映画の中で、黒人俳優ドゥーリー・ウイルソン演じる 『サム』 が " Knock on Wood " という曲を歌い、それに合わせて客達が手元にある木製品を叩くというシーンがあります。

コレも 『サム』 を 『ボブ』 に。
そのボブが 『幸せなら手をたたこう』 を歌い、ミンナが手を叩いて盛り上がるという形でチャッカリ使わせてもらいました。

その他、重要な役柄で、

『 Renault (ルノー)』 と 『 Ferrari (フェラーリ)』

という人物が出てきます。
有名な車の名前と一緒ですネ。

これも 『ホンダ』、 『トヨタ』、 『マツダ』、 『スズキ』 に変えてチャッカリです。


映画 『 CASABLANCA (カサブランカ)』 好きの人にとっては、

 ① フザケルナ

 ② 『 CASABLANCA (カサブランカ)』 テイストが有っていいじゃん

 ③ 言われて分かった

の!?

どれかだと思います。

②だと嬉しいかなって思ってます。


以上

『ネタばらし』 DEATH た。



本年の up は、今日までです。
新年新作でお会いしましょう。
ではでは、皆様。
よいお年を。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ posted by コマル





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『 Rick's Cafe Tokio 』 #9 (最終回) さらば友よ・・・

#9 (最終回) さらば友よ・・・



「店長」

背後から、ケンが小声で耳打ちして来た。
マツダさんとスズキさんの勝負を邪魔しないという気配りからだ。
静かに席を立つ。
二人とも凄い集中力だ。
全く気付かない。

「何だ?」

「田原様達がお帰りです」

「あぁ、アリガト」

ケンの肩を軽く叩き、会計を終えたばかりの武(たけし)に近寄る。
武の奢(おご)りのようだ。

「もう?」

「あぁ。 今度ゆっくり」

「ウム。 車は?」

「2台」

短いやり取りだが、

『今夜は接待で、もう十分果たした。 タクシーを2台頼む』

武のその気持ちが十分伝わった。
振り返って、ケンに手でタクシーを2台呼ぶよう指示を出す。
手で指示と言っても手話と言う程ではなく、ハンドルを持つ仕草と指2本。
右手人差し指と中指を V サインのように立てるだけだ。
でも、チャンと通じる。
武達の方に向きを変えた。
こっちが何か言う前に麻倉氏。

「ご馳走様。 又来させてもらいます」

「いつでもどうぞ」

彼女は俺と目を合わせないように、そして不自然にならないようにジッとしている。
何か気のきいた言葉でもかけようかと一瞬思った。

が、

止めた。
余計な事だ。
タクシーが来た。
溜まり場が近い、呼べば直ぐだ。

1台目に先ず彼女、そして麻倉氏。
俺は車の反対側に立っていた。
だから、ガラス越しに彼女の横顔が見える。
見ていて分かった。

『この女は・・・。 2度とココへは来ない』

フッ。

当たり前だな。

二人を乗せたタクシーが出た。
その時、武がこう言った。

「どうだ? 美人の奥さんだろ」

「あぁ」

「あのやり手の社長にふさわしい。 似合いのカップルだ」

「あぁ」

「じゃ。 今度な」

「あぁ」

武の乗ったタクシーが去る。

フゥ~。

今夜は少し疲れた。
ユックリしたい。

店に戻ると電話が鳴っていた。
誰も出られそうにないので俺が出た。

キリコからだった。
興奮している。
何を言っているのか分からない。

「もしもし、キリー。 落ち着け落ち着け。 そうそう、いい子だいい子だ。 分かるようにユックリ、な、分かるようにユックリ。 そうそう、分かるようにユックリ言ってくれ。 え!? ・・・。 トミーが・・・!?」

ガーン!!

頭の中で鐘がなる。

トミーが・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・死んだ!?

興奮してまくし立てるので全部は分からなかったが。

ココを出た後、飲み直す気にもならず二人でブラブラ歩いていた。
途中。
階段を降りようとした時、キリコが足を踏み外しトミーに体を預けるような体勢になった。
素面(しらふ)のトミーなら難なく受け止めただろう。
しかし、飲んでいたせいで多少足元がフラついていたのか。
キリコの体を支えきれず、バランスを崩し二人共そのまま転げ落ちた。
キリコはかすり傷で済んだ。

だがトミーは・・・

トミーは運悪く縁石に頭を強打して出血多量。
そのまま帰らぬ人となった。
目撃者が何人かいてキリコに過失がないのはハッキリしている。
今、病院にいるから来て欲しい。

こういう事らしい。

あのトミーが!?

すぐタクシー会社に電話。
受話器を置いて店の中を見渡す。
笑い声が聞こえる。
楽しそうだ。
ミンナ、トミーの友達だ。
トミーは人気者だった。

ボブがピアノを弾きながら歌っている。
その脇に寄ってケンを手招き。
ケンが来た。
二人に言った。

「急用が出来た。 今夜は戻らない。 後を頼む」

うなずく二人。
ボブに一言付け足す。

「幸せなら・・・だ」

「 OK ボス」

ボブが歌いだす。
気付いたミンナが手をたたく。
トミーが音頭を取って時々やっていた事だ。



 『幸せなら 手をたたこう』

 ♪

 幸せなら 手をたたこう
 幸せなら 手をたたこう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで 手をたたこう

 幸せなら 足ならそう
 幸せなら 足ならそう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで 足ならそう

 幸せなら 肩たたこう
 幸せなら 肩たたこう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで 肩たたこう

 ♪



タクシーの運転手が入って来た。
知ってる顔だ。
何度かトミーを運んだ事もある。

もう一度、静かに店を見渡した。
ミンナ楽しそうにハシャイデいる。
トミーが死んだ事等どこ吹く風だ。

ま、そんなもんだな。



 ♪

 幸せなら ほっぺたたこう
 幸せなら ほっぺたたこう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで ほっぺたたこう

 幸せなら ウィンクしよう
 幸せなら ウィンクしよう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで ウィンクしよう

 ♪



トミーの仲間達の楽しそうにハシャギ回る声を背に店を出る。
タクシーに乗る。
その際、チラッと横目で玄関を見た。
歌はまだ続いている。

その時思った。
トミーの帰り際の一言。
トミーがフランス語が得意だと言うのは知っていた。
でも、話すのは聞いた事がなかった。
それが今夜に限ってこう言った。

「アディユー・リッキー」

と。

そして、それが最後の言葉になった。

それともう一つ。
奥村玄龍斎だ。
いつもならもっと笑える話をするんだが。
最後の話。
あれはキリコとトミーの物語だったんだろうか?
トミーの死を予感していたのか?
あの中年のスケベなオッサンは。

ウ~ム。

奥村玄龍斎・・・恐るべし。

歌はまだ終わらない。



 ♪

 幸せなら 指ならそう
 幸せなら 指ならそう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほらみんなで 指ならそう
 
 幸せなら 泣きましょう
 幸せなら 泣きましょう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで 泣きましょう

 ♪



そして車は走り出す。
キリコと俺だけが知っている世界に向かって。

 ・
 ・
 ・

「アディユー・ラミー( Adieu L'Ami )」(さらば友よ)



 ♪

 幸せなら 笑いましょう
 幸せなら 笑いましょう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで 笑いましょう

 幸せなら 手をつなごう
 幸せなら 手をつなごう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで 手をつなごう

 幸せなら とび上がろう
 幸せなら とび上がろう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで とび上がろう

 幸せなら 相づち打とう
 幸せなら 相づち打とう
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで 相づち打とう

 幸せなら 最初から
 幸せなら 最初から
 幸せなら 態度でしめそうよ
 ほら みんなで 最初から

 ♪










『 Rick's Cafe Tokio 』 お・す・ま・ひ





『 Rick's Cafe Tokio 』 #8-9 変人

#8-9 変人



世の中には、変わり者と言われる人達がいる。
こういう店をやっていると、色々面白い人間に出会う。
この二人も相当変わっている。

マツダさんとスズキさん。

二人とも初老の紳士で一部上場企業の役員だ。
時々来てくれる。

決まって、
“レミーマルタン・ナポレオン” 1本と “カラダレスキュー酸素の水 500ml(国産12倍酸素水)” 4本を注文する。
なぜ、カラダレスキューかと聞いたら、 「酸素含有率が高く脳を活性化しそうで良さそうだ」 だ、そうだ。
テーブルは特にこだわらないが、奥の壁際がいいらしい。
ただし、バンドの近くは駄目だ。
と言うのもこの二人。
来ると直ぐに “オセロ” を始める。
あのゲームのオセロだ。
よりによってウチみたいな所でオセロはないもんだと思うんだが。
二人に言わせると、ウチだからこそいいんだそうだ。
全く、変わり者の考える事は分からない。
そして勝負が付く度に。
勝った方がナポレオン。
負けた方が酸素水。
コレを適量飲む。
適量と言うのはその時その時の二人の気分で決まるからだ。

勝負の時は真剣だ。
さすが大企業の役員だけの事は有る。
集中力が違う。

が、

勝負が付くと大変だ。
お互いを指先でつつき合って、キャッキャ、キャッキャ、大騒ぎ。
挙句の果てに人目も憚(はばか)らず、くすぐりっこだ。
その余りの無邪気さ故、返って周りにいるミンナに見て見ぬフリをさせてしまう。
しっかし、この二人の一体どこが大企業の役員だ。
天真爛漫と言うかなんと言うか・・・。
まるで幼稚園児か小学生としか言いようがない。

そしてヒトハシャギし終わると、酒と水を適量注ぎあって、飲む。
飲み終わると直ぐまた勝負。

コレを繰り返す。

お!!

いいタイミングで勝負が付いたようだ。
大ハシャギしている。
チョッと仲間に入れてもらおう。
彼女から離れて、彼女を安心させるために。

「お二人とも・・・。 今夜の調子はいかがですか」

等と話しかけながら彼女に背を向けて・・・










座った。





『 Rick's Cafe Tokio 』 #8-8 時の過ぎ行くままに 

#8-8 時の過ぎ行くままに 



今の男は女を見る。
見られた女は目を伏せる。
立場の逆転。

時間は流れ、時は過ぎ行く。

「ヘィ、ボス!!」

振り返った。
ボブがいた。
ロバート・石黒。
通称・ボブ。
日本人とアメリカ人のハーフだ。

ここで簡単に紹介しておこう。

『 Rick's Cafe Tokio 』

には5人編成のバンドが入っている。
11時までだ。
近くの大学の軽音部の学生アルバイト。
主にデキシー中心の演奏をさせている。
学生だからといって馬鹿に出来ない。
中々いい音を聞かせてくれる。
その後をボブが引き継ぐ。
弾き語りだ。
演歌からジャズまで何でもこなす。
曲によって、ピアノとギターを使い分ける。
ウチの看板だ。
ヨソからの引き抜きや音楽関係者からの “いい話” も沢山あるようだ。
無理もない。
ウチにはもったいない位の腕だからな。
しかし、全部袖(そで)にしている・・・らしい。

本人曰く、

「ミー、ココスキネ。 ボストイッショ、イチバンネ」

ナンゾと、茶化す。
日本語達者なくせに。
でも、お世辞でも嬉しい。

「ボブ。 あれだ。 あれを頼む」

「 OK ボス」

ボブがピアノに向かい、
静かに歌いだす。



『時の過ぎ行くままに』

 ♪

 あなたはすっかり、疲れてしまい
 生きてることさえ、いやだと泣いた
 こわれたピアノで、想い出の歌
 片手で弾いては、ためいきついた

 時の過ぎ行くままに・・・

 ♪



目を閉じて、しばらくジッと聞いていた。
心が落ち着く。
思っていた程、俺も平静ではなかったようだ。
そっと目を開けた。
もう一度、ユックリと彼女を見た。
彼女も見ていた。
目が合った。
ジッと見つめた。
彼女は目を伏せた。

やはり・・・

時は過ぎていた。



 ♪

 体の傷なら、なおせるけれど
 心の痛手は、癒せはしない
 小指に食い込む、指輪を見つめ
 あなたは昔を、おもって泣いた

 時の過ぎ行くままに・・・

 ♪



そして・・・









戻らない。





『 Rick's Cafe Tokio 』 #8-7 超然

#8-7 超然



“幻想” を “現実” が打ち壊した時、その後に残るものは何か?

その答えは・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“無感覚”。

彼女は直感したのかも知れない。
俺の心が床に落ちたガラス細工のように砕け散ったのを。
俺の目を通して、それを直感したのかも知れない。

そして世界は動き出す。

ごく自然に俺は彼女の目を切った。
同時に、ユックリ歩き出す。
別に意識してそうした訳ではなかったが、 “ふさわしい間” を取って。
そう、 “ふさわしい間” を取って俺は彼女とすれ違った。
彼女は立ち止まったままだった。
が、
俺を見ていたかどうかは分からない。

そのまま原宿駅まで歩いた。
一度も振り向く事なく、振り返る事なく。
この間、俺は全くの無感覚。
嫉妬するでもなし、動揺するでもなし。

『殺されても何も感じない』

そう言っても決して大袈裟ではない程、超然としていた。
そうだ。

“超然”

としていたのだ。

その時、俺は・・・


---☆---☆---☆---


その日のその後(あと)、何が起こったか?
全く思い出せない。
砕け散ったガラス細工のガラスを拾い集め、ジグソーパズルのように組み上げたのか?
それとも新たなガラス細工を作り上げたのか。
今の俺には分からない。

そして17年。
時は流れた。

不意に甦った空しい過去。
チョッと息苦しいな。

フゥ~。

一息ついて、チラッと彼女を見た。
亭主と武の話を聞いている・・・ “フリ” をしている。
しかし、
彼女の全身の、目以外の “目” は俺を見ていた。
彼女も彼女なりに過去を思い出しているようだ。

その姿を見てハッキリと分かった。
彼女の心は “あの時” に戻っている。
俺達が初めて出会った、

“あの日のあの時”

に。

だが、俺の心は・・・

そう、俺の心は・・・

もう二度と、

“あの日のあの時” には・・・










戻らない。





『 Rick's Cafe Tokio 』 #8-6 少女から・・・

#8-6 少女から・・・



それは、俺が大学2年のある蒸し暑い夏の日の夕暮れだった。

表参道を一人で歩いていた。
東京の港区と渋谷区の丁度境目だ。
バイト先が渋谷だったので帰りにチョッと立ち寄ってみた。
特に当てが有った訳でもなく、ただぶらっとウィンドショッピングを楽しむだけだった。

“表参道”

さすがだ、洗練されていて全く退屈する事が無い。
当時はまだ同潤会青山アパートも昔のまンまで、こんな所に将来マイ・オフィスが欲しいな。
などと思いながら歩いていた。
ウィンドウを覗き込みながら歩いていると、視界に人影が入った。
避けようと思い前を向いた。

その瞬間、

世界が止まった。
そのままその場に呆然と立ち尽くす俺。

その人影は・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・彼女だった。

紛れもなく彼女だったのだ、その人影は。
彼女も立ち止まっていた。
お互いがお互いを認識したのは、同時だった。

その時、

俺の中に有る何かが崩れ落ちた。
“幻想” と言う名の何かが。

そう、彼女は変わっていたのだ。
少女から女性に。
そして、その相手は俺ではない。

美しさは相変わらずだった。
が、チョッと化粧をしている。
そこが1年半前と違う。
容姿は1年半前と同じだった。
が、雰囲気が違う。
大人の女の匂いがする。
ハッキリとそれが分かる。

目と目が合ったその瞬間。
愕然(がくぜん)とする彼女。
呆然(ぼうぜん)と見つめる俺。

その瞬間・・・

幼い愚かな幻想は砕け散る。
それを見て取る彼女の目。
そして悲しい目に変わる。
切るように悲しい目に。
自分の変化を見せびらかすかのように勝ち誇った目付きをすべきなのに。
彼女はしない。

あの切るように悲しい目。
その目は語った。

『今でも私は・・・』

だが、










もう俺は・・・





『 Rick's Cafe Tokio 』 #8-5 幻想

#8-5 幻想



“蛇に睨まれたカエル”

この言葉の意味がハッキリ分かった瞬間だった。
今思えば笑っちゃうんだが、

『もう、駄目だ!!』

これが、その時の俺の素直な心境だった。
だが幸か不幸か、後から乗ってきた人が軽く俺の背中を突いた。
否、
突いてくれた。

チャンス!!

いかにも突き飛ばされましたと言わんばかりに、俺は後部座席に向かって進んだ。
得意の演技だ、いつものような。
大げさな言い方だが、こうして俺は難を逃れた。
しかし、
これ以後、こんな感じで俺はいつも彼女の視線を避け続ける羽目になってしまった。
と言うのも毎日とまでは言わないが、コレが週のうち最低3回は起こるようになったからだ。
彼女の予想外の積極性に俺はタジタジ。
成す術なく逃げ回る。
それがお約束の日課になってしまった。

だが、

こんな馬鹿な事をやっていればいつかは噂になる。
なって当然だ。
と、
すれば・・・

『彼女の友達と思われる女達の視線がキツイ』

という結果が、容赦なく俺を襲う。
つまり、バスに彼女がいない時はこいつらだった。
俺を指差してこんな事をほざきやがる。

「あ、あの人よ、あの人。 ほら、雪子の・・・」

「でも、シカトしてるんでしょ」

「雪子、可哀想。 ズーッと無視されて」

「どこがいいのかしらね、あんなの。 確かに、見たぶりはそんな悪くないけど」

「でも、あの無視の仕方はねー。 あれは無いわね」

「男としてチョッとね」

などなど。
全くもって言いたい放題だ。
もっとも言われても仕方がなかったのも事実ではあった。
無視し続けたとはいえ、俺が彼女に気があるのはミエミエだった筈だからだ。
精一杯そうは見せないように “得意の演技” はしていたつもりだったのだが。

そう、精一杯・・・得意の演技は・・・。

そしてこんなことが1年も続いた。

1年もだ!!

しかし、彼女は俺を嫌わない。
たったの2回目が合った、ただそれだけで。
彼女は俺を、俺は彼女を、愛してしまった。
たったの2回目が合っただけで・・・。

だが、自分で言うのもなんだが。
純情というかウブというか。
俺は彼女の気持ちを受け止める事が出来なかった。

ナゼか?

その理由はたったの一つ。

これだ!!

『怖かった!!』

そう、怖くて怖くて。
俺はもう、二度と彼女の目を見ることが出来なくなっていたのだ。

そして俺は卒業した。
そのまま大学へ進んだ。
しかし、俺の心の中ではいつまでも彼女は恋人だった。
彼女と出会ってからの2年間、俺の心の中で俺達は相思相愛の恋人同士だった。
不謹慎な話だが、大学で “いわゆる彼女” が出来た後も俺の恋人は彼女だけだった。
俺の恋人は彼女を置いて他にはいなかった。
当然、
精神的に未熟だった俺にとって、彼女が俺以外の男と付き合うことなど有り得ない事だった。
彼女の恋人は他の誰でもない、この俺だけの筈なのだから。
しかし、
恋人宣言もしていない。
否、それどころか、一言も口を利いた事もなく無視し続けた女が恋人?
しかも高校卒業以来一度も会った事もないのに。
世の中、そんな好都合な話がある訳がない。
そんな事は子供でも分かる。
“全く幼く幼稚な幻想” だ。
だが、その時の俺にはそれが分からなかった。
当時の俺の知能はその程度だったのだ。

しかし、

『幻想は幻想であって幻想に過ぎない』

そんな子供騙しのような話はいつか壊れる。

そしてそのいつかが・・・










終にやって来た。


『 Rick's Cafe Tokio 』 #8-4 止まった時間

#8-4 止まった時間



『あの時の俺は、まだ子供だった』

今の今まで、完全に忘れ去っていた過去の記憶が甦って来た。
そう。
次に、彼女と出会ったのもバスの中だった。
偶然というのは恐ろしい。
それとも運命のいたずらなのか。
“ゆきこ” と言う名を知ったその日の帰りのバスだ。

学校の位置関係から彼女が乗るのは、俺の乗るバス停の一つ前だろうと思う。
行きと違い、帰りのバスは比較的空いていて余裕で座れる。
俺は大学受験が気になり、すっかり彼女のことは忘れていた。
座席に座って顔を上げた。
その瞬間、

『ハッ!?』

驚いた。
目の前に彼女が座っていたのだ。
バスや電車には不思議と席が空いているのに座らない人がいるものだ。
この時もそういう人の丁度陰になって、彼女に気が付かなかった。
本を読んでいた。
静かに目を走らせている。
うつむき加減で本を読む姿は、さしづめルノアールやミレーの絵画に出てきそうな程、優雅だった。
俺はただただジッと彼女の美しさに見とれていた。
溜め息が出そうだった。

だが、

突然、彼女が顔を上げた。
慌てて顔を背けたが間に合わなかった。
一瞬、目が合った。
今度は彼女が視線をそらさない。
ジッと見つめる彼女。
怖くてどうしていいか分からない俺。

心臓はバクバクだ。
顔を背けた状態では “得意の” 寝たフリも不自然で出来ない。
窓から外の景色を見る “フリ” が、その時出来た精一杯の演技だった。
そんな状況が10分位続いただろうか、やっと俺の降りるバス停に付いた。
その間、ズーッと彼女の視線を感じ続けていた。

地獄の10分。

そう、まさに地獄の10分間だった。

『女は、美しいと言うただそれだけで男を殺せる』

そう確信させられた10分間でもあった。
降り際にチラッと彼女を見た。
まさかもう見てはいないだろうと思った。
だが、次の瞬間。
俺はバスを駆け降りていた。
彼女がまだ俺を見つめていたからだ。

次の日からはいつものバスで登校した。
チョッと残念だが、これでもう彼女に会わなくて済むな。
そう思うと不思議と安心した。
そして一週間が過ぎた。
彼女の事はもう忘れていた。

そんなある朝。
いつものバスに乗った。
機械に通した定期を手に取って顔を上げた瞬間・・・時間が止まった。

目の前に、

俺の目をジッと見つめたまま、目をそらそうとしない彼女が・・・









立っていた。


『 Rick's Cafe Tokio 』 #8-3 玄龍斎先生のお帰りだい

#8-3 玄龍斎先生のお帰りだい



「やぁ、大将。 邪魔したね」

不意に背後から声が掛かった。
奥村玄龍斎の声だ。

「お帰りですか?」

「時間になったからね」

「え!?」

急いで腕時計を見る。
針は11時を指している。
もうこんな時間か!?
あぁ、そうだったな、武(たけし)がうちに来たのが11時チョッと前だったからな。

フッ。

思わぬ再会で、俺も多少動揺しているようだ。
武達に軽く一礼してテーブルから離れる。

「又のお越しを」

「あぁ、ご馳走様」

会計を済ませ、立ち去ろうとする奥村玄龍斎。
その後を追うようにトミーとキリコが来る。

「うちらもかえるゎ」

と、トミー。

「チョッと早いんじゃ?」

と、聞いてみる。
すかさずキリコが。

「ナンカさぁ、今夜の玄龍斎先生の話聞いたらチョッとねぇ。 だから帰るゎ、あたし達も。 じゃね、リック」

「あぁ、キリコ」

「アディユー、リッキー」

「アディユー、トミー」

二人を見送る。
普段なら、別のテーブルに移動するところだ。

が、

戻った。
女が気になるからだ。

「今の3人・・・?」

いいタイミングで武が聞いた。
お陰で会話がすんなり進行する。

「あぁ。 一人はこの間紹介したな、奥村玄龍斎先生。 後の二人は、トミー、いやトーマス・ホンダとトヨタ・キリコ。 常連だよ」

「さっきアリスが褒めてたぞ~、玄龍斎先生」

「何て?」

「『玄龍斎先生って凄いよ。 アタシの考え見抜いっちゃったんだよ。 ・・・』とか何とか」

「らしいな」

「今度、俺も見てもらうとするか。 ワハハハハ」

「見てくれたらな。 じゃ、チョッと失礼する」

向きを変えて、

「お二人とも、どうぞごゆっくり」

「楽しませてもらいます」

と、亭主。
チラッと女房に一瞥。
黙ってうつむいている。
しかし、全身の神経は俺に集中している。
それが良く分かった。

あの時と全く逆だな。

“時は、人を変える”

それを実感した・・・










瞬間だった。


『 Rick's Cafe Tokio 』 #8-2 その女の名は・・・

#8-2 その女の名は・・・



「この店のオーナーのリチャード・古井。 古い付き合いです」

「こちらが、麻倉さんご夫妻」

武が双方を紹介する。
下手な洒落を交えて。

「はじめまして。 良かったら、フルネームを」

「あ、はい。 私が麻倉修。 妻の雪子です」


ゆきこ!?


やはりそうだ。 間違いない。

「お二人とも、ようこそ。 こちらのテーブルへ」

「有難うございます。 中々いい店ですね」

と、亭主。
女房は、ジッと黙ったままうつむいて静かに座る。
俺が誰か分かったようだ。

あれは17年前だったな、確か。


---☆---☆---☆---


俺は高校3年生になったばかりだった。
高校へはいつもバスだ。
ある日、いつもより一台遅いバスに乗った。
そのバスに乗るのは初めてだった。
知ってる顔は乗っていなかった。
席が空いていたので座る事が出来た。

そして、

座席に腰掛けて顔を上げた瞬間だった。
俺の全身に衝撃が走ったのは。

真ん前に、目もくらむ程綺麗な女子高生が座っていた。

『こ、こんな綺麗な女がいるのか!?』

フゥ~。

思わず、ため息が出た。
今でもその時のことは良く覚えている。

卵形の顔。
髪はショート。
目はパッチリと大きく。
筋の通った高い鼻。
チョッと肉厚だが上品な唇。
そして、
何よりも、ぬける様な白い肌。

呆然と見つめてしまった。
が、
ハッとなって目をそむけた。
一瞬、目が合いそうだったからだ。
その娘が俺の視線を感じ取ったのは、間違いなかった。
焦った俺はどうしていいか分からず、不自然にならないように静かに目をつぶり寝たふりをした。

『流れは自然だったよな』

その時はそう思った。

が、

今思えば俺の動きは完全に読まれていたに違いない。

もっと彼女の顔を見たいのを我慢して、その日は何事も無かったような素振りでバスを降りた。
次の日、又同じバスに乗った。
今度は座れなかった。
だが、彼女は乗っていた。
幸運にもその日も知ってる顔は無かった。
気付かれないようにチョッと離れて様子を伺った。
クラスメートと一緒らしかった。
話し声が聞こえる。
その子は、声も綺麗だった。
澄んだ良く通る声をしていた。

聞いていて分かった事は、ウチの近くの女子高の2年生で部活は体操部らしい。
道理でスタイルがいい筈だ。
グラマーではなかったが、プロポーションは抜群だった。
そして、一番知りたっかた事。
即ち、恋人。
そう、恋人はいなさそうな感じだった。
それが何より嬉しかった。

“立てば芍薬(しゃくやく)、座れば牡丹(ぼたん)、歩く姿はゆりの花”

と言う言葉があるが、現代っ子だからコレに一言加えて “走る姿はカモシカ” か。
などと思ったりしてみた。

その時だ!!

そのうちの一人が、こう言った。

「ゆきこ、今日暇?」

「うぅん、今日は部活。 何で?」

「うん、もし暇だったらショッピング付き合ってもらおうと思って。 でもいいや、部活じゃね」

「うん。 ごめん」

「いいよいいよ。 代わり探すから」

そうか、あの子は “ゆきこ” って言うのか。
苗字はなんていうのかな?
これがその日一番の収穫だった。

そう。
その女は、その名を

“ゆきこ”










と言った。


『 Rick's Cafe Tokio 』 #8-1 再会 

#8-1 再会 



「よ。 リック」

「おぉー、タケシ。 久しぶり」

「アリスが来たって?」

「どうして、それを?」

「さっき、駅でばったり」

「あぁ、それで」

「赤い顔してるから、 『どうした』 って聞いたら。 『ココで飲んだ』 ってな」

「あぁ、一杯だけな」

悪友の “田原 武(たはら・たけし)” だ。
と言うより “アリスの親父” と言った方がいいか。
そして、家に “ポチ” とかいう名の奇妙なネコを飼っている。
その武が久しぶりに来てくれた。

「アリスはいい子だ」

「もちろん!! なんせこの俺の子だからな、この俺の。 ワハハハハ」

それが信じられない。
どうすればこんな助平な中年男から、あんないい子が生まれるのか。
一度 “DNA 鑑定” してみたいものだ。
もっとも、顔立ちは似てなくも無いが。

「でも、変だな、タケシ?」

「何がだ?」

「アリスがココ出たのは7時半頃だ。 もう11時近い。 駅からココまでそんなに遠かったかな」

「あぁ、そういう事か。 来る途中電話が入ってな、一ヶ所寄ってから又来たって訳だ」

「だろうな、でなきゃな」

「ところで、頼みがあるんだがなぁ、リック。 聞いてくれるか」

「どんな」

「今、外に連れを待たせてある。 いいか呼んでも」

「ウチの客か」

「否(いや)、俺の知り合いだ」

「ウチは一見(イチゲン)お断りだ」

「分かってる。 でも、紹介なら OK だろ。 な、紹介なら」

「あぁ」

「俺の紹介だ。 この俺の」

「何人だ?」

「2人」

「身元は確かか」

「あぁ、保証する。 取引会社の社長夫妻だ」

「チャンとした会社か? なんせアンタの会社はチト怪しいからな」

「おぃおぃ、人聞きの悪い事言うなよ。 チャンとした会社だよ、ウチは」

「じゃ、そのチャンとした会社の取引会社ってのは」

「印刷会社。 社員500人の株式会社。 印刷会社で500人は、チョッとした規模だぞ」

「・・・」

ここで少々、勿体(もったい)を付ける。
一見(いちげん)お断りなのに直ぐ OK はチト拙(まず)い。
いかに武の頼みでもだ。
武はと言えば、顔を強張らせ、緊張した面持ちでコッチの目をジッと覗き込んでいる。
瞬(まばた)き一つしない。

ま!?

あんまり気を持たすのもコクか?
答えは決まっているのに・・・

「よし、会ってみよう」

「サンキュー。 それでこそリックだ。 チョッと待っててな、今呼んで来る」

武が連れを呼びに行ってる間に、ケンを呼ぶ。
事情を耳打ち。
その時、武が連れを連れて入って来た。
その連れの一人を見て、

『ハッ!?』

息を呑んだ。

その一人、それは、その昔・・・










出会った事のある女だった。


『 Rick's Cafe Tokio 』 #7 -夏物語-深雪(みゆき)

#7 -夏物語-深雪(みゆき)



ミンナが一斉に身を乗り出す。

玄龍斎先生が大きく息を吸ったからだ。
さぁ、次はどんな話だ。

「コレはとある岸辺の波に聞いた話なんだがな、こんな事を言っておった。

 『ある夏の日の午後の事です。

 私が誰もいない岸辺を静かに行ったり来たりしていると、一人のうら若い女性がやって来ました。
 手に花束を持っています。
 波打ち際まで来るとそこで立ち止まりました。

 少し寂しそうに、ジーっと遠くの方を見つめています。
 何かを思い出しているようでした。
 過去の悲しい記憶なのかもしれません。
 彼女の目からは涙が溢れています。

 しばらくの間、その状態が続きました。
 やがて彼女は気を取り直し、右手で涙をぬぐって、遠くの海に向かってこう叫んだのです。

 「賢治ー!!」

 もう一度、叫びました。

 「もういいよねー!! もういいよねー、賢治ー!!」

 又、彼女の目から涙が流れ出しました。
 大粒の涙です。
 ぬぐっても、ぬぐっても、涙は止まりません。

 「ゥ、ゥ、ゥ、・・・」

 その場に立ち止まったまま、両手で顔を覆って泣き続けています。
 でも、涙は止まりません。

 10分位そのままだったでしょうか。
 少し落ち着いたのでしょう。
 又、海に向かって喋り始めました。
 先ほどと違い、普通の声でです。

 「賢治。
 今日が最後だよ。
 今日が最後だからね、賢治。
 わたしココ来るの。

 もう5年だもんね。
 あれからもう5年経つモンね、賢治。
 ココで賢治死んでから。

 ・・・。

 わたしね。

 ・・・。

 わたし・・・結婚する事にしたんだ。
 こないだお見合いした人と。

 わたし、こないだお見合いしたんだよ、賢治。

 ・・・。

 その人・・・。
 凄くいい人でね。
 わたしの事とっても大切にしてくれるんだ。
 だからね。
 だから、わたしもその人・・・。

 好きになっちゃた。

 知り合ってまだ3ヶ月なんだヶど。
 先週、正式にプロポーズされっちゃた。
 明日、返事するつもりなんだ。

 だから・・・。

 だから今日、賢治にお別れ言いに来たんだよ。

 もういいよね。
 もういいよね、賢治。
 わたし、もう25だよ。
 気が付いたら、わたし・・・もう、25になっちゃた。
 だから、もういいよね。

 もう、二度とココへは来ないからね。
 今日が最後だからね。
 最後にするからね、賢治。
 ゴメンネ。

 ホントに、

 ゴ、メ、ン、ネ。

 ・・・。

 サヨナラ」

 そう言って、彼女は持っていた花束をわたしの上に、そっと置きました。

 それから背中を向けて、ゆっくり元来た方角に歩き始めました。
 もう、涙は流れてはいません。
 五、六歩、歩いてからでしょうか。
 不意に彼女は立ち止まり、振り向こうとしたその時です。

 「駄目だ、深雪(みゆき)!! 振り向くな!!

 駄目だよ、深雪・・・振り向いちゃ。

 もういいよ。
 もういいんだよ、深雪。

 5年間・・・アリガト。
 だから、もういいよ。
 もういいんだよ、深雪。
 良かったな。

 ・・・。

 アリガト。

 ・・・。

 幸せに、幸せにな。

 ・・・。

 サヨナラ、み・ゆ・き」

 と叫ぶ、賢治の声です。

 否、
 あれは風の音?
 でも、
 深雪の耳には、海から来る賢治の叫び声に聞こえました。

 「賢治ー!!」

 深雪は立ち止まったまま、海に背を向けたまま、賢治の海に背中を向けたまま、大声で叫びました。
 そして、
 そのまま振り向く事なくその場から走り去りました。

 深雪は5年前、その海で溺れかけたのです。
 その時助けたのが、一緒に来ていた恋人の賢治でした。
 溺れた深雪を仲間のボートに押し上げたその次の瞬間。
 バランスを崩し、運悪く次に来た波に飲まれてしまったのです。
 そのまま流されたのでしょう、賢治の体は二度と上がっては来ませんでした。
 そうです。
 帰らぬ人となってしまったのです。

 この5年の間。
 この日のように。
 毎年、賢治の命日に深雪は必ず花束を携(たずさ)えてこの海にやって来ました。

 この日がその最後の日だったのです。
 そして、
 もう二度と深雪がその場所を訪れる事はありませんでした。

 その日私に出来た、ただ一つの事。
 それは、
 出来るだけ遠くまで浜辺に打ちあがり、深雪の足跡を消す事。

 そう、浜辺に残された深雪の足跡を消す事。

 ただ、それだけだったのですょ』

とな」

「・・・」

「・・・」

「・・・」

ウ~ム。
トミーも、キリコも、ミンナも・・・。
誰も何にも言えないな。

どうしたんだ奥村玄龍斎。
今夜の話は少し重たいようだが。

それも又、良しとするか。

もっとも賢治じゃないのかな、一番ホッとしたのは。
コレで安心して永久(とわ)の眠りにつける。
違うかな。

では最後に一言。

深雪の結婚に

 ・

 ・

 ・

乾杯!!


『 Rick's Cafe Tokio 』 #6 お月さん

#6 お月さん



「コレは 『お月さん』 から聞いた話なんだ」

何々、今度の話はお月さんか。
チョッと聞いてみるとするか。

「お月さんは、こう言っておった。

 『それはある夜の出来事です。

 ある町に一人の男がいました。
 その男の名前は、良治(りょうじ)と言いました。
 良治は泥棒でした。

 ある晩、良治は盗みに入る家を物色していました。
 すると一軒のボロアパートが目に入りました。
 普段なら軽くスルーするところです。
 だって、泥棒がボロアパートに目を付ける筈がありませんもの。
 しかし、どうしたのでしょう。
 その日に限って、良治はそのボロアパートに盗みに入る事にしました。

 そのアパートにはたった一人しか住人はいませんでした。
 身寄りのないお婆さんです。
 他の人達はアパートの取り壊しが決まっていたので、皆、既に立ち退いてしまっていたのです。
 でも、良治はそんなことは知りません。
 ただ、入り易そうな部屋を探すだけです。

 一階の奥の部屋が入り易そうです。
 人目に付かない上に雨戸が開いていたからです。
 良治はそーっと、窓ガラスを開けてみました。
 鍵は掛かっていませんでした。
 窓ガラスは、多少ガタガタするものの簡単に開きました。

 『しめしめ』

 良治はそう思いました。

 音を立てないように静かに部屋の中に入り込みました。
 部屋の中には古びて安っぽい箪笥が一つとちゃぶ台が一脚あるだけでした。
 金目の物はありません。

 「チッ」

 舌打ちをして振り返ったその時です。
 良治は、飛び上がらんばかりに驚きました。
 老婆が眠っていたのです。

 逃げよう。
 そう思いました。
 しかし体が動きません。
 何故かその老婆の顔が気になったからです。

 良治は、老婆が起きないように静かに顔を覗き込みました。
 見覚えのある顔でした。
 そうです。
 30年前、10歳の良治を捨てた母親にどこか似ているのです。
 ハッとなった良治は、急いで古びた箪笥の中を探しました。
 その老婆の身元の分かる物を探したのです。
 そして、何冊かの日記と健康保険証を見つけました。

 次の瞬間。
 その場に立ち尽くす良治の姿がありました。
 保険証には良治の母親と全く同じ名前と、うろ覚えだが記憶にある生年月日が記されているではありませんか。
 次に良治は、一冊の日記を手に取ってパラパラとめくって見ました。
 初めのうちはチャンと読むことが出来たのに、段々読めなくなってしまいました。
 目から涙が溢れていたからです。
 その日記には、どのページにもどのページにも、自分の事が書いてあったのです。

 30年前、なぜ良治を捨てなければならなかったのか。
 そして、今。
 どんなにそれを後悔しているか。
 でも、一番良治の心を打ったのは、すべてのページに書いてある次の言葉です。

 『良治に会いたい』
 『良治に会いたい』
 『良治に会いたい』

 ・・・

 愕然とする良治。

 と、その時。
 老婆が目を覚ましました。
 一瞬、目が合いました。
 老婆は目の前にいるのが誰かすぐに分かりました。

 「良治!!」

 老婆は叫びました。

 「母さん!!」

 良治は母親を抱き起こしました。

 もう、二人とも言葉が出ません。
 ただ、ただ、抱き合うだけです。
 30年ぶりの予想だにしなかった親子の再会です。

 しばらくその状態が続いたかと思うと、急に母親の体から力が抜け落ちました。
 不審に思った良治が母親を見ました。
 良治の母は死んでいたのです。

 老衰と栄養失調。

 そうです。
 良治の母は、この数週間何も食べていなかったのです。
 貧乏で食べ物を買うお金が無かったのです。

 その時良治は、ハッきりと悟りました。
 その日に限って、ナゼそんなボロアパートに入ろうと思ったのか。
 金目の物があろう筈の無いボロアパートに。

 虫の知らせ?

 他生の縁?

 それとも、

 運命のイタズラ?

 後は、栄養失調でやせ細った母親の遺体を抱きしめて。
 いつまでも、いつまでも泣き続ける良治の姿があるだけでした。
 そう。
 いつまでも、いつまでも。

 ・・・。

 でも、肩の荷を降ろしたからでしょうか。
 良治の腕の中で安らかに眠る母親の顔は、痩せ細ってはいたものの、とても幸せそうに見えましたよ。

 ところで、

 「なぜ暗闇で良治が字を読めたり、お互いの顔がはっきり見えたか?」

 ですって・・・

 その訳は簡単です。

 それは、月である私がズーッと二人を照らし続けていたからなのですよ』

とな」

「フゥ~。 運命のいたずらね」

と、キリコ。

「『事実は小説より奇なり』 って事か」

と、トミー。

最後に、玄龍斎先生がミンナに諭す。

「否(いや)、コレが因縁と言うものだ。 人は誰も皆この因縁から逃れる事は出来ない。 自力ではな。 そう、自力では」

ウ~ム。
しかし、この後、良治はどうなったのだろうか。
改心して真っ当な人生を送ったのだろうか?
それとも又元の泥棒に戻ったのだろうか?
ま、聞くと又長くなりそうなので止めて置こう。


では最後に一言。

良治の残りの人生に・・・

 ・

 ・

 ・

乾杯!!


『 Rick's Cafe Tokio 』 #5 お天道さん(太陽)

#5 お天道さん(太陽)



「コレは 『お天道さん』 から聞いた話なんだだがな」

どうやら玄龍斎先生の話が始まったようだ。
仲間達が4番テーブルに集まりだす。
はてさて、今夜はどんな話になるのかな。

チョッと覗(のぞ)いて見るか。

「お天道さん(太陽)は、こう言っておった。

『私は見ていたのです。

 これは、ある小さな田舎町での出来事です。
 その町に健太という名の男の子が住んでいました。
 健太はまだ5歳です。
 でも、両親がいません。 事故で死んだのです。
 健太は、お祖母さんに引き取られていました。
 でも、明るくスクスクと育って行きました。

 健太には日課がありました。
 近くにある小高い丘に登るのです。
 その丘の上から健太の住む町が一望できます。

 その丘から見る町の家々は、まるでマッチ箱。
 人々の姿は、まるで蟻んこです。

 健太は、来る日も来る日もその丘に登り続けました。
 雨の日だって、風の日だって、雪の日だって。
 健太は休まず登り続けました。

 そして、ある春の晴れた日の事です。
 いつもの様に丘に登った健太は、マッチ箱のような家々を見下ろしながらこう叫んだのです。

 ヤッホー!!

 おいらは王様だー!!

 両手で輪っかを作ったら、町中ぜ~んぶ、おいらの手の中に入っちゃうんだ!!

 だから、おいらは王様だー!!

 ヤッホー!!


 そうです。
 王様です。
 終に健太は王様になったのです。
 両手で作った輪っかが町中全部その中に納まるまでに、健太は大きくなったのです。
 だから間違いなく、健太はその町の王様です。

 そんな健太と健太の町を見守り、そして彼らが少しでも暖かくなれるようにと、私はいつまでもいつまでも健太と健太の町を優しく照らし続けて上げているのですよ』

とな」


そうか、
王様か・・・。

そうだな。
確かに健太は、王様だ。
ウム、健太は王様になったんだ。

ならば、
その王様に一言。

健太のヒトミに・・・

 ・

 ・

 ・

乾杯!!


『 Rick's Cafe Tokio 』 #4 占い

#4 占い




「ご馳走様でした、リチャードさん」

アリスがペコリとお辞儀をする。
その姿が、実にチャーミーだ。

「もう帰るの?」

「はい。 明日早いから」

「そぅ。 ところでどうだった。 占ってもらえた?」

「う~ん?」

「駄目だった?」

「って、ゆ~か。 手相とかは見てくれなかったンだヶど~。 アタシの後ろをボンヤリ見ながら 『やってご覧』 って言われちゃいました。 アタシ何にも言わなかったのに」

「いつ?」

「玄龍斎先生が正気に返って、リチャードさんが席を離れてすぐ」

「ふ~ん。 じゃ、占ってくれなかったんだ」

「うぅん。 それがアタシの聞きたかった事だから、占ってくれたんだと思います。 お金受け取らなかったし、手相や人相みてくれなかったヶど~。 でも・・・。 でも、占ってくれたんだと思います。 だってアタシ、スッキリしっちゃて、やってみる決心付いちゃったから」

「やってみる決心? 何をだい?」

思わず聞いてしまった。
慌てて打ち消す。

「あ!! 否、いい。 いいよ言わなくて。 『何も聞かない。 何も言わない』 それがウチのルールだ」

「いいんです。 聞いてくれても。 独立です。 独立しようかどうか悩んでたんです、アタシ。 だから、さっき玄龍斎先生にイキナリ 『やってご覧』 って言われて心が決まっちゃいました」

「独立って、独り暮らしするの」

「いいえ、仕事です」

「仕事? 何のシゴ・・・。 い、否。 上手くいくといいね」

「はい」

今夜の俺はどこか可笑しい。
余計な事は、言わない聞かない。
それが俺流だった筈だ。
チョッと酔ったか?
それとも・・・。

フッ。

どうやら俺は賭けにも負けたが、アリスにも。
この子にはオーラがある。
いいオーラだ。 実にいい。

アリスはレジに向かう。
チョッと離れて付いて行く。

「お会計お願いします」

「千円頂戴致します」

横から手を伸ばしてレシートを取る。

「今日はいいよ。 店のおごりだ。 否、私のおごりだ」

「エッ!?」

レシートを破く。

「いいんだよ、アリス。 君の勝ちだ」

「エッ!?」

「いいんだよ、アリス。 いいんだ。 丁度いい前祝だ。 今日は私におごらせてくれ」

「ホントにいいんですか?」

「もちろん」

一瞬、ためらうアリス。
その仕草が微笑ましい。
気を取り直して。

「じゃぁ。 ご馳走になります。 せっかくだから」

「あぁ」

「有難うございました」

ペコリと頭を下げる。

『頭なんか下げなくていいんだよ、アリス。 客なんだよ、君は』
そう言おうと思った。
が、こうなった。

「うん。 又おいで」

「はい、リチャードさん。 又来ます」

明るいナイスな笑顔だ。
アリスはそそくさと駅に向かう。
まだ、7時半だというのに。

その後姿に向かって一言。

アリスのオーラに・・・

 ・

 ・

 ・

乾杯!!


『 Rick's Cafe Tokio 』 #3 奥村玄龍斎登場

#3 奥村玄龍斎登場




「よ!? 大将!?」

噂をすればナントやら・・・
玄龍斎先生のご登場だ。

「今晩は、玄龍斎先生」

「ウム。 今夜もまた、いつも通りで・・・」

「いゃ、先生。 今夜はいつも通りという訳には」

「ん!? どういう事かな?」

「お客さんですょ。 3番テーブル。 可愛いお客さん」

と、アリスを指差す。
先生がアリスを見つめる。
そして何かを思い出す。

「ウム。 あの子は、あの子は確か・・・」

「そう。 この間紹介しましたよね。 友人の子」

「お~ぉ、そうだったそうだった。 あの美人の、あのナイスバデイの、あのボインボインの、あのお母さんの。 そ、そうだったそうだった。 あ、あのボインボインをムニュムニュっとー。 あのボインボインをムニュムニュっとー。 あのボインボインをムニュムニュっとー。 あ、あのチチがー、あのチチがー、あのチチがー、ウォーーー!!」


(プチッ!!)


奥村玄龍斎が白目をむいてのけぞる。
それを素早く抱き抱(かか)えて。

「ケ~ン、来てくれ。 玄龍斎先生がコワレタ。 早く早く」

「又ですか~?」

「あぁ」

ケンと二人がかりで4番テーブルに運ぶ。

「ターキー」

「はい」

私がいすに座らせてる間に、ケンが 『ワイルドターキー8年』 を持ってくる。

「コレじゃ駄目だ。 12年の方。 この人はソレしか飲まない」

慌ててケンが取りに戻る。
アリスはと見ると 『鳩に豆鉄砲』 だ。
それでなくても大きな目を更に大きく見開いて、どうしていいか分からないという表情をしている。

「心配ないよ。 いつもの儀式さ。 すぐに正気に戻る」

アリスに左目でウインク。
ついでに右手の親指を立てる。
アリスは安堵して軽く微笑む。
その笑顔が可愛い。

勝手知ったる常連客が、ニヤニヤ笑いながら集まってくる。

「ヤダー、先生ったら又~?」

キリコが言う。

「玄龍斎先生、オン・ステージ!!」

トミーが吼える。

「イッツ・ショータイム!!」

別の客が茶化す。

そして、
みんなが笑う。

ホントなのかワザトなのか

玄龍斎先生は、時々 『コ・ワ・レ・ル』。


そして一言。

玄龍斎先生とその愉快な仲間たちに・・・

 ・

 ・

 ・

乾杯!!


『 Rick's Cafe Tokio 』 #2 奥村玄龍斎

#2 奥村玄龍斎




その人の名は、

『奥村玄龍斎(おくむら げんりゅうさい)』

年齢不詳。
見た目では40歳位か?
何処(いずこ)に住み、何処(どこ)からやって来るのか・・・分からない。

占いを生業とする(自称)霊能者?
らしい。
が、
真偽の程は定かではない。
又、
知る必要もない。

余計な詮索は一切しない。
それが、当 『 Rick's Cafe Tokio 』 の
ルールだ。

物腰はゆったりしていて話し上手。
面白い話を沢山持っている。
その話が聞きたくて来てくれる客もいる。

無欲と言う訳ではなさそうだが、
栄利・名声には全く興味を示さない。
本人曰く、

『酒さえあればいい』

だ、そうだ。
もっとも傍で見る限りでは、
それに オ・ン・ナ を加えた方が正しい様な気もするが・・・

酒は、
『ワイルドターキー12年』
オンリーだ。
50.5°・700mlを一晩で一本必ず開ける。
それで、顔色一つ変えずに帰るからかなりの酒豪だ。
酒は好きだがすぐに酔ってしまう私とはえらい違いだ。
全く尊敬に値する。

当店の4番テーブルが気に入っているらしく、空いていないと何もせずに帰ってしまう。
だから4番テーブルはいつも空けてある。
というのも、毎日欠かさずに来てくれるからだ。

決まって、
pm7:00に来て
pm11:00に帰って行く。

その間、楽しい話を聞かせてミンナを楽しませてくれる。
だが、ココで占いはしない。
ココへは占いをしにではなく、

『飲みに来ているから』

だ、そうだ。
ウチとしては 「どうぞご自由に」 なのだが。

だから、果たしてアリスを占ってくれるかどうか?
こいつぁ、チョッと見ものかも。
なにせあの女好きの中年のスケベなオッサンが、アリスの様な若くて可愛い女の子の頼みを簡単に断れるかどうか。

しかし、

『断る』

に!?

今夜のアリスの飲み代(しろ)を賭けよう。

全く愉快な人だ。
そして、
誰からも愛される人でもある。

だからミンナはその人を、
尊敬と親愛の情を込めてこう呼んでいる。

『玄龍斎先生』

と。

そろそろ来てもいい頃だが・・・。


最後に一言。

玄龍斎先生に

 ・

 ・

 ・

乾杯!!


『 Rick's Cafe Tokio 』 #1 アリス

#1 アリス




「リチャードさん、今晩は」

名前を呼ばれて振り返ったら、そこにアリス。
古い友人の子供だ。

「はい、アリス。 今晩は。 今日は独(ひと)り」

「うん。 ・・・」

頷きながら店内を見回すアリス。
そんなアリスに聞いてみた。

「どうした、アリス? そんなにキョロキョロして、誰か探してる?」

「うん」

「誰?」

「玄龍斎(げんりゅうさい)先生」

「今日はまだだよ」

「・・・」

一瞬、アリスの顔が曇る。

「心配ないよ。 もぅ、そろそろ来る頃だから。 でも玄龍斎先生に会いたいなんて、一体全体、どういう風の吹き回しかな?」

「占って欲しい事があって」

「フ~ン。 ・・・。 じゃ、3番テーブルがいいよ。 4番の隣り。 今空いてるから」

「3番テーブル?」

「あぁ、そうだよ。 玄龍斎先生は4番。 そぅ、4番テーブルって決まってるから。 先生お気に入りのテーブルって訳」

パチッっとアリスに左目でウインク。
そしてケンを呼ぶ。

「ケ~ン!! チョッと来てくれ」

『ケン』とは、三田村健一。
二十歳。
店のウエイターだ。
高卒だが頭は悪くない。
客あしらいが上手い上に流暢に英語を話す。
うちに来てまだ2年だが、定着してくれたらいずれは私の片腕だ。

「御用ですか? 店長」

「あぁ、この子を3番。 玄龍斎先生の直ぐ隣りになるように。 知り合いのお嬢さんなんだ」

「はい」

ケンが軽く頷く。
そして、

「こちらにどうぞ。 3番テーブルはあの壁の脇になります」

ケンがアリスを3番に案内。
直ぐに一言(ひとこと)言い忘れていたのを思い出す。

「あ、そうそう。 その子、童顔だけど未成年じゃないからアルコール OK 」

「分かりました」


ここで、今、名前の挙がった玄龍斎先生を簡単に紹介しておこう。
だが、その前にチラッっと手元の時計を見てみた。

『オットー!? もぅ、こんな時間か』

時間がないので、それは次回に。

最後に一言。
ミンナに贈ろう。

「 Here's looking at you, kid. 」

君のヒトミに

 ・

 ・

 ・

乾杯!!


『 Rick's Cafe Tokio 』 #0

この 『 Rick's Cafe Tokio 』 は 2006/10/29~2006/11/19 に渡り、当ブログ管理人のコマルが今はなき Doblog に投稿した作品です。





『 Rick's Cafe Tokio 』 #0


はじめまして 皆さん

当 『 Rick's Cafe Tokio 』 へ
ようこそ

私が当店のオーナー店長、

リチャード・古井
通称 : リック(時に リッキー)

です。

どうぞお見知りおきを。


オープンに当り、簡単に当店のご案内を致しましょう。

名称 : Rick's Cafe Tokio

所在地 : 東京都内某所に在る雑居ビルの1階

特徴 : そこそこのスペースは確保してあるが、周りにケバイ店が多い為あまり目立たない

客層 : 一見(いちげん)お断りの為、ほとんど常連客

営業時間 : pm5:00~am1:00

定休日 : 特になし

 以上


全てにおいて

『適当』

がモットーのクラブ。


今後共
どうぞよろしく
お・ひ・き・た・て・の・ほ・ど・を・・・




   ★   ★   ★




「やぁ、リッキー。 今晩は。 景気はどうだい」

「やぁ、トミー。 ま、 『相変わらず』 かな」

そろそろ常連客がやって来始めた。
トミーにキリコだ。

今、手元の時計は pm5:10。

「ハ~ィ、リック。 元気?」

「ハ~ィ、キリー。 久しぶり。 まぁまぁってトコ。 キリコは?」

「絶好調。 リックの顔見たから尚更ね」

「そいつぁ、ナイスだ」

「又後でね。 カウンターに居るわよ」

「 OK 」

と、まぁこんな調子でこの店はオープンする。

さぁ、今夜も又忙しいのかな。
じゃ、今日はこの位で。

最後に一言。
ミンナに贈ろう。


この言葉を・・・


「 Here's looking at you, kid. 」

君のヒトミに

 ・

 ・

 ・

乾杯!!


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アリスのニャンコ

Author:アリスのニャンコ
ジョーク大好き お話作んの大好き な!? 銀河系宇宙の外れ、太陽系第三番惑星『地球』 の!? 住人 death 。

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