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タイタン2011 もう一つの最終回

もう一つの最終回




基本的に宗教(特に、日本のキリスト教とその教団。 世界のではない)大っ嫌いな有栖川呑屋コマルが途中まで書いて止めちゃった・・・

『もう一つの最終回』

これをうpしたらこのブログの top page が

『 google 検索』 から

消えるかどうかを見るテスト。。。


ダイジョブなら後日 “コレ・↓” に書き換える・・・・・・かも。。。



タイタン2011 #89 (もう一つの最終回・・・書き掛け)

「ところで不良」

外道が話し始めた。

「何だ?」

「オリンポスのヤツラは知っているのか?」

「何をだ?」

「今、この世界にオリンポスはないという事を」

「あぁ、その事か」

「あぁ、その事だ」

「知らんと思うぞ。 多分な。 多分、知らんと思うぞ」

「言ってやらなかったのか?」

「あぁ」

「ナゼ?」

「言う必要もなかろう。 聞かれた訳でもないのに。 何でそんな事を聞く?」

「うん。 まぁ、な。 まぁ、チョッと気になったからな」

ここで、

「・・・」

不良が黙った。
感慨深そうに俯(うつむ)き加減で、一点をジッと見つめている。

「ヘラに親切にしてもらったんだろ?」

外道がその不良に問い掛けた。

「・・・」

何も答えず、不良は黙っていた。
そんな不良に、再び外道が言った。

「だからだ。 だから・・・。 もしかしたらと思ったんだ。 ま、気にせんでくれ」

「あぁ」

「・・・」

今度は外道が黙った。
それを見て、

「気の毒で言えなかった」

ポツリと不良が呟(つぶや)くように言った。

「え!?」

「気の毒で言えなかったんだ。 今から2000年前、人間に嫌気がさし、オリンポスの全ての神々が天空に登ってしまったなんて事はな。 夢魔(むま)にでも犯されたとしか言いようのない、明らかに自然の摂理に反する処女懐妊。 凡そ神を奉ずる者なら絶対に従わなければならないはずの精子と卵子の結合による妊娠という自然摂理、それに反した処女懐妊。 そしてその処女から生まれた等という大嘘をつき、自らを 『飯屋(めしや)』 なんぞとほざいて民心を惑わし、最終的に磔獄門(はりつけ・ごくもん)の憂き目にあった馬小屋で生まれたあの大法螺(おおぼら)吹きと、それを逆手にとって復活なんぞという小賢(こざか)しい嘘話をでっち上げ、オツムの足りない下衆共を先導して世を狂わせている、あの悪魔の集団の所為(せい)で永遠に天空に登ってしまったなんて事はな。 言えなかったんだよ、気の毒で・・・。 良くしてもらったからな彼等には。 特にヘラには・・・な」

・・・


















時に、平成23年・・・











タイタン2011 お・す・ま・ひ







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タイタン2011 #88 (最終回)

#88 (最終回)




「ヘカテが・・・。 あのヘカテがお前を 『お嬢』 と呼んだのか?」

不良が驚いた様子で雪に聞いた。
あの感情をあまり表に出さない不良がだ。
これは、雪のした話を聞き終えた直後の事だった。
不良を追ってジャンプしてすぐ、雪がヘカテと遭遇した例のあの話だ。
外道同様、不良も又、ここに引っ掛かったのだ。

「うん」

雪が頷いた。
このやり取りを見て外道が、

「お前はどう思う?」

不良に聞いた。

「分らん」

「分らん?」

「あぁ、分らん。 しかし、何かある。 俺達とオリンポスの間にはな。 実は、前にも一度こんな事が・・・」

ここまで言って不良が躊躇した。

「前にも一度?」

透かさず外道が聞き返した。

「否、・・・。 今はその話は止めて置こう。 時期が来たらキチンと話す」

そう言って、

「ウ~ム」

不良が考え込んだ。

「そうか・・・」

外道もあえて突っ込もうとはしなかった。
聞いた所で不良が言うはずがないと分っていたからだ。
そして、

「俺達とオリンポスか・・・。 ウ~ム」

外道も又、考え込んだ。
すると雪が全~く意に介さず、そんな二人に明る~く言った。

「センセもおじちゃんも、何、深刻ンなってんの? そんな事、いつか・・その内・・分るじゃん。 今考えてもしょうがないじゃん」

って。

これには流石の不良も、

「ぁ、あぁ。 そうだな」

一本取られた。

「あぁ、そうだな」

勿論、外道も。

「うん。 そうだよ」

雪が言った。

「そうだった、そうだった。 アハハハハハ・・・」

外道が笑った。
誤魔化したのだ、笑って、バツの悪さを。

「アハ、アハ、アハハハハハ・・・」

暫し、不良の診察室の中に外道のワザト笑いが響いていた。
もっともこの笑いは、事が全て終わった安堵感からも来ていたのだが。
それを不良と雪が黙って見つめている。
緊張感から解放され、三人共軽い疲労感に満たされているのだ。

「アハ、アハ、アハハハハハ・・・」

外道のワザト笑いはまだまだ続いている。
止めようという様子は全く見せない。
それを不良と雪が黙って見つめている。

「アハ、アハ、アハハハハハ・・・」

一体いつまで続くのであろうか、外道のこのワザト笑いは?

だが・・・
その時・・・
これとほぼ同時に、


(パチリ)


暗燈篭 芽枝(あんどうろう・めえだ)も目覚めていた。
そして、


(ニヤリ)


不気味に笑った。
否、
意味有り気にだ。
意味有り気に笑っていた。

しかし、その笑いを誰も気付く事はなかった。
外道も不良も、そして最も敏感な雪さえも・・・全く。

そして、この暗燈篭 芽枝の意味有り気な笑いは・・・
一体何を意味しているのであろうか?










時に、平成23年7月。 
奇妙な進路を辿(たど)った超大型台風6号 「マーゴン」 に日本列島が見舞われた直後の、割りと過し易いある日の出来事であった。











タイタン2011 #87 (最終回) お・す・ま・ひ







タイタン2011 #87

#87




「実はな、コイツにも妙な事が起こっていたんだ」

雪を、


(クィッ)


顎で指し示しながら外道が言った。
そして、

「雪。 あの話をしてやれ」

雪に命じた。

「え!? あの話?」

意味が分からず、雪が聞き返した。
今度は、


(クィッ)


外道が不良を顎で指し示し、

「コイツの聴きたがってたさっきの話だ。 コイツを追って行った時、お前の経験した例のアレだ。 アレを話してやれ」

雪に言った。

「あぁ、アレ!? うん。 いいよ」

雪が頷いた。
そして、


(チラッ)


不良を見た。
それから顔を不良に向け、話し始めた。

こぅ・・・

「あのね、おじちゃん」

から初めて自分のした経験を、その全てを不良に。
つまり、闇の魔神(ましん)ヘカテとのやり取りを。
その最初から最後まで・・・










事細(ことこま)かに・・・











つづく







タイタン2011 #86

#86



「おぃおぃ、チョッと待て。 お前の話の方が先だろ」

外道が不良と雪の間に割って入った。
外道はチョッと不機嫌だった。
不良と雪に完璧なまでに蚊帳の外にされたからだ。

「あぁ、そうだな。 物には順序ってヤツがあるな」

「当たり前だ!!」

「ウム。 実はな、破瑠魔、妖乃。 ・・・」

そう言ってから、不良が全てを語った。
グライアイとの出会いから始めて、オリンポスの神殿での出来事まで・・・その全てを。
否、
一つを除いた全てをだった。
不良は左腕の事は黙っていた。
つまりポセイドンのトライデントにもぎ取られた左腕、そこにヘパイストスの作り上げたオリハルコン製の新たな腕をアスクレピオスによって取り付けられた事は黙っていたのだ。
帰りが遅くなったのは、単にポセイドンのトライデントによって負傷したという事だけにして。
それは、左腕の事は敢(あ)えて言う必要なしと判断したからだった。
もっとも、雪にはシッカリとばれてはいたが。
そんな隠し事は外道には通用しても、雪には通じない。
半端じゃなく鋭い感性を持っている雪に、そんな隠し事は通じないのだ。
不良が戻って来た時、雪はすぐに気付いていた、不良の左腕の変化に。
だが、黙っていた。
雪も雪なりに不良同様、敢えて言う必要なしと思ったからだった。

その不良の話を、

「ウ~ム。 そんな事が」

鈍感な外道が感心して聞き終えた。

「あぁ、そうだ。 今回は、正直俺もダメかと思った」

「相手が相手だったからな」

「その通りだ」

「だが、何(なん)でだ?」

「何(なに)がだ?」

「何でお前は運命を変えられたんだ?」

「あぁ、その事か」

「あぁ、その事だ」

「分らん」

「『分らん』 って・・・」

「・・・」

「・・・」

ホンの一瞬、外道と不良は言葉に詰まった。

「ま。 これは俺の推測だが・・・」

不良が先に口を開いた。
そして続けた。

「恐らく、死人帖」

「ん? 死人帖?」

「そうだ! 死人帖だ!! あの死神との戦いの所為(せい)だと思う。 否、その副産物じゃないかと思う」

「副産物? どういう事だ?」

「つまり、あの時・・・。 あの瞬間・・・。 俺の名を上崎が死人帖に書き込んだあの瞬間、俺の命運は一度尽きたんだ。 だが、お前も知っての通り、俺は 否 俺達は力を合わせてそれを回避した。 だからだ。 だからその結果として俺の運命は、それまで決まっていたはずの物と微妙にズレが生じ、変わってしまったのではなかろうか。 そのためポセイドンのトライデントに射抜かれるはずだった俺の運命も、ヘラによって変えられた。 そう思えば合点が行く。 それと考えられる事が別にもう一つある」

「別にもう一つ?」

「あぁ」

「・・・」

外道は黙っていた。
次に不良が何を言うかを待ったのだ。
その外道の気持ちを察し、

「時空をジャンプしたため」

再び、不良が口を開いた。

「ん? 時空をジャンプしたため?」

外道が復唱した。

「あぁ、そうだ。 時空をジャンプしたため・・・。 かもな」

「意味が見えん」

「つまり、俺はあの時代の人間じゃない。 だからだ。 だから俺の運命の予言も不確定だったのかも知れんという事だ。 あの時代の人間じゃない俺の運命の予言もな。 ま。 いずれにせよ、そのどちらかだと思う」

「な~る(ほど)」

外道が納得した。

そぅ・・・

不良は正しかった。
あの死人帖との戦いの結果、不良はそうとは知らずそれまでの自らの生死のサークルから微妙にズレ始めていたのである。
だがそれは、一人不良に限った事ではなかった。
実は、
外道と雪の運命にもそれは当てはまっていたのだ。
あの事件に巻き込まれていたこの二人も又、不良同様、そうとは知らず自らの運命に変化を来たしていたのである。

もっとも、それは・・・
大きな変化ではなく・・・
殆(ほとん)ど気付かれないほど微妙に・・・










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・だったのだが。











つづく







タイタン2011 #85

#85




突然、

『ハッ!?』

雪の顔色が変わった。
ここは不良の診察室。
不良がジャンプしてから八日目の出来事だ。

外道が雪の異変に気付いた。

「ん!? 雪どうかしたのか?」

「おじちゃんだ!?」

「え!?」

「不良のおじちゃん、帰って来る!?」

「ほ、本当か?」

「うん」

「なら、無事だったのか?」

「うん。 多分」

その時、


(モァモァモァモァモァ・・・)


不意に空間が歪んだ。
外道と雪の目の前の空間が。

瞬間、


(フヮッ)


その歪んだ空間の中にボンヤリと何らかのシルエットが浮かび上がった。
それは高さが3m近くもある、薄~い乳白色をした輪郭のハッキリしない立てた卵のようだった。
徐々に、そのボンヤリとした薄~い乳白色の、曖昧な輪郭の立てた卵が収束し始めた。
人間の、それも男の形に。
しかもかなり長身の。

終に、


(スゥ~)


姿を現した。
それはやはり人間の男だった。
その男は古代ギリシャ人の服装をしていた。
勿論、履物も。
それを見て、

「不良!?」

外道が叫んだ。

そぅ・・・

そのシルエットは不良だった。

外道が続けた。

「ぶ、無事だったのか?」

「あぁ、無事だ。 待たせたな、破瑠魔(はるま)、妖乃(あやしの)」

「あぁ、待った。 待ちくたびれたぞ」

外道がホッとした表情で言った。

「うん」

雪も頷いていた。

「で? 首尾は? 首尾はどうだった? 上手くいったのか?」

外道が聞いた。

「あぁ。 少々、梃子摺(てこず)ったが、なんとかな」

「そうかぁ、それは良かった。 心配したぞ」

「フン。 大袈裟な」

不良が鼻で笑った。
いつも通りだ。

「クッ!? ったく・・・」

チョッと外道がムッとして、

「あのなぁ、不良。 お前の気配が消えたってんで、コイツが心配して後を追ったんだぞ」

外道がそう言って、


(クィッ!!)


顎で雪を指し示した。

「うん」

雪が頷いた。

「チッ。 余計な事を」

「よ、余計な事とは何だ! 余計な事とは!!」

外道が苛立った。

「まぁ、そうムキになるな」

「これがならずにいられるか!!」

その外道を完璧に無視して、

「妖乃。 それは本当か?」

不良が雪に聞いた。
ここからは雪と不良との会話になる。

「うん。 ホントだよ」

「しかし、会わなかったじゃないか」

「うぅん、違うよ。 会えなかったんだよ」

「え!?」

「会えなかったんだよ、おじちゃんに。 アタシ」

「どういう事だ?」

「ヘカテに邪魔されちゃって」

「ヘカテ? ヘカテってあの魔女ヘカテか? 闇の魔神(ましん)の」

「うん」

「詳しく聞かせろ、妖乃 雪」

「うん」

そう言って雪がヘカテの話をしようとした。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #84

#84




「止(よ)せ! ポセイドン!! 止すのじゃ!!」

ゼウスが両手を上げ、ポセイドンを制した。
ポセイドンがトライデントを振りかざした手を止めた。
それを見てゼウスが不良に聞いた。

「人間! もう一度聞く!! 我等の仲間には加わらんと言うのじゃな?」

「あぁ」

その不良の返事に対し、

「ナゼじゃ?」

解せぬという表情でヘラが聞いた。
不良がヘラをジッと見つめた。
そして徐(おもむろ)にこう答えた。
ここからは不良とヘラの会話となる。

「アンタの気持ちは嬉しい。 それに助けてくれた事にも感謝している。 だが、俺は自由が好きなんだ。 こんな堅苦しい場所は俺の性に合わん。 だからだ」

「自由?」

「そうだ、自由だ」

「ソチの言う自由とは一体何じゃ?」

このヘラの問い掛けを聞き、

「・・・」

不良が黙った。
ジッとヘラの眼(め)を覗き込んだまま。
その状態で、

「スゥー。 ハァー」

ユックリと深呼吸というほどではないがやや長めの呼吸をした。
チョッと間(ま)を取ったのだ。
そして、

「未知だ!!」

キッパリと一言、そう言い放った。

「ん!? 『未知だ!!』?」

ヘラが復唱した。

「そうだ未知だ」

「未知だの自由だの意味が分らん。 どのような物じゃ、ソチの言うその自由だの未知だのとやらは?」

「未知・・・。 もっと正確に言うなら未知の探求・・・それが俺の自由。 俺の求める、否、目指す自由だ。 何人(なんぴと)にも縛られない未知の探求という自由。 それが俺の求める物だ。 もし、ここにそれがあれば喜んで俺はここに残る。 だが、残念ながらここにそれはない。 だから俺はここを去る。 もっともアンタらがそれを許してくれたらの話だがな」

「妙な事をいうヤツじゃ」

「ならこう言い換えたらどうだ? 俺達人間には分相応という言葉がある。 俺はその分相応の暮らしがしたいだけだ。 それで納得してくれるか」

「なら不良孔雀よ。 ワラワがここに残ってほしいと頼んだら如何(いかが)致す?」

「!?」

「!?」

「!?」

 ・・・

その場の全員に衝撃が走った。
これには流石の不良も驚いた。
ヘラが・・・あの神々の女王ヘラが 『頼んだら』 と聞いたのだ。
一瞬、
その場に異様な緊張感が走り、


(シーン)


静まり返った。
それを破ったのはヘラだった。

「不良孔雀よ、頼む。 ワラワのためにここに残れ」

「ワラワもじゃ。 ワラワも頼む」

今度はアルテミスだ。
アルテミスがそれに続いた。
あの処女神アルテミスがだ。
これは驚くべき事だった。
純潔の女神が、例え人間とはいえ男を引き止(とど)めようとしたのだから。
これはあのオリオン以来の出来事だった。

【この部分の意味の分からんお方様は 『オリオン、アルテミス、アポロン』 で!? 調べてくんしゃい : コマル】

「いぃや、それは出来ん」

不良がアルテミスの頼みをキッパリと断わった。

「ナゼじゃ? ワラワがこれほど頼んでもか?」

今度はヘラだった。
ここからは再び、不良とヘラの会話となる。

「あぁ。 俺がここに残るという事は、俺は永遠の生を手に入れるという事になる。 そしてそれは、決して死なんという事を意味する。 だからだ」

「それで良いではないか。 決して死なん。 それで良いではないか」

「いぃや、良くない」

「ナゼじゃ?」

「それは苦痛以外の何物でもないからだ。 ・・・。 だってそうだろう。 決して死なんという事は、嫌な事も、不愉快な経験も、未来永劫記憶し続けて生きて行かなきゃならんという事だ。 そんな生き様は俺達凡人にとってみれば、これ以上ない苦痛なんだ。 アンタら神とは違う俺達凡人にはな。 それにさっきも言ったろ。 俺は未知の探求がしたいと」

「その未知の探求とやらは何じゃ? 意味が良(よ)ぅ見えん。 更に詳しく申してみよ」

「未知の探求・・・。 それは 『死への挑戦』 を意味する。 つまり俺はネクタルやアンブロシアを飲食する事によって得られる永遠の生ではなく、死に挑戦し、これに打ち勝つ事によって得られる永遠の自由。 それが欲しいんだ。 だからだ」

「永遠の自由? 同じではないか?」

「いぃや、違う。 全く違う」

「どこがじゃ?」

「ここに残るというのは、単に未来永劫にわたってここで過す事でしかない。 だが、永遠の自由・・・。 それは未知の中を永遠に、心行くまで飛び回る事だ。 否、飛び回れる事だ。 それも何者にも束縛されずに・・・だ。 だから全然違うんだ。 そして俺はその永遠の自由以外、全く興味がない」

「ならばどうあってもここに残るのは嫌だと申すか?」

「あぁ、嫌だ」

「ワラワがこれほど頼んでもか?」

「悪いが、そうだ」

「・・・」

ヘラは黙った。
最早、不良の決心は変わらないと見たからだ。
このやり取りを黙って見ていたゼウスがヘラに言った。

「どうやらソチの頼みもムダだったようじゃな」

そして不良を見た。

「ならば、人間!! 好きにせよ!!」

更に、全神々に向かって、

「これまでじゃ!! この人間を下界に帰す!! それで仕舞いじゃ!!」

最後に、既にトライデントを収めていたポセイドンに向かって、

「ソチもそれで納得せよ」

再び、全員に、

「以上じゃ!! これにて散会する!!」

と、ゼウスが一方的に不良の審問を・・・










打ち切った。











つづく







タイタン2011 #83

#83




「どうする人間? 我等の仲間となってここに住するか?」

ゼウスが不良に聞いた。
それに続きヘラが、

「ソナタなら我等が飲み物であるネクタルと食べ物であるアンブロシアをたったの一口ずつ口にするだけで、我等の仲間入りが出来るはずじゃ」

そう言って、


(クィッ!!)


イリスに顎でネクタルとアンブロシアを持って来るように指図(さしず)した。
それを受け、


(コクッ)


イリスが頷いて、ネクタルとアンブロシアを取りに行こうとした。

だが・・・

これに対し不良が予想外の行動に出た。

「フッ」

ほくそ笑んだのだ。
しかも、

「フッ、ハハハハハハ。 ハハハハハハ。 アッ、ハハハハハハ・・・」

笑い出してもいた。
それも腹を抱えての大笑いだ。

大丈夫か不良?
そんな、神々を愚弄(ぐろう)ようなマネをして?
大丈夫なのか?

「ん!? 人間!? ナゼ笑う? 何がそんなにおかしい?」

ゼウスが不可解だという顔をして聞いた。
それはヘラも同じだった。
又、その場の神々も皆、同様だった。
釈然としないという顔をしている。

「これが笑わずにいられるか」

不良が答えた。

「ヌッ!? どういう意味じゃ?」

今度はヘラが聞いた。
そのヘラに向かって不良が言った。

「だってそうだろ。 確かにここは・・この場所は・・アンタら神々にとってはいい場所かも知れん。 だが俺に、否、俺達人間にしてみれば、ここは決して居心地の良い場所ではない。 ここを居心地が良いと思える人間はそれこそ聖人君子のみ。 ヘラクレスがそうなのかどうかは知らんが、俺達凡人にしてみればここは単に窮屈な場所に過ぎん。 面白くもなければ楽しくもない、単なるつまらん場所に過ぎんのだ」

「なーに~、人間!? 我等がオリンポスを侮辱する気か!?」

ポセイドンが怒り心頭だ。

「いぃや~。 侮辱なんかしちゃいないさ。 なるほどここはキリスト教徒どものほざく神の国よりかは遥かにましだ。 あのありもしない天国と地獄を対比させ、脅して賺(すか)して布教のため、食い物にする信者獲得のため、言葉巧みにありもしない天国を誇大宣伝するキリスト教徒どものほざく所のあの 『神の国』 という名の地獄よりもな。 だがな、ポセイドン」

「何だ?」

「俺がこのままここに残るという事は、それはイコール、俺が神になるという事だ。 だが俺は人間だ、神にはなれぬ。 だからだ。 だからそう言ったんだ。 アンタだってついこの間、俺に向かって言っただろ。 『・・・!! 人間ごときがー!! カスのクセに、クズのクセに、ゴミのクセにー!! ・・・』 と。(#67 http://00comaru.blog.fc2.com/blog-entry-4295.html 参照) だから仮になれたとしたって、俺に神になろうなんて気持ちは更々ない。 そんな気持ち、俺には更々ないんだ。 第一、そんな柄(がら)でもないしな」

「あぁ、余(よ)もソチのような詰まらんヤツを同席させるのは願い下げだ!?」

ポセイドンの怒りは収まらない。

「それは俺のセリフだ」

不良が言い返した。
それを聞き、


(プチッ!!)


終に、ポセイドンが切れた。

「ウ~ム。 人間!? 言わせて置けば、生意気なぁー!! もう、許さん!!」

そう言ったその時には、


(ガシッ!!)


いつの間にか手にしていたトライデントを握る手にポセイドンは力を込めていた。
このトライデントはポセイドンが念力で、その場に瞬間移動させたのだった。


(グイッ!!)


不良に向け、ポセイドンがトライデント振りかざした。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #82

#82




「その人間をここ(オリンポス)に住まわせる」

アルテミスがキッパリとそう言い切った。
それを聞き、

「ヌッ!? ナ、ナント!?」

ゼウスは驚いた。

「!?」

「!?」

「!?」

 ・・・

他の神々も皆同じだった。

「アルテミスよ、どういう意味じゃ?」

再び、ゼウスが問い質(ただ)した。
ここからは暫し、アルテミスとゼウスの会話となる。

「我等がオリンポスに、その者のために一席設けるという事じゃ」

「つまり、我等の仲間にするという事か?」

「その通りじゃ。 その人間にはその値打ちがある」

「それは認められぬ」

「ナゼじゃ?」

「そのような前例がないからじゃ」

「前例?」

「そうじゃ、前例じゃ」

「前例なら、あるではないか。 ヘラクレスという」

「ん!? ヘラクレス? ヘラクレスか・・・。 しかし、ヘラクレスには我等の血が入っておる。 じゃが、ソヤツには・・・」

【ヘラクレスは、ペルセウスの孫娘のアルクメネー(父はエレクトリオン)がゼウスにだまされて身ごもった子・・・即ち、デミゴッド( demigod )である : 作者】

「否、その人間にも我等と同じ・・・」

ここまでアルテミスが言った時、

「余計な事を申すでない! アルテミス!!」

ヘラが割って入った。

「その通りじゃ!!」

ポセイドンも我慢し切れず、それに続いた。
そしてポセイドンがそのまま一気に、

「ふざけた事を抜かすな! アルテミス!! そのような雑魚(ざこ)を我等と同席に加えるなど、言語道断!!」

アルテミスに向かって激しく捲(ま)くし立てた。

「いぃや、ポセイドン!! ふざけておるのはソチじゃ!!」

アルテミスが厳しく言い返した。

「なーに~?」

「ならばソチは運命の予言を覆せると申すのか? ん? ソチ自身の運命の予言を」

「そ、それは・・・」

ポセイドンが言葉に詰まった。
そのポセイドンにアルテミスが追い討ちを掛けた。

「それ見た事か。 この者はソチにも出来ぬ、否、ソチだけではない神々の王であるゼウスにも出来ぬ事を為(な)し遂(と)げた者じゃ。 それをいつまでも女々しく妬(ねた)んでおるでない。 ビッグ・スリーの名が泣くぞ、ポセイドン」

「クッ!?」

ポセイドンはぐうの音も出なかった。

「ウム。 アルテミスの言う事ももっともじゃ。 どうする皆の者?」

ゼウスがその場の神々に聞いた。

「ゼウスよ、ヌシがそれで良しとするなら、ワラワもそれに従おう」

真っ先にヘラが答えた。

「ウム」

「ウム」

「ウム」

 ・・・

それに釣られるようにポセイドンを除く全神々が首を縦に振った。
すると、ゼウスが・・・


(クルッ)


振り返って不良を見た。










そして・・・











つづく







タイタン2011 #81

#81




「人間!? 何ゆえポセイドンの邪魔をした?」

大神ゼウスが不良に聞いた。
ゼウスはポセイドン同様、3メートル超級の隆々(りゅうりゅう)たる体躯をしている。
ハデスも同様だ。
ゼウス、ポセイドン、ハデスのビッグ・スリーは他の神々より一回り大きかった。
だからビッグ・スリーという訳ではない。
天、海、冥府を司る最高権力神(さいこう・けんりょく・しん)という意味だ・・・ビッグ・スリーという呼び名は。

ここはオリンポス山にあるオリンポス十二神が集う神殿。
そこに不良とオリンポス十二神。
加えて、ポセイドンの息子であり風の神であるアイオロスとヘラの侍女で虹の女神のイリスがいる。
更に、それまでいなかったアルテミスも今はセレーネではなく、その本体のアルテミスとして存在していた。
そこで今、不良の審問(しんもん)が行なわれている。
不良は既に審問を受けるだけの体力は回復していた。
もっとも、まだ左腕の痛みは相当な物があったが、新たな腕の自由は利くようになっていた・・・まるでもとからそういう腕でもあったかのように。
つまりヘパイストスの力作の新たな左腕が、不良の体にほぼ馴染んだという事だ。
しかし、それには八日(ようか)という日数を要した。
医療の神アスクレピウスの力を以ってしても、不良のこの治療には八日という日数が必要だったのだ。

これは不良がこの地にやって来た日から数えて、八日目の出来事である。

「俺は邪魔などしてはいない」

ゼウスの問い掛けを不良がキッパリと否定した、全く臆する事なく。
最早、不良孔雀、怖い物なし。
例え、それがオリンポスの神々相手でも。

「ポセイドンはそうは思ってはおらぬぞ」

ゼウスがここまで不良に言ってからポセイドンを見た。

「だな、ポセイドン」

「あぁ、そうだ」

ポセイドンが答えた。

「誰がどう思おうと、俺は邪魔などしてはいない」

不良が言い張った。

「なら、何をした?」

ゼウスが聞いた。
ここからは暫し、不良とゼウスの会話となる。

「ティアマトの石化」

「ティアマトの石化?」

「あぁ、ティアマトの石化を完了した」

「何のために?」

「俺の世界でヤツが悪さをしたからだ」

「ホゥ~? 悪さな。 何の悪さだ?」

「娘に憑依した」

「娘に憑依?」

「そうだ。 アンドロメダの生まれ変わりと思われる娘にだ。 その娘に憑依した」

「それで?」

「俺はその娘の命が危険にさらされていると思い、ここまで来た。 メドゥーサ・ルックを完了させるためにだ」

「それでアイオロスの行く手を阻(はば)んだのか?」

「その通り」

「ナゼ、アイオロスが風を送るのを知った」

「見た者がいたからだ」

「誰だ?」

「アンドロメダだ」

「アンドロメダ? アンドロメダが見ておったのか?」

「あぁ、そうだ。 正確に言うなら、その生まれ変わりと思われる娘、即ち、暗燈篭 芽枝(あんどうろう・めえだ)だ。 暗燈篭 芽枝が、アンドロメダが見ていたに違いないペルセウスとティアマトの戦いの場面の記憶を持っていたんだ」

「そうか。 暗燈篭 芽枝とやらがか?」

「そうだ」

「じゃが、どのようにしてそれを知った? その娘から聞いたのか?」

「いぃや、違う」

「なら、どうやって?」

「その娘の記憶の中に入った」

「ん!? 娘の記憶の中に?」

「そう、娘の記憶の中にだ。 そしてその記憶を共有する事により、アイオロスの存在を知った」

「それで、アイオロスの邪魔をしに来たのか」

「否、邪魔ではない。 足止めだ。 足止めをしに来たんだ、俺は、ここまで。 アイオロスの足止めのために」

「同じ事であろう」

「まぁ、そうと言えなくもないが・・・」

ここでポセイドンが痺れを切らせて割って入って来た。

「いつまでそのような詰まらぬ話をしておるつもりだ。 早(はよ)ぅ、その人間の処遇を決めぬか」

「まぁ、待て、ポセイドン」

ゼウスが逸(はや)るポセイドンを制した。

「余はコヤツに興味を覚えた」

ゼウスのその言葉を聞き、

「ワラワもじゃ」

透かさずヘラが合いの手を入れた。

「何だ、ヘラ、ソチもか」

「あぁ、ワラワもその人間には興味がある」

「珍しく意見が合(お)うたな、ヘラ」

「フン」

ヘラがゼウスを小バカにするように鼻先三寸でせせら笑った。
ここがゼウスとヘラの面白い関係である。
姉弟であり、夫婦であるんだが、ナゼか余り関係が宜しくないのだ、この二神は。
恐らく、ゼウスの浮気性がその原因と思われる。
何せゼウスの浮気性は酷い物で、もしゼウスが人間なら殆んど病気。
それも超重症の病気。
即ち 『超・淫乱病』、あるいは 『超・性依存症』 としか言いようがないほどの。
だから小バカにされ、チョッと気まずいゼウスであった。
そしてその気まずさを隠すために、

「で!? ポセイドン。 ソチはどうしたいというのじゃ?」

ゼウスがポセイドンに話を振った。

「決まっておる。 なぶり殺しじゃ」

「ナゼ?」

「ソヤツは無礼にも我等の世界に土足で足を踏み入れた。 だからじゃ」

「ウム。 それは言える」

「なら、決まったな。 なぶり殺しじゃ」

ここまでゼウスに言ってから、ポセイドンがアイオロスを見た。

「ソヤツをタルタロスにぶち込んで置け!! そこで地獄の亡者どもに八つ裂きにさせよ!!」

【タルタロス・・・古代ギリシャ人の考えていた地獄の事。 因みにタルタロスとは “限りない闇の深遠” を表し、大地の外れにあるどこまでも深くて暗い地の底の地獄を意味している。 その深さは相当な物で、天から投げた岩が九日九晩(ここのか・きゅうばん)落ち続け、十日目にして地上に届き、更に九日九晩地中を落ち続け、十日目にして漸(ようや)くこのタルタロスに着くと言われている : 作者】

「まぁ、待て、ポセイドン。 そう早まるな。 まだ決まった訳ではない」

「いぃや、決まった。 我等、神を冒涜(ぼうとく)した罪じゃ。 コヤツを生かしておくという事になれば、他の罪人どもに示しがつかぬ」

それを聞き、

「その通りじゃ!!」

「ポセイドンの言う通りじゃ!!」

「なぶり殺しにせよ!!」

「あぁ、そうじゃ! なぶり殺しじゃ!! なぶり殺しにせよ!!」

 ・・・

オリンポスの神々が皆、口々にポセイドンを支持した。
だが、
ここで一神(いっしん)だけ・・・
そぅ、一神だけ・・・
不良を擁護する神がいた。
ヘラだった。

「それはならぬ」

「ナゼじゃ?」

ゼウスが聞いた。

「この者は、自らの運命を変えた者じゃ。 グライアイ達の予言を覆した者じゃ。 我等ですら出来ぬ事を為(な)した者じゃ。 然(さ)すれば、褒められこそすれ、殺すなどもっての外じゃ。 まして、タルタロスに放り込むなど論外じゃ」

「ウム。 確かに。 ヘラの言う事も一理ある」

ゼウスがヘラの言い分を認めた。
すると、それまでただ黙って見ているだけだったアルテミス(セレーネ)が、ここで初めて口を開いた。

「ワラワもヘラと同感じゃ。 その人間は、確かに力は我等はに遠く及ばぬ。 じゃが、我等に出来ぬ事を為遂(しと)げた者。 これは曲げようもない事実。 つまり、この点に於(お)いて我等を凌いだのじゃ。 ならば、その者は英雄じゃ。 決して罪人などではない。 人間でありながら我等神を凌いだのじゃからな。 その英雄をどうしてタルタロスなどに送って良いものか。 そのような事をすれば示しどころか、我等の正義が疑われる。 違うか? ポセイドン」

「・・・」

渋い顔でポセイドンは黙っていた。

「ならば、ソチはどうしたら良いと思ぅておるのじゃ?」

ゼウスがアルテミスに問い質(ただ)した。
しかしそれに対し、

「・・・」

アルテミスは何も答えなかった。
それは答えられなかったからではなかった。
チョッと間(ま)を取ったのだ。

こぅ・・・










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・述べるために。











つづく







タイタン2011 #80

#80




「雪」

「な~に?」

「不良の安否はどうだ? まだつかめんのか?」

「うん」

ここは不良の診察室。
不良がジャンプしてから既に一週間が過ぎている。

理由は分からないが、暗燈篭 芽枝(あんどうろう・めえだ)は時々目を覚ましては又、深い眠りに落ちるという事を繰り返していた。
そして意識が戻ってもボンヤリとしてまるで夢遊病者。
起き上がる事もままにならない有様。
又、一度(ひとたび)眠りに落ちると、今度は起しても起きないほどその眠りは深かい・・昏睡状態と言っても良いほどに・・という状態だった。
だから食事や排便は自力ではまだ無理なため、又、ここには看護士もいないため、それが違法と分ってはいたが不良の用意してあった点滴を専(もっぱ)ら雪が取り替えていた。
勿論、下(しも)の始末もだ。
これは女性の暗燈篭 芽枝の下の世話を、オスの外道がするのを雪が嫌った事もあってだった。
しかし、その点滴の在庫もそろそろ底を突き始めていた。
まさか不良の戻りがこんなに遅くなるとは誰も思っていなかったからだ。

今・・・

暗燈篭 芽枝の横で外道と雪が話し合っている。
雪はもう回復していた。
あれから一週間も経っていたからだ。
という事は、雪は一週間も家を留守にした事になる。
幸い雪の両親は仕事で、今、日本にいない。
だから、あえて外泊の許可を取る必要はなかった。
又、学校はと言えば、雪は私立高校に通っているため7月第3週目から既に試験休み(事実上の夏休み)に入っている。
だからそちらの心配もする必要はなかった。

外道が続けた。

「おかしい!? お前にも分らんとは・・・。 おかしい・・・。 不良のヤツ、一体何を・・・」

「うん。 スッゴイ力が邪魔してる。 バリヤー張ってるみたいな感じだよ」

「今回は相手が相手だからな」

「うん」

「・・・」

外道が黙った。
不良の安否を本気で心配しているのだ。
その不安感丸出しの外道の目を、ジッと雪が見つめている。
雪は雪で、そんな外道が心配なのだ。
そして雪が何かを思ったようだった。

「センセ」

外道に声を掛けた。

「ん!? 何だ?」

「も、一回。 雪、行ってみよっか。 おじちゃんトコ」

「ダ、ダメだ!? ぜ、絶対行っちゃダメだ!?」

「何で?」

「今回は相手が悪過ぎる。 何が出て来るか分らん。 もしポセイドンやその眷属達でも出て来ようものなら大事(おおごと)だ。 ヘカテ一人に敵(かな)わなかったお前が、どうすればポセイドン達に敵う。 だからダメだ、絶対にダメだ」

「うん」

「ックョー!! 俺に、俺にジャンプの力があれば・・・。 俺に、お前達のようなジャンプの力がありさえすれば・・・。 ックショー!!」

「ジャンプの力かぁ・・・。 今度、センセもジャンプの練習した方がいいね」

雪が軽~く言った。

「ジャンプの練習って、あのなぁ~、雪。 そんなに軽~く言うんじゃねぇよ」

「でも、簡単だよ」

「『でも、簡単だよ』 って、お前なぁ・・・」

「簡単なんだヶどなぁ」

この 『簡単簡単』 と無頓着(むとんちゃく)に言ってのける雪に、

「そういうのは才能が必要なの、練習したからってホイホイ出来るモンじゃないの」

チョッとイラッと来た外道であった。

「出来るかも知れないじゃん。 センセだって」

更に追い討ちを掛けるようなこの 『センセだって』 という言葉に、


(カチン!!)


外道のプライドが傷付いた。
ムッとして、

「俺は人間なの。 お前みたいなバケモンとは違うの。 だから練習したって出来ないの」

外道が雪をバケモノ扱いした。

「雪、人間だよ。 バケモンなんかじゃないよ」

「今はな。 でも、元々はバケモンだったの。 女切刀呪禁道(めぎと・じゅごんどう)最強と謳(うた)われた俺の親父も、お袋も敵わなかったほどの・・・」

興奮して、思わず余計な事を・・雪にはまだ言ってはいけない事を・・外道は口走ってしまった。
雪はまだ 『雪女 vs 破瑠魔内道、死頭火の戦い』 の事は聞かされてはいなかったのだ。
薄々感付いてはいたが。
この外道のつれない言葉を聞き、


(ポロッ、 ポロッ、 ポロッ、 ・・・)


雪の目から大粒の涙がこぼれ出した。

「バケモンなんかじゃないもん、バケモンなんかじゃないもん。 雪、バケモンなんかじゃないもん。 ェッ、ェッ、ェッ、・・・」

雪が泣き始めた。
雪は、あの闇の魔神(ましん)、魔女ヘカテに全く問題にされずに敗れたその気持ちの整理が付かない内に、大好きな外道にバケモノ扱いされたのが悲しかったのだ。

「す、済まん、雪。 言葉が過ぎた」

外道が慌てて謝った。
外道は苛立っていたのだ。
不良の安否が分らない事に。
又、自らの力不足に対して。
だから、つい、雪に当たってしまったのだった。

「ェッ、ェッ、ェッ、・・・」

雪は泣き止まない。
その上、不良の消息はつかめない。
更に、暗燈篭 芽枝の点滴の在庫は底を突き掛けている。
加えて、自らの力の限界を思い知り、歯痒(はがゆ)いばかりの・・・










外道であった。











つづく







タイタン2011 #79

#79




「ご報告申し上げます」

風の神アイオロスが言った。

「何事じゃ?」

大神ゼウスが聞いた。

ここはオリンポス山。
そこにあるオリンポス十二神の集う神殿。
その神殿に今、大神ゼウスの他、ヘラ、ポセイドン、ハデス(冥府の主で別名『プルトン』とも言う。 因みに今話題の“プルトニュウム”はこの『プルトン』のローマ読みの『プルート』が『冥王星』に当てられ、その『冥王星=プルート』から来ている)、ヘスチア(ゼウスの姉で、かまどの守り神)、それからゼウスの子供のアポロン、アレス、ヘパイストス、ヘルメス(以上、男神)、それにやはりゼウスの子供のアテナ、アフロディーテ(以上、女神)のオリンポス十二神がいる。
だが、これではトータル11の十一神。
十二神というからにはもう一神いるはずだ。
そしてその残る一神・・・それはアルテミス。
そぅ、アルテミス。
月神アルテミスだ。
セレーネと同じ神格の。
しかし今、そのアルテミスの姿はここにはない。
そしてその理由(わけ)はすぐに分かる。

アイオロスが先ほどの 『何事じゃ?』 というゼウスの問い掛けに、

「ハッ!! ただ今、ヘラ様の神殿より使者が参りまして、例の人間が目覚めたとの事」

そう答えた。

「ん!? 使者? 使者とは誰じゃ?」

今度はヘラが聞いた。

「イリスでございます」

アイオロスが答えた。 【イリスとはヘラの侍女で、虹の神である : 作者注】

「そうか。 なら、イリスをここへ通せ」

ヘラがアイオロスに命じた。

「ハッ!!」

アイオロスがイリスを呼びに行った。
すぐにイリスを連れて引き返して来た。

「詳しく話すのじゃ、イリス」

ヘラが命じた。
ここからは、ヘラとイリスとのやり取りとなる。

「はい。 先ほど、わたくしとセレーネが見守る中、かの人間が目覚めました」

「起き上がれるのか?」

「はい。 支障なく」

「ならばここへ連れてこれるのか?」

「はい。 恐らくは大丈夫かと」

「ウム。 ならば連れて参れ」

「はい。 承知致しました」

イリスがそう返事をして、振り返る事なく、


(スゥ~)


そのまま姿を消した。
不良孔雀を呼びに行ったのだ。

当然・・・










セレーネ(アルテミス)も一緒に。











つづく






タイタン2011 #78

#78




「人間の意識が戻ったのか? 声がしたようだが」

セレーネの背後から声がした。
セレーネが振り返った。
ヘラが立っていた。

「あぁ、戻った。 じゃが、すぐに眠った。 今は寝ておる」

そうセレーネが説明した、不良の今の容態(ようだい)を。

今・・・

ここにはヘラ、セレーネ、そして不良の3人、否、一人と二神しかいない。

「そうか」

そう言って、ヘラが不良の寝ている寝台に近付いた。
そして不良の寝顔を覗き込んだ。
その寝顔を繁々とヘラは見つめた、慈眼(じげん)を以って。
こんな事を呟きながら。

「不良孔雀。 大したヤツじゃ。 アナウロス川でのワラワの試(ため)しにも全く挫(くじ)ける事なく見事こなした上、自らの運命まで変えおった。 死ぬるはずだった自らの運命まで・・・」

「何を申すか、ヘラよ。 あれはソナタが手を貸したからであろうに」

横からセレーネが声を掛けた。
ヘラが顔を上げ、セレーネを見た。

「あぁ、そうじゃ」

「ナゼ?」

「この者を死なせとうなかったからじゃ」

ヘラがもう一度、不良の寝顔に目を移しながらそう答えた。

「フ~ン」

セレーネはその答えに対し納得が行かないようだった。
そのセレーネにヘラがキッパリと言い切った。

「見よ! セレーネ!! この凛々しい寝顔を・・・。 なんと凛々しい。 しかも勇者じゃ。 ペルセウスにも決して引けを取らぬ勇者じゃ。 何せ、人間でありながらあのポセイドンに真っ向勝負(まっこう・しょうぶ)を挑み、自らの命と引き換えにアヤツを出し抜こうとしたのじゃからな。 しかもペルセウスに全く気付かれる事なくアイオロスの邪魔をした。 ペルセウスに全く気付かれる事なく・・・じゃ。 大したヤツじゃ、この者は。 そのような者を・・・そのような兵(つわもの)を、そう安々と死なせて良いはずがあろうか? 否、あろうはずがない。 だからじゃ。 だから手を貸したのじゃ、ワラワは。 そう安々と死なせとうはなかったのじゃ、この者を。 だからワラワは手を貸したのじゃ、この者に。 どうじゃ、セレーネ? ソチはそうは思わぬか?」

「あぁ。 ワラワも今、そう思ぅておった所じゃ」

「だから助けたのじゃ。 それにこの者の名は不良孔雀・・・。 そうじゃ、不良孔雀じゃ。 孔雀はワラワの眷属じゃからのぅ。 その孔雀の名を冠するこの者を如何(いかが)致せば放っておける。 ん? 如何致せば・・・」

「それだけか?」

「ん!? それだけ・・・。 それだけとはどういう意味じゃ?」

「他にもあるのではないのか? 分っておるぞ」

「フン。 詰まらぬ詮索は止めよ、セレーネ。 それ以上言う事は許さぬ」

「あぁ、そうじゃな。 詰まらぬ詮索じゃったな」

「そうじゃ、詰まらぬ詮索じゃ。 そんな事より、ナゼ、ソチがここにおる?」

「そ、それは・・・」

ここでセレーネが言葉に詰まり、


(ポッ!!)


顔を赤らめた。
それを見て、即座にヘラは察した。
セレーネの不良に対する思いを。

「フ~ン。 なるほどな。 そういう事か・・・」

「な、何が 『フ~ン』 じゃ、ヘラよ。 ワ、ワラワは・・・。 ワラワは別に・・・。 そ、そのような・・・。 た、ただ・・・」

「そう取り乱さずとも良い、セレーネ。 ソチの気持ちは良(よ)ぅ分った。 確かにこの人間にはその価値がある。 じゃがな、セレーネ。 この者は普通の人間とは違う。 エンディミオンのような訳には行(ゆ)かぬ。 それを良~く承知して置くのじゃ。 良いな」

「あぁ、分っておる」

「ならば良い」

そう言って、


(クルッ!!)


踵(きびす)を返して、


(スタスタスタスタスタ・・・)


ヘラが寝室を出て行った、不良の側に一人セレーネを残して。
そのヘラの後ろ姿を見送りながらセレーネが呟(つぶや)いた。

「エンディミオンのような訳には行かぬ・・・か」

ポツリと一言・・・そう。










【注】

エンディミオンとは・・・『エンディミオンの眠り』 で!? グーグルせんせに聞いてみて下ちい











つづく







タイタン2011 #77

#77




「馴染むまで・・・その腕が馴染むまで。 確か、さっき君はそう言ったな?」

不良がセレーネに聞いた。

ここはヘラの寝室。

「あぁ、言(ゆ)ぅた」

「どういう意味だ?」

「それは何(いず)れ分る」

「否!? 今知りたい」

不良がキッパリと言い切った。

「・・・」

セレーネが黙った。
そして、何も言わずジッと不良の眼(め)を見つめた。

「・・・」

不良も黙っていた。
ただ、眼でその答えを催促していた。
セレーネがそれを理解した。

「フゥ~」

セレーネが溜め息を付いた。
それから言った。

「仕様(しよう)のないヤツじゃ。 仕方ない。 良く聞くのじゃ、不良孔雀」

「・・・」

「ソナタの左腕は既にない。 ポセイドンのトライデントにもぎ取られてしもぅたのじゃ。 それは承知しておるか?」

「あぁ」

この時点で、ある程度不良の記憶は戻っていた。
時系列で物を考えられるようになったという意味でだ。

「ならば良い。 だからヘラがソナタに新たな左腕を与えたのじゃ」

「!?」

「ヘパイストスに頼んで作らせたのじゃ、ソナタの新たな左腕を。 ヘラがヘパイストスに頼み込んで、作らせたのじゃ、ソナタの左腕を、オリハルコンで、新たにな。 そしてそれをソナタの治療を行(おこの)ぅたアスクレピウスがその腕に縫い付けたのじゃ」

【ヘパイストスは “火と鍛冶の神” であり、オリンポス十二神の内の一神である。 又、アスクレピウスはオリンポス十二神の内の一神にして太陽神であるアポロンの子で “医療の神” である : 作者注】

「・・・」

「だから馴染むまでと申したのじゃ」

「そうかぁ」

納得したようにそう言って、不良がもう一度右手で左腕に触れてみた。
確かにそこに何かがあるのは分った。
だが、相変わらず感覚が麻痺していてそれが普通の腕なのか、あるいは単なる金属の棒なのか、そういった区別は全くつかなかった。
そんな不良をセレーネが、

「案ずるでない。 何(いず)れ元のようになる。 それまでの辛抱じゃ」

励ました。

「あぁ」

「必ずや、前のよりもズッと役に立つはずじゃ。 何せあのヘパイストスが丹精込めて作り上げた傑作じゃからな、ソナタのその左腕は。 三日三晩も掛けたのじゃ、ヘパイストスがそれを作り上げるのに。 トロイ戦争の時のアキレウスのあの鎧ですら、たったの一晩で打ち上げたあのヘパイストスが、三日三晩も掛けたのじゃ。 ソナタのその左腕を作り上げるのに」

そうセレーネが、


(クィッ!!)


顎で不良の左腕を指し示しながらそう言った。

「・・・」

不良は黙ってそれを聞いていた。
そして、

「ナゼ?」

ボソッと聞いた。

「ん!? 『ナゼ』?」

セレーネが聞き返した。

「ナゼそこまでしてくれる」

「あぁ、そういう事か・・・。 それはのぅ。 ソナタはヘラの・・・。 否、今は止めて置こう。 これ以上は聞くな。 何(いず)れ分る事じゃ。 一度に何もかも知ろうとするでない。 良いな、不良孔雀」

「あぁ。 分った」

「ならば、今少し休むが良い。 眠れ、眠るのじゃ、不良孔雀。 今は眠るのじゃ」

その言葉がまるで誘発剤にでもなったかのように、


(スゥ~)


不良の意識が遠くなった。
そしてそのまま不良は深い眠りに落ちた。
月神セレーネに見つめられながら。










一瞬にして・・・











つづく







タイタン2011 #76

#76




「人間!? 気が付いたか?」

女の声がした。

それは年若い娘の声だった。
その声は美しく澄んでいて、小声でも良く通る声だった。
それも、あの神々の女王ヘラの声に負けず劣らずの上品さ、清らかさで。

突然・・・

その男の目の前に人の顔が浮かび上がった。
その顔は上から覗(のぞ)き込んでいた。
それは女の顔だった・・・年若い娘の。
しかも、

『ハッ!?』

と、思わず息を呑むほどに美しい。
やはり、ヘラに負けず劣らず・・・

男は反射的に起き上がろうとした。
だが、


(ズキッ!!)


全身に痛みが走った。
そのため、全く体を動かす事が出来なかった。

「ウッ!?」

ただ呻く事だけしか。
その時、

「ならぬ!! まだ無理をしては・・・」

再び同じ娘の声がした。
その娘の声と体の痛みが返って幸いし、男の意識が完全に戻った。
しかし、まだ頭の中は混乱していた。
男は何とか起き上がろうと全身に力を込め、身悶えながら、

「ん!? ここはどこだ!? 俺は、俺はここで一体何を? き、君は、君は何者・・・?」

酷(ひど)く取り乱して、畳み掛けるように男が娘に聞いた。

「落ち着くのじゃ、人間!! そう案ずるな。 怪しい者ではない。 それに、まだ無理をしてはならぬ」

抜けるように真っ白な手で軽く肩を抑えられ、透き通るような美しい声で娘に諭(さと)され、男は少し落ち着きを取り戻した。
体の力を抜き、男は目の前にいる娘の顔を見ようと意識した。

そして見た!!

否、見つめた!!

と言った方が正しかった。
その瞬間、

『ハッ!?』

再び男は驚いた。
否、
息を呑んだ。
男はこう思ったのだ。

『ナ、ナント美しい!?』

と。

「まだ、無理はいかん」

男が落ち着きを取り戻したのを見定めて、娘が言った。
その顔は少しはにかむように微笑(ほほえ)んでいた。
その笑顔が魅力的だった。

「スゥ~~~。 フゥ~~~」

なるべく痛みを感じないように注意しながら男は一度、大きく息を吸い、そして吐いた。
それから娘に聞いた。

「ここはどこだ? 一体・・俺は・・ここで・・何を?」

にっこり笑って娘が応えた。

「ここは神殿。 神界の女王ヘラの神殿。 ソナタは酷い傷を負(お)ぅて倒れたのじゃ。 ポセイドンのトライデントでのぅ。 それを女王ヘラがここまで運んだのじゃ。 ここはそのヘラの寝室。 男は大神ゼウス以外、決して入る事の許されぬヘラの寝室。 じゃが、初めてじゃ、ヘラがゼウス以外の男をここに引き入れたのは。 ましてそれが人間のソナタとは・・・のぅ。 それにソナタは今日まで7日間も意識がなかったのじゃ。 きっとその腕が馴染むまで、その位の日数が必要だったのであろう」

娘は男の左腕を指差してそう言った。
その男の左腕には、厳重に包帯が巻かれていた。

『ハッ!?』

男がそれに気付いた。
右手で左腕を触ってみた。
だが、
指が・・全身の感覚が・・麻痺していて全く分からなかった。

「まだ、動くな」

男をそうたしなめながら、娘は男にこう話し掛けていた。

「ソナタの怪我は大変なもの。 良くぞ死ななんだ・・・」

「・・・」

男はそれを黙ってジッと聞いていた。
というより言葉が出せなかった。
聞きながら何があったのかを必死に思い出そうとしていたのだ。
だが、
それは無理だった。
まだここ数日間の記憶がハッキリしないのだ。
しかし男はもう落ち着きを取り戻していた。

きっと、その娘がそうしてくれていたのであろう。
解熱のため、額(ひたい)の上に手ぬぐいが置かれていた。
そして、その置かれた手ぬぐいを替えてくれる娘の仕種を見つめていた。
決して身分卑しからぬと思われる高価そうな純白の内衣キトンとその上に着る外衣ヒマティオンに身を包み、小首を傾(かし)げ、無駄のない動きで、枕もとに置かれた手桶(ておけ)の水で手ぬぐいを洗うその娘の仕種がなんとも言えず優雅だった。

娘は、年の頃なら18才位だろうか。
まだあどけなさが残ってはいるが、上品で美しく真のシッカリした顔立ちだった。
体は細身で、長身。
手足が長い。

その上・・・更に・・・加えて・・・えぇチチじゃ~~~!!
着物の上からチラッと見ただけでも、コメカミに思いっきり力を込めてハッキリそうだと断言出来るほどじゃーーー!!
牛チチじゃー! 牛チチじゃー! 牛チチじゃーーー!!

肌の色は、着ている純白の衣よりも更に白く、まるで抜けるように真っ白。
それが腰まで届くほど長く艶やかで豊かな黒髪に、より一層引き立てられている。

娘が洗ったばかりの手ぬぐいを男の額に乗せようとした時、二人の目が合った。
全くそんなつもりはなかったのだが、思わずボソッと男の口から言葉が漏れた。

こぅ・・・

「ナント、美しい!?」

と。

娘はポッと顔を赤らめ、一瞬手を止め、そして言った。

「そのように見つめられると恥ずかしいではないか」

「あ!? ぁ、いや!? こ、こ、これは済まん」

男はチョッと慌てた。
一呼吸置いた。
そのまま娘が額の上に手ぬぐいを置いてくれるのを見ていた。
それから続けた。

「美しき人よ。 君の名は? 君の名は何という?」

娘は言った。

「マァ!?」

と一言。
そしてチョッと間(ま)を取り、少しはにかみながら続けた。

「ソナタは聞いてばかりじゃ。 自分の事は何も・・・」

その言葉を聞いて再び男は慌てた。

「そ、そうだった、そうだった。 も、物には順序があったな」

こう自分に言い聞かせるように言ってから、続けた。

「先ず、助けてもらい、礼を言う。 このような親切、心より有り難く思う。 俺の名は不良・・・不良孔雀」

そぅ・・・

その男、それは不良孔雀だった。
ポセイドンのトライデントで左腕を失ったあの不良孔雀だった。
その不良孔雀が続けた。

「予想外の出来事で、このような親切を受ける事になった。 残念ながらまだ体の自由が利かない。 ・・・ 」

不良はここで一旦言葉を切った。
呼吸を整え、それからこう言い加えた。

「で。 君の名は? 君の名は何と? 何という? 教えて欲しい?」

娘は改めてその大きく円(つぶ)らな瞳で不良の眼(め)を見つめた。


(ドキ!!)

(ドキ!!)


この瞬間、
二人の間に何かが走った。

何かが・・・。

衝撃!?

電流のような衝撃が!?

それは一瞬にして二人の全身を駆け抜けた。
それも二人同時に。
そして、期待と興奮と不安・・・
の!?
入り混じった複雑な思いを素直に表した目で自分を見つめている不良の眼(め)をジッと見つめ、娘はこう名乗った。

「セレーネじゃ」










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と。











つづく







タイタン2011 #75

#75




「ゥ、ゥ~ン!?」

一言軽く唸って、静かに男が目を明けた。

男は・・・

目が霞(かす)んで前がハッキリとは見えずボンヤリとしている。
目の焦点も合わせられない。
頭の中がボーっとしている。

部屋は左程(さほど)明るくはなかった。
しかし暗くもなかった。
まだ、意識がハッキリしない。
再び目を閉じた。
別に眠るためではなかった。
目を開けているのが辛かっただけだ。
そのまま何も考えずにボーっとしていた。
夢と現実を行ったり来たりしている、そんな感じだった。
暫(しばら)くそのままでいると、音がしている事に気が付いた。
その音に注意を払った。


(ケォーン、ケォーン、ケォーン、ケォーン、ケォーン、・・・)


何かの鳴き声のようだった。 (これはクジャクの鳴き声である : コマル)

『鳥か?』

男は思った。
そして、


(ケォーン、ケォーン、ケォーン、ケォーン、ケォーン、・・・)


何も考えずにその音を聞いていた。
相変わらず頭の中がボーっとしていて、何も考えられないのだ。
全身の感覚が麻痺しているようだった。
まるで雲の上にでも寝ているような、そしてそのまま虚空を漂(ただよ)ってでもいるかのような、全くの無感覚。
ただ、
鳥の鳴き声のような音だけが耳の奥で反響しているだけだった。
男は暫(しばら)くジッとその音に耳を傾けていた。
すると、


(ポッ!!)


突然、体の中で何かが弾(はじ)けた。
それに同期し、


(ビクッ!!)


体が痙攣(けいれん)した。
それは、それまで遠~くに置いてあった自分の意識が瞬時に戻って来て、いきなり体の中に飛び込んだ。
そんな感覚だった。


(ゾヮゾヮゾヮゾヮゾヮ・・・)


全身の血が、一気に逆流するのを覚えた。
それと共に体温の急上昇も・・・

再び男は目を明けた。
意識は完全に、とは言わないまでもある程度戻っていた。
とは言っても、思考能力は依然として停止したままだったのだが。

目の前は先ほど同様ボンヤリしていてハッキリとは見えない。
明かりが感じられたのでどうやら辺りは暗くはないらしい。
瞬(まばた)きは何度かしたが、目は閉じなかった。
しかし、
徐々に目の焦点を合わせられるようになって来た。
それは丁度、一眼レフカメラの望遠レンズの焦点がユ~~~ックリと合う感覚に似ていた。
終に、焦点が合った。

瞬間・・・

それまで思考が停止していたのが嘘のように一気に記憶が甦(よみがえ)って来た。
まるで真夏の夕立。
いきなり降り出す雷雨のように。

『ハッ!?』

男は素早く目を明けた。
起き上がろうとした。


(ズキッ!!)


全身に激痛が走った。

「ウッ!?」

あまりの痛さに起き上がるどころか動く事さえ出来なかった。

『クッ!? な、何がどうなっているんだ? ・・・。 こ、ここは? ここは一体?』

男は部屋の中を見回すため頭を動かそうとした。
だが、
又しても、


(ズキッ!!)


痛みが走って、

「ウッ!?」

僅かにしか動かせない。
仕方がないので見える範囲でチェックした。

自分は今、どうやらベッドに寝ているようだ。
しかしその大きさは半端じゃない。
寝ている自分が、まるでガリバーのベッドに寝ている小人のようだ。
否、
これは少々、大げさか?
『ガリバーのベッドに寝ている中人のようだ』
と言い換えよう。

更に、動かせる範囲で顔と目を動かしてみた。

建物は全て石造りのようだった。
種類は良く分からないが、恐らく大理石であろう。
天井はどこまでも高く真っ白で、豪華な絵画が描かれている。
画題は、女神とそれを取り巻くニンフ達といった感じだ。
壁も天上同様、どこまでも広く真っ白だった。
当然、そこにも同じような壁画が描かれている。
ゴシック様式の巨大な石柱が何本か見えた。
やはり純白色の。
だが、この状態では床の色までは分からなかった。

他に見えた物と言えば、
ベッドを仕切る淡いピンクの、豪華だが同時に清楚でもあるカーテン。
素材は絹か?
実に上品だ。
それにどこからか分らないが差し込んで来る日差し。
その日差しはかなり強そうに思えた。
それをその豪華で清楚な感じの絹製と思われるピンクのカーテンが適度に和らげている。
部屋の広さは一体どの位あるのか?
目視(もくし)だけではとてもではないが、ハッキリした広さまでは分からなかった。

『ここは一体・・・・・・?』

男は再びそう思った。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #74

#74




「何と凛々(りり)しい!?」

月神(げっしん)セレーネが呟いた。

ここは神界の女王ヘラの神殿。
そこに一人の人間の男が眠っている。
その男は深く傷付いていた。
左腕がだ。
そして、セレーネがその男の傍(かたわ)らに寄り添って看病している。
セレーネとは、月の女神であると同時にオリンポスの十二神・・即ち、オリンポスの最高神・・の内の一神にその名を連ねるアルテミスの別名であり、又、この月の女神アルテミスは闇の魔神(ましん)、あの魔女ヘカテと表裏の関係にある。
つまり月の女神アルテミスは、時に月神セレーネに、時に闇の魔神ヘカテにと、三通りにその姿を変えるのである。
勿論、この三神の本体はアルテミスであるのは言うまでもない。
又、月の女神アルテミスは神々の中で最も美しいと言われており、やはりオリンポス十二神の内の一神で太陽神である、あのアポロンの双子の妹でもある。
因(ちな)みにこの太陽神アポロンは、 『フォエボス・アポロン(光り輝くアポロン)』 と賞賛されるほど美しい・・・らすい。。。(ウリはアポロンに会った事ないんで、真偽のほどは知らん。 ヶど、もしかすっと、ウリと同レベルの美しさかも知れん・・・ナンチッテ。 かかかかか。。。 : コマル)
そのアルテミスでありセレーネである月の女神が、その男の寝顔を慈愛のこもった眼差(まなざ)しで繁々と見つめている。
若干、顔を紅潮させながら。
どうやらその男が気に入っているようだ。
思わずセレーネの口から詩が溢れ出した。


こんな詩が・・・


 傷つき倒れた不良孔雀が

 神々の女王の寝台にその身を横たえている時

 月神セレーネが

 彼を見て 恋をして 降り立った

 オリンポスの神座より 女王ヘレの神殿に至り

 彼(か)の者に口づけをして 傍らに身を横たえる

 祝福されたその青年は

 身動(みじろ)ぎもせず 寝返りも打たず

 永久(とわ)にまどろまん

 傷つき倒れた不良孔雀は・・・


と。

そぅ・・・

その深く傷付き、神界の女王ヘラの神殿で寝ていた男・・・

それは・・・

不良孔雀であった。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #73

#73




「ゥ、ゥ~ン」

軽~い呻き声がした。
女の声だった。

『ん!?』

外道がそれに気付き、声のした方を見た。
ここは不良の診察室。
そこでは雪が眠っている。
その声は、雪の眠っている隣りのベッドから聞こえた。
つまり暗燈篭 芽枝(あんどうろう・めえだ)のベッドからだ。
という事は、意識が戻ったのだ、暗燈篭 芽枝の。
外道が芽枝の枕元に近付いた。
芽枝は目を明けていた。
外道の姿が目に入った。

瞬間、

『ハッ!?』

芽枝は驚いた。
顔が引き攣った。
無理もない。
自分が今どういう状況なのか全く分らない上に、突然、見た事もないむさ苦しい中年のオスが目の前に現れたのだから。
しかも自分はベッドに寝ている。
相手は上から見下ろしている。
逃げるに逃げられない。
だから当然、パニックだ。
体もガタガタ震えている。

その恐怖感丸出しで自分を見つめている芽枝に、

「目が覚めたか?」

外道が優しく声を掛けた・・・つもりだった。

が!?

芽枝にしてみれば恐ろしいだけだった。


( gkbr gkbr gkbr gkbr gkbr ・・・)


恐怖で顔を引き攣らせ、怯えて震えてチョビッとチビッている・・かも知れない・・芽枝に再び外道が声を掛けた。

「そ、そんなに怖がるんじゃねぇ」

って。

でも~
その結果は~
益々怖がらせた~
だけだった。

『ヤ、ヤベッ!?』

焦る外道。
愚かにも、更に追い討ちを掛けちゃった。

「だ、だからぁ。 そ、そんなに怖がるんじゃねぇってばよー」

言えば言うほど、より一層怯える芽枝。
状況は悪化する一方だ。
外道が何を言おうと今の芽枝にしてみれば、一度味わった恐怖を増長するだけだった。

だが、

ここで外道が思わぬ行動に出た。


(パシン!!)


手を打ったのだ。
寝ている芽枝の鼻先三寸で。

『ハッ!?』

一瞬、芽枝の思考が止まった。
勿論、驚きで。
その瞬間を外道がとらえた。

「俺の名は破瑠魔外道。 お前を守っていた」

「!?」

「お前は意識不明だったんだよ、今まで。 それを俺とコイツが守っていたんだ」

そう言って、


(クィッ!!)


顎をしゃくって雪を指し示した。

「ん!?」

外道のその顎の動きに釣られ、芽枝が首をひねって隣りのベッドに目をやった。
そこに、眠っている雪の姿を見た。
その場に他にも人がいる事を知り、その安心感からか芽枝の顔から恐怖と緊張感が取れ、ホッとした様子を見せた。
その瞬間、

『ハッ!?』

我に返った。
そして、

「アタシアタシ・・・」

何かを喋ろうとした。
しかし、三日間も意識がなかったため殆(ほと)んど声が出ない上に、上手く考えをまとめる事が出来なかった。

「落ち着け! 無理をするな!! 深呼吸してみろ。 落ち着いたら俺の方から事情を説明してやる」

外道が口早に、ピシャっと言い放った。
これで芽枝が落ち着いた。


(コクッ)


会釈でそれを外道に告げた。

「ウム」

外道が頷いた。
そして・・・全てを語った。
これまでの経緯(いきさつ)・・・その全てを。

当然・・・










不良の事も。











つづく







タイタン2011 #72

#72




外道は考えていた。

『お嬢・・・。 お嬢・・・かぁ。 お嬢・・・な。 雪をヘカテが・・・。 あのヘカテが雪を “お嬢” と・・・。 ウ~ム』

雪の話を聞き、外道は不良の心配は余所(よそ)に、話のその部分に引っ掛かっていたのだ。
その雪はといえば疲労のためベッドで眠っていた。
暗燈篭 芽枝(あんどうろう・めいだ)の寝ている隣りのベッドで。
不良救出の行き帰りでエネルギーを使い果たしていたのだ。

ここは不良の診察室である。

『ウ~ム』

相変わらず外道が考え込んでいる。

その時、


(ブルッ!!)


一瞬、雪の体が震えた。
そして、

『ハッ!?』

雪が目を覚ました。
同時に、

「おじちゃん! 死んでない!!」

叫んだ。
その言葉に反応し、


(クルッ!!)


外道が振り返って雪を見た。

「ん!? どうした?」

「不良のおじちゃん、死んでないよ。 誰かが助けた」

「本当か!?」

「うん。 今、アタシ、それ感じた」

「そうかぁ、それは良かった」

「うん」

「でも、誰が助けた?」

「分んない」

「そうかぁ」

「ヶど、女の人だよ。 おじちゃん助けたの」

「ん!? 女の人?」

「うん。 とっても奇麗な人」

「ホゥ~? ・・・」

外道はこの不良を助けたという女に興味を持った。
勿論、スケベな外道の事ゆえ興味を持ったのは、当然、雪の言った・・『とっても奇麗な人』・・この部分であるのは言うまでもない。

「とっても奇麗な人だよ、おじちゃん助けたの」

「そんなに奇麗か?」

「うん」

「お前と比べてどうだ?」

「うん。 全然奇麗だよ。 雪よっか、ズッと・・・。 人間じゃないみたいに」

「フ~ン。 そうかぁ・・・。 雪より綺麗・・・。 そんなに奇麗かぁ・・・」

ちょびっと不良が羨ましい外道であった。

(コイツ・・ホントに・・外道だ!! : コマル)

ここで、雪がベッドから起き上がろうとした。
しかし、力が入らなかった。

「まだ無理をするな。 もう少し寝ていろ」

「うん」

外道が雪のベッドに近付いた。
雪の肩に掛け布団を掛け直しながら雪の眼(め)を見つめ、外道が聞いた。

「もう一度聞く、ヘカテはどんなヤツだった?」

「お婆ちゃんだったよ。 眼(め)にスッゴク力のある」

「そうかぁ」

「でね。 雪の事知ってたよ、ヘカテ」

「・・・」

「雪の事、お嬢だってさ。 そう呼んだよ」

「お前は? お前は知ってたのか、ヘカテを?」

「うぅん、全然。 全然知ってないよ」

「なのにヘカテは知っていた」

「うん」

「そうかぁ。 ま、いっか。 お前はもう少し眠れ。 今は不良を待つしかない。 だからもう少し眠っておけ。 この先何が起こるか分らんしな」

「うん」

雪は目を瞑った。
そのまま、


(スゥ~)


再び、深い眠りについた。
まだまだ体力は回復してはいないのだ。
その余りに早い眠りに少し外道は驚いた。
そして、


(ジィー)


雪の寝顔を見つめていた。
こんな事を呟きながら。

「ヘカテか・・・。 少し調べてみる必要があるな」

と。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #71

#71




羽・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・羽だった。

孔雀の羽だった。
それは孔雀の羽だった、ポセイドンのトライデントの切先に刺さっていた物は。
勿論、ヘラの放った。
孔雀はヘラの寵愛厚き鳥である。
ヘラはこの孔雀の羽を投げ、ポセイドンのトライデントの軌道を若干逸(そ)らせたのだ。
不良の命を救うために。
もっとも、トライデントの威力が余りにも凄まじかったため、残念ながら軌道を逸らせ切れずに不良は左腕を失ってしまったのだが。
それでも一命は取り止めた。
そしてこの羽はヘラの御神鳥の孔雀の羽ゆえ、ヘラ以外の者には扱えないのだ。
例えポセイドンといえどもだ。
その孔雀の羽が、


(クィッ!!)


ヘラが右手人差し指で引っ張る仕種をした事により、


(フヮッ)


ヘラの手に戻って来たのだった。
その羽を右手親指と人差し指でつまみ、もう一度、帰り行くポセイドンの後ろ姿に向かって、

「ご苦労じゃったな、ポセイドン」

ヘラが声を掛けた。
嫌味た~~~っぷりに。
それに対し、ポセイドンが振り向く事なく、

「フン」

小バカにするように鼻で笑った。
気まずさを隠すためにだった。
そして、


(スゥ~)


その場から消え去った。
アイオロスと共に。

その時・・・


(ガクッ!!)


不良の膝が折れた。
最早、不良は過度の緊張と疲労、そして出血多量で限界だったのだ。
そして意識が遠退(とおの)き、体勢を立て直す事も出来ず、そのまま海上に落下し掛かった。
透かさず、


(スッ!!)


ヘラが不良に近寄り、
素早く、


(ガシッ!!)


抱き止めた。

「人間!! シッカリせよ。 シッカリするのじゃ」

不良に声を掛けた。
瞑(つぶ)り掛けていた眼(まなこ)を僅(わず)かに明け、

「・・・」

不良が何かを言おうとした。
だが、声にならなかった。

「良ぅやった。 見事じゃったぞ、不良孔雀」

「ん!? どうして俺の名を?」

殆んど聞き取れないほど小さな声で不良が聞いた。
しかし、その答えを聞く前にそのまま気を失った。
それでも、その薄れ行く意識の中で不良は見ていた。
否、
見たような気がした。
目の前にいる女神ヘラの姿が一瞬、年老いた老婆の姿に変わったのを。

あの時・・初めてこの地にジャンプしてきた時・・アナウロス川で出会った・・・










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あの老婆の姿に。











つづく







タイタン2011 #70

#70




「そうはさせないよ!!」

声がした。
天上から。
それは・・・女性の声だった。
それも、不良がかつて聞いた事もないほど澄んで美しい女性の声が、天上から確かに。

「そうはさせないよ!!」

と。

その声を聞き、

『ん!?』

ポセイドンが投擲の手を止めた。

突然、


(スゥ~)


一人の女性が不良とポセイドンの間に姿を現した。
当然、空中浮遊だ。
その姿を見て、

『ハッ!?』

不良が息を呑んだ。
素晴らしい美人だったからだ。
その突然現れた女性が声同様、かつて見た事もないほど見目麗(みめ・うるわ)しく、美しかったからだ。

するとポセイドンが意外だという表情をして、

「ヘラ!?」

その女性の名を呼んだ。
同時に、

「ヘラ様!?」

アイオロスもその女性の名を呼んでいた。
ポセイドンもアイオロスも突然のヘラの出現が理解出来なかったのだ。

そぅ・・・

その見目麗しき女性は、大帝ゼウスの姉であり妻である神々の女王ヘラだったのだ。
当然、オリンポス十二神の内の一神である。

そのヘラが口を開いた。

「ポセイドン。 この人間を殺す事は、罷(まか)りならぬ。 ワラワがそれを許さぬ」

それを聞き、

「フン。 ソナタごときの出る幕ではないゎ」

ポセイドンが言い返した。

「いぃや、出る幕じゃ。 もう既に出ておるのじゃからな」

「なーに~?」

「見よ! ポセイドン!! ソチの、その自慢のトライデントの切先(きっさき)を」

「・・・」

無言でポセイドンが、言われるまま手にしているトライデントの切先を見た。
その先端部分に何かが刺さっていた。
へラにそう言われるまで気付かなかったが、確かに何かが刺さっていた。

『ハッ!?』

ポセイドンは驚いた。

「こ、これは・・・」

その何かを繁々と見つめながらそう呟いた。
更に続けた。

「この様な物がいつの間に・・・。 ウ~ム。 これはソナタが?」

「そうじゃ、ワラワじゃ。 それはワラワがやった事」

「そうかぁ、これかぁ・・・。 これが原因でアヤツを仕留めそこのぅたのか」

「その通りじゃ。 驚いたか、ポセイドン?」

「クッ!? ふざけたマネをしくさってー!! 退(ど)け! ヘラ!! そこを退くのじゃ!!」

「いぃや、退かぬ!!」

「これ以上の邪魔立ては許さぬ。 退け!!」

「いぃや、退かぬ!!」

「ならばソチごとー!!」

ポセイドンが再度、投擲の構えに入った。
そのトライデントを受け流すため、ヘラも身構えた。
一触即発だ。

そこへ、

「ポ、ポセイドン様!! お、お止め下さい!!」

アイオロスが割って入った。

「ヘ、ヘラ様も!! どうかヘラ様もお退(ひ)き下さい!!」

ヘラに対しても仲裁に。
再び、ポセイドンに。

「ポセイドン様。 残念ながら我々は負けたのです」

「なーに~、負けた~? 負けただと~?」
 
「あ!? あぁ、いえ!? こ、言葉が過ぎました。 我等の思い通りには事が運ばなかったのです。 そうですポセイドン様、我等の思い通りには事が運ばなかったのです。 宜しいでしょうかポセイドン様。 いかにヘラ様が手を貸したとはいえ、あの人間が、我等はおろかオリンポス十二神を、否、大神ゼウスをもってしても覆せぬ運命の予言を覆したのは曲げようもない事実。 これは尋常(じんじょう)ならぬ出来事。 いかにビッグ・スリーの内の一神、ポセイドン様といえどもそれはお認めにならねばなりません。 この上は、ヘラ様の申される通りこの場をお納めになるのが賢明かと・・・」

「・・・」

ポセイドンは黙った。
そのポセイドンに、

「いかが致すのじゃ、ポセイドン? まだワラワと戦(たたこ)ぅつもりか?」

ヘラが高飛車に聞いた。
それに対し、

「ヘ、ヘラ様もそのように挑発なさりますな」

アイオロスが今度はヘラを諌めた。

「それはポセイドン次第じゃ」

ヘラが言い返した。
これを聞き、

「ヘラよ、ナゼその人間にそれほど執着するのだ?」

ポセイドンが気持ちを切り替えて問い質(ただ)した。

「それはこの者が・・・」

こう言い掛けて、


(チラッ)


ヘラが不良を見た。
そして言い直した。

「この人間に興味があるからじゃ」

「興味!? 興味だとー!?」

「あぁ、そうじゃ。 興味じゃ」

「興味か・・・。 興味な・・・。 フン。 勝手にするが良い」

ここまでヘラに言ってから、


(ギロッ!!)


ポセイドンが不良に鋭い一瞥をくれた。
そして、

「人間!! 命拾いしたな」

この言葉を吐き捨てた。
それからアイオロスに、

「帰るぞ、アイオロス」

そう言って、


(ガチャン!!)


ゴールデン・チャリオットの向きを変えた。
海馬に入れようとムチを持つ右腕を振り上げた。

その時、

「待て! ポセイドン!!」

ヘラが呼び止めた。

「ん!? 何だ? まだ何か用があるのか?」

手を止め、ポセイドンが振り返って聞いた。

「そのままではそれは使い辛いであろう」

そう言ってヘラが右手人差し指で一旦、ポセイドンが左手でつかんでいるトライデントの切先を指差し、それからその人差し指をカギ状に曲げ、


(クィッ!!)


何かを引っ張るような仕種をした。

そぅ・・・

何かを引っ張るような・・・










・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・仕種を。











つづく







タイタン2011 #69

#69




「・・・ハァハァハァハァハァ。 見ろ! ポセイドン!! ティアマトの右目を!! ハァハァハァハァハァ・・・」

不良が強い口調で言った。

「ん!? なーに~? 右目~? ティアマトの右目だと~?」

そう言ってポセイドンが、


(チラッ)


ティアマトの右目を見た。

『ヌッ!?』

ポセイドンが目を見張った。
そして、

「こ、これは何とした事!?」

驚いた。

ナゼなら、ティアマトの右目が開(ひら)いていたからだ。
当然、左目も。
つまりティアマトは、


(クヮッ!!)


両目を見開いたまま石化していたのだ。

「アイオロス!? アイオロスはおるか~!?」

辺りを見回しながらポセイドンが叫んだ。

「ハッ!! ここに」

いつの間にかポセイドンの傍(かたわ)らに控えていたアイオロスが答えた。

「あ、あれは・・・。 あれは一体、どうした事じゃ?」

ポセイドンが聞いた。

「ハッ!! わたくしめにも皆目・・・。 間違いなく、わが風はメドゥーサ・ルックの直前にティアマトめの目をとらえたはず・・・。 しかし、ヤツは眼(まなこ)を閉じては・・・。 ウ~ム。 分りませぬ」

アイオロスが答えた。
この返答を聞き、ポセイドンは改めて不良を直視し、

「人間!! 貴様、一体何をした?」

不良に問い掛けた。

「・・・ハァハァハァハァハァ。 右目だ!! ティアマトの右目を良~く見てみろ、ポセイドン。 ティアマトの右目をな。 良~く。 ハァハァハァハァハァ・・・」

出血を押さえるため、斬られた左上腕の少し上を右手で強くつかみ、その腕の痛みを必死で堪(こら)え、顔を歪めながら不良が言い返した。

「・・・」

黙って、ポセイドンが改めてティアマトの右目を注視した。
そして、

「ん!? 何だあれは?」

呟(つぶや)いた。

「ん!? あれは一体・・・」

アイオロスも呟いていた。

瞬間、

「あ!?」

「あ!?」

ポセイドンとアイオロスが殆んど同時に驚きの声を上げた。
ポセイドンもアイオロスも気付いたのだ。
ティアマトの右目・・ティアマトの大きな右目・・その瞼(まぶた)に何か棒のような物が支(つか)えているのを。
それは金属の棒のようだった。
そのため、ティアマトは右目を瞑(つぶ)りたくても瞑れなかったのだ。
だから両目を明けたまま、メドゥーサ・ルックをまともに喰らっていたのだった。

そしてその意味を理解したポセイドンが、

「あれはソチの例のあの棒か?」

そう言って、不良にその金属の棒の正体を確認した。

「・・・ハァハァハァハァハァ。 あぁ、そうだ。 あれは俺の棒だ。 アンタの攻撃を受ける前に、ティアマトの瞼(まぶた)を支えるために投げ付けたんだ。 目を瞑(つぶ)らせないためにな。 そして狙い通り正確にヤツの瞼をとらえ、支えたって訳だ。 ハァハァハァハァハァ・・・」

「・・・」

ポセイドンは黙っていた。

「・・・」

それはアイオロスも同じだった。

「ハァハァハァハァハァ・・・」

暫し、その場には不良の激しい息遣いが聞こえているだけだった。
風も全く吹いてはいなかった。

「ハァハァハァハァハァ・・・」

その不良の激しい息遣いだけが聞こえる中、

「フフフフフフフフフフ・・・」

突然、ポセイドンが笑い出した。

「ハァハァハァハァハァ・・・」

その笑いの意味が分らず不良は黙っていた。
ただ、苦しい息遣いをしているだけだった。

「・・・」

アイオロスも又、黙っていた。

「・・・フフフフフフフフフフ。 気に入った。 気に入ったぞ、人間!?」

一渡(わた)り笑い終えてから、ポセイドンが言った。
更に続けた。

「余の邪魔をしたのみならず、我等オリンポス十二神をもってしても覆せぬ運命の予言を覆すとは・・・。 大したヤツ。 褒めてつかわす」

と。

「・・・ハァハァハァハァハァ。 そいつぁ、光栄だ。 アンタに褒められるとはな。 ハァハァハァハァハァ・・・」

不良が言い返した。

「だから・・・」

ポセイドンが言った。

「・・・ハァハァハァハァハァ。 だから? ハァハァハァハァハァ・・・」

不良が聞き返した。


(ニヤッ)


ポセイドンが含み笑いをした。
一息入れた。
そしてこう言い切った。

「殺す!?」

同時に、
いつの間にか手元に戻って来ていたトライデントをポセイドンが担ぎ上げ、投擲(とうてき)の構えに入った。
念で引っ張り戻していたのだ。

ポセイドンが全身に力を込め、胸を張り、トライデントをつかんでいる右腕を大きく後ろに引き、叫んだ。

「死ねーーー!!」

と、再び。










だが・・・











つづく







タイタン2011 #68

#68




「ティ、ティアマト!? あ、あれは・・・ティアマト!?」

ポセイドンが驚きの声を上げた。

それは・・・

ティアマトだった。
今、不良が指差したのは。
しかも、既に全身石と化したティアマトだったのだ、今、不良が指差したのは。
気付かぬ内にポセイドンはペルセウスとティアマトの戦っている場所まで来ていたのだった。
巧みに不良に誘導されて。

そぅ・・・

不良に巧みに誘導されて、ポセイドンはそうとは気付かぬ内にペルセウスとティアマトの戦っている場所まで来ていたのだった。
実は、不良はポセイドンから逃げてはいなかったのだ。
否、
逃げてはいた。
それは間違いない。
しかし、ただ逃げていた訳ではなかった。
チャーンと計算した上で不良はポセイドンから逃げていたのだ。
つまりこの場所。
ペルセウスとティアマトの戦っているこの場所。
ここまで。

最初・・・

不良はティアマトに対するペルセウスのメドゥーサ・ルックを完了させるため、風の神アイオロスを足止めするつもりでいた。
そしてアイオロスの前に立ちはだかり、相対峙していた。
だが、そこにポセイドンが現れた。
アイオロスの邪魔をしている不良の邪魔をして、アイオロスを行かせるためにだ。
この想定外のポセイドンの出現に不良は焦った。
ナゼなら、これは全くの計算外だったからだ。
足止めするつもりが逆にされてしまうという事は、全くの計算外だったからだ。
不良には一刻の猶予もない。
すぐにでもアイオロスを追わねばならない。
そのためにはポセイドンを何とかせねばならない。
しかし、戦って勝てるような相手ではない。
そうしている間も、アイオロスとの距離は離れる一方。
しかも時は空しく過ぎ去って行く。

そこでポセイドンと対峙する中、戦いの天才である不良は一計を案じたのだ。

『戦わずして・・・勝つ!!』

そのための一計を。

そしてその一計とは・・・颶風(ぐふう)。
颶風だったのだ。
颶風を利用する事だったのだ、不良の狙いは。
即ち、

『ポセイドンのトライデントの引き起こす颶風を利用する』

これが不良の案じた一計だったのだ。

先ほど、不良はこう考えていた。

『ダ、ダメだ!? 早くアイオロスに追いつかねば!! それにはどうすれば・・・。 あ!? そうだ! アレだ!! アレだアレ!! あの颶風だ!! アレに上手く乗れれば・・・』

そう不良は考えていたのだ、先ほど。
言葉ではなく感覚で。
不良の持つ天性の、且、磨き上げ研ぎ澄まされた感覚で。

そしてこれ以外にあの時の不良に残された手段はなかった。
そこで不良はキチンと方角を見定めた上で、ポセイドンにリクエストしたのだ、颶風を。
そうとは知らず、短慮なポセイドンは良く考えもせず不良の求めに応じ颶風を起してしまった。
不良は知っていたのだ。
直情径行でガサツなポセイドンのこの性格を。(神なのに・・・)

そして颶風が起こると即座に不良は行動を起した。
その颶風に乗ったのだ。
それも狙い通り凄く上手(じょうず)に。
しかし、すぐにポセイドンのゴールデン・チャリオットに追い付かれた。
だが、それは承知の上だった。
それでも一か八かの賭けに不良は出るしかなかった。
これ以外に打つ手を持たなかったからだ。
だが、それで正解だった。
事実、不良は計画通りにアイオロスが風を起す前に目的の場所。
即ち、ペルセウスとティアマトが戦っている場所に。
しかも、まさにメドゥーサ・ルックが起こる直前に、その場所に着く事が出来たのだから。
もっとも、ホンの一瞬の差ではあったのだが。










そして・・・











つづく







タイタン2011 #67

#67




「クッ!?」

ポセイドンが唸った。
そして呟(つぶや)いた。

「バ、バカな・・・。 こ、こんな事が・・・。 こんな事がこんな事が・・・。 有り得ん!? 有り得ん有り得ん有り得ん!? 絶対! 有り得ん!? こ、こんな事が!? こんな事があろう訳がない!?」

と、酷く取り乱して。

ポセイドンの額(ひたい)からは、


(タラ~)


大粒の汗が滴(したた)り落ちている。
それが豊かな紺黒の髭の中に吸い込まれて行く。

顔色が真っ青だ。
ポセイドンの顔色が真っ青だ。
しかも、ジッと不良を見つめながらまだ何にやらブツブツ呟いている。

「絶対に外れぬ我がトライデントが・・・。 決して覆(くつがえ)す事の出来ぬ魔女の予言が・・・。 外れたというのか? それともコヤツが外したのか? ウ~ム」

一方、

不良はと言えば、

「ハァハァハァハァハァ・・・」

呼吸が荒い。
だが、間違いなく生きている。
その不良が、


(クルッ!!)


体の向きを変えた。
海馬をトロット( trot = 速足)させ、近付いて来ていたポセイドンに相対峙した。
その距離5メートル。

(キッ!!)


ポセイドンを睨み付けた。
そして、

「・・・ハァハァハァハァハァ。 勝った!? ハァハァハァハァハァ。 ざまぁ見ろ! 神に一泡吹かせてやったぞ!! ハァハァハァハァハァ・・・」

キッパリとそう言い切った。
これを聞き、


(ピキッ!!)


ポセイドンが切れた。

「なーに~? 勝った~? 勝っただと~?」

「・・・ハァハァハァハァハァ。 あぁ、勝った。 俺の勝ちだ、ポセイドン。 ハァハァハァハァハァ・・・」

「な、な、生意気なー!! 生意気な生意気な生意気なー!! 人間ごときがー!! カスのクセに、クズのクセに、ゴミのクセにー!! この余に勝っただとー?」

「・・・ハァハァハァハァハァ。 あぁ、そうだ!! アンタはカス、クズ、ゴミのこの俺に・・・。 生意気な人間ごときのこの俺に・・・。 負けたんだ!! ざまぁ見ろ。 ハァハァハァハァハァ・・・」

「ふ、ふ、ふ、ふざけるなー!!」

怒り心頭に発するポセイドン。
顔が真っ赤だ。


(プルプルプルプルプル・・・)


怒りで体が震えている。
そんなポセイドンに、

「・・・ハァハァハァハァハァ。 見ろ! ポセイドン!! ハァハァハァハァハァ・・・」

そう言って不良が、


(サッ!!)


遥か下の海面を右手人差し指で指差した。

「ん!?」

ポセイドンが不良が指差した所を見た。
そして、

『ヌッ!?』

驚いた。










そこには・・・











つづく







タイタン2011 #66

#66




(ポーーーン!!)


何かが宙に舞い上がった。
それとほぼ同時に、


(プッ、シューーー!!)


血だ!?

血が噴出(ふき)した。
凄まじい勢いで。
不良の体から。

終に、トライデントがとらえたのだ不良の体を。
という事は・・・貫いたのか不良の背中を?

しかし、


(ブォーーーン!! ザッ、パーーーン!!)


轟音を上げながらトライデントが海の中に突っ込んだ。
ポセイドンのトライデントだけが。
ポセイドンのトライデントだけが海の中に突っ込んだ。

ん!? 

ポセイドンのトライデントだけが海の中に突っ込んだ?
ならば・・・貫通したのか、不良の体を?
でなければ・・・不良も一緒のはず。

だが・・・

不良は宙に止まっている。
そして右手で左腕の肩の下辺りを抑えている。

「ハァハァハァハァハァ・・・」

酷く荒いが、確かに呼吸もしている。

不良は死んでない!?

なら、外れた・・・外れたのか?
一発必中の。
一度狙えば確実に的をとらえる、あのオリンポス最強の武器の一つポセイドンのトライデントが・・・外れたのか?
否、
それはない。
それはないはずだ。
そんな事は何があろうと起こり得えないはずだ。
もしそれが本当に起こったのなら、不良は運命の予言をも同時に覆(くつがえ)した事になる。
決して覆す事の出来ないあの運命の予言を。
神ですら決して覆す事の出来ないあの運命の予言を。
それをも不良は覆した事になる。

しかし、現実に不良は生きている。
チャーンと呼吸もしている。
つまりポセイドンのトライデントは外れたのだ。
間違いなく外れたのだ。
不良の体に当ってはいないのだ。

だが、変だ。
様子がおかしい。
不良の、今のその姿には何かが足りない。
しかも全身血塗れだ。

「ハァハァハァハァハァ・・・」

呼吸が荒いのも気になる。

今、不良は宙に止まったまま両足を大きく広げ、やや前傾姿勢を取り、右手で左腕の肩の下辺りを抑えている。
そしてそこから、


(ボタボタボタボタボタ・・・)


出血もしている。
それも激しく。

激しく出血しているぞー!?

不良の左腕から。

そして変だ!?
不良の左腕の様子が変だ!?

良~く見ると腕がない。

腕がないぞー!?

不良の左腕が、肩のすぐ下から。
あの何かが足りない・・・それは腕だ、不良の左腕だ!?

そぅ・・・

ポセイドンのトライデントは、不良の背中は確かに外した。
しかし、代わりに左腕をもぎ取ったのだった。

先ほど、


(ポーーーン!!)


何かが宙に舞い上がっていた。
その宙に舞い上がっていた何かとは・・・不良の左腕!?
あれは不良のもぎ取られた左腕だったのだ。

でも、ナゼ?
ナゼ、絶対に狙いを外さないはずのポセイドンのトライデントの狙いが外れたのか?

それに・・・

決して覆すことの出来ないはずの・・・

あの運命の予言が・・・

一体・・・










ナゼ?











つづく







タイタン2011 #65

#65




「死ねーーー!!」

ポセイドンが叫んだ。


(グォーーー!!)


凄まじい唸り音を上げ、不良の背後目掛けトライデントが飛んで来た。
ポセイドンの投げたトライデントが。
大神ゼウスの 『サンダーボルト=雷霆(らいてい)』、そのゼウスとポセイドンの兄であり冥界の主であるハデスの 『被ると姿の消える兜』 と並び、オリンポス最強の武器の一つ、あのポセイドンのトライデントが。
それは正確に不良の背中をとらえている。

そぅ・・・

終に、不良は追い付かれたのだ。
言葉巧みにポセイドンを欺き、トライデントによる颶風(ぐふう)を起させ、その颶風に乗ってポセイドンから上手く逃げたはずだったのだが。
流石、ポセイドン自慢の海馬。
神速で一気に不良の背後に迫っていた。
そして、ポセイドンが不良を射程内にとらえた。
勿論、射程内と言ってもそれはポセイドンの射程。
即ち、極大射程だ。

不良を自らの極大射程内に納め、ゴールデン・チャリオットを一旦停止し、ポセイドンが狙いを定めた。
目標は勿論、不良孔雀。

そして、

「死ねーーー!!」

この叫び声と共に一気にオリンポス最強の武器、ポセイドンのトライデントが投擲(とうてき)された。


(グォーーーン!!)


凄まじい唸り音を上げ、トライデントが飛ぶ。
正確に不良の背中目掛けて。
絶対に狙いを外さないポセイドンのトライデントが。

猛然と自らの背後に迫り来るポセイドンのトライデント。
その気配を感じ、

「クッ!?」

不良が唸った。
しかしその背中目掛け、


(グォーーー!!)


容赦なく迫り来るトライデント。
これを避ける事は絶対に出来ない。

危うし、不良孔雀!?
絶体絶命!?
予言の通りだ!?










だが・・・











つづく







タイタン2011 #64

#64




「ヌッ!?」

外道は驚いた。

突然、


(ピカッ!!)


目の前の空間が光ったからだ。

そして次の瞬間、


(ブォーーー!!)


凄まじいエネルギー波を感じた。

同時に、


(ヒューーー!!)


人が吹っ飛んで来た。
それは外道に向かって来たかと思うと、


(ドコッ!!)


強烈にぶつかり、


(ドサッ!! ドサッ!!)


二人共、床に打ち据えられるように転んだ。
即座に外道が顔を上げ、吹っ飛んで来た人間を見た。
同時に思わず叫んでいた。

「雪!?」

と一言、その名を。

そぅ・・・

それは雪だった。
吹っ飛んで来たのは。

雪は気を失っていた。

「ゆ、雪!? シ、シッカリしろ! 雪!!」

外道が雪の体を抱き起こしながら、声を掛けた。
静かに雪が目を明けた。

「ハッ!? セ、センセ!?」

正気に返った。

「ヘ、ヘカテ!? ヘカテは? ヘカテはどこ?」

外道の腕の中で雪が取り乱している。
しかし、外道には 『ヘカテ』 の意味がすぐには分からなかった。

「ヘカテ?」

「うん」

「何の事だ?」

「アタシ、アタシ負けちゃったヘカテに」

「ヘカテに負けた?」

「うん」

「ヘカテって・・・。 ま、まさか!? あれか? 呪術の神で冥府魔道界を取り仕切ると言われている闇の魔神(ましん)、あの魔女ヘカテか?」

「うん。 多分、そうだと思う」

「あのヘカテと戦ったのか?」

「うん。 戦った。 でも、全然相手になんなかった。 くっ、やしー!! くっ、やしーよーーー!! ェッ、ェッ、ェッ、ェッ、ェッ、・・・」

雪が泣いた。
初めて喫(きっ)した敗北に耐えられなかったのだ。
それも、まるで歯が立たなかったのだから尚更だった。
プライドが許さなかったのだ。
覚醒し始めた最強の魔女としての雪のプライドが。










ここは旅館 『秀吉のゆかた』 内、不良の診察室である。











つづく







タイタン2011 #63

#63




「お嬢!? ここから先へは行(ゆ)かせませぬ」

突然、雪の前に姿を現した老婆が言った。
ここは古代ギリシャ。
いち早く不良が降り立った地。
そこにたった今、雪がジャンプして来た所だ。
それも肉体ごと不良を追って・・・正確に。

「ん!? なにヤツ?」

雪が聞いた。
この物言いから分かるようにその魔力を発揮する時、雪は人格が変わる。
当然、その風貌も・・・雪女に。
まだ思うように自我をコントロール出来ないのだ。
その雪に老婆が丁重に挨拶した。
まるで旧知の間柄でもあるかのように。
それも上下関係をハッキリとさせて。
勿論、雪が上位なのは言うまでもない。

「お久しゅうございます。 お嬢。 ワシをお忘れでございますか?」

「ソチなど知らぬ」

「知らぬとはつれない。 ヘカテでございます」

「ヘカテ? ヘカテじゃと?」

「左様(さよう)でございます」

「知らぬ。 それよりこれ以上ワラワの邪魔は許さぬ。 そこを退(ど)け」

「いぃや、退きませぬ」

「邪魔じゃ、退け」

「退きませぬ」

「つべこべ申さず、そこを退け」

雪がそう言って、


(サッ!!)


素早く剣印を結んだ右腕を挙げ、


(ピュー!!)


突風を起し、ヘカテと名乗った老婆を吹き飛ばそうとした。

だが、

『ヌッ!?』

雪は驚いた。
全く動じないのだ、その老婆が。
微動だにしない。

もう一度、やってみた。
しかし・・・同じだった。

「ムダでございます」

ヘカテが言った。

「・・・」

雪は黙ったまま、信じられないという表情をしている。

「如何(いか)にお嬢とはいえ、まだ覚醒しきってはおらぬご様子。 その程度ではこのヘカテには通じませぬ」

「・・・」

「お嬢! 御免(ごめん)! 許されよ!!」

そう叫んでヘカテが両手を胸の前に上げ、掌(てのひら)を立てる天破の構えに入った。
そのまま一気に、

「ウ~ム」

念を込めた。

瞬間、


(ピカッ!!)


ヘカテの手が光った。
その垂直に立てた両手掌(りょうて・たなごころ)が。
そしてその状態から、


(スゥ~)


ユックリと右腕、右足を前に出した。
出しきると同時に、

「哈(は)ァー!!」

鋭い気合を発した。


(ビキビキビキビキビキ・・・)


エネルギー波だ。
凄まじいエネルギー波が飛んだ。
ヘカテの手から雪目掛(ゆき・めが)けて。

「クッ!?」

一言呻いて、


(サッ!!)


両腕を顔の前まで上げ、雪がこれをブロックしようとした。
老婆の発したこの凄まじいエネルギー波を。










だが・・・











つづく







タイタン2011 #62

#62




「危ない!?」

雪が声を上げた。

「え!?」

突然の事に外道が驚いた。
ここは旅館 『秀吉のゆかた』 内、不良の診察室。

「おじちゃんが危ない!?」

「不良か? 不良がどうかしたのか?」

「殺される」

「え!? 殺される?」

「うん」

「『殺される』 って、誰にだ?」

「分んない。 でも、スッゴク強い人」

「不良よりもか?」

「うん、全然!? 全然、勝負ンなんない」

「『全然、勝負ンなんない』 って・・・。 ナゼ分る?」

「分ったんじゃない。 感じた」

「ウ~ム」

外道が考え込んだ。
すると、

「アタシ行かなきゃ」

雪がボソッと呟いた。

「え!?」

外道がその言葉に反応した。
再び雪が、

「アタシ行かなきゃ」

今度はキッパリとそう言い切った。

「『アタシ行かなきゃ』 って、お前・・・」

「だって、雪しかいないもん、おじちゃん助けられる人」

「『雪しかいないもん』 って、お前なぁ・・・」

外道の言葉を遮るように、


(キッ!!)


厳しく、雪が外道を睨み付けた。

「こないだ。 雪、不良のおじちゃんに助けられた。 血、一杯もらって・・・。 今度は雪が助ける番」

「そんな事言って、お前・・・」

「雪はダイジョブだよ。 センセ、ここいるから帰って来れるし」

「『センセ、ここいるから帰って来れるし』 って・・・」

「ダイジョブだよ、心配いらないよ」

「ま、待て! 雪!! は、早まるな!!」

「ダイジョブだってば・・・。 雪、チョッと行って来るね」

「チョ、チョッと待て! 雪!!」

「センセ。 お留守番頼むね」

「ま、待て! ゆ・・・」

外道の制止を振り切り、

瞬間、


(スゥー)


雪の姿が消えた。
外道が最後まで言い終わらぬ内に。
雪は直観したのだ。
不良の窮地を。
そして追ったのだ。
不良の後を。
不良を助けるために。

一人その場にポツンと取り残された外道が、不満気(ふまん・げ)に呟(つぶや)いた。

「な~にが 『雪、チョッと行って来るね』 だ。 ったく、軽~く言いやがって。 俺にも出来ない事を・・・。 いとも簡単に・・・。 しっかし、いよいよ覚醒かぁ・・・」

と。

更に、

「益々、妖怪じみて来やがって・・・。 この先一体、どうなるんだ、アイツは・・・。 ったく」

とも。

今日、雪の空恐ろしいまでの潜在能力を改めて感じ、


(ブルッ!!)


背中に寒い物を感じた・・・










外道であった。











つづく







タイタン2011 #61

#61




(ピタッ!!)


不良が止まった。


(クルッ!!)


振り返った。
不良のその思わぬ行動に、

「ヌッ!?」

一瞬、ポセイドンが意表をつかれ、驚いた。
そして、

「人間!? やっと観念したか?」

反射的にそう聞いていた。

「あぁ。 観念した。 だが、最後に一つ聞く」

「何だ? 言ってみろ、聞いてやる」

「アンタの次の一投か? アンタの次の一投で俺の命運が尽きるのか?」

「その通り」

「間違いなく、次の一投だな?」

「あぁ、そうだ。 間違いなく、次の一投だ。 神に二言はない」

「良し」

そう言って不良がベルトに装着していた小袋に手を突っ込んだ。
素早く、ある物を取り出した。

ん!? ある物を?

そぅ・・・ある物を。

そのある物・・・それはあの金属の棒だった。
それを持つ者の念に反応して形を変える例のあの金属の棒だった、不良が取り出したある物とは。
今は小袋に入るほどコンパクトにしてあったのだが。

「ほぅ。 それはアナウロス川で見せたアレか?」

「そうだ」

「それでどうするつもりだ」

「勿論、戦う」

「フフフフフ。 ハハハハハ。 アッ、ハハハハハハ・・・」

ポセイドンが笑った。

「何がおかしい?」

「これが笑わずにおれるか。 そのようなオモチャで、本気で余と戦うつもりか」

「あぁ、俺は本気だ」

「笑止!? だが、気に入った。 人間。 そのつもりでおったが、気が変わった。 すぐには殺さぬ。 それでは面白(おもしろ)ぅないからのぅ。 少し遊んでやる」

「そうか。 少し遊んでくれるのか。 なら、リクエストしよう」

「ん? リクエストだ?」

「あぁ、俺の最後の頼みだ。 聞いてくれるか?」

「内容次第だ。 言ってみろ」

「風が見たい。 アンタのそのトライデントでどれほどまでの風が起せるものかを」

「ん!? 風が見たい? 風が見たいだとぅ?」

「あぁ、見たい」

「そんな物が見たいのか?」

「あぁ。 そんな物が見たいのだ」

「良いだろう。 見せてやろう。 だが、先ほどのように逃げてもムダだぞ。 我が海馬の速さからは逃れられぬ、絶対にな」

「勿論、逃げる気なんか更々ないさ。 俺はただ、風が見たいだけだ。 そのトライデントが起す最大の風がな」

「良し。 ならば篤(とく)と見よ。 我がトライデントの威力を」

そう言って、


(ブン。 ブン。 ブン。 ブン。 ブン。 ・・・)


ポセイドンが頭上でトライデントを振り回し始めた。

すると、


(グォーーー!!!)


颶風だ。
凄まじい威力の颶風だ。
凄まじい威力の颶風が起こった。

瞬間、

「フン!!」

不良がその風に乗った。
物凄いスピードで飛んだ。

「ヌッ!? 愚か者め! 逃げてもムダだと言ったであろうが!!」

そう大声を上げ、ポセイドンが海馬に鞭を入れた。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #60

#60




(ブヮーン!!)


ポセイドンがトライデントを振り翳(かざ)した。(トライデントを頭上に振り上げて構えた)
たったそれだけだった。
今、ポセイドンがやったのは。

だが、


(グォー!!)


颶風(ぐふう : 秒速29メートル以上の風力を持つ、最上級の風)だ。
颶風が起こった。
その颶風の威力の余りの凄まじさに、


(グラッ)


不良がバランスを崩した。

「クッ!?」

焦る不良。
空中で足を踏ん張り・・サンダルに力を込め・・不恰好ながらなんとか体勢を立て直した。

『ん!?』

それを見て、ユックリとトライデントを下ろしながらポセイドンが小バカにして言った。

「フン。 他愛(たわい)もない。 詰まらんぞ、人間。 実に詰まらん。 その程度か? たったその程度で我等神に立ち向かって来るなど・・・。 笑止(しょうし)!!」

しかし、これが幸いした。
不良が腹を決めたのだ。
つまり、死を覚悟したという事だ。
しかも、いざ死を覚悟してみると体の震えも止まり、恐怖心も消えた。

「確かアンタはさっき、 『待っていた』 と言ったな」

いつもの不良に戻っていた。
そして、

「俺を待っていたという事か?」

ポセイドンに聞いた。

「そうじゃ」

「ナゼ、俺がここに来る事が分かった?」

「決まっておる。 余(よ)は神じゃ。 そんな事は、疾(と)うの昔に分っておったゎ」

「なら、俺がここへ来た理由(わけ)もか?」

「当然じゃ。 余がわざわざ出向いてきたのがその証(あかし)」

「なるほどな。 それで分った、これまで思い通りに事が運ばなかった理由(りゆう)がな。 アンタが邪魔していた訳か」

「そうじゃ。 始めにグライアイ達に会わせたのも余じゃ。 ソチの運命を告げさせるためにのぅ」


(あの~、分ってくれてるとは思ふヶど、本当なら運命の予言はグライアイではなく “運命の女神モイライ三姉妹 【 Moirai = アトロポス(Atropos)、ラケシス(Lakhesis)、クロートー(Klotho) 】” がするのですが、歯なしの都合上 否 話の都合上、グライアイに予言させとります。 ハリウッド映画『タイタンの戦い』でもそうなってたし・・・ : 作者)


「なら、あの婆(ばあ)さんもか? アナウロス川の・・・」

「いぃや、アレは違う」

「ん!? アレは違う?」

「あぁ、アレは違う。 アレはアヤツの酔狂じゃ」

「アヤツ? アヤツとは?」

「知ってどうする?」

「ん?」

「どうでも良い事じゃ。 今、ここで死ぬる運命にあるソチにはな」

「死ぬる運命・・・か。 ・・・。 俺の・・・」

「そうじゃ、ソチの死ぬる運命じゃ。 グライアイ達の予言は何人(なんぴと)たりといえども覆(くつがえ)す事は出来ぬ。 例え、神である我等を以ってしてもじゃ。 例え、我等ビッグ・スリー(ゼウス、ハデス、それにポセイドンの3神)を含むオリンポスの十二神を以ってもしても決して覆す事は出来ぬのじゃ、アヤツ等の予言は」

「と、いう事は・・・。 俺はここで死ぬのか? アンタの投げるトライデントで?」

「その通り」

「・・・」

不良は黙った。
その姿を見てポセイドンが言った。

「どうやら運命を受け入れる気になったようだな。 ならば参る!! 覚悟は良いな! 人間!!」

そう言ったが早いが、


(ブン)


再びトライデントを振り翳(かざ)した。


(グォー)


又しても、起こる颶風(ぐふう)。

しかし、

「フン!!」

気合を入れ不良が飛んだ、颶風を利用して。
その颶風に乗ったのだ。

「ヌッ!? 逃(のが)さん!!」

ポセイドンが後を追った。


(グォーーー!!)


凄まじい勢いで不良を追うポセイドン。
ヘルメスのサンダルを必死にコントロールし、そのポセイドンから逃げる不良。

だが・・・速い!?

ポセイドンのチャリオットの速さは半端じゃない。
その余りの速さに、

「あ!?」

と言う間(ま)に不良は追い付かれた。
流石、ポセイドン自慢の海馬4頭の牽くゴールデン・チャリオット。
神速だ。

すぐ背後にポセイドンの気配を感じ、


(シュッ。 シュッ。 シュッ。 ・・・)


右に左に不良が大きくジャンプした。
狙いを付けさせないために。
そのためなかなか狙いが定まらず、

「クッ!? チョコマカとー!!」

ポセイドンが苛立った。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #59

#59




御者だった。
チャリオットを巧みに操る御者だった。
その光り輝く黄金の巨大なチャリオットを巧みに操る御者だったのだ、不良に動く芸術とさえ思わせるほど美しかった物は。
その御者は豊な紺黒の髪を持ち、素晴らしく立派な口髭(くちひげ)と見事な顎鬚(あごひげ)を蓄え、壮麗な衣を身に纏(まと)い、身の丈3m超級の大きくガッシリとした体躯(たいく)で、海の上を跳ね回るイルカの大群をその先導とし、威風堂々チャリオットを操っていた。

その姿に、

「ハッ!?」

不良は息を呑んだ。

『ポ、ポセイドン・・・か!?』

そう思いながら。

その時・・・

突然、


(グォー!!)


チャリオットが飛んだ。


(ピタッ!!)


不良と同じ高さで止まった。
その距離、約5メートル。
当然、空中浮遊だ。


(ギロッ!!)


御者が睨(にら)んだ。


(ゾクッ!!)


その恐ろしいまでの迫力に不良の背筋に悪寒が走った。
その不良を見下(みお)ろし見下(みくだ)して御者が言った。

「人間!!」

威厳に満ち、超重低音の迫力のある声で。

「・・・」

不良は言葉が出なかった。
その余りの恐ろしさのために。
流石の不良も恐怖しているのだ。
その御者の圧倒的迫力に。
かつてこれほどまでの相手に出会った事がなかったからだ。
不良ほどの達人になれば対峙している相手の力量は、わずかに眼(め)を見ただけで分かる。
そして分かった。
全く歯が立たないという事が。
今対峙している相手と自分とでは、大人と子供。
否、
大人と赤ん坊。
否、
赤ん坊と横綱以上の格の違いがある。
その御者の眼(め)を見た瞬間、それが分かった。
スケール、格、迫力、・・・、そういった物全てが別次元なのだと。


(ガタガタガタガタガタ・・・)


震えている。
不良が震えている。
あの高ビーな不良が震えている。
顔面蒼白で。

その圧倒的迫力に押され、今の不良はヘビに睨まれたカエル状態。
ただ怯(おび)え震える以外、身動き一つ出来ない。

「人間!!」

もう一度、御者が言った。
より一層迫力のある声で。

「・・・」

やはり不良は口が利けない。
怯え震えているだけだ。
不良の唇はこんな短時間で既に乾いてカサカサ。
それだけでも今、不良の感じている恐怖の一端が垣間(かいま)見える。
その不良に向かって、

「人間!!」

更にもう一度。
ますます迫力のある声で御者が言った。

だが、

「・・・」

相変わらず不良は言葉が出ない。
そんな不良にはお構いなし。

「待っておったぞ、人間。 ソチの名は何と申す?」

御者が不良の名前を聞いた。
高圧的に見下ろし見下して。


(ゴクリ)


不良が生唾を飲み込んだ。
そして、

「ぶ・・ら・・く・・じゃ・・く」

漸(ようや)く口を利いた。
弱々し~~~くだ。
若干・・というより・・ほんのチッとだけ余裕が出たのだ。
時間が与えた余裕だ。
もっとも、蚊の鳴くような声ではあったが。

これが平時なら、

「人に名前を尋ねる時は、自分から先に名乗れ」

不良ならこう言い返すはずだ。
しかし、今の不良は相手の迫力に恐怖し、まるで借りて来た猫のようにおとなしい。
だから素直に名乗った。
否、
それしか出来なかった。
殆(ほとん)ど余裕のない今の不良には。
まして言い返す事など、全く及びもつかなかったのだ。


(ゴクリ)


再び、不良が生唾を呑み込んだ。
そして、

「ア、アナタは・・・」

弱々し~~~く聞いた。
情けな~~~い声で。

「既にソチは分っておるはずじゃ。 余(よ)が誰かは」

「ポ、ポセイドン・・・?」

「ウム」

御者が肯定するかのように頷いた。
それから手にしていたトライデントを、


(グィッ!!)


これ見よがしに突き出して、

「それともう一つ分っておる事があるな」

そう言った。
当然、高圧的に。

「・・・」

不良は黙っていた。
だが、その言葉の意味は分っていた。
十分、否、十二分過ぎるほどに。
そしてその言葉の意味とは、勿論、グライアイの予言だ。

そぅ・・・

ポセイドンのトライデントによって自分が殺されるというあの予言だ。


(ゴクリ)


もう一度、不良が生唾を飲み込んだ。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #58

#58




「な、何と・・・!? い、今のはトライデント・・・か!?」

不良が呟(つぶや)いた。
流石の不良もこの攻撃には胆を冷やしていた。
その余りの速さと威力にだ。
その時にではなく、一瞬の間(ま)が有ってから。
その凄まじい威力を実感してから。
しかし、不良が肝を冷やした理由(わけ)はそれだけではなかった。
もしそれが本当にトライデントならば、この攻撃の主が自ずから決まってしまうからでもあった。

『ポセイドン・・・。 ポセイドンか? だが、ナゼ、ポセイドンが今、ここに?』

不良は思った。
思いも掛けなかったポセイドンの出現。
そして、その見えない攻撃。
空中に止まったまま、不良は慎重、且、真剣に海面を見つめていた。
何時(いつ)何時(なんどき)、どこからトライデントが飛び出して来るか分らないからだ。
ナゼならポセイドンは海の神。
海中を自在に移動出来る。
それも神速で。
不良は焦った。


(ゴクリ)


喉を鳴らして唾(つばき)を飲み込んだ。

その時、


(ジャバ、ジャバ、ジャバ、ジャバ、ジャバ、・・・)


大きく海水を撥ねながら水面を跳ね回る無数のイルカの群れが不良の目に入った。
それはきちんと統率が取れ、まるで動く幾何学模様を成(な)していて美しかった。
その大群が、空中に止まっている不良の遥か下の足元付近を目指して遠くからやって来ていた。
だが、やって来ていたのはそれだけではなかった。

そのイルカの大群の後から巨大な輝く黄金のチャリオット(古代の二輪戦車)が音もなく静かに迫って来ていたのだ。
そのチャリオットは一見してそうと分るほど高価で美しかった。
それを真鍮(しんちゅう)の蹄(ひづめ)と黄金の鬣(たてがみ)を持つ巨大な4頭の海馬が・・普通の馬の倍以上は軽くありそうなほど巨大な4頭の海馬が・・それを牽いていた。
しかも全く音を立てずにだ。
だからそのチャリオットを取り巻く海面は・・それを取り巻く海面だけは・・他と違って嘘のように静まり返っている。
細波(さざなみ)一つ立っていない。
こんな事は常識では考えられない。
しかし、現実にそれは起こっていた。

そしてその上を、


(スゥー)


全く音を立てずに迫り来る光り輝く黄金の巨大なチャリオット。
その姿は壮観その物だった。

「ハッ!?」

と、息を呑むほどに。

だが、

それ以上に不良に壮観と思わせる物があった。
動く芸術とさえ思わせるほど美しい物が・・・そう言っても決して過言ではないと思わせる物が。










それは・・・











つづく







タイタン2011 #57

#57




『ハッ!?』

不良は驚いた。


(グィーーーン!!)


自分が見つめていた辺りの海面から何かが飛び出したかと思うと、凄まじい勢いでそれが自分目掛けて飛んで来たからだった。
恐らく先ほどと同じ物と思える何かが。

「クッ!?」

身をよじってこれをかわした。
今度も又、紙一重だった。

そぅ、

紙一重だった、それをかわすの

だが、

今回はハッキリとその正体を見極める事が出来た。
それが正面から飛んで来たからだ。
そしてその正体は・・・鉾(ほこ)だった。
それも三叉(みつまた)の。

ん!?

三叉の鉾?

そうだ! 三叉の鉾だ!!

と、いう事は・・・

その鉾は・・その鉾こそは・・三叉(さんさ)の鉾。
つまり、トライデント・・・か?

そうだ! トライデントだ!!

大海神ポセイドンが持つと言われているあのトライデントだ。

と、すれば・・・

この攻撃はポセイドン・・・あの大海神ポセイドンによる物という事になる。

そして我々は知っている。
グライアイ達の予言を。

『お前は死ぬよ』

『お前は死ぬんだ』

『ポセイドンの投げたトライデントでのぅ』

という・・・










あの予言を。











つづく







タイタン2011 #56

#56




「何をしておる、アイオロス。 間に合わぬぞ」

という声がした。
重々しく威厳があり、格調高い声が。
それを聞き、

『ハッ!?』

瞬時にしてアイオロスが冷静さを取り戻した。
流石は神。
切り替えが早い。
即座に、


(スゥー)


反転急降下して不良をかわそうとした。

『ヌッ!?』

一瞬、不良は驚いた。
アイオロスの予想外のこの行動に。
しかし、切り替えの早さでは不良も負けてはいない。
反射的に、

「行かせん!!」

そう叫んで、後を追おうと反転した。

だが、

そこへ、


(グォーーー!!)


凄まじい風切り音を上げ、背後から不良目掛け、何かが物凄いスピードで飛んで来た。

『ハッ!?』

それに気付き、不良が上に大きく飛び上がってこれをかわした。
しかし紙一重だった。
紙一重でかわすのがやっとだった・・・それを。

そして、不良の体をとらえ損(そこ)なったそれは、


(ブヮーン!!)


辺りに凄まじい轟音(ごうおん)を轟(とどろ)かせ、


(ザッ、パァーーーン!!)


海の中に突っ込んで行った。
その後を目で追いながら、

『な、何だったんだ、今のは一体?』

不良は思った。
それの飛ぶ、その余りの速さに流石の不良もその正体を見極める事が出来なかった。
ヒヤリとさえしなかった。
恐怖を感じている暇がなかったのだ。
それが速過ぎて。

不良は暫し、それが突っ込んで行った辺りの海面を見つめていた。
アイオロスの存在を忘れて。
否、
覚えてはいたが、それどころではなかった。
何時(いつ)何時(なんどき)、再び、それが飛び出して来るか分からないからだ。

不良孔雀・・・精神的余裕なし!!

全く・・・なし!!










すると・・・











つづく







タイタン2011 #55

#55




風の神アイオロスは急いでいた。
ポセイドンによって下された火急の命を果すために。

そぅ・・・

ポセイドンから厳命が下っていたのだ。

「アイオロスよ! ティアマトが危ない!! ペルセウスにメドゥーサの首を使わせるでない。 急ぎ行くのじゃ。 行って、メドゥーサ・ルックを防ぐのじゃ」

という。

アイオロスは全速力で飛んでいだ。
目指すはエチオピア。
ペルセウスとティアマトの戦っている海岸。
ティアマト救援のため。
アイオロスに一刻の猶予なし。
そして目的の場所は、既に目前。
目と鼻の先。

だが、

突然、アイオロスの目の前に、


(フヮッ)


何者かが姿を現し、その行く手を阻んだ。
ナゼかその何者かはメガネを掛けていた。
この時代にはないはずのメガネを。

「ヌッ!? なにヤツ?」

一旦、空中で止まり、アイオロスが聞いた。
それに答える事なく、逆に正体不明の何者かが聞き返して来た。

「風の神アイオロスだな?」

「そうだと言ったらどうする?」

「暫しこの場に止まってもらう」

「なーに~?」

「ティアマトの所へは行かせん、という事だ」

「フン。 ふざけた事を・・・。 だが、ナゼ知っている? ワレがそこへ行こうとしておる事を」

「見た者がいるからだ。 それを」

「ホゥ~? 誰がだ?」

「誰だと思う?」

「クッ!? 分らぬから聞いておる」

アイオロスがチョッと焦(じ)れた。

「フッ」

正体不明の敵が不敵に笑った。
それから言った。

「なら、教えてやろう、アイオロス。 アンドロメダだ」

「ん!? アンドロメダ? アンドロメダだとぉ・・・」

「あぁ、そうだ」

このやり取りから分った。
メガネを掛けた正体不明の何者かは不良だ。
間違いなく不良だ。
即ち、不良孔雀。
つまり、ジャンプして来た年月日時もヘルメスのサンダルによって導かれた場所も不良は間違ってはいなかたのだ。
そして間に合ったのだ。
アイオロスの足止めに。

アイオロスが不良の足元を見た。

「ヌッ!? それはヘルメスのサンダル!? ナゼお前がヘルメスのサンダルを履いている? 見た所お前は人間のようだが」

「あぁ、俺は人間だ。 そしてこのサンダルは貰い物だ」

「貰い物?」

「そうだ」

「誰にだ?」

「分らん」

「分らん? 分らんだと~?」

「あぁ、分らん」

「フン。 人間。 それはお前ごときが持つ物ではない。 それをヘルメスに返せ。 そしてそこをどけ。 今なら見逃してやる」

「いぃや、どかん」

「なーに~? どかん? 『どかん』 だと~!?」

「あぁ、どかん」

「口答えするとは生意気なぁ、人間の分際で」

「まぁ、そう、カッカするな。 別に取って喰おうなどとは思ってはおらん。 ただ、チョッと足止めするだけだ。 それで全ては片が付く」

「ふざけた事を抜(ぬ)かすなー!!」

そう叫んでアイオロスが不良に向け強風を起そうと構えた。

その構えは・・・

ブルース・リーの特集などで良く見る、両足を広げて腰を落とし、広げた両手を胸の辺りまで挙げ、一度右手親指で鼻先を “ピッ!!” ってチョメして、斜め半身に構え、腰をクネクネってして相手に対峙するあのポーズだ。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #54

#54




「なるほどな・・・。 これはこう扱うのか」

不良が独り言を言った。
何度かヘルメスのサンダルで宙を舞った後の事だった。
サンダルを扱う要領がつかめたのだ。
そしてもう一言。

「さて、エチオピアはどっちだ?」

その瞬間、


(フヮッ)


独りでにサンダルが舞い上がった。
今度も又、勝手に。
勿論、不良を乗せたまま。

そして、


(ピュー!!)


飛び始めた。
まるで不良の一言に反応したかのごとく。

『ヌッ!? 何とした事!?』

この予想外の出来事に不良は驚いた。
そのサンダルはまるでそれ自身が意思を持ち、不良の思いに反応したかのように飛んだのだ。

『良し!? コイツに任せてみるか』

不良は思った。
何となく感じ取っていたのだ。
それが正しい選択だと。
というのも、ここにジャンプして来て以来、余りにも自分の思い通りに事が運ばなかったからだ。
きっとこれには何か深い訳があるのだろうと不良は思っていた。
何せ今回の相手は・・神・・なのだから。
もっとも、前にも一度、神を相手にした経験はあるにはあったが。
しかし、今度の相手はそれとは比較にならない。
相手の格が違いすぎるのだ。
死神とオリンポスの神々とでは。
だからきっと何らかの法(ほう)が働いて、思い通りの展開にならない。
不良はそう思っていた。
否、
そう感じていた。

そして今の不良に必要な情報。

それは・・・

先ず、時間だった。
間違いなくペルセウスがメドゥーサ・ルックをティアマトに喰らわす年月日時前に、ジャンプして来ているのかどうかという。

次に、場所だった。
果たして自分は今、本当にエチオピアを目指して飛んでいるのだろうかという。

この二つに関し、不良は全く確信が持てなかった。
だか、そうと信じる他に道はなかった。

だから、


(グィーーーン!!)


不良は飛んだ。
ヘルメスのサンダルと共に。
エチオピア目指して。

否・・・










目指していると信じて。











つづく







タイタン2011 #53

#53




「ヌッ!? こ、これは・・・」

不良は驚いた。


(フヮ~)


体が宙に浮いたのだ。
それも勝手に。
不良の意思とは関係なしに。

素早く、不良は足元を見た。
思わず、

「な、なんとこれはヘルメスのサンダル・・・か!?」

この言葉が口を突いて出た。
というのも、何の変哲もないと思えたサンダルからいつの間にか翼が出ていたのだ。
まるで鳥のように両翼が。
それがたったの一羽ばたきで、細身とはいえ長身ゆえにそれなりに体重のある不良の体を軽々と持ち上げ、宙を舞ったのである。

『ウ~ム。 やはりあの婆さんただ者じゃ・・・。 さる高貴なお方・・・か。 まんざら嘘でも。 確かにこれでヘリコン山まで行く必要はなくなった。 グライアイ達の言った通りか。 と、すれば・・・』

宙に止まったまま不良は思い出していた。
もう一度、先ほどのグライアイ達とのやり取りを。




(不良) 「こ、これは魔法陣・・・か?」

(ペプレードー) 「あぁ、そうじゃ。 魔方陣じゃ」

(エニューオー) 「だからお前は、運命を知らねばならぬ」

(デイノー) 「予言を聞かねばならぬ」

(3人揃って) 「ワシらの予言をのぅ」

(不良) 「なら、いいだろう。 聞いてやる。 言ってみろ」

ここで3人がそれぞれ同じ方向を指差して、口々にこう言った。

(ペ) 「ヘリコン山はあっちじゃ」

(エ) 「ヒッポクレーネの泉はあっちじゃ」

(デ) 「真っすぐあっちじゃ」

(不良) 「・・・」

不良は黙って聞いていた。

(ペ) 「じゃが、お前はヘリコン山には行かぬ」

(エ) 「そのズーっと手前のアナウロス川じゃ」

(デ) 「そこを渡った所までじゃ、お前が行くのは」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「つまり、お前はペガサスには会わぬ」

(エ) 「代わりに違う者に会う」

(デ) 「空を飛ぶために」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「お前は会うんじゃからのぅ、あるお方と」

(エ) 「さるお方と」

(デ) 「さる高貴なお方と」

(不良) 「さる高貴なお方?」

(ペ) 「あぁ、そうじゃ。 さる高貴なお方じゃ」

(エ) 「人間如(ごと)き、遠く及ばぬほど高貴なお方じゃ」

(デ) 「人間など目通り適わぬほど高貴なお方じゃ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「そのお方にお前は試される」

(エ) 「試されるんだよ、お前は」

(デ) 「厳しくのぅ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「多分、お前は授かる」

(エ) 「きっと授かる」

(デ) 「間違いなく授かる」

(不良) 「何をだ?」

(ペ) 「ある物じゃ」

(エ) 「ある物じゃ」

(デ) 「ある物じゃ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「お前の希望を適(かな)えるため」

(エ) 「お前の目的を果すため」

(デ) 「必要な物じゃ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「じゃが、目的は果せぬ」

(エ) 「失敗するんじゃ」

(デ) 「お前は目的を果せず、失敗するんじゃ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「お前は死ぬよ」

(エ) 「お前は死ぬんだ」

(デ) 「ポセイドンの投げたトライデントでのぅ」




というやり取りを。
そして一言、こう呟(つぶや)いた。










「ポセイドンのトライデントか・・・」











つづく







タイタン2011 #52

#52




「待て! 不良孔雀!! これを着て行くが良い。 その格好では目立ち過ぎじゃ。 濡れてもおるしのぅ」

と、老婆が言った。
不良の背後から。

それを聞き、


(クルッ!!)


再び、不良が振り返った。

瞬間、

「え!?」

不良は驚いた。
老婆がいないのだ。
たったの今までそこにいたはずなのに。
走り去るような足音も全くしなかったのに。
不良が辺りを見回した。
だが、どこにも姿が見えない。
代わりに、古代ギリシャの一般的な衣服である内衣のキトン( chiton )とその上に着る外衣のヒマティオン( himation )、それにサンダルが老婆のいた場所にキチンとたたまれて置かれてあった。

『ん!? どこからこんな物を? それに婆さんはどこに? 全く、何でもありだなここは・・・』

そんな事を思いながらキトンを手に取り、それをジッと見つめながら、

「何なんだ、一体!? 一体、あの婆さんは・・・」

等と、呟(つぶや)いた。
同時にグライアイ達の予言を、思い出しもしていた。

『さる高貴なお方じゃ』

という・・・あの予言を。
そして、

「さる高貴なお方・・・か。 さる高貴なお方ね。 フン」

等とブツブツ言いながら、何も考えずに服を着替えた。
しかし、本来こんな事は冷静に考えたら起こり得ない。
それに、老婆は不良の着ていた服について聞こうとはしなかった。
更に、本当なら真っ先に聞かれてもおかしくないこの時代にはないはずのメガネの事も全く聞かなかったのだ。
しかしこの時不良は、これらをおかしいなどとは微塵も思わなかった。
否、
思えなかったのだ、既に運命の魔方陣に足を踏み入れてしまった今の不良には。
それの影響を強力に受けて。
つまり今の不良は、運命の魔方陣に操られていると言っても過言ではないのだ。

そして不良は、外衣ヒマティオンのウェスト部分を締めているゾーネー(zone)という名前のベルトに付け替えた小袋に例の棒を納め、それまで着ていた服をその場に残し、

「必要になるまでこれも外しておくか」

そう言いながら、それまで掛けていたお気に入りの999.9(フォーナイン)のメガネを外し、キトンの腹の部分に納めた。
最後に川の水でずぶ濡れの靴を脱ぎ、サンダルに履き替えた。










その瞬間・・・











つづく







タイタン2011 #51

#51




(ドサッ!!)


不良が倒れこんだ。
老婆を背負ったまま。
しかし、
川の中にではなかった。
目的の川岸にだった。

え!? 目的の川岸に? 川の中にではなく?

そうだ!! 川の中にではなく、目的の川岸にだ!!

でも、ナゼそんな事が?
その鍵は不良の持っていたあの棒にあった。
不良は倒れこむ寸前、杖代わりに使っていた例のあの棒を伸ばしていたのだ。


(ビューーーン!!)


棒は伸び、その先を


(クルッ!!)


対岸の林の中の一本の木の幹に引っ掛け、


(キュィーーーン!!)


再び縮み、


(グィーーーン!!)


その棒のもう片方の端も伸ばし、それを確(しっか)りと握っている右手の手首から腕にかけてまで巻き付けた不良を、老婆を背負ったまま引っ張り、


(ドサッ!!)


目的の川岸まで運んだのだった。
不良孔雀、起死回生の一発。
正に 『災い転じて福と為す』 である。
こんな事がなければ中々思い付かない方法だ。

そしてその棒をコンパクトに・・手のひらサイズに・・縮め、それをつかんだまま、

「フゥ~。 約束は果たしたぞ、婆(ばあ)さん」

立ち上がりながらそう言った。

「全く。 ワシはもうダメかと思ったぞ」

老婆は既に立ち上がっていた。

「何が、 『ワシはもうダメかと』 だ。 ワザと抱き付いて来たくせに、良く言うぞ」

「フォフォフォフォフォ。 まぁ、そう言うでない。 じゃが、何じゃその棒は? 奇妙な事をやりおる」

「俺にも分からん。 だが、出来る」

「フォフォフォフォフォ。 まぁ、何にしてもえぇ。 良ぅやった。 服はこの通りビショ濡れじゃがな。 ま、これはお前の所為(せい)とは言えんからのぅ」

「当たり前だ」

ここで不良が改めて老婆と正対した。

「ところで婆さん」

「何じゃ?」

「アレは・・・あの話は本当か?」

「何の話じゃ?」

不良が今渡って来たアナウロス川を指差した。

「この川の水を一滴でも口にするとスティクス川に変わるという話だ」

「あぁ、その話か?」

「あぁ、その話だ」

「嘘じゃ」

「へ!?」

「アレは嘘じゃ。 チト、ワレをからこうて見ただけじゃ」

「か、からこうて・・・って」

不良が絶句した。

歯が立たない!?
不良が全く歯が立たない!?
その老婆に!?

傲慢さじゃ誰にも負けた事のない、あの不良がだ。
不良孔雀、形無しである。

『な、何てババアだ!?』

不良が呆れ果てた。

『これ以上付き合うと、又何やらとんでもない事を言い出すかも知れん』

そうも思った。
だから、そうならない内に、

「じゃぁ、な、婆さん」

半ばほうほうの態(てい)で・・・と言うほどでもないが、素早く不良がその場を立ち去ろうとした。

が、

「待て。 お若いの。 名前ぐらい名乗って行かんか」

背後から老婆が不良の名前を聞いた。

反射的に、


(クルッ!!)


不良が振り返った。

「フッ」

ほくそ笑んだ。
やはり不良にしてみればその老婆は憎めないヤツであり、可愛かったのだ。
勿論、憎たらしさはタップリあったが。

そして、

「不良だ! 不良孔雀!! それが俺の名だ」

名乗った。

「ホゥ~? 不良孔雀か」

「あぁ、そうだ」

「ウム。 良い名じゃ」

感心したように老婆が頷いた。

「ウム」

特に意味はなかったが、不良も頷いていた。
なりゆき上のリアクションでだ。
そしてその延長線上から、

「婆さんは?」

不良も又、その老婆の名前を聞いていた。

「ワシの名などどうでも良い」

老婆は相変わらずだった。

「フッ」

再び、不良がほくそ笑んだ。

『ったく、食えないババアだ・・・』

そう思いながら。
それからその場で屈(かが)み込み、ずぶ濡れのズボンの裾を直した。
直し終えるとすぐに立ち上がり、

「じゃぁ、な」

もう一度、老婆に別れを告げた。
そして靴は履いたままで、


(クルッ!!)


老婆に背中を向け、その場を立ち去ろうとした。
一歩、前に踏み出した。

だが・・・










その時・・・











つづく







タイタン2011 #50

#50




“老婆は裸ではなかった”

という事だ。

つまり、老婆は服を着ていたのだ。
温暖なギリシャという土地柄、さほど厚くはないが、決して薄くもない服・・・チュニックを。

と、すれば・・・

当然、チュニックは水を吸い込む。
となれば、老婆の重さはその分増える。

しかも、


(ピュー!!)


風だ!?

いつの間にか風が吹き始めている。
それも強風が。
しかも不良にとっては追い風が。
つまり背後から強風が。

『クッ!? お、重い!?』

不良は焦った。

ギリギリの状態で6~70メートル歩いた上、今度は背後からの風圧。
しかも老婆はより一層重くなっている。
状況は悪化の一方。

そんな時、

「ワシを落とさんでくれよな」

そう言って、


(ギュッ!!)


突然、老婆がしがみ付いて来た。
この予想外の出来事に不意を突かれ、


(グラッ!!)


不良がバランスを崩した。


(ガクッ!!)


膝が崩れた。
流れは速い。
抵抗は出来ない。

「クッ!?」

必死で不良は踏ん張った。
しかし体勢を立て直せない。
そのまま一気に倒れ込んだ。

『ハッ!?』

目の前に川の水が。
これを飲もうものなら一大事。
水面、既に鼻先数センチ。
最早、不良に打つ手なし。

『危うし不良!?』

誰しもがそう思わざるを得ない状況。
そして、終に不良の顔が水面に・・・

だが、

正にその瞬間・・・










信じられない事が起こった。











つづく







タイタン2011 #49

#49




『クッ!? お、重い!? やはり重い。 このまま果たして渡りきれるのか』

不良は思った。
例えあの棒で体を支えているとはいえ、今背負(いま・せお)っている老婆のその重さたるや計り知れない物があった。
その上、川の流れは速い。
しかも川底は敷き詰められている石や岩でグラグラし、不安定だ。
しかし、やらねばならない。
一歩一歩慎重に、ユックリユックリすり足で、靴を履いたまま不良が川を渡り始めた。

「・・・」

この間、老婆は何も言葉を発しなかった。

「・・・」

勿論、不良も。
もっとも、不良の場合はそんな余裕は全くなかったのだが。

川は思った以上に深かった。
不良の胸位まであった。
これは嬉しい誤算だった。
というのも、浮力が働き、老婆の体の重さが激減したからだ。

しかし、
その逆もあった。
それは流れの速さだった。
今度はこれに抗さねばならないからだ。
つまり、人、二人分の抵抗力を受けるのである。
それも真横から・・・もろに。
これは辛い。

今・・・

不良は手にしている棒の先端を鋭くし・・つまりピッケル状にし・・それを川底に差し込みながら、それを頼りに川の流れに対抗しながら渡っている。
それでどうにか流れに飲み込まれずにいるのだ。
そしてその状態で、何とか川の中間辺りまでやって来た。
すると、

「大丈夫かい? お若いの」

急に、それまで何も言おうとはしなかった老婆が話し掛けて来た。

「あぁ、何とかな」

不良が答えた。
意地になって。

「知っておるかのぅ、お若いの」

「何をだ?」

「この川の別の名じゃ」

「ん!? 別の名?」

「そうじゃ、別の名じゃ」

「そんな物があるのか?」

「あぁ、ある」

「・・・」

「この川は・・・スティクス川とも呼ばれておるんじゃ」

「スティクス川? 三途(さんず)の川の、あのスティクス川か? 渡し守カロンのいると言われている」

「そうじゃ。 もしこの川の水、その一滴でも口にしようもんなら、即座にこの川はアナウロスからスティクスに変わるんじゃ。 そしたら行く先は永久(とわ)の暗黒の地・・・冥府の主ハデスの司る死者の国になってしまうでのぅ。 じゃからのぅ、お若いの。 決して水を飲んではいかんぞ。 この川の水をのぅ。 決して飲んでは・・・。 ククククク・・・」

老婆が不気味に笑った。

『クッ!? 今頃、言いやがって』

不良は思った。
そして聞いた。

「それはホントの話か?」

「あぁ、本当じゃ。 嘘をついてどうする。 年寄りは嘘はつかん」

「フッ。 どうだか」

「信用せぬら、それでも良い。 じゃが、お前はどうなろうと構わんが、決してワシを落とさんでくれよな」

『何と自己中なババアだ!?』

不良が呆(あき)れた。

だが、

そんなこんなで、悪戦苦闘しながらも漸(ようや)く、目的の川岸がハッキリと見える位置まで来た。
そこは反対側と違って土手際間近(どてぎわ・まぢか)まで林になっていた。
それも巨木と言うほどではないが、夫々(それぞれ)の木の幹はかなり太い。

『後、もう一踏ん張りか・・・』

不良は思った。

流れの速さは相変わらずだったが、深さは不良の腰ほどまでになっていた。

ん!?

腰ほどまでに・・・

と!?

いう事は・・・

老婆の重さも又元通りという事になる。

しかも・・・

不良は、一つ重大な事実を忘れていた。
そぅ、一つ重大な事実を。










それは・・・











つづく







タイタン2011 #48

#48




「フン!!」

気合と同時に、スックと不良が立ち上がった。

『ヌッ!?』

今度は老婆が驚いた。
不良が見事立ち上がったからだ。

「ホゥ~。 大したものじゃ。 やりおるのぅ、若いの」

老婆が意外だという表情をし、感心気味に言った。
そして、

「何じゃ、それは?」

聞いた。
不良の手にしている物を見て。

そぅ・・・

不良の手にしている物を見て。

その時、不良は、あのパラレルワールドから持ち帰った薙刀形の武器を手にしていた。
しかし今はそれが薙刀ではなく、細長い棒のような形をしている。
そしてそれに体を預けていた。
右手でそれを持ち、左手で老婆の尻を支えているのだ。
不良はその細長い棒が伸びる力を利用して立ち上がったのだった。

だが、ナゼ薙刀が細長い棒のような形に変わったのだろうか?

その答えは、この細長い棒を形作っている金属 否 正確には金属らしき物に隠されていた。
あの時・・#3( http://00comaru.blog.fc2.com/blog-entry-4223.html )で、不良が旅館 『秀吉のゆかた』 近くにある小高い山の中で納得した出来事・・その中に秘密が隠されていたのだ。
つまり、この細長い棒は一体どのような原子構造をしているのかは分らないが、それを手にする者の念に応じて変形するという特質を持っていた。
しかも、手にする者のパワーが強ければ強いほどその変形率は変わるのである。
それは、不良のように常人にはないパワーを有する者が持てば、その変形率は計り知れない物があるという事を意味する。
だから不良はこれまでそれを小さく縮めてベルトの小袋の中に収めていて、今それを取り出し、伸ばしたのである。
まるで孫悟空の如意棒のように。
しかも今となってはもう分からないが、もしかするとこの特質はこの武器を作った者ですら気付いていない特質なのかも知れない。
あるいは不良が持っていた能力がこの金属との出会いによって開花した可能性もある。
いずれにせよ、不良とこの細長い棒の相性はベストマッチングだったのだ。
これがあの時(#41 http://00comaru.blog.fc2.com/blog-entry-4265.html 参照)、外道に言った所の不良の “秘密兵器” なのだった。

「戦利品だ」

全く感情を入れずに先ほどの老婆の、

『何じゃ、それは?』

という問いに不良がそう答えた。

又、
これと同時に、この老婆を負(お)ぶりながら不良は思い出してもいた。
グライアイ達の予言を。
その中でこう言っていた事を。



(ペ) 「お前は会うんじゃからのぅ、あるお方と」

(エ) 「さるお方と」

(デ) 「さる高貴なお方と」

(不良) 「さる高貴なお方?」

(ペ) 「あぁ、そうじゃ。 さる高貴なお方じゃ」

(エ) 「人間如(ごと)き、遠く及ばぬほど高貴なお方じゃ」

(デ) 「人間など目通り適わぬほど高貴なお方じゃ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「そのお方にお前は試される」

(エ) 「試されるんだよ、お前は」

(デ) 「厳しくのぅ」



・・・このやり取りを。

いざ立ち上がってみると歩く事は何とか歩けそうだった。
もっとも、足はプルプル、膝はガクガクではあったが。
しかしこうなってしまった以上、不良にも意地がある。

『こんな婆さん如(ごと)き・・・』

不良は思った。
その状態で、

「ウム」

臍下丹田(せいか・たんでん)に “気” を込めた。
そして力強く掛け声を掛けた。

「良し! 行こうか!!」

と。

更にこうも。

「シッカリつかまってろよ、婆さん。 落ちないようにな」










だが・・・











つづく







タイタン2011 #47

#47




『クッ!? お、重い!?』

不良は焦った。
その老婆は普通に小柄のクセに、体重は優に1トンはあるんじゃないかと思われるほど重かった。
全く立ち上がれないのだ。

「フン!!」

不良が全身に力を込めた。
だが、1センチ 否 1ミリも動く事が出来ない。

「どうした、若いの? 立てぬのか?」

老婆が小バカにして聞いた。
もう一度、

「フン!!」

力を込めて踏ん張った。
ありったけの力を込めて。
しかし、

「クッ!?」

動かない。

「チッ。 若いくせに、何とだらしのないヤツじゃのぅ」

相変わらず老婆は手厳しい。
不良が押されている。
傲慢さでは誰にも引けを取った事のないあの不良がだ。

『おかしい!? 何かある。 これは罠か? さっきのグライアイといい、このババアといい。 まともじゃぁない。 第一、狙ってあの娘の記憶の中にジャンプしたはずが大きく逸れている。 ウ~ム』

不良は思った。

「どうした、若いの? ここまでか? フン」

老婆が鼻で笑った。

「ならこれを支えに使(つこ)うてみょ」

そう言って老婆が手にしていた杖を不良に差し出した。

「否、その必要はない」

不良がキッパリと断わった。
そして徐(おもむろ)に、右手をベルトに装着してある小袋に突っ込んだ。
中から何かをつかみ出した。

中から何かを・・・










すると・・・











つづく







タイタン2011 #46

#46




『何だったんだ、今のは・・・』

不良は思った。

しかも、老婆達が消え去ったのその直後、否、同時に、立ち込めていた霧も一緒に消えた。
一瞬にしてだ。
たったの今まで不良の視界を遮っていたあの濃く、深く、暗~い霧が・・・一瞬にして消えた。
嘘のように。
それも風らしい風は、全くと言って良(よ)いほど吹いてはいないのにだ。
そして、いざ霧が晴れてみると辺りはカラッとした良(い)い天気で、雲一つなく晴れていた。
日差しは眩しかったが、それほど暑いとは感じられなかった。
恐らく、湿度が低い所為(せい)だろう。
ヨーロッパならではの気候だ。
それともそんな季節なのかも知れない。
それがハッキリしないのは暗燈籠 芽枝の記憶からだけでは、その場所のその時の季節が何なのかまでは知りえなかったからだ。

不良が空を見上げた。
太陽の位置から判断して、時間は正午を少し回った位か?
初めての場所・・それも日本ではない・・なので確信は持てなかった。
しかし、昼前後で有るのは間違いなさそうだった。

「ウム」

気を取り直し、不良が教えられた方角目指して歩き始めた。
周囲を見渡すと遠くに山はあるが、一面、起伏の殆(ほとん)どない野原だった。
そんな風景は日本でも往々(おうおう)にして見られるので、それほど珍しくはない。
だが、一つ。
そぅ、一つ。
日本ではまず見られない、否、全く見られないと断言しても良さそうな日本の景色との違いが一つあった。

それは・・・色!?

色合いが違うのだ。
景色の色合いが、日本とは。
日本の四季折々、花鳥風月(かちょうふうげつ)を感じさせるあのボンヤリとした淡い色合いではなく、ハッキリとした原色なのだ、見渡す限り、その全てが。
野も山も空も・・・その全てが。
真ッ緑、真ッ茶、真ッっ青(まッっあお)・・・といった具合に。

『フ~ン。 やはりここは日本ではないな』

改めて不良はそう思った。
否、そう感じた。
そして感心しながらも、先を急いだ。
ムーサ達に会うために。
ペガサスを借り受けるために。
目指すは、ヘリコン山。
そこにあるヒッポクレーネの泉。

ほどなくして川に出くわした。
流れる水の色も日本で見る物とは違って見えた。
水だけに流石に原色とまでは言わないが、今まで不良が見た日本の彼方此方(あちこち)にある川の水よりも、濃く、深く、それでいて明るく感じられた。
もっとも、周りの雰囲気がそう思わせたのかも知れないが。
それでも日本の川とは若干、趣(おもむき)が違うのは否(いな)めなかった。

その川は流れが激しく、大きかった。
するとそこに一人の杖を突いた粗末な身なりの老婆が、ジッとその川の水面を見つめ、佇(たたず)んでいた。
不良が立ち止まってその老婆の後ろ姿を眺めていると、


(クルッ!!)


不意に老婆が振り返った。
老婆と不良の目が合った。

「丁度良かった、お若いの・・・。 ワシを助けておくれではないかぇ?」

老婆が不良に聞いて来た。

「ん?」

「ここに橋があったはずなんじゃが、いつの間にかのぅのぅてしもぅた。 どうしてもワシはこの川を渡りたいんじゃが渡れず、困っておった所じゃ。 済まんがお若いの、ワシを負ぶってこのアナウロス川を渡ってはくれんじゃろか?」

「!?」

一瞬、不良は驚いた。
老婆の言ったこの川の名前を聞いて。
アナウロス川というこの川の名前を聞いて。

「アナウロス川!? 婆(ばあ)さん、この川はアナウロス川というのか?」

「あぁ、そうじゃ。 アナウロス川じゃ」

「フ~ン。 あのグライアイ達の予言もまんざら嘘ではないのかも知れんな」

感慨深げに不良がボソッと呟(つぶや)いた。

「どうなんじゃ、お若いの。 ワシを負ぶってはくれぬのか?」

老婆が少し焦(じ)れた。

「チョッと待ってくれ、婆さん」

そう答えて不良が川岸に歩み寄った。
透き通った奇麗な水の流れだが、激流とまでは言わないまでもかなりの急流だった。
川幅も結構ある。
80メートル位か?
100メートルはなさそうだ。
だが、見た所、泳いで渡るほどの深さではない。
膝上か、あっても精々(せいぜい)太もも位までのようだ。
その流れを見ながら不良は思った。

『この流れの速さ。 一人で徒渡(かちわた)るのも大変そうだ。  まして年寄りを負ぶって渡れるものだろうか? 流れに呑まれる危険が・・・』

と、ここまで思った時。

「そんなに嫌か? ワシを負ぶるのが?」

老婆が声を荒げた。
それを聞き、


(クルッ!!)


反射的に不良が振り返って老婆を見た。
老婆は怒りの形相露(ぎょうそう・あらわ)だった。

「否、嫌なんかじゃない」

「なら、何じゃ?」

「アンタを無事、向こう岸に送り届けられるか考えていた所だ」

「ワレは何も考えずとも良い。 ただ、ワシを負ぶって渡れば良(よ)いのじゃ」

それを聞き、

『こら又、何とまぁ、傲慢なババアだ!?』

一瞬、不良はムッとなった。
だが、すぐに気を取り直した。

『仕方ない、やってみるか』

そして言った。

「はいはい。 負ぶってやるよ」

「何じゃ!? その投げやりな態度は!? それに 『はい』 は一度言えばえぇ」

その言葉を聞き、

「フッ」

思わず不良が笑った。
その老婆の余りの傲慢さが返って可笑(おか)しかったのだ。
不覚にも可愛いとさえ思ってしまっていた。
そして靴と靴下を脱ぎ、靴下をズボンのポケットに突っ込み、靴を履き直し、ズボンの裾を膝上までまくり上げ、

「良し」

そう言って不良が地面に右膝を突いた。
老婆が不良の背中に負ぶさった。
不良が立ち上がろうとした。










だが・・・











つづく







タイタン2011 #45

#45




「こ、これは・・・!?」

不良は驚いた。
いつの間にか自分の足元に、地面から噴出すように眩(まぶ)しく輝く銀箔色の円形の輪があったからだ。
その輪を繁々と見つめながら呟いた。

(不良) 「こ、これは魔法陣・・・か?」

(ペプレードー) 「あぁ、そうじゃ。 魔方陣じゃ」

(エニューオー) 「だからお前は、運命を知らねばならぬ」

(デイノー) 「予言を聞かねばならぬ」

(3人揃って) 「ワシらの予言をのぅ」

(不良) 「なら、いいだろう。 聞いてやる。 言ってみろ」

ここで3人がそれぞれ同じ方向を指差して、口々にこう言った。

(ペ) 「ヘリコン山はあっちじゃ」

(エ) 「ヒッポクレーネの泉はあっちじゃ」

(デ) 「真っすぐあっちじゃ」

(不良) 「・・・」

不良は黙って聞いていた。

(ペ) 「じゃが、お前はヘリコン山には行かぬ」

(エ) 「そのズーっと手前のアナウロス川じゃ」

(デ) 「そこを渡った所までじゃ、お前が行くのは」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「つまり、お前はムーサ達には会わぬ」

(エ) 「代わりに違う者に会う」

(デ) 「空を飛ぶために」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「お前は会うんじゃからのぅ、あるお方と」

(エ) 「さるお方と」

(デ) 「さる高貴なお方と」

(不良) 「さる高貴なお方?」

(ペ) 「あぁ、そうじゃ。 さる高貴なお方じゃ」

(エ) 「人間如(ごと)き、遠く及ばぬほど高貴なお方じゃ」

(デ) 「人間など目通り適わぬほど高貴なお方じゃ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「そのお方にお前は試される」

(エ) 「試されるんだよ、お前は」

(デ) 「厳しくのぅ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「多分、お前は授かる」

(エ) 「きっと授かる」

(デ) 「間違いなく授かる」

(不良) 「何をだ?」

(ペ) 「ある物じゃ」

(エ) 「ある物じゃ」

(デ) 「ある物じゃ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「お前の希望を適(かな)えるため」

(エ) 「お前の目的を果すため」

(デ) 「必要な物じゃ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「じゃが、目的は果せぬ」

(エ) 「失敗するんじゃ」

(デ) 「お前は目的を果せず、失敗するんじゃ」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「お前は死ぬよ」

(エ) 「お前は死ぬんだ」

(デ) 「ポセイドンの投げたトライデントでのぅ」

そう言ってから3人が目のない顔で夫々(それぞれ)の顔を見合った。
それから、

「イッ、ヒヒヒヒヒ・・・」

「イッ、ヒヒヒヒヒ・・・」

「イッ、ヒヒヒヒヒ・・・」

再び・・・

不気味に笑った。
嬉しげに笑った。
意味ありげに笑った。

瞬間、


(スゥ~)


3人が消えた。
濃く、深く、暗~い霧の中に。

この言葉を残して・・・










(3人揃って) 「良(い)いが悪いか? 悪いが良いか? 飛んで行くのさ・・・霧の中」











つづく






タイタン2011 #44

#44




「入った!?」

「入った!?」

「入った!?」

という声がした。

『うん!?』

素早く、不良が声のした方に振り返った。
意味有り気に目のない顔でニヤニヤしながら自分を見ている 否 自分の方に顔らしい物を向けている3人の老婆に気付いた。
不良が目を見張って3人を見た。
チョッと驚いたのだ。
その顔形の不気味さに。
否、
それ以上に、その3人が自分のすぐ側にいるにも拘らず、すぐに気付かなかった事にだ。
いくら濃い霧の中だったとしても、不良ほどの使い手に全くその存在を悟られないとは、その3人はただ者ではないからだ。

「何だ!? 何だなんだ、コイツ等は・・・一体?」

思わずそんな言葉が口を突いて出ていた。
その場の異様さからだった。
そして不良がその老婆達に声を掛けようとした。

だが、その前に3人が口を開いた。
老婆 A 、 B 、 C の順に。
意味不明だが聞きようによっては予言めいた事を。

「バンザーイ、人間。 運命に弄(もてあそ)ばれし者」

「バンザーイ、人間。 運命に操られし者」

「バンザーイ、人間。 運命に逆らえぬ者」

と。

これを聞き、

「それは予言か? 待てよ・・・。 目なし、歯なしの3老婆・・・。 ウ~ム」

不良も口走っていた。
そして、

『ハッ!?』

何かに気が付いた。
同時に3人に聞いていた。

「グライアイ!? お前達はグライアイか? グライアイなのか、あのメドゥーサ 否 ゴルゴン三姉妹の妹の?」

それを聞き、

「あぁ、そうじゃ。 人はワシラをそう呼んでおる」

3人が声を揃えて答えた。
それから名を名乗った。
老婆 A 、 B 、 C の順に。

「ワシがペプレードー」

「ワシがエニューオー」

「ワシがデイノー」

と。

「そうか。 やはりグライアイだったか」

不良が納得したように独り言を言った。
そして続けた。

「と、いう事は・・・。 ここは間違いなく古代ギリシャ。 だが、グライアイがいる以上、ここはゴルゴンの国の入り口。 どうやら俺は来る場所を間違えたようだな」




(あの~。しつこいようですがこの物語は 『ふいくしよん』 なんですね。 だからですね。 ここは古代ギリシャ の!? はずなのに・・・。 『え!? 日本語通じちゃうの?』 つー、突っ込みはナシでオネゲエいたしやす : コマル)




それを聞き、

「いぃや、間違えてなんかおらん。 お前はここに来るべき運命だったのじゃ」

と、ペプレードーが言った。

次に、

「自分の運命を知るためにじゃ」

と、エニューオーが。

最後に、

「ワシらの予言を聞くためにじゃ」

と、デイノーが。

「お前達の予言を?」

不良が聞き返した。
ここからは不良対ペプレードー、エニューオー、デイノーの順に会話が進む。

(ペプレードー) 「そうじゃ。 ワシラの予言をじゃ」

(不良) 「フン。 くだらん」

(エニューオー) 「じゃが、聞かねばならん」

(不良) 「そんな事より、ヘリコン山の場所を教えてくれ」

(デイノー) 「教えてやるよ。 じゃが、その前に予言を聞かねばならぬ、ワシらのな」

(不良) 「・・・」

(ペ) 「お前はもう運命の輪の中に入っておるんじゃからのぅ」

(不良) 「運命の輪?」

(エ) 「そうじゃ、運命の輪じゃ」

(不良) 「・・・」

(デ) 「足元を見てみよ」

(不良) 「・・・」

(3人揃って) 「良ーくな」

『ん!?』

不良が自分の足元に視線を移した。

すると・・・










そこに・・・











つづく







タイタン2011 #43

#43




ここはとある地方のとある場所。
そこに今、着古したねずみ色のフードとガウンに身を包んだ、3人の混じりっ気なしの白髪頭(しらが・あたま)の老婆が立っている。
その姿形は、まるで西洋画等で時々見掛ける魔法使いの老婆のようだ。

ウ~ム。

だが、奇妙だ。

この3人の顔には目がない。
人間としての他のパーツは全部揃っているというのに。
それに口はあるが、歯もない。

ウ~ム。

様子が変だ。
何かおかしい。

否、違う!?

あるぞ!? あるある! 目と歯がある!!

しかし、それらはたったの一つずつしかない。
そのたったの一つずつしかない目と歯を、3人で使い回している。
そうしながら何かブツブツ話し合っている。

こんな事を・・・

老婆 A  「いつ又3人、会うじゃろか?」

老婆 B  「雷? 稲妻? 雨の中?」

老婆 C  「いやいや、太陽が沈む前」

老婆 A  「落ち合う場所は?」

老婆 B  「あの荒野」

老婆 C  「そこで会うのじゃ、人間に」

ここで 『ニャー』 という、猫の鳴き声がした。

老婆 A  「おや? あの声は・・・。 可愛い可愛い魔女の猫、ワシらの灰色メリーちゃんかぇ?」

今度は 『ゲコゲコゲコ』 カエルの鳴く声。

老婆 B  「おや? 今度は・・・。 ヒキガエルかぇ? ワシらの使いをしてくれる・・・」

老婆 C  「2匹とも、今すぐ行くよ。 待っといで・・・」

最後は3人一緒に何やらいわく因縁めいた言い方で、

「良(い)いが悪いか? 悪いが良いか? 飛んで行くのさ 霧の中」

と、ナゾの言葉を発した。
そして腰を低く屈め、今にも空に向かって飛び上がらんという格好をした。

だが次の瞬間・・・

3人同時に、

『ハッ!?』

『ハッ!?』

『ハッ!?』

何かに気が付いた。
そして飛び上がる動作を止め、嬉しそうに、

「イッ、ヒヒヒヒヒ・・・」

「イッ、ヒヒヒヒヒ・・・」

「イッ、ヒヒヒヒヒ・・・」

さも意味有り気に笑った。
その様(さま)は、それを見る者の背筋をゾッとさせてもおかしくないほど不気味だった。
何せ、目と歯のない顔で笑ったのだから。
それから口々にこう言った。

老婆 A  「気配だ!?」

老婆 B  「人間の気配だ!?」

老婆 C  「アイツの気配だ!?」

老婆 A  「じゃが、おかしい!?」

老婆 B  「妙じゃ!?」

老婆 C  「変じゃ!?」

老婆 A  「ここで逢うた」

老婆 B  「予定外の今、ここで」

老婆 C  「あの荒野じゃなく、ここで今」

(3人一緒に) 「ならば今すぐ始めよか、あそこじゃなくって、今ここで」

3人が手に手を取って、輪踊りを始めた。
今度は、こんな事をブツブツ呟きながら。

(3人一緒に) 「運命操る3姉妹。 手に手を取って駆け巡る。 海でも陸でもどこへでも。 ぐるぐる回って魔法の輪。 お前3歩に、ワシ3歩、アンタも3歩で、全部で9。 シーッ!!」

老婆 A  「秘密だよ」

老婆 B  「内緒だよ」

老婆 C  「悟られちゃいけないよ」

(3人一緒に) 「運命統(す)べる・・・魔法陣」

これは呪文である。
そしてその3人の老婆が輪踊りをして地に描いた物は、紛(まぎ)れもなく魔法陣だった。
もっとも、描いたとはいっても肉眼で見る事の出来るような代物(しろもの)ではないのだが。

そこに不良孔雀登場。

老婆達が感じ取った気配は、不良の気配だったのだ。
たった今、その場所に大ジャンプして来た不良の気配だったのだ、その3人の老婆が感じ取ったのは。
勿論、未来からその場所に大ジャンプして来たのだが。
暗燈籠 芽枝(あんどうろう・めえだ)の記憶を辿って。

不良がそうとは知らず、その魔法陣の中に一歩足を踏み入れてしまった。
こんな事を呟きながら。

「全く・・・。 良(い)いのか? 悪いのか? 何なんだここのこの天気は・・・」

と。

そぅ・・・

今、不良がブラっと現れた所は、他は雲一つなく完璧に晴れている。
それもカラッと。
だが、今いるその場所だけは・・その一角だけが・・ナゼか濃い霧に包まれているからだった。
しかもジメッと。

そして不良はその後、こうも続けていた。

「第一、一体ここはどこだ? ヘリコン山の近くなのか? 俺は狙い通りちゃんと来れたのか、過去のギリシャに?」

と。










その時・・・











つづく







タイタン2011 #42

#42




「では・・・。 破瑠魔! 妖乃!! 頼んだぞ」

そう言って、

「ウ~ム」

ウォーキングシューズを履き、ジャケットにスポーツウエアといった軽装に着替えた不良が指先に念を込めた。
メガネは掛けたままで。

ここは旅館 『秀吉のゆかた』 内にある不良の診察室。
そこにある診察用ベッドの上に仰向けに寝かされている暗燈篭 芽枝の両コメカミに両手指先を軽く触れ、それに不良が念を込めた所だ。
芽枝の記憶、古代の記憶の中にジャンプするために。
いよいよその時が来たのだ。
そしてその様を、外道と雪が見つめている。
二人共真剣な面持だ。
瞬(まばた)き一つしない。
しかし、秀吉と大河内はこの場にはいなかった。
立ち会う事を不良が許さなかったからだ。

その理由(わけ)は・・・

一つには、念法を使う所を外道と雪以外の者に見せたくなかったからであり、
一つには、秀吉達を巻き込みたくなかったからだった。
何せ今度の相手は例えその姿形は怪物とはいえ、紛れもなく神なのだから。
何が起こるか分からないからだ。

再び、

「ウ~ム」

不良が念を込めた。
より一層強く。

瞬間、


(パッ!!)


不良の指先が光る。

それは一瞬にして、


(ビリビリビリビリビリ・・・)


輝きに変わる。
不良の全身を包む輝きに。

瞬時にその輝きは、


(ピカッ!!)


頂点に達する。

更に、

「ウ~ム」

不良が念を込める。

即座に、


(ピキピキピキピキピキ・・・)


不良の指先から触手が延びる。
娘の脳内に。


(ピシピシピシピシピシ・・・)


触手が脳内を巡る。
娘の脳内を。

それに反応し、


(ピクピクピクピクピク・・・)


娘の体が痙攣する。
小刻みに。

一直線に触手は、


(ピキピキピキピキピキ・・・)


人間の脳の記憶形成に重大に関わる分野と言われている海馬に向かって突き進む。

そして、


(ピタッ!!)


終に、触手がその娘の大脳内海馬に到達した。

すると、


(スゥ~)


不良の体が透き通り始めた。

「ウ~ム」

更に、念を込める不良。
それと共に不良の体の透明感が増して行く。
その姿を通して背後が見える。

「ウ~ム」

最後にもう一度、念を込めた。
それと同時に、


(スゥー)


消えた。
不良が消えた。
不良が完全に消えた。
最早、不良の体はそこにはない。
ジャンプしたのだ。
娘の記憶の中に。
娘の持つ、古代の記憶の中に。
暗燈篭 芽枝(あんどろう・めいだ)を救うために・・・自らの体ごと。

ここを以って終に・・・

不良孔雀・・・

大ジャンプ完了・・・










か?











つづく







タイタン2011 #41

#41




「お前の体の中には俺の血が流れているからだ。 輸血した俺の血がな。 だからだ。 お前達の関係と同じだ」

毅然として不良が雪に言った。

「あ!? そっか」

雪が納得した。

「あ!? な~んだ、そんな簡単な事だったか。 勿体(もったい)付けやがって」

それは外道も同じだった。

「まぁ、そう言うな。 これもブログのアクセス数維持のためだ。 この位、勿体付けとかんと読者に飽きられるからな。 ま!? 読者サービスってヤツだ」

「読者サービスか・・・。 なら、仕方ない。 ・・・」

外道が納得した。

だが、

次の瞬間、


(クルッ!!)


外道が振り返った。


(ピッ!!)


君を指差した、君を。
今、このブログを読んでる君だ!!
そしてほざいた。

こぅ・・・

「おぃ! 毒者!! ン、じゃなっくって 読者!! ン、じゃなくって 読者タン。 良かったらこのブログの宣伝しちゃってネ。 アクセス数増えっと、ウ・レ・ス・イ・から・・・。 と~~~っても」

って。。。




つーこって・・・




「で、どうなんだ?」

不良が外道に聞いた。
無感情でだ。
それに対し、


(クィッ)


雪を顎で指し示して、

「コイツがいいなら、いい」

外道が答えた。
それを聞き、


(チラッ)


不良が雪を見た。
その視線を受け、

「うん。 いいよ」

雪がオッケーした。

「そうか。 なら、頼む」

不良が頼んだ。
相変わらず無感情でだ。
ここで不良に外道が聞いた。

「だったら本題だ。 ジャンプしてどうするのかを詳しく聞かせてくれ」

瞬間、


(キッ!!)


不良の表情が引き締まった。

「あぁ。 いいだろう」

キッパリと答えた。
そして続けた。
ここからは不良と外道の会話となる。

「先ず、あの女の記憶を頼りに今のではなく古代のヘリコン山へ行く、ヒッポクレーネの泉のある」

「ヘリコン山? ヒッポクレーネの泉?」

「そうだ。 ヒッポクレーネの泉のあるヘリコン山にだ。 ギリシャにある」

「ギリシャに?」

「あぁ」

「何のために?」

「ムーサ達に会うためにだ」

「ムーサ達?」

「芸術や知識の守り神だ。 全部で九人(くにん)いる」

「そのムーサ達とやらに会ってどうするんだ?」

「馬を借りる」

「馬?」

「そうだ、馬だ。 その名をペガサスという。 知っているな、あのペガサスだ」

「あぁ。 ペガサス位なら俺も知っている。 でも、アレは伝説だろ? そんなモンが本当に・・・」

外道が言い終える前に不良が断言した。

「否、いる。 ペガサスは確かにいるんだ。 あの女の記憶が正しければな。 ペルセウスがいた以上、メドゥーサの首が存在した以上、あの女の記憶が正しければペガサスは間違いなくいる。 ただ、普通のヤツラにはそれが見えんだけだ、神馬(しんめ)だからな。 ポセイドンとメドゥーサの間に生まれた神馬だからな、ペガサスは。 だが、俺なら見る事が出来るはずだ、必ず。 そう、必ず・・・。 勿論、お前達もな」

「ウ~ム。 かも知れん。 しかし、仮にいたとしてペガサスなんか借りてどうする気だ?」

「勿論、空を飛ぶんだ。 それに乗って」

「空を飛ぶ?」

「そうだ。 空を飛ぶんだ」

「空なんか飛んで何をするんだ?」

「アイオロスを止める」

「アイオロスを止める?」

「そうだアイオロスを止める。 そのためには空を飛ばなくてはならん。 アイオロスは空を飛んであの場所に来たんだからな。 だからだ。 だからアイオロスを止めるためにはどうしても、否、絶対に空を飛ばなくてはならん。 だからだ。 ・・・。 何せ俺は・・・」

そう言い掛けて、一瞬、


(チラッ)


不良が雪を見た。
それから続けた。

「ソイツと違って・・・」

ここで再び、視線を外道に向けた。

「俺は空は飛べんからな」

「あぁ。 そういう事か」

「あぁ。 そういう事だ」

「だが、何のためにアイオロスを止めるんだ?」

「ティアマトの石化を完成させるためにだ」

「ティアマトの石化を完成させるために?」

「そうだ。 ティアマトの石化を完成させればヤツは死ぬ。 だからだ」

「なるほど・・・。 しかし、簡単に言うが、そんなに上手く行くのか? 見込みはあるのか?」

「それはやってみなければ分らん。 ムーサ達が快く貸してくれるかどうかも分らんし、アイオロスを止められるかどうかも・・・な」

「もし、ムーサ達が貸してくれなかった時はどうするんだ?」

「その時は、作戦変更だ」

「作戦変更?」

「あぁ、作戦変更だ」

「・・・」

意味が分からず外道は黙っていた。
その外道の眼(め)をジッと見つめて不良が言った。

「ヘルメスのサンダルを盗む」

「え!?」

「ヘルメスの空飛ぶサンダルを失敬するのさ」

「ヘルメスの・・・?」

「そうだ。 盗人(ぬすっと)の守り神ヘルメスの空飛ぶサンダルをチョッとな。 チョッと失敬するのさ」

「盗人の守り神の物を失敬か・・・。 ソイツはチト面白い。 お前にしちゃ上出来だな、不良。 だが・・・。 盗人に守り神なんているのか、本当に?」

「あぁ、いる!! 面白い事にな。 面白い事に古代ギリシャにはいたんだ、盗人の守り神が。 盗人の守り神ヘルメスがな。 もっとも、このヘルメスという神は同時に商業や貿易の神でもあるんだが。 その盗人の守り神を出し抜いてチョッと失敬するのさ、サンダルをな」

「だが、戦闘向きでないお前の能力(ちから)で本当に大丈夫なのか? 出来るのか、そんな事が?」

「まぁ、何とかなるだろう」

「『まぁ、何とか』 って、そんな事で本当に・・・」

それを遮って不良がキッパリと断言した。

こぅ・・・

「心配無用だ。 俺には取って置きの秘密兵器がある。 取って置きのな・・・。 だから心配するな。 必ず盗んでみせる盗人の守り神からな、その一番大切なサンダルを。 フフフフフ・・・」

不良が笑った。
不敵にも。

「・・・」

その姿を外道は黙って見ていた。
意外だという表情をして。
珍しく感情を露(あらわ)にしている不良が珍しかったのだ。

そして不良が笑い終えたのを見計らって、

「ところで、さっきから気になっているんだが、その暗燈篭 芽枝(あんどうろう・めえだ)とかいう女はどこにいるんだ? ソイツに会わせてくれ」

外道が聞いた。

「それはダメだ!! 否、今はダメだ」

不良が即座に否定した。
いつも通りクールに。

「ナゼだ?」

外道も即座に聞き返した。

「ティアマトにばれる可能性があるからだ。 俺の計画がな。 それに俺達の存在もな。 もっとも、既にもう俺の方はばれてはいるが・・・。 しかし、お前達の存在はまだばれてはいない。 だから今はまだヤツに俺の計画とお前達の存在を悟られたくないんだ。 ジャンプの時まではな、知られたくないんだ」

「な~る(ほど)。 でも、居場所位は教えてくれてもいいだろ? それもダメなのか?」

「あぁ、それは構わん」

「どこだ?」

「ここだ」

「へ?」

「正確には、この裏手の旅館だ。 俺の診察室にいる」

「俺の診察室にいるって・・・?」

「そこで寝ている」

「寝ている? 三日もか?」

「あぁ、三日もだ。 意識がまだ戻らんのだ」

「フ~ン。 ・・・。 あ!? 家族は? その女の家族は?」

「分らん」

「分らんって・・・」

「一人暮らしだからだ。 否、恐らく一人暮らしだからだ。 何度、旅館の予約簿の連絡先に連絡を入れても誰も出ん。 だから家族には連絡がつかん」

「なら、警察には?」

「届けてはいない」

「届けてはいないって、マズイんじゃないか? それは」

「いぃや、マズクない」

「?」

「下手な事をしたら、返って女の命が危ないからだ。 だがらだ。 だから警察には届けてはいない。 もっとも、ここの連中はそうしたそうだったがな。 だが、俺がそれを許さなかった」

「な~る(ほど)」

外道が納得した。
そして飲み掛けのトアルコトラジャを、


(クィッ!!)










飲み干した。











つづく







タイタン2011 #40

#40




「で?」

外道が先に口を開いた。

「ん?」

不良が聞いた。

ここは応接間。
まだまだ、不良と外道の会話は続いている。

「どうするつもりなんだ?」

「・・・」

不良は黙っていた。

「・・・」

外道も黙った。

「・・・」

「・・・」

不良はジッと外道の眼(め)を見つめている。
自分の考えをどう外道に伝えたら良いか、考えているようだった。

二人の、否、その場の沈黙が続いく。

再び、外道が口を開いた。

「当然、何か考えているんだろ? だから俺を呼んだ。 しかも今回はコイツまで」

と、


(クィッ!!)


顎で雪を指し示して。

「あぁ、そうだ。 標識が必要だからだ。 だからお前達を呼んだんだ。 特に、その娘がな・・・。 その娘が必要だから呼んだんだ」

漸(ようや)く、不良が口を開いた。
雪に、


(チラリ)


一瞥をくれながら。

「標識? どういう事だ?」

と、外道が聞いた。

「あの女を助けるためには、ジャンプしなければならないからだ」

「ジャンプ?」

「そうだ! ジャンプだ!! 古代へのな。 古代への大ジャンプをしなければならないからだ」

「!?」

「前に一度やったな。 アレだ」

「前に一度やったって・・・。 アレか? あの時の?」

「そうだ!! あの時のアレだ」

外道と不良はパラレルワールドでの出来事を言っていた。
つまり、あの時、あの場所で、外道の記憶の中に不良が肉体ごと外道を伴ってワープしたあの時の事だ。

不良が続けた。

「今度は女の記憶の中にジャンプする!!」

「だがら帰って来るために標識が必要という訳か? そしてそれがコイツ」

再び、


(クィッ!!)


顎で雪を指し示して外道が聞いた。

「その通りだ」

「しかし、何のためにジャンプなんか・・・。 ティアマトを叩くためにジャンプが必要なのか?」

「いぃや。 ティアマトを叩くためにするんじゃない」

「え!?」

「ティアマトを叩くためにするジャンプじゃない」

「どういう事だ?」

「ティアマトは叩けんのだ」

「ティアマトは叩けん? 言ってる意味が分らんが」

「いいか破瑠魔、良く聞け」

「・・・」

「いやしくもティアマトは神。 しかも、今は肉体を持たない。 否、神に肉体はないか。 言い換えよう。 ティアマトは実体を持たない。 ただ、精神のみ。 否、コレも違うか。 精神という表現は微妙に違う気がする。 霊体・・・。 否、違う。 ウ~ム。 ・・・」

ここで不良はチョッと考えた。

『ハッ!?』

何かナイスな表現を思い付いた。

「意識!? そうだ!? 意識だ! 意識!! 意識のみ。 ティアマトは実体なしの意識のみ。 その意識のみの存在のティアマトを叩く術(すべ)を俺は知らん。 だからだ」

「だからジャンプか?」

「そうだ」

「しかし、ジャンプしてどうするつもりだ?」

「それは後で話す。 長くなるからな」

「後で?」

「あぁ、後でだ。 標識の件が先だ」

「・・・」

外道は黙った。
ジッと不良の眼(め)を覗き込んでいる。
不良の真意を測りかねているのだ。

「・・・」

不良も又、黙っていた。
やはり外道の眼(め)を覗き込むようにして。

「・・・」

「・・・」

暫し、その状態が続いた。
先に口を開いたのは外道の方だった。

「そうか、分った。 後で聞こう。 だが、ナゼ、コイツが標識・・・?」

三度(みたび)、


(クィッ!!)


外道が顎で雪を指し示した。

「・・・」

何も言わず不良が身を乗り出し、視線を外道から雪に移した。
そして聞いた。

「確か、妖乃 雪(あやしの・ゆき)だったな」

「うん」

「では頼む、妖乃 雪。 お前に俺の標識になってもらいたい」

「え!?」

雪が・・実は全く驚いてはいなかったのだが・・チョッと驚いた振りをした。
話のなりゆき上のリアクションだ。


(チラッ)


外道を見た。
目で外道の確認を取ったのだ。
雪のその視線を受け、

「お前はどうなんだ?」

逆に、外道が雪に聞いた。

「うん。 いいヶど」

雪がここまで外道に言ってから不良を見た。

「でも、何でアタシ?」

これに外道が呼応し、

「だからさっきも聞いたが、理由(わけ)を聞いてからだな。 コイツを選んだ理由(わけ)を」

雪に代わって不良に答えた。
不良が雪の眼(め)を見つめて言った。

「それはな」

ここで一旦、不良は言葉を切った。
ジッと雪の眼(まなこ)を覗き込んだまま。










そして・・・











つづく







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ジョーク大好き お話作んの大好き な!? 銀河系宇宙の外れ、太陽系第三番惑星『地球』 の!? 住人 death 。

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