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死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #208 最終回

#208 最終回




「それはこうじゃ。 苦竜はこうやったのじゃ。 先ず、ライバルの破瑠魔一族を知るや否や苦竜はその一族を調べ上げた。 するとその中に一人、恐るべき秘術を使う者のおる事を知った。 恐るべき炎術を使う者がのう」

「炎術でございますか?」

「そうじゃ、炎術じゃ。 この炎術を使う達人、それはその名を破瑠魔大道と言った」

「破瑠魔大道!? でございますか?」

「そうじゃ」

「さすれば名前からして、やはり破瑠魔外道とは何やら有りそうでございますな」

「恐らくはな」

「して、苦竜はどのように?」

「ヤツは・・苦竜は・・この破瑠魔一族の守護本尊・魔王権現に成り済まし、この破瑠魔一族の長(おさ)にその神託と称して妖一族の所在を告げ、これを討てと命じたのじゃ。 当然、破瑠魔一族はその追手に大道を加えた。 それも頭としてのう。 それを見て、次に苦竜は自らの死人帖にこう記したのじゃ。


  妖 玄丞。
  ある強力な炎術使いの手に掛かり、全身焼かれて死亡。


とな」

「して、首尾は?」

「全て苦竜の思惑通りじゃ。 妖 玄丞は破瑠魔大道に討たれ、その恐るべき炎術により灰燼(かいじん)と帰したのじゃ」

「そうだったのでございますか」

「あぁ」

「だが、ナゼこれを封印なされたのでございますか?」

「簡単じゃ。 そのような死人帖の通じぬ人間が現れたという事になると死神界の存続が危うくなる。 その時ワシはそう判断した。 そして死神どもには以後二度とこの妖 玄丞の名を口にする事を禁じたのじゃ。 而(しか)して後・・・500年。 怠惰な死神界の風潮のお陰でいつの間にかこの妖 玄丞の件は忘れ去られてしもうたのじゃ。 最早、これを知る者はワシを置いて他にはおるまい。 そこまでにのう」

「然様(さよう)でございますか、そのような事が・・・」

「あぁ、そうじゃ」

「しかし、それでもやはりこの件はこのまま捨て置く訳には参らぬかと。 如何(いかが)でございましよう、大王様。 この不良孔雀は置いて置くとして、せめて破瑠魔外道と妖乃 雪の両名は裁いておくべきかと・・・」

「ならん!! 断じてならん!!」

「し、しかし、大王様。 このような者達を生かして置いたと有っては、やはり配下の死神どもに示しが・・・」

「良いか、安母尼亜」

「ハッ!!」

「この破瑠魔外道が、あの妖 玄丞を破った破瑠魔大道の流れであるとすれば、此奴が如何(いか)なる能力を隠し持っておるか計り知れぬ。 又、この妖乃 雪がもしあの妖の女・雪と深い関わりが有ったならば、それこそ一大事じゃ。 恐らくこの3人の中で一番恐ろしきはこの妖乃 雪じゃ」

「妖乃 雪がでございますか? あんな小娘が・・・」

「そうじゃ、妖乃 雪がじゃ。 あの妖の女・雪を知っておる者なら皆そう思うはずじゃ」

「お言葉ではございますが大王様。 いくらなんでもあの年端(としは)も行かぬ小娘如(ごと)きが・・・」

大王が遮って言った。

「いぃや。 その年端も行かぬ小娘如きが一番恐ろしいのじゃ。 聞くのじゃ、安母尼亜 邪主天よ。 もしこの妖乃 雪があの妖の女・雪の流れであったなら、俄(にわ)かには信じ難(がた)いかも知れぬが・・・」

ここで大王はチョッと間を取った。
一呼吸置いた。
そして感慨深げにこう続けた。

「我等死神総掛かりでも恐らくは敵うまい」

これを聞き、安母尼亜 邪主天は驚いた。

「こ、小娘一人にでございますか!? 高が小娘一人如(ごと)きにでございますか!?」

「あぁ、そうじゃ。 高が小娘一人如きにじゃ。 もし下手を打つような真似をしたら。 この小娘一人如きに我等死神は皆殺しにされるじゃろう」

「・・・」

安母尼亜は黙っていた。
動揺していた。
というのも、まだ女子高生の雪が、隠そうとせずに駅の階段を上って行くのを下から見上げたら間違いなくパンツ丸見えの雪が、外道、不良を遥かに凌ぐと言われても、それを素直に受け入れられなかったのだ。
況(まし)してや、死神界総出で掛かっても妖乃 雪、たった一人に敵わないなど到底信じられる話ではなかった。

だが、

その安母尼亜 邪主天に死神大王が厳しく言い聞かせた。

「よってこの3人に手を出す事は相成らん。 見る事もじゃ」

「み、見る事も? で、ございますか?」

「そうじゃ。 我等がもし此奴等(こやつら)を死神界(ここ)から見たとする。 さすれば彼奴等(きゃつら)は必ず、見られている事を感じ取り、誰が何処(どこ)で見ておるかを知ろうとするはずじゃ。 そうなれば大変じゃ。 彼奴等は必ず死神界(ここ)を突き止める。 その時もし我等が彼奴等を見るのを止めねば、それを止めさせようとして彼奴等が死神界(ここ)へやって来るのは必定だからじゃ」

「お、お言葉ではございますが、大王様」

「何じゃ?」

「いくら彼奴等が恐るべき能力(ちから)を持つ者達とはいえ、いくらなんでも死神界(ここ)へ参る事は・・・無理かと」

「ウム。 ソチの言う通りかも知れぬ。 じゃがな、安母尼亜 邪主天よ。 ソチはこれまであのようなやり方で死人帖を破る事を考えた事が有ったか?」

「いぃえ、大王様。 思いもよらぬ事でございました」

「ならば今、ソチが思いもよらぬ死神界(ここ)へ彼奴等がやって来る可能性をどう否定する」

「そ、それは・・・」

安母尼亜がチョッと口ごもった。
それを見て大王がキッパリと命じた。

「これは余(よ)の命令じゃ!! この3人、即ち、不良孔雀、破瑠魔外道、それに妖乃 雪には今後一切関わってはならぬ!! 見る事もじゃ!! 良いな、然様に触(ふ)れを出すのじゃ!!」

「ハハァー!!」

大王の命令を渋々聞き入れ、そそくさと立ち去る死神界元老院・筆頭元老・安母尼亜 邪主天の後ろ姿を見送りながら、死神大王は思っていた。

『不良孔雀、破瑠魔外道、そして・・・。 妖乃 雪・・・か。 何と恐ろしき者達じゃ・・・。 曲りなりにも神である死神を殺すとは・・・』

と。

そして又、こうも思っていた。

『如何(いか)に死神界のためとはいえ。 苦竜よ、許せ!! 許すのじゃ!! ソチの敵を討とうとせぬ、この父を。 わが息子・苦竜よ・・・』

とも。

そぅ。

死神・苦竜は、死神界の王、即ち、死神大王の隠し子だった。
よっていずれは死神大王となったかも知れない身分だったのである。

悪戯が過ぎなければ・・・










時に、平成21年5月1日からゴールデンウィーク終了までの10日間・・・
春まだ若干肌寒さの残る、しかし季節外れの台風に見舞われた日本のある地域での出来事であった。











死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― お・す・ま・ひ



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死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #207

#207




「・・・苦竜じゃ」

「エッ!? 苦竜!?」

「そうじゃ。 苦竜だったのじゃ、その死神は。 知っての通りヤツは遊び好きじゃ。 しよっ中、ワシ等の目を掻(か)い潜っては人間界に入(い)り浸(びた)っておった、昔も今も変わらずにのう。 よって、人間界の情勢に誰よりも精通しておったのじゃ、苦竜は。 それからヤツはこの妖一族を観察した。 来る日も来る日もな。 余程興味があったのじゃろう、ヤツは観察し続けたのじゃ、この妖一族を。 それはそれは辛抱強く数ヶ月に渡って。 そして終に発見したのじゃ。 この妖一族にはライバルがおる事を」

「ライバル?」

「そうじゃ。 因縁浅からぬライバルじゃ。 そのライバルこそが何を隠そう・・・破瑠魔一族じゃ」

「ハルマ!?」

「そうじゃ破瑠魔じゃ」

「破瑠魔外道のハルマでございますか?」

「恐らくそうじゃ、その破瑠魔じゃ」

「な、何という事!?」

「じゃが、驚くにはまだ早い」

「と、申されますと?」

「ウム。 この苦竜が殺した妖 玄丞には一人娘がおった」

「ハァ~?」

「気のない返事じゃな」

「はぁ。 唐突に娘と申されましても・・・」

「そうじゃな。 そうかも知れぬな、知らぬ者にとってはな」

「・・・」

「良かろう。 教えてやろう。 この妖 玄丞の一人娘の名を」

「・・・」

「妖 玄丞が一人娘。 その名は・・・雪じゃ」

「雪?」

「そうじゃ」

「・・・」

「・・・」

一瞬の沈黙があった。

突然、

『ハッ!?』

安母尼亜 邪主天が何かに気付いた。
そして言った。

「も、もしや。 もしや、その雪とは。 妖乃 雪と何か?」

「ウム。 ハッキリした事は言えんが、妖の女・雪とこの妖乃 雪には何か深~い係(かか)わり合いが有るのではなかろうか」

「確証は有るのでございましようか?」

「いぃや、ない!! ワシの勘じゃ」

「ならもし、破瑠魔外道が破瑠魔大道の流れ。 加えてこの妖乃 雪と妖の女・雪との間に何らかの縁(えにし)が有るとするなら、苦竜はかつて自分が殺した人間縁(にんげん・ゆかり)の者達の手に掛かって死んだという事に」

「そういう事じゃ」

「・・・。 因縁でございましようか?」

「あぁ。 認めとうはないがのう」

「しかし、苦竜は如何(いか)にしてその妖 玄丞とやらを?」

死神界元老院・筆頭元老・安母尼亜 邪主天のその問い掛けに死神大王が答えた。

「それはこうじゃ。 苦竜はこうやったのじゃ。 ・・・」










と。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #206

#206




「先程、ソチはこう申したな。 手助けした男女の名を、破瑠魔外道と妖乃 雪(あやしの・ゆき)と」

「確かに」

「ソチは知らぬのであろう。 如何(いか)に筆頭元老とはいえソチはまだ若い故」

「何をでございましようか?」

「実を申せば、かつて我等死神を殺した人間がこの不良孔雀とやらの他にもう一人おったのじゃ」

「エッ!? そ、それは誠でございますか?」

「あぁ。 誠じゃ」

「だ、誰でございます、その者は?」

「その者の名は・・・」

死神大王はここで言葉を切り、一呼吸置き、それから続けた。

「妖 玄丞(あやし・げんじよう)じゃ」

「妖 玄丞? 初耳でございます」

「そうじゃろう。 この名はワシが封印したのじゃからな」

「ナゼでございます?」

「筆頭元老・安母尼亜 邪主天。 ソチには語らねばなるまい。 封印した全てを。 あの忌わしい出来事、その全てを。 筆頭元老・安母尼亜 邪主天よ、良~く聞くのじゃ。 これは今より500年前の出来事じゃ。 その頃、人間界における日本は戦国時代じゃった。 その群雄割拠する中、人目を避けヒッソリと暮らす山里が有った。 世捨て人の集落じゃ。 その集落は、その名を妖一族と言うた。 ナゼ人目を避けておったのか、それは彼奴等(きゃつら)は追われておったからじゃ、因縁浅からぬ別の集落の住民達に。 その更に一千年前の出来事故に」

「その更に一千年前の出来事故・・・!? で、ございますか?」

「あぁ」

「して、その出来事とは?」

死神大王は語った、あの破瑠魔人道と妖の女・蛮娘の物語を・・・


(この物語は 『妖女 #135~』 を!? ご参照下さい : 作者) http://00comaru.blog.fc2.com/category13-4.html


そしてこう付け加えた。

「その昔ある死神がおった。 その名を屍童(しどう)という。 ある時、其奴(そやつ)は自らの死人帖にある男の名を書いた。 そしてその男の死ぬのを待った。 当然、その男はそこでそのまま死ぬるはずじゃった。 心臓麻痺でじゃ。 ところがじゃ、ところがこの男はいよいよ死ぬるという正にその瞬間、雷に打たれたのじゃ。 普通ならそれでお陀仏(だぶつ)じゃ、心臓麻痺ではのうて。 じゃが。 じゃが、不思議な事にその男は死ななんだ。 落雷の直撃にも耐え、心臓麻痺にもならず、その男は生きておったのじゃ、何か分からぬ我等の理解を超えた力が働いて・・・。 そう。 我等の理解を超えた摩訶不可思議(まかふかしぎ)な死人帖すら打ち消す力が働いてのう。 代わりにこの死神・屍童が死んだ、死人帖の規則により。 同時に屍童の死人帖も消滅した。 やはり死人帖の規則によってじゃ。 そしてその男は、その名を・・・」

「妖 玄丞でございますか」

「そうじゃ、妖 玄丞じゃ。 しかもこれ以後、此奴(こやつ)の予定没年月日時はのうのうた。 そう。 消えたのじゃ、此奴の予定没年月日時が。 しかしこの事件はその時点では誰にも全く気付かれなんだ。 つまり死神・屍童の死因は謎に包まれたままだったのじゃ。 そしてそのまま百数十年の歳月が流れた。 そんなある日。 この屍童の跡を継いだ死神・主水(もんど)が屍童の遺品の中から偶然一冊のノートを見つけたのじゃ」

「一冊のノート!? 死人帖でございますか?」

「いぃや、違う。 日記帳じゃ」

「日記帳?」

「そうじゃ。 日記帳じゃ」

「ククククク・・・」

「何を笑う?」

「これが笑わずにおられましようゃ? ククククク・・・」

「ン!? ナゼじゃ?」

「死神が日記帳でございますか? 死人帖でもなく、閻魔帳でもなく。 日記帳。 ククククク・・・」

「死神が日記をつけるのが、そんなにおかしいか?」

「初めて聞きました故。 ククククク・・・」

「死神界元老院・筆頭元老・安母尼亜 邪主天よ、予(よ)の前でそのように笑うではない」

「アッ!? こ、こ、こ、これは大変失礼致しました。 で、で、出過ぎた真似、平にご容赦を・・・」

「まぁ、良い。 ソチが笑うのも無理はない。 今のこの怠惰な死神界で育ったソチがそのように笑うのも無理からぬ事じゃ。 じゃがのう、安母尼亜 邪主天よ。 昔はおったのじゃそのようなマメな死神も、少しはな、この死神界にも・・・。 そして屍童はそのマメな死神だったのじゃ。 対して、その跡取りの主水は全くその真逆。 横の物を縦にもしようとはせぬ程の物臭(ものぐさ)じゃった。 何せ目の前にあった屍童の日記帳を百年以上も放置しっ放しだったのじゃからな」

「目の前の日記帳を百年以上もでございますか」

「あぁ」

「中々の無精者のようでございますぁ、その主水とやらは」

「中々どころか、今のこの怠惰な死神界でも中々見付けられぬ程じゃ」

「そのようでございますなぁ。 ところで、そのマメな死神・屍童はその日記帳に何と?」

「それじゃ。 この屍童という死神は、稀(まれ)に見るマメさでのう。 自らが死人帖に記載した人間の情報を一々全部、それはそれは実に事細(こと・こま)かにそのノートに書き記しておったのじゃ。 己が目をつけた時点から死ぬる様子までを実に事細かくな。 そしてその一番最後に書かれて有ったのが・・・」

「妖 玄丞」

「その通り。 否、正確には 『妖 玄丞死せず。 死人帖敗れたり。 よってわが命ここに尽き果てたり・・・』 と、ここまでじゃ」

「それで事実が露見?」

「そうじゃ。 しかし、このような事はかつて有り得ん事じゃった。 ために死神界は大騒ぎ、大パニックになった。 当然じゃ。 死人帖が通用せぬ人間がおったのじゃからのう。 しかも其奴(そやつ)はまだ生きておった、人間の分際で百数十年も。 それも予定没年月日時なしの名前のみでじゃ。 故にこの屍童の敵討ちとばかりに、次々と多くの死神達が先を争うてこの妖 玄丞の名を自らの死人帖に記載し始めたのじゃ。 どのように死の設定をすればこの妖 玄丞を殺せるかとのう。 じゃが、それらは全てダメじゃった。 全く効かなかったのじゃ、この妖 玄丞という男には・・・。 と、すれば妖 玄丞の名を自らの死人帖に書き込んだ者達はどうなったと思う?」

「死!? で、ございますか?」

「その通り。 死じゃ。 全て死におった。 こうなるとそれまで暇を持て余して来た死神達は益々エスカレートして行き、それはもうまるでロシアンルーレットの様相を呈して来たのじゃ。 その勢いたるや凄まじく、それはもう、このまま行けば死神界は滅びるのではないかとさえ思える程じゃった。 恐らく死神界の死神の五分の一はあれで死んだであろう。 よってこれを何とかせねばならぬ。 故に我等は知恵を絞った。 死神界を滅びさせぬためにはどうすれば良いかをな。 その時じゃ、その時・・・。 まぁ、大王のワシがこのような事を申すのもなんじゃが、あれこそ正に天の助け。 そこに1匹の死神が現れた。 そして其奴が見事この妖 玄丞なる人間を仕留めたのじゃ」

「誰でございます、その死神は?」

大王はここでチョッと間を取った。
それから徐(おもむろ)にこう言った。










「その死神の名、それは・・・」











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #205

#205




「大王様。 誠に残念なご報告を致さねばなりません」

「ン!? どうした?」

「ハッ!! 死神・苦竜が殺されましてございます」

「ヌッ!? ナ、ナント? 苦竜が殺されたじゃと?」

「然様(さよう)で」

「ど、どういう事じゃ?」

「苦竜が人間どもの手に掛かり消滅致したのでございます」

「いつじゃ?」

「つい、先程」

ここは死神界。
死神大王の宮殿である。
今、正に、苦竜の死が死神界元老院・筆頭元老・安母尼亜 邪主天(あんもにあ・じゃすてん)によって死神大王に報告されていた。(死神大王、安母尼亜 邪主天、及び、死神界等々は適当にご想像下さい。 だってェーーー!! 一々書くの~・・・めんどちぃんだよ~~~~~ん!! ま!? デスノでも参照してチョ : 作者)

「詳しく申してみよ」

「ハッ!!」

筆頭元老・安母尼亜 邪主天が苦竜消滅の経緯(いきさつ)を掻(か)い摘(つま)んで死神大王に語った。
全てを聞き終えて大王が言った。

「フゥ~。 そうか。 そのような事が有ったのか」

「ハッ!!」

「で、その3人の名は分かっておるのか?」

「既に判明致しております」

「申してみよ」

「先ず、苦竜を消滅せしめました張本人はその名を不良孔雀。 男でございます。 次にこれを手伝った者達男女2名、男の名は破瑠魔外道。 おんな・・・」

『!?』

破瑠魔外道という名前を聞き、大王は驚いた。
そして安母尼亜の言葉を遮った。

「ハルマ!? 今、破瑠魔と申したか?」

「御意(ぎよい)。 破瑠魔外道と」

「・・・」

大王は言葉に詰まっていた。
顔が引き攣っている。
体もかすかに震えているようだ。
そのまま暫(しば)らくギコチナイ間(ま)が続いた後、大王が厳しい口調で安母尼亜に聞いた。
否、
問い質(ただ)した。

「さ、最後の一人は、最後の一人は何と申すか?」

「女でございますか? その女、その名は・・・妖乃 雪(あやしの・ゆき)」

『ガーーーン!?』

雪の本名を聞き、大王は今度は衝撃を受けた。

「あやしの!? 妖乃 雪!? い、今そう申したか? 間違いのう、妖乃 雪と申したか?」

「御意」

「な、何という事じゃ!!」

「如何(いかが)なさいましたか、大王様? お顔の色が優れませぬが・・・」

「ま、まさか・・・。 そ、そのような事が・・・」

大王はうろたえていた。
安母尼亜が再び聞いた。

「この3人、如何(いかが)致しましよう?」

「・・・」

大王は無言のまま微(かす)かに震えている。
安母尼亜が続けた。

「このまま捨て置く訳にも参りませぬ。 何せ人間ごときに死神が殺されたとあっては示しが付きませぬ故・・・。 配下の死神どもも今、苦竜の敵討(かたきう)ちだと浮き足立っております」

ここでやっと大王が口を開いた。

「な、ならぬ!! この3人に手出ししてはならぬ!!」

「ナゼでございます?」

「考えてもみよ。 一度死人帖を破った以上、この不良孔雀には二度と我等の死人帖は効かぬと思わねばならぬ。 既に死人帖で此奴(こやつ)を倒す事は出来なくなっておるはずじゃ。 されば、最早、此奴は我等の手には負えぬ」

「しかし此奴を倒す手立てが他にない訳ではございません」

「ン!? 何か有るのか?」

「ハッ!! 如何(いか)に此奴とはいえ、我等の死人帖に触れさせねば此奴に我等の姿は見えませぬ。 とすれば、此奴を倒すのは造作(ぞうさ)もないかと・・・」

「見えたらどうする?」

「ハァ~?」

「死人帖に触れずして、此奴が我等の姿を見たらどうするのじゃ、と聞いておる」

「そ、そのような事が・・・」

「有ったらどうするのじゃ?」

「そ、それは・・・」

「先程、此奴は未知の空間に入(い)る事によって、苦竜の死人帖を破ったと申したな?」

「その通りでございます」

「では聞く。 我等の住める所は何処(どこ)じゃ?」

「死神界と人間界でございます」

「それ以外は?」

「有りませぬ」

「ならもし、此奴が我等の姿を見る事が出来、我等を未知の空間に引きずり込んだら、一体我等は何とする?」

「死。 有るのみかと」

「そうじゃ」

「し、しかし、まだ我等の姿を見る事が適(かな)うかどうかは・・・」

「適(かの)うた時の事を考えよ。 此奴等(こやつら)は普通の人間とは違う。 同じ物差しで考えるととんでもない事になる」

「ハ、ハァ・・・?」

死神大王のこの命に対し、安母尼亜 邪主天は気のない返事で一応相槌だけは打った。
だが、
大王はそれに構わず、追い討ちをかけるようにこう続けた。

「それにじゃ。 それにもう一つ訳が有るのじゃ」

「は? どのような訳でございましよう?」

死神大王は一旦ここで黙った。
一呼吸置いた。
そして言った。

「それはのう・・・」

から初めて・・・










こぅ。。。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #204

#204




(スッ!!)


外道が椅子から立ち上がった。
近付く人の気配を感じたのだ。
それは大河内の連絡を受け、急遽(きゅうきよ)駆け付けて来た雪の専任担当医、鶴見区 辰吾(つるみく・しんご)と女性看護士だった。
勿論、大河内も一緒だ。

女性看護士が言った。

「ハィハィハィハィハィ。 二人とも出て下さい。 ハィハィハィハィハィ」

外道と大河内が病室から締め出された。
大河内が外道に話し掛けた。

「心配でございますなぁ、雪様。 命に別状がなければ・・・」

「大丈夫ですよ、大河内さん。 雪は死にません」

「エッ!?」

「雪に死相は出てはいない。 確かに顔色は尋常ではない。 しかしあれは死相ではない。 だから大丈夫です」

「そ、そうでございますか。 そ、それを伺いまして、些(いささ)かですが安心致しました」

「大河内さん。 不良の病室へ案内して下さい。 ここでこうしているのもなんですから」

「で、でも、雪様の手当てが済みましたら、雪様きっと又破瑠魔様にお会いしようとなさって・・・」

「その心配は無用です。 手当てが済んでも雪は当分目覚めません。 わたしには分かります」

「そ、そうでございますかぁ。 まっ!? 破瑠魔様がそう仰(おっしゃ)るのなら・・・。 では、ご案内致します。 不良様の病室は北の616号室。 ここの建物の一番端になります。 こちらございまです」

不良の病室は北病棟の一番端、集中治療室だった。
廊下に杉上と亀谷の姿が有った。
病室前のベンチに杉上が越し掛け、その横に亀谷の乗った車イスが有る。
二人が外道達に気が付いた。
杉上が立ち上がった。
そして聞いた。

「破瑠魔先生。 もう、起き上がっても大丈夫なのですか?」

「あぁ」

亀谷は目を真ん丸くして驚いている。

「タ、タ、タフっスネ」

「まぁ、な。 そんな事よりどうだ、不良は? 入れないのか?」

「はい。 先程又、意識がなくな・・・」

そこまで杉上が答えた時、不良の病室のドアが開いた。
中から、不良の専任担当医・北千住 浩一(きたせんじゅ・こういち)が出て来た。

外道が聞いた。

「どうですか? 不良の具合は?」

「はい。 何とか峠は越えたようなのですが、一進一退です。 予断はまだ許されません」

その時、病室から女性看護士が顔を出した。

「先生。 不良先生の意識が戻りました。 破瑠魔さんという方に会いたいと・・・」

外道が聞いた。

「ン!? ナゼ俺がいるのが分かった?」

看護士が聞き返した。

「破瑠魔さん・・・ですかぁ?」

「あぁ、そうだ」

「はい。 『破瑠魔がいるはずだ。 気配(けはい)を感じる』 と」

『気配・・・か。 それが分かるなら案ずる事はない・・・か?』

外道は思った。
そして北千住に聞いた。

「不良と話がしたい。 いいかな?」

「チョッと待って下さい。 様子を見て来ますから」

そう言って北千住が再び不良の病室に戻った。
当然、ドアは閉められた。
だが、
直ぐにそのドアが開いた。
北千住と看護士が出て来た。

「中へどうぞ。 ただし5分、5分間だけです」

そう言い残して北千住と看護士はナースセンターに向かった。

外道が杉上達に言った。

「失礼する」

亀谷がチョッと驚いた様子で聞いた。

「エッ!? 自分達は?」

「後にしてくれ。 二人だけで話がしたい」

「あ、そう。 そうっスか、二人だけネ、二人だけ。 はい」

外道一人が病室に入った。

不良は仰向けのまま両目を瞑(つむ)っていた。
しかし眠っている訳ではなかった。
外道にはそれが分かった。
外道が不良の寝ているベッドに近寄った。


(スゥ~)


不良が目を明けた。
天井を向いたそのままの状態で不良が聞いた。

「破瑠魔か?」

「そうだ」

「あの娘(むせめ)はどうしている?」

「心配は要らん。 今、眠っている」

「そうか」

「お前のお陰だ」

「・・・」

「・・・」

二人の会話は暫(しば)し途切れた。
先に口を開いたのは不良だった。

「杉上は?」

「無事だ。 外にいる。 ・・・。 分かっていたのか?」

「あぁ」

「・・・」

「・・・」

再び会話が途切れた。
今度も不良が先に口を開いた。

「破瑠魔。 悪かったな、お前達を巻き込んで」

「オッ!? どうした不良!? お前らしくもない。 随分と又しおらしいじゃないか、え?」

「ン!?」

「いつものお前ならこうじゃないのか? 『滅多に味わえない経験をさせてやったんだ、有り難く思え』 とかなんとかな」

「フッ」

不良は笑った。
そしてボソッと呟(つぶや)いた。

「滅多に味わえない経験・・・か。 そうかもな」

「あぁ、そうだ」

「・・・」

「・・・」

三度(みたび)、二人は黙った。
今度は外道だった。

「俺はこれで失礼する。 杉上達も会いたがっているからな。 替わりに入って来るゾ、あの3人。 いいか?」

「あぁ、構わん」

「じゃぁ、な」

「・・・」

不良は黙っていた。


(クルッ!!)


外道が不良に背を向けた。
ドアに近付いた。
そのままドアを開けようとした。

だが、

思い止まった。
そして振り返った。
不良は両目を瞑っていた。
今度は本当に眠っているようだった。
その姿を見て外道は思った。

『やはり医者の言った通り、まだまだ予断は許されない一進一退状態のようだ』

そして耳に届かないと分かってはいたが、その不良に外道が声を掛けた。

「不良・・・」

と一言。

そしてもう一言。

「良くやった」

その時、

「フッ」

気のせいかも知れないが、一瞬、不良が笑ったように見えた。

『ン!? 気のせいか・・・』

そう思いながら外道は病室を出た。

外道が出て来ると亀谷が真っ先に口を開いた。

「ど、どんなっスか、不良先生?」

「あぁ、眠っている。 悪いがまだお前たちに会うのはムリだ。


つー、まー、りー、・・・


『無理ーーー!! 無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』



だ。 会うのはもうチョッと後にしろ」

「そ、そうっすか・・・」

「そうだ」

そう言い残して、雪の病室に向かって外道が歩き始めた。

「アッ!? は、破瑠魔様、わたくしめもお供致します」

慌てて大河内が外道の後を追った。
雪の病状が心配で心配で居ても立っても居られない大河内であった。

その二人の後ろ姿を見送った後、チョッと経って亀谷は、

『ハッ!?』

っとした。

「お、俺っちの車イス、だ、誰が・・・」

それを聞き、杉上が言った。

「看護士さんにお願いしましょう。 後で呼んで来ます」

「す、すんません。 お願いしまっス。 ・・・。 ところで左京さん」

「ハィ?」

「これから俺等どうしたら?」

「暫らくここにいて不良先生の回復をお待ちしましょう。 やはりお会いして一言お礼を・・・」

「そ、そっスネ。 お礼言わなくっちゃっスネ。 何つったって、今回の立役者だったっスからネ、不良先生」

「はい。 その通りです。 今回の立役者は不良先生です」

 ・・・

今、その立役者の不良はピクリとも動かず静かに眠っている。
外道達のやり取り等、全く知る事なく。。。



そうだドクター不良孔雀。
今は静かに眠れ、
次はもう・・・










始まっている。。。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #203

#203




(バチッ!!)


強烈な雪のビンタが飛んだ。
それは見事に外道の顔面にヒットした。

「外道のスケベ、変態!!」

という罵声と共に・・・



だったら良かった。

しかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーし、

雪は普通の女子高生とは違う。
一味違うのだ、雪は。(「何の “アジ” だ?」 ナ~ンて聞いちゃダメよン : 作者)


(ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)


外道のモッコリを見つめている。
目を切ろうとする気配はない・・・全く。
雪はそのモッコリをただひたすら見つめ続けた。
そして一言こう言った。

「気持ち悪~~~ィ!!」

って。


(ガーーーン!!)


コ、コレは効いたゾー!!

トカゲの攻撃よっか効いたゾー!!

あの気持ち悪~ぃトカゲのおヨダよっかズーっときいてっゾー!?

果して外道はこの衝撃に耐えられるのかーーーーーーーーーー!?

「こ、こら、雪!! み、見るな!! 見るんじゃんネェ!!」

うろたえた外道が喚(わめ)いている。
しかしそんな程度で雪に通じる訳がない。


(ジーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!)


雪は見つめ続けたままだ。
それを。
しかも息を殺して。
目を切る気配は全くない。
そしてそれを、


(ピッ!!)


って鋭く指差して涼し~いお顔でこう言った。

「先生。 コレ気持ち悪いネ」

って。

とっても爽(さわ)やかに。

「こ、こら、雪ー!! そ、そういう台詞、そんなに落ち着き払って言うんじゃネェー!!」

「だってホントの事だよ。 コレ気持ち悪~~~ぃ」

「コ、コラー!! 雪ー!! そんなにジーっと見るんじゃネェー!!」

雪が外道のモッコリをジーっと見つめながら言った。
それも真顔で。
指差したままで。

「雪がまだ幼稚園の頃、パパとお風呂入った時パパの見た事有るけど、こんなに気持ち悪くなかったと思うよ」

「クッ!?」

「『パパには有るのにナンで雪にはないの?』 って聞いたら、パパがネ。 『ウン。 そのうち雪にも生えて来るよ』 って。 でも、生えて来なかったヶどネ。 ヶど良かったな、生えて来なくって。 こんな気持ち悪いんじゃ」

相変わらず雪は外道のモッコリを指差している。
それも涼しいお顔で。

「あ、あのなぁ、雪」

「なぁに?」

「さっきから気持ち悪い気持ち悪いって言ってヶどなぁ」

「ウン。 気持ち悪い」

「クッ!? ・・・。 で、でもだなぁ、ゆ、雪。 いずれコレをだなぁ、そのなんだぁ。 こう、な!? こう~・・・。 何てユゥか、こう、な!? こう~・・・」

「雪のココに入れるんでしょ」

そう言いながら雪は右手の掌で、患者着の上から自分のオマタを軽~くパンてした。

「コ、コ、コ、コラー!! 雪ー!! そ、そ、そ、そう言う事を!! そう言う事を女の子が言うんじゃネェー!! そんなにサラ~っと言うんじゃネェー!!」

「ウン。 いいよ、入れても。 コレ気持ち悪いヶど、雪、我慢してあげるから」

「ヘッ!?」

一瞬外道は、それはそれはイヤラシ~~~イ妄想こいた。

ニマ~、ニマ~

って。。。

「でも、まだ入れちゃダメだよぉ。 雪が先生のお嫁さんになるまで入れちゃダメだよぉ」

「クッ!?」

このやり取りを見るに耐え切れず、既に落ち着きを取り戻していた大河内が言った。

「コホンコホン。 ぁ、あの~。 さしもの破瑠魔様も・・・。 いやはやいやはやいやはや、何と言って良い物やら・・・。 いやはやいやはやいやはや、雪様には歯が立ちませんなぁ。 全く~。 ハィ~」

「い、い、いや~。 お、お恥ずかしい。 全くお恥ずかしい所を見られてしまった。 チョッと大河内さん手を貸してくれますか。 力が入らず立てんのです」

これを聞き、

「雪が立たせてあげる」

空(す)かさずそう言って、雪が外道のモッコリを指差すのを止め、立ち上がろうとした。

「い、否、いい、雪!! そ、それには及ばん。 雪にはもう立派に立たせてもらった」

「『立たせてもらった』 ってコレの事?」

再び雪が外道のモッコリを指差した。

「コ、コラー!! 雪ー!! そうやって指差すんじゃネェー!! オ、オメー!! ホ、ホ、ホントに処女かー!!」

「ウン。 処女だよ。 決まってるじゃん。 雪、固いんだよ。 先生のコレよっかズッと固いよ」

って、又々指差した。

「だ、だ、だ、だからー!! そうやって一々指差すんじゃネェー!! っつてんだろーーー!!」

うろたえる外道を尻目に雪が力を貸そうとして立ち上がり、外道に覆い被さった。

その瞬間、


(ドサッ!!)


雪の体が外道の上に崩れ落ちた。
うつ伏せ状態でだ。
外道は驚いた。
そして反射的に、


(ガバッ!!)


上体を起こした。
それまで全く力が入らなかったのに。
火事場のクソ力というヤツだ、雪の身を案ずる一心から出た。

「雪!?」

外道が雪の体を起して呼びかけた。
雪の意識がない。
額に触れた。
凄い熱だ。
脈を見た。
正常だった。
しかし、少し弱いか?
呼吸に乱れはない。
だが、少し速いか?
やはりまだ起きるには早かったのだ。
当然だ。
普通の人間ならまだまだ絶対安静、否、それどころか生きているのが不思議な程酷い状態だったのだから。

『バカが無理しやがって』

外道は思った。
そしてベッドの上で雪の体を落ちないように横に除(の)け、

『クッ!!』

痛みに耐えながら左枕下に設置されている点滴のレバーを上体をグゥーっと伸ばして右手でナントか止め、急いで左腕に注されている針を引き抜き、歯を食い縛った必死の形相でベッドから出て立ち上がった。
それから患者着の乱れを直し、雪を抱き上げた。
お姫様抱っこだ。

だが、


(プルプルプルプルプル・・・)


外道の全身は小刻みに震えている。
無理もない。
たったの今まで意識不明だったのだから。
それでも外道は雪のために踏ん張った。

一方、

大河内はと言えば、突然の雪の異変に動揺し、我を忘れている。
全く外道に手を貸す事なく、呆然とその場に立ちすくんでただ外道の行動を見つめているだけだった。
それは手伝うのが嫌でそうしなかったのではなく、突然の事に気が動転して動けなかったのだ。
大河内はただ呆然として立ちすくみ、外道を見ているだけしか出来なかった。
本来の大河内なら即座に外道に手を貸し、看護士を呼ぶなり、大病院なら間違いなく置いてある車イスを取りに行くといった行動に出たはずだ。
しかしそんな簡単な事さえ今の大河内には出来なかった。
杉上や亀谷に比べれば特に傷や怪我といった肉体的損傷のなかった大河内だったが、やはり精神的には相当参っていたのだ。
今回、不良の立てたこの死神殺し作戦。
大河内の受けたプレッシャーは大変な物だった。
先ず、外道と雪に嘘を吐く。
これ一つとっても、真人間の大河内には途轍(とてつ)もないプレッシャーだったのだ。
そしてやっと作戦成功と思ったのも束の間。
自らは腰が抜け。
杉上、亀谷は骨折。
外道、不良、雪に至っては3日間も意識不明。
だからこの3日間、大河内は気持ちの休まる時間はたったの1秒もなかった。
その結果がこれだった。

その大河内に外道が言った。

「済まん、大河内さん。 ドアをあけてくれ」

これを聞き、

『ハッ!?』

大河内が我に帰った。

「ハ、ハ、ハ、ハィ!!」


(スルスルスルスル・・・)


大河内が急いで先程自分がキチンと閉めず、僅(わず)かだが開(ひら)いていたドアを開(あ)けた。
予想外の出来事に、大河内の取り乱し方が酷い。
一人、右往左往している。
何を如何(どう)して良いか全く頭が回らないのだ。
ただ、落ち着きなく辺りをキョロキョロ見回すのみ。
そんな大河内に外道が聞いた。

「雪の病室は?」

「は、は、は、はい。 き、き、き、北の、北の666号室です。 ご、ご、ご、ご案内致します」

「あぁ、済まん。 頼む」

大河内の先導で雪をお姫様抱っこした外道が雪の病室を目指した。
雪の病室は北病棟だった。
それはその病院の集中治療室が北病棟に有ったからだ。
しかしナゼか外道の病室は南病棟だった。
恐らくはベッドの埋まり方の関係だったのだろう。
丁度反対側だ。
だから雪の病室まではかなりの距離を歩かねばならなかった。
幸い、外道の病室は6階666号個室、雪の病室も6階666号個室で同じ階。
従って、階段やエレベーター等を使う必要はなかった。
だが、それでもかなりの距離を、雪をお姫様抱っこした状態で行かねばならい事に変わりはないのだが。

外道は小走りでもいい、走りたかった。
しかし、残念ながらそれに体が付いて行かない。

雪の体は軽かった。
3日間飲まず食わず、ただ点滴のみだったからだ。

だが、

雪の体は重かった。
ホンのチョッと前まで昏睡状態だった今の外道にしてみれば。

外道の様子が徒(ただ)ならなかったのだろう。
すれ違う者達全てが驚いたように、


(サッ!!)


と道を開け、立ち止まり、その後ろ姿を目で追った。
これには勿論、外道を先導している大河内の凄まじい形相も加わっての事だが。
外道が抱き上げた拍子に脱げた雪のスリッパを片方の手に一つずつ握り締め、外道を先導する大河内の目は血走っていた。
まだホンの僅(わず)かしか触れ合ってはいなかったにもかかわらず、大河内は雪の持つ素直な性格、優しさ、健気(けなげ)さそういった物が大好きになっていた。
その雪が心配で心配で大河内の目付きは尋常ではなかったのだ。

外道は辛かった。
病身に雪の重さ。
確かにそれも有った。
だがそれ以上に、雪にこんな思いをさせてしまった事が。
本来、全く無関係の自分が巻き込まれ、そのため雪まで巻き添えを食らわせてしまった事が。
それに対し愚痴や恨み言を言って不思議のない雪が、自分の事を差し置いて外道の身をひたすら案じている。
それを思えば雪のお姫様抱っこ位、何て事はないはずなのにやはり今の外道には辛かった。
それが一番辛かった。

外道の思いはただ一つ。
一刻も早く、雪を元通り回復させる事。
ただそれだけだった。

不意に大河内が言った。

「つ、着きました。 こ、ここです」

そう言われて初めて、外道は雪の病室まで来ていた事を知った。
まだ意識が完全に戻っているとまでは言えなかった事に加え、無我夢中だったため666号室の表札に気付かなかったのだ。
大河内が病室のドアを開け、ベッドの掛け布団と毛布を捲(めく)った。
そこに外道がユックリと雪を寝かせた。

「た、担当の鶴見区先生を呼んで参ります」

そう言って大河内が病室を飛び出して行った。
何も直接呼びに行かなくてもベルを押せば済んだのだが、今の大河内にはそんな風に頭は回らなかった。
外道は雪の寝顔をジッと見つめた。
雪の顔色は青白かった。
自分の病室でベッドから見上げている時は分からなかったが、確かに顔色が悪い。
ベッドの横に置いて有った椅子に座り、雪の顔を見つめ、外道が優しく語り掛けた。

「許せ、雪。 済まなかった。 こんな事に巻き込んで」

それから右手でソッと雪の左頬に触れ、青ざめて苦しそうな雪の寝顔をジッと見つめて続けた。

「あの時・・・」

と。

外道は思い出していたのだ。
意識を失っている不良を抱え上げ、一か八か、決死の覚悟であの亀裂の中に飛び込んだ時の事を。

「あの時、確かに俺はお前の声を聞いた。 俺を呼ぶお前の声をな・・・。 だからだ。 だから俺は、否、俺達はこの世界に戻ってこれた。 ・・・。 雪。 お前のお陰だ・・・。 有難う」

その時、

「フッ」

一瞬、雪が微笑んだ。
表情は全く変わらなかったのだが、確かに雪は微笑んだ。
それは、外道の思いに応えた意識のない雪の言葉なき心の声だった。
仮に今、周りに誰か他の人間がいたとしても、彼等には全く分からない外道のみに告げた雪の言葉なき心の声だったのだ、その微笑みは。
愛する外道の役に立てたという満足感から来た・・・

外道にはそれが良く分かった。
そしてそんな雪の左頬に触れたままその寝顔をジッと見つめた。
心から愛おしさが込み上げて来た。
思わず言葉が口を突いて出た。

「雪」

・・・

それは・・・

万感の思いのこもった言葉だった。

その瞬間・・・










時は止まった。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #202

#202




(コンコン!! ガチャ!! スルスルスルスルスル・・・)


息せき切って大河内が病室に飛び込んで来た。
許可も得ず、チャンとドアも閉めずにだ。

「ハァハァハァハァハァ・・・」

激しい息遣いだ。

きっと、


(ダァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!)


って、ポチみたいにダッシュで来たのだろう息が上がっている。

「どうしました、大河内さん?」

「た、た、た、た、た、た、た、大変でございます。 ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、ぶ、不良様がー!! 不良様が不良様が不良様が! 不良様がー!! ハァハァハァハァハァ・・・」

「ヌッ!? 不良がどうした? 死んだのか?」

「い、い、い、い、い、い、いえ。 そ、そ、そ、そ、そ、そ、そ、その逆でございます。 ハァハァハァハァハァ・・・」

「ン!?」

「い、い、い、い、い、い、い、息を吹き返されましたーーー!! ハァハァハァハァハァ・・・」

「そうか。 何時だ?」

「た、た、た、た、たった今でございます。 ハァハァハァハァハァ・・・」

「ワザワザそれを?」

「ハ、ハ、ハ、ハィ。 ハァハァハァハァハァ・・・」

「それは済まない」

「い、い、い、否。 ど、ど、ど、どう致しまして。 はい。 ハァハァハァハァハァ・・・」

外道がベッドの上で上体を起こそうとした。

だが、

『クッ!? ち、力が、力が入らん!?』

何度か体を起そうとした。

が、

ムダだった。
全身に全く力が入らない。
異次元空間における極度の疲労と衰弱のためだ。
それに何度か危機をギリギリの所でかわして来た精神的疲労も加わっていた。
その外道の苦悩を即座に雪は理解した。

「先生。 力、入んないの?」

「あぁ、情けない事にな」

「雪が起してあげるネ」

そう言って雪が外道の掛け布団と毛布を捲(めく)った。


(バッ!!)


って。。。

瞬間、

『ハッ!?』

雪は絶句した。

ナゼか?

そ、 れ、 は、

外道の股間に、それはそれは見苦しい実に嫌~な物を見てしまったからだった。
それは外道のフィアンセである  異常  以上、いずれは見なきゃならない物なのだが、否、それどころか全身全霊を込めて可愛がんなきゃいけない物なのだが、・・・ペットのように。

しかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーし、

今はまだ 全然 全く見たくない代物(しろもの)だったのだ。
15歳、パンツの見えそうな位、短~いスカートが制服の女子高生の今の雪にしてみれば。
そしてその見苦しい実に嫌~な物は外道の患者着からはみ出ていた。


(ピロ~ン!!)


って。。。

外道はトカゲとの戦いであの気持ち悪り~ィ、オヨダを全身に浴びていたのだ。
当然それは下着までビッチョリだった。
そのため看護士に全部脱がされ、代わりに紙オムツを着けられていた。

と、ところが・・・

ナ、ナント・・・

その紙オムツのアノ部分を外道の逞(たくま)しいアレが力強く、


(ピシッ!!)


って、しちゃったのだった。


つー事は、

“アレ”

が!?

モロにコンヌツワ・・・

つー事。。。

しかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーも、

その見苦しい物は何を思ったのか?
天井に向け、凛々(りり)しく熱(いき)り立っていたのである。

「パォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」

って。

他の部分には全く力が入んないクセに・・・

と言ふのも、

実は先程から外道は、俯(うつむ)くたびに患者着の胸元からチラチラっと見屁る、雪の豊で形の良~いノーブラはみチチを目の当たりにしていたからだった。
こう思ひながら・・・

『も、もうチョィ!! も、もうチョィで先っぽ!!』










って。。。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #201

#201




(コンコン)


ドアをノックする音がした。
外道と雪がドアを見た。
外道は寝たまま首だけを回して。
雪は慌(あわ)てて涙を拭って。

「どうぞ」

外道が言った。


(ガチャ、スルスルスル・・・、ガチャ)


「失礼します」

病室の引き戸式のドアを開け、杉上、亀谷それに大河内が入って来た。
杉上は骨折した右腕を三角巾に入れ、亀谷は石膏で骨折している左足を固めているため車イスに乗り、それを大河内が押して。
杉上、大河内、車椅子に乗った亀谷、そして雪が外道のベッドを取り囲む形になった。
仰向(あおむ)けの外道の左脇腹付近に椅子に座った雪、その横に大河内が立っている。
右側脇腹付近に三角巾の杉上が立ち、その隣に車イスの亀谷だ。
ベッドの上で仰向けになったままの外道に上から一礼して、杉上が実に嬉しそうに言った。

「破瑠魔さん、お気が付かれたのですネ」

「あぁ。 たった今な」

大河内も嬉しそうに言った。

「いや~、雪様がこちらだと伺って、何かあっては大変と様子見に参ったのですが。 破瑠魔様がお目覚めとは。 いや~、良かった良かった。 お元気そうで何よりです。 いや~、良かった良かった、ホントに良かった」

「いやいや、大河内さん。 雪が色々お世話になったそうで」

「いや~、そのような。 破瑠魔様からお預かり致しました大切な雪様がお倒れになった時には、まぁ、もう、どうして良いやら。 危うく心臓が止まる所でした。 はい。 このお二方がいらしてくれなかったらと思うと、今でも肝(きも)が・・・。 はい」

「そうか。 杉上、亀谷、礼を言うぞ」

「いや~。 礼を言うのはコッチの方っスよ。 ネ、左京さん」

「はい。 破瑠魔さん、本当に有難うございました」

「死神はどうした? 首尾良くいったのか?」

「はい。 お陰様をもちまして、死神も、死人帖も消滅致しました。 それに R も無事です」

「そうか、それは良かった」

「はい」

ここで外道が亀谷と大河内に言った。

「悪いが亀谷、それに大河内さん。 チョッと外してくれ」

「エッ!? じ、自分? じゃ、邪魔っスか?」

「あぁ、邪魔だ」

「わ、わたくしめもでございますか?」

「悪いがそうだ」

「は、はい。 ならばわたくしめはこれで」

「じゃ、じゃぁ。 自分も」

大河内が亀谷の車イスを押し、そそくさと病室を出ようとした。
それを制止するように、

「否、勘違いするな。 別に失(う)せろと言ってる訳じゃない、コイツにチョッと用があるだけだ」

そう言って外道は杉上を顎で指し示した。

「アッ!? そうっスか、そういう事なら外で。 ネ!? 大河内さん」

「はい。 外で・・・。 おぉ、そうだそうだ!? ならば私共(わたくしども)はもう一度不良様のご様子など・・・」

「ウンウンウンウンウン・・・」

無言で亀谷が頷いた。
大河内に同意したのだ。
その二人に外道が言った。

「あぁ、そうしてくれ」

大河内が病室のドアを開け、


(ガチャ、スルスルスル・・・)


外道、雪、杉上が見守る中、亀谷の乗る車椅子を押して部屋の外に出た。


(ガチャ)


病室のドアが外から閉められた。
それを見て、

「雪も邪魔?」

雪が外道に聞いた。

「いぃや、雪は邪魔なんかじゃないさ。 ココにいてくれ」

「ウン」

チョッピリ嬉しい雪であった。

「オィ、杉上」

「はい」

「 R とかいうヤツに伝えろ。 『二度と目の前の命を諦めるな。 もう少しだけこの世界で生きてみたいと思え』 とな」

「ハ、ハィ!! た、確かに!!」

杉上が襟を正して答えた。
だが、思わぬ外道の言葉に意表を突かれ、一瞬、動揺していた。
杉上のその姿を見てホントはそれ以上言うつもりはなかったのだが、外道の気持ちがチョッと変わった。
そして口調を改めて杉上に聞いた。

「ところで杉上?」

「ハィ?」

「亀谷は知っているのか?」

「ハィ? 何をでしようか?」

「お前の事だ」

「エッ!?」

杉上は絶句した。
その杉上のリアクションを見て外道は察する物があった。

「どうやらヤツは知らないようだな」

杉上は冷や汗を掻いた。
吃(ども)り吃り、白々しく聞き返した。

「ぁ、あの~。 な、何を仰(おっしゃ)って・・・。 ぉ、おられるのか・・・?」

「お前の正体だ」

「エッ!?」

再び杉上は絶句した。

「惚(とぼ)けてもムダだ。 俺には分かっている。 お前が」

ここまで言って不意に外道は言葉を切った。
そして何か納得したようにこう続けた。

「まぁ、いい。 俺には関係ない事だ。 お前が誰であろうとな。 だがな杉上。 不良が一命取り留めた暁にはヤツにだけはチャーンと言っておけよ。 おま・・・。 否、その必要もないか。 あの不良の事だ疾(と)っくにお前の事は・・・」

「・・・」

杉上は黙っていた。
冷や汗だろう、額がビッショリ濡れている。
一瞬にしてだ。
その様子をジッと見つめて外道がキッパリと言い切った。

「もらった命は大事にする!! R もお前もな!!」

反射的に杉上の口から言葉が突いて出た。

「ハィ!! 破瑠魔先生!!」

杉上が始めて外道を先生と呼んだ瞬間だった。
背筋をピッと伸ばし、直立不動の姿勢を取って。

その杉上にそれまでとは全く違う口調で、ユッタリとした調子で、外道が言った。

「言いたかった事はそれだけだ。 もういい行け。 行ってお前も不良の様子を見て来てくれ」

「ハィ!!」

顔を強(こわ)ばらせ、姿勢を正し、外道に深々と一礼し、軽く雪に会釈して杉上が病室を出て行った。


(ガチャ、スルスルスル・・・、ガチャ)


ドアが閉まると直ぐに雪が外道に聞いた。

「 R ってあの人でしょ?」

「ン!? 雪、気付いてたのか」

「ウン」

「何時(いつ)からだ?」

「あの人がラーと R の事、話し始めて直ぐ」

「そうかぁ」

外道が感慨深げに一言そう言った。
だが、同時にこう思っていた。

『コイツは俺より先に気付いたのか。 大したヤツだ』

と。

そして雪に聞いた。

「でも、どうして分かった?」

それに対し、雪がアッサリとこう答えた。

「だって顔に書いてたもん。 わたしが R ですって」



そぅ・・・

日本警察庁随一の頭脳を持つ警視庁特命班・杉上 左京こそが誰あろう、あの世界一の名探偵で謎の男 R ・・・ R. Ruleit その人だったのである。

否、

実は、今回のこの R 延命作戦のため佐伯警察庁長官が急遽警視庁特命班という部署を作り、 R. Ruleit が杉上 左京としてこれに加わったのだった。

この事実を知る事が出来たのは、 R と共にラーを追った仲間達。
即ち、ラー・日神太陽(ひがみ・れい)の実父で警察庁刑事局長の日神尊一郎(ひがみ・そんいちろう)、デブリン刑事こと宇田生数広(うたき・かずひろ)、小刑事こと相河周知(あいかわ・しゅうち)、アンチャン刑事こと松山桃太(まつやま・ももた)、加えて紅一点の佐波(すけ・なみ)刑事、最後に警察庁長官・佐伯(すけ・のり)。
以上、6名のみである。
残念ながら、第二のラーの手に掛かって命を失った大柄ムッツリ刑事の模木完造(ぼき・かんづくり)はこれを知る事は出来なかった。

又、

突然、特命班に配置転換され杉上とコンビを組んだ亀谷 魔薫(かめや・まかおる)もこの事実は知らされてはいなかった。
知らなかったのだ、亀谷は。
杉上の正体を。

そして・・・・・・・・・・決して知る事はない。










その時・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #200

#200




「どうして俺はココにいる?」

外道が声を絞り出し、掠(かす)れ声で雪に聞いた。
外道は極度の衰弱のためまだ意識がハッキリせず、現状が全く理解出来ていなかった。

「知らない。 雪もさっき教えてもらったの。 先生ココいるって」

ここで外道は雪が患者着を着ている事に気が付いた。

「ン!? 雪、どうした、そのカッコ?」

「知らな~い。 気が付いたらこのカッコで寝てたんだよ、雪。 3日前からだって」

「3日前?」

「ウン。 先生があのオジちゃん助けに行った日からだって」

「あのオジちゃん?」

「ウン。 あの背の高いオジちゃん。 ホラッ!? 雪の事、攫(さら)った」

『ハッ!?』

瞬間、外道は我に返った。
全ての記憶が一気に戻った。
そして掠れ声ではなく、喋(しゃべ)っているうちにやっと本調子に戻った声で聞いた。

「ぶ、不良!? 不良はどうしている?」

「寝てるよ。 集中治療室で」

「集中治療室!?」

「ウン。 絶対安静なんだって」

「絶対安静!?」

「ウン」

「なら、生きてるんだな!?」

「ウン。 でも、まだ峠は越えてないらしいよ。 お医者の先生そう言ってた。 自分も衰弱してたのに雪に一杯 “血” くれて、だからだって」

「雪に血?」

「ウン。 雪ネ、大出血しちゃったんだって。 死んじゃうトコだったらしいよ。 雪、全然覚えてないんだヶど。 でネ、雪の血液型って滅多にないヤツな~んだ。 だから緊急輸血が必要だったヶど、取り寄せなきゃなんなかったらしくって。 でも、たまたまあのオジちゃんのが一緒で。 それでだって」

「そうかぁ。 なら、不良は雪の命の恩人って事になるな」

「ウン。 そうなっちゃうネ。 ・・・。 でもネ、先生」

「ン!? 何だ?」

「雪、夢見たんだよ」

「夢? どんな?」

「先生とあのオジちゃん助ける夢、トカゲから」

外道はドキっとした。
そして黙った。
雪の話が聞きたかったのだ。
即座にそれを雪は感じ取った。
だから続けた。
身振り手振りを交えて。

「そのトカゲってネ。 こ~~~んなに大きかったんだよ。 先生たちよっかズーっとズーっと。 こ~~~んなに。 それも、い~~~っぱいいたんだよ。 それがネ、先生達に飛び掛ろうとしてたんだ。 食べちゃうつもりだったのかなぁ。 それをネ、雪、やっつけちゃったんだ、空から 『エィ!!』 って。 雪ネ、空飛んじゃったんだよ。 空中浮遊だってしちゃったんだからぁ。 それでネ。 そこからやっつけちゃったんだ、先生達守るため。 もし雪いなかったら、先生達あのトカゲに食べられちゃってたかもネ」

外道が一言入れた。

「で、どうしたんだ?」

「ウン。 落っこっちゃった」

「エッ!?」

「雪ネ。 急に目ー眩んで、そのまま落っこっちゃった。 地面に」

「で?」

「そのまんまだよ。 で、気が付いたのがさっき。 2時間位前。 そしたら先生ココ寝てるって。 それ聞いて直ぐ、雪ココ来て。 それからズーっとだよ」

「そうかぁ。 なら、雪が俺達の命の恩人かもな・・・」

「ウン!!」

雪が元気良く頷いた。
そして照れ笑いを浮かべて続けた。

「エヘッ。 でも、コレ夢だから」

「夢!?」

外道は一瞬、戸惑った。
そして思った。

『そうか、コイツはまだ完全に覚醒した訳じゃなかったんだ。 だからか』

それから言った。

「あぁ、そうだな。 夢だなきっと・・・。 ところで雪?」

「な~に?」

「親はどうした? チャンと連絡してあるのか?」

「ウゥン。 してないよ。 雪のパパとママ、今、お仕事でヨーロッパ行ってるから」

「なら、雪、今一人か?」

「ウン」

「そうか。 あ、でも、良かったのかな、その方が・・・。 親に要らぬ心配掛けずに済んで」

「ウン。 ガッコも丁度ゴールデンウィークでお休みだし、いい事だらけだネ」

「ぃ、否、良くない良くない。 雪、死ぬトコだったんだろ? 良くない良くない。 ・・・。 アッ!? そうだ。 さっき、雪、確か。 大出血がどうとか言ったな」

「ウン。 あの亀裂のトコで雪、大出血しちゃったらしいよ、気絶して。 そしたらあのオジちゃん達がヘリで運んでくれたんだって、ココ」

外道はチョッと驚いた。

「気絶!? 雪がか?」

「ウン」

からかうように言った。

「雪が気絶なぁ。 フ~ン。 雪がなぁ~」

それを聞き、雪の表情が曇った。

「悲しかったからだよ」

「エッ!?」

急に雪の目が潤んだ。

「ゥッ!?」


(ポロッ!!)


一滴、涙がこぼれた。

「・・・」

その姿を見て外道は言葉に詰まった。


(ポロポロポロ・・・)


雪の目から涙が溢れ出した。

「雪、悲しかったんだよ。 あの時、先生に 『邪魔』 だの 『足手まとい』 だのって言われて。 雪、ホントに悲しかったんだよ。 ・・・」

徐々に雪の感情が高ぶり始めた。

「一緒に行きたかったのにー、先生と一緒に行きたかったのにー、一人で行っちゃってー・・・。 そしたらこんなんなって帰って来てぇー。 ・・・」

終に雪が泣き始めた。

「ゥッ!! ゥッ!! ゥッ!! 外道のバカー!! バカバカバカー!! 外道なんか死んじゃぇー!! 外道のバカー!! ェッ!! ェッ!! ェッ!! ・・・」

雪は泣いた。
拳を握り締め、声を殺して。

外道は黙った。
ジッと天井を見つめたまま、何も出来ずに。

そして時間が止まった。










すると・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #199

#199




― それから3日後 ―


「チ、チ、チ、チ、チュン。 チ、チ、チ、チ、チュン。 チュンチュンチュンチュンチュン。 チ、チ、チ、チ、チュン。 チ、チ、チ、チ、チュン。 チュンチュンチュンチュンチュン。 ・・・」

小鳥の鳴き声だ。

「ゥ、ゥ~ン」

一声唸って、男は静かに目を明けた。
小鳥の囀(さえず)りで目が覚めたのだ。

部屋の照明は点いてはいなかった。
カーテン越しに窓から入って来る日差しだけで充分明るかった。
少し眩しい位だ。
意識がボンヤリしている。
再び目を閉じた。
別に眠るためではなかった。
目を開けているのが辛かったからだ。
そのまま何も考えずにボーっとしていた。

その時、

「先生」

女の声がした。
良く知っている声だった。
その声は優しく自分に呼び掛けているような気がした。
しかし、その時感じていた極度の倦怠感から声に反応する気にはならなかった。
男はもう少しボーっとしていたかったのだ。
それに気付いたのだろう。
女もそれ以上話し掛けようとはしなかった。
男はそのまま暫(しば)らくウトウトした。
再び眠りに落ちた。
しかしその眠りは浅かった。
どの位経ってからだろう。


(ビクン!!)


一瞬、体に緊張が走った。
同時に目が覚めた。

その瞬間、


(ゾヮゾヮゾヮゾヮゾヮ・・・)


全身の血液が逆流するのを感じた。
一気に体温が上昇した。

『ハッ!?』

意識が戻った。

その流れの中で、


(スゥ~)


目が明いた。
今度は目を閉じようとはしなかった。
そのままジッと天井を見つめていた。

その時。

「先生。 目ー覚めた?」

先程の女の声だった。
その声は自分の左脇腹辺りから聞こえた。
男はその声のした所を見た。
反射的に男はこう言った。

「・・・!?」

否、そう言おうとした。
だが、声は風になった。
声にならなかったのだ。
当然だ、三日三晩一言も発しなかったのだから。
しかし唇は動いた。

こぅ。

「ゆ」、 「き」

と。

そぅ。

そこには患者着姿のまま椅子に座り、ジッと自分を見つめている雪の姿があったのだ。
雪はその驚異的回復力で既に自力で起き上がれるまでに回復していた。
もっとも専任担当医の鶴見区に言わせればまだまだ絶対安静が必要なのだが、それを振り切り、先程からその男に付き添っていた。
その男の容態が心配で心配で片時も離れたくなかったからだ。
雪のそのあまりの熱意に鶴見区もタジタジ。
よってその男も又、鶴見区が専任担当していた事もあり、時々看護士が様子を見に来るという条件付で渋々ながら許可を与えていたのだった。

そして、

雪が先生と呼んだ以上、その男は勿論・・・










外道である。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #198

#198




(タタタタタタタタタタ・・・)


「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ。 け、血液がー! 血液が届きましたー!! これですこれですこれですー!! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・」

女性看護士が、手にしているジュラルミンケースを突き出して叫んだ。
彼女はたった今、痛身 憲一(いたみ・けんいち)が届けた血液を病院の玄関先で受け取り、不良のいる病室まで走って持って来た所だった。
その病室は6階の北の外れだった。
大回りすればエレベーターが有ったのだが、階段を使った方が遥かに早かった。
よって、その女性看護士は階段を一気に駆け上がって来た。
それで呼吸が乱れていたのだ。

「良し!! 大至急輸血準備!!」

血液を受け取った今回不良の専任担当医となった、雪の専任担当医・鶴見区 辰吾の同僚の北千住 浩一(きたせんじゅ・こういち)がスタッフ達に命じた。
北千住とそのスタッフ達も又、鶴見区同様、佐伯長官の手配だった。
不良から外道の念力技の話を聞き、こんな事もあろうかと判断した杉上の要請を受け、佐が事前に警察病院の一応専門は外科だが内科も OK の敏腕医師それぞれ一名ずつ並びに経験豊富なスタッフ達を A 、B 二班(ふたはん)に分け、充分な設備を供えた重磐外裏から一番近いその病院に送り込んでいたのだった。

  A 班が鶴見区のチーム
  B 班が北千住のチーム

・・・・・・・・・・だ。

だが、その病院には常勤の医師やナース達もいる。
よって手配はどちらか1チームで事足りるはず。

なのにナゼ2チームか?

何か予期せぬハプニングが起こるかも知れない。
よって念には念を入れたのである・・・佐は。
事はそれ程、重大、且つ、慎重に。
そして、秘密裏に処理しなければならなかったのだ。
結果を見れば明らかなように、佐のこの手配はムダではなかった。


つー、まー、りー、・・・


『無駄ーーー!! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!』



ムダではなかった。
もっとも、1チームでも充分事足りた事は足りたのだが。

又、

杉上の捜索に所轄の県警ではなく本来警視庁所属の第7機動隊を出動させたのも同じ理由からだった。
今回のこの国家第一級機密のラー事件関連に、如何(いか)に管轄県警とはいえ何も知らない余計な部署を巻き込む事により、事件が明るみに出る危険を冒(おか)したくなかったからである。

「良し!! 大至急輸血準備!!」

という北千住の指令が飛ぶや否や、直ちに不良の輸血準備が開始された。
流石に一流のスタッフを揃えただけの事はあった。

「アッ!?」

という間に輸血が開始された。
雪は既に不良の血液を充分輸血され、その必要はなく別の病室に移されていた。
と言っても、まだ意識不明の危篤状態に変わりはなかったのだが。

不良も又、酷い衰弱に加え大量の血液を雪に提供したため生死の境を彷徨(さまよ)っていた。
当然意識はない。

一方、

亀谷は亀谷で左足骨折だ。
整形外科の治療室に痛身と芹沢に運ばれ、当直の医師の手により骨折の緊急治療を受けている。
幸いその病院は救急病院でもあり、又、佐伯警察庁長官の直の要請もあって、その日は小児科と産婦人科を除く全科の医師達が待機していた。


(ガラッ!!)


亀谷の病室の扉が開いた。
中から当直医の二怪童 公彦(にかいどう・きみひこ)が出て来た。
廊下のベンチに座っていた痛身と芹沢がそれに気付き立ち上がった。

痛身が聞いた。

「亀谷さん。 具合どうですか?」

二怪童が手振りを交えて答えた。

「あぁ、心配いりません。 と言っても骨折ですから・・・。 しかし、彼は運がいい。 ヒビは全く入ってはいない。 見事にポッキリです。 こうポッキリ。 直ぐに元通りになるでしよう」

「そうですかぁ。 有難うございます。 で、亀谷さんは今?」

「ユックリお休みです。 麻酔が効いてますから。 もっとも疲労のほうが激しいですかネ、あの様子じゃ。 ま、今は静かに眠らせて置いて上げましよう」

「そうですネ。 じゃ、我々はこれで」

「あぁ、どうもご苦労さまでした」

痛身達が帰りかけた。

そこへ、

今度は、亀谷の連絡を受け、救助に向かったパトカーで病院に運び込まれた杉上が一人でやって来た。
勿論、右腕骨折の治療を受けにである。

杉上も痛身達も、共に同じ匂いを感じたのだろう。
見ず知らずでは有ったがすれ違いざま軽く会釈を交わした。
そしてまだその場にいた二怪童に杉上が聞いた。

「整形外科はこちらでしようか?」

「アナタは?」

杉上は左手でスーツの内ポケットから警察手帳を取り出し、二怪童に見せた。

「こういう者ですが、こちらの病院へ血液運搬中に事故に遭いまして、診て頂きたいのですが」

「あぁ、例の。 あの AB 型 Rh- の」

「ご存知でしたか」

「はい。 何せ警察のトップからの直の指示ですから大騒ぎでした。 病院中大慌てで・・・」

「それはどうも・・・。 ご迷惑をお掛け致しました」

「いやいや、人の命を救うのが我等の務め。 それに慣れっこですよ、これ位の事は・・・。 所で、どこをどうされましたか?」

「はい。 恐らく骨折かと、右腕です」

「そうですか。 では、こちらへ。 診てみましよう」

「はい」

杉上は二怪童に従って病室に入った。
そこは亀谷が眠っている部屋の隣だった。
そこで骨折治療を受けた。
幸い、亀谷同様複雑骨折ではなかった。
それでも全治一ヶ月と診断された。
それで安心したのだろう、杉上は打たれた麻酔と過度の疲労によりそのままその隣の病室で亀谷と並んで熟睡した。

 ・・・

ここで・・・

ここまでの状況を纏(まと)めて置こう。


  死人帖・・・消滅。

  死神・苦竜・・・消滅。


  亀谷 魔薫(かめや・まかおる)・・・多少の擦り傷。 但し、左足骨折。 爆睡中。

  杉上 左京(うえざき・さきよう)・・・右腕骨折のみ。 熟睡中。

  大河内 順三郎(おおこうち・じゅんざぶろう)・・・回復。 日常生活に問題なし。

  雪(ゆき)・・・意識不明。 危篤。

  不良孔雀(ぶら・くじゃく)・・・極度の衰弱。 危篤。

  破瑠魔外道(はるま・げどう)・・・極度の衰弱。 昏睡状態。


 そして、


  R ・・・生存。


 異常  以上











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #197

#197




「あぁ、こちら○○県警捜査一課・痛身 憲一(いたみ・けんいち)っていうモンだがネェ。 夜遅く悪いんだヶど、おたくの亀谷って若い衆(し)が事故起しましてネ。 で、この番号に電話しろってうるさくってネ。 そんで掛けてんだヶどさぁ・・・。 ところでおたく誰?」

バイクを道路脇に退け、無事だった血液ケースを持って来て、転倒のショックで歩けない全身ずぶ濡れの亀谷をパトカーの後部座席に二人掛りで座らせた後、刑事二人が運転席と助手席に着き、助手席側の痛身が亀谷の言う番号に電話を掛けていた。

「・・・」

「エッ!? すけ? すけナニさん? すけ・・のり・・さん? すけのりさんネ。 で、何にやってる人?」

「・・・」

「エッ!? ナニナニ? け、い、さ、つ、ちよ、う、ちよ、う、か、ん? ・・・。 エッ!? 警察庁長官? ナ~ニが警察庁長官だぁ。 アンタ警察オチョクってんの? ふざけた事言ってっと、逮捕しちゃうぞ」

「・・・」

「いい加減にしろよー、アンター!! アンタ一体誰だぁ? 正直に言え!!」

「・・・」

「エッ!? ・・・。 ま、まさか・・・?」

「・・・」

「ハ、ハィ!! ・・・。 ハィ!! ・・・。 ハィ!! ・・・」

「・・・」

「す、す、す、佐伯長官殿でありますかー!? し、失礼致しましたー!!」

「・・・」

「ハィ!! ・・・。 ハィ!! ・・・。 ハィ!! ・・・」

「・・・」

「しょ、しょ、しょ、承知致しましたー!! ・・・。 ハ、ハィ!! た、た、た、確かにー!! ・・・。 ハ、ハィ!! ・・・。 ハィ!! ・・・。 ハィ!! ・・・。 ハィ!! し、し、し、失礼致しまーす!!」

それまで報告書らしき物を書くのに集中していてそのやり取りに注意を全く払っていなかった、運転席の同じく捜査一課・芹沢 刑事(せりざわ・けいじ)刑事が痛身に聞いた。

「どうしましたぁ、血相変えて? 何スか、す、す、す、すけのりちようかんどのって?」

「こ、この人の言う通りだった!!」

「エッ!?」

芹沢は驚いた。

『ま、まさか!?』


(タラ~)


芹沢の額に一筋冷たい物が滴(したた)り落ちた。
痛身は既に全身汗ビッチョリだった。
痛身も芹沢も、まんま暴走族の亀谷がまさかホントに刑事だなどとは思ってもみなかったからだ。
まして、今の電話の相手がまさか警察庁のトップだなどとは尚更・・・

「ウンウンウンウンウン・・・」

痛身は何も言えず、動揺してただ頭を振って同意し続けている。

『その通りだ!! その通りだ!! その通りだ!! ・・・』

と。

「じゃ、じゃ、じゃ、じゃぁ。 す、す、す、すけのりちようかんどのって!?」

「佐伯警察庁長官殿だー!!」

「ェ、エェー!?」


(クルッ!!)


痛身が振り返って後部座席に座っている亀谷に詫びを入れた。

「ぃ、いや~。 か、亀谷さん。 大変失礼致しました」

「分かってもらえたっスか?」

「は、はい」

痛身が芹沢に命じた。

「急いで○○病院、行けー!!」

「現場検証しなくていいんですか?」

「バ、バカヤロー!! そんなモンはしなくていいんだー!! とにかく今は○○病院だーーー!! 行けーーー!!」

「ハ、ハィ!! ○○病院!! 承知しましたー!!」


(ゥ~、ゥ~、ゥ~、ウーーー、・・・)


パトカーは、雪、不良の待つ病院へと向かった。
こんな会話をしながら・・・

「しっかし亀谷さんも人が悪い。 てっきり暴走族かなんかと・・・そのカッコじゃぁ」

痛身が照れくさそうに言った。
亀谷がそれに答えた。

「アッ!? コレッ!? コレネ、コレ!? コレ、ダチ公から借りたんっスヶど、着替える時警察手帳そのまんま置いて来ちゃってネ」

って。。。

そして、

無事だった輸血用の血液と歩けない亀谷を乗せ、パトカーは突っ走った。
暴風雨の中を。

そぅ。

この時亀谷は、バイク転倒のショックで多少の擦り傷と共に・・・










左足を骨折していたのである。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #196

#196




(バリバリバリバリバリ・・・)


亀谷 魔薫(かめや・まかおる)は走った。
暴風雨の中、殆(ほと)んどフルスロットルで。
亀谷のバイクは、既に台風の目から暴風雨の中に突っ込んでいた。


(ビヒューーー!! ビヒューーー!! ビヒューーー!! ・・・)


激しい風雨に晒され、流石の CBR1000RR スペシャルエディションの超重量バイクもモロに受ける強い横風に流されそうになり不安定だった。
こんな時は、普通自動車でも余程車重のある物でない限り怖くて減速する物だ。
否、車重があっても減速する。

だが、

亀谷は臆する事なくアクセルを蒸(ふか)し続けた。
亀谷は知っていたのだ。
杉上には言わなかったが、急がなければ雪のみならず不良までも危ないという事を。
誰よりも良く。
それを・・・

ところが、


(ゥ~!! ゥ~!! ゥ~!! ウーーー、・・・)


「前のオートバ~イ・・・止まりなさ~い!!」

突然、背後からスピーカーを通した声がした。
覆面パトカーだ。
亀谷は無視した。

「前のオートバ~イ! 止まりなさ~い!!」

再び同じ声が聞こえた。
亀谷は止まらなかったが、左によりスピードを落とした。
覆面パトカーが追い付いて来た。
亀谷のバイクと並走する形になった。
覆面パトカーの助手席側のウインドーが下りた。

「止まりなさーい!!」

中から私服刑事が顔を出し、暴風雨をモロに顔面に受けながらそう叫んだ。
亀谷がヘルメットのフェイスガードを上げ、自分も又、暴風雨をモロに顔面に受けながら大声で叫んだ。

「俺っちも警察だー!! 今、大事な任務遂行中なんだー!! 邪魔しネェでくれー!!」

「ふざけるな!! そんな格好の警察官が何処にいる!!」

「ホントに俺っち警察官なんだよー!! それも刑事ー!! 今、こんなトコでモタモタしてる時間ネェんだーよ!! 人の命が掛かってんだー!! 一刻も早くコレ届なきゃなんねんだー!!」

そう言って亀谷はリアシートに縛り付けた血液ケースをアクセルレバーを握っている右手を一瞬離し、その手で指し示した。
バイクが左、パトカーが右だからだ。

だが、

その時・・・


(ガクン!!)


バイクの前輪が道路に開いていた小さい穴に入ってしまった。
丁度亀谷が右手を離したその直後。
普通なら大して問題にならなかったはずだ。
しかし、今は暴風雨に晒されている。
しかも強い横風。
加えて運悪く亀谷は片手。
そのためバランスが崩れた。
路面は濡れている。


(キュキュキュキュキュキュキュキュキュキュ・・・)


後輪が滑った。


(バタン!! ガガガガガガガガガガ・・・)


バイクが横転した。
運良くパトカーに接触はしなかったが、そのまま激しい音を立てて道路の上を滑った。
もっとも今は凄まじい暴風雨の中。
その音は掻き消されていたのだが。


(ゴロンゴロンゴロンゴロンゴロン・・・)


バイクから亀谷が放り出された。
亀谷は止まるまで道路の上を何度も回転した。
止まった時はうつ伏せ状態だった。

死んだか!?


(ガサッ!!)


動いた!?

生きてる!!

だが、

瞬間、亀谷の顔が引き攣った。
それは転倒による痛みの所為(せい)ではなかった。
否、確かにそれもあった。
だが、本当の理由は他にあった。

『ハッ!? け、血液!?』

そぅ。

運搬中の血液を心配をしたのだ、亀谷は、その時。
そして、

「クッ!?」

暴風雨の中、上体を起こした。
急いで横転したバイクを見た。
血液ケースを見た。
回転せずに横滑りしたお陰だろうネットは外れてはいなかった。
無事のようだ。

『た、助かったー!! セーフだセーフ!!』

即座に、亀谷の顔が安堵の表情に変わった。
それに亀谷自身も又、運良く掠り傷程度の軽症のようだった。
覆面パトカーに呼び止められ減速していたのが幸いしたのだろう。
それに一瞬アクセルレバーから手を離したのも。
そのためエンジンブレーキが若干掛かったのだ。


(タタタタタタタタタタ・・・)


ずぶ濡れになりながら私服刑事二人が駆け寄って来た。
その内の一人が亀谷に声を掛けた。

「ォ、オィ! 君ー!! だ、大丈夫か? 立てるか?」

「お、俺っちの事よっか、アレだアレ!!」

うつ伏せのまま亀谷が右手でバイクを指差して叫んだ。

「バイク? そんな物は後だ、後!! 取り敢えず救急車呼ぶから、それまで車ん中入ってて」

「そ、そんな暇ネェんだよ!! アレだアレ、アレ待ってる人達がいるんだよ!!」

「アレって、バイクをか?」

「ちげーよ!! アレだアレ!! 血液血液!!」

「けつえき?」

「リアシートのネットん中だ!! 輸血用の血液だ!!」

一人がもう一人に見て来るようにバイクを顎で指し示して命じた。

「オィ!!」

言われた一人がバイクに歩み寄った。

「全く、この暴風雨ん中無茶しやがって・・・」

等とブツブツ言いながら・・・
舌打ちなんかしちゃって・・・

「チッ!!」










って。。。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #195

#195




「頼みましたよ、亀谷君」

亀谷が携帯で佐伯(すけ・のり)長官に現在地並びに現状を報告した直後、その亀谷に血液ケースを手渡して杉上が言った。

「確かに」

杉上の目をジッと見つめて亀谷が答えた。
そして亀谷は手際良く、中央部がネット状になっている組紐で血液ケースをバイクのリヤシートに縛り付けた。

そして、


(ドサッ!!)


シートに跨(またが)り、


(カチッ!!)


エンジン・キーを捻り、


(チッ!!)


スターターボタンを押した。


(シュルン!! シュルン!! シュルン!! シュルン!! シュルシュルシュルシュルシュルシュル~~~!!)


エンジンが掛かった。


(パシッ!!)


前照灯を点けた。


(ゥォン!! ゥォン!! ゥォン!! ゥォン!! ゥォンゥォンゥォンゥォンゥォンゥォンゥォンゥォンゥォンゥォン、・・・)


勢い良くアクセルを吹かした。

そして杉上にこう言った。
一発、ウィンクなんか入れちゃって・・・

「もう直ぐ、七機(ななき)がココ来ると思うっス。 チャ~ンと左京さんの事、長官に言っときましたっスから。 んじゃ、左京さん。 後で又」

亀谷がフルフェイスのヘルメットを被り、左手を上げ杉上に向けて振った。
そんな亀谷に、

「お願いします」

杉上が言葉を返した。
しかしその時にはもう、


(ゥォン!! ゥォン!! ゥォン!! ゥォオォオォオォオ・・・)


亀谷のバイクは走り出していた。
骨折した杉上を後に残して。

その走り去る亀谷の後ろ姿を見送りながら、杉上がポツリと言った。

「亀谷君・・・










頼みましたよ」











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #194

#194




「左京さん!!」

背後から声が聞こえた。
しかも自分に呼び掛ける声が。
それも聞き覚えのある声で。


(クルッ!!)


反射的に杉上が振り返った。

「待ってましたっスよ、左京さん」

『エッ!?』

杉上は驚いた。
同時に言葉が口を突いて出た。

「か、亀谷君!?」

そぅ。

声の主は亀谷だった。
亀谷が3メートル程離れた所にバイクを止め、それに跨(またが)っていた。
車種はホンダの受注期間限定モデル CBR1000RR スペシャルエディション。
そして月明かりの中、ナゼか亀谷はエナメルの質感のある白いツナギ服姿。
それは撥水加工してあるようだった。
だからエナメルの質感があるように見えるのだろう。
その背中には黒で 『南無阿弥陀仏』 の  死臭  刺繍 がしてある。
だが、ナゼかそのツナギ服には激しく水を被(かぶ)った跡があった。
それを見て杉上は直感した。

『亀谷君は暴風雨の中を抜けて来たに違いない』

と。

その驚いて自分を見つめている杉上に向かって、


(ニヤッ!!)


亀谷が笑った。

声を震わせながら杉上が聞いた。

「どうしてここが?」

「さっき、長官から電話もらっちゃいましてネ。 そんで来る前、地図見てたらココっきゃないってネ。 ココで待ってりゃ左京さん間違いなく来るってネ。 俺っち勘いいの左京さん知ってましたっスよネ」

「何で又、君なんですか?」

「いぃえ、俺っち一人だけじゃないっス。  攻殻  第7機動隊も出でますよ。 うるさい位っスよ、一杯いて。 ただ、ココに目星つけたの俺っちだけだったみたいっスヶどネ」

「バイクの運転出来たのですか? それにその格好」

「アッ!? 言ってなかったっスかネ。 俺っち前、ブラック・プリンスの特攻隊長だったんっスよ、あの暴走族のブラック・プリンスの。 昔取った杵柄つー、トコっスかネ。 で、あの病院の直ぐ近くに昔のダチ公が住んでましてっスネ。 チョッと借りて来たって訳っスよ。 夜中に叩き起こして。 はい」

ここで亀谷はバイクに跨ったまま、両手を広げて着ているツナギ服をアピールした。

「どうっス? 似合ってますっスか? ゥン?」

「・・・」

杉上は言葉が出なかった。

「ま、無駄話もココまでココまで」

そう言って亀谷は、杉上が携帯を探すために地面に置いたケースを指差した。

「それっスか、血液?」

「そうです」

「なら、急ぎましよう。 後ろん乗って下さい。 メットの用意してないっスヶど、ダイジョブっスよネ。 非常事態っスから。 さ、早く早く。 乗って乗って」

「残念ながらわたしはダメです。 バイクには乗れません」

「何ででっスかぁ」

一瞬、不思議そうな表情を浮かべた亀谷に杉上は、顎で、力なく垂れ下がっている右腕を指し示した。

そぅ。

その時、杉上の痛めた右腕は・・・










骨折していたのである。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #193

#193




『この坂道を登りさえすれば、そこは国道だ!!』

杉上は思った。

国道へはそれまで下りだった坂道を若干登らねばならなかった。
後200~300メートル位だろうか?

「ハァハァハァハァハァ・・・」

杉上は一気にその坂を駆け上がった。

そして、

『出た!!』

終に杉上、国道に出た。
急いで懐中電灯と血液ケースを地面に置き、胸ポケットに左手を入れた。
現在地を知らせるために携帯を取り出そうとしたのだ。

だが、

『ハッ!? な、無い!! 確かにココに入れたはずだ。 落としたのか・・・』

ズボンのポケットも探って見た。
しかし無かった。


(ガーーーン!!)


杉上は後頭部を思いっきり強打されたような感覚に襲われた。
顔面蒼白。
一気に全身の力が、


(スゥ~)


っと・・・

加えて、


(ズキズキズキズキズキ・・・)


腕の痛みがその激しさを倍加したような気さえする。
目眩(めまい)もして来た。
それ程、受けたショックはでかかったのだ。










だが・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #192

#192




『み、道だ!!』

パッっと杉上の表情が明るくなった。
目の前に極めて細いが確かに山道と言える物に出くわしたからだ。
それもそれまでの急勾配の道なき道とは違う傾斜の緩やかな山道に。

『やった。 終に出た。 わたしは間違ってはいなかった。 この道だ。 今度はこの道を・・・。 ン!?』

一瞬、杉上は戸惑った。
出くわした道を登るべきか下るべきか、再び迷ったからだ。
静かに杉上は目を閉じた。
もう一度先程思い浮かべた情景を心に描いた。
そして確信した。

『目指す方角はこっち・・・のはず。 と、すれば・・・下りだ!! 間違いない、下りだ!! この道を下って行きさえすれば必ず・・・』

杉上の気持ちが一気に晴れた。
すると不思議な事に右腕の激痛がホンのチョッとだが、和らいだような気になった。
正に 『病は気から』 である。

杉上は先を急いだ。

それまでとは全く違い、如何(いか)に細くとも道はやはり道だった。
歩くペースが全く別次元だ。
もっとも、それまでは急斜面の登りではあったのだが・・・

杉上は一気にその山道を下った。

すると、


(バリバリバリバリバリ・・・)


オートバイの音だろうか?

激しいエンジン音が耳に入った。

『出る!! もう、その先は国道だ!!』

杉上は確信した。
腕の激痛は相変わらずだったが、勇気も百倍だった。
杉上は立ち止まった。
ベルトを緩めて血液ケースを外した。
一旦、ケースを地面に置き、ベルトを締め直した。
左手で懐中電灯と血液ケースの取っ手を持った。

そして、


(タタタタタタタタタタ・・・)


早足と言うより、殆んど駆け足で国道目指した。
今や杉上、国道に出さえすればの一心である。

「ハァハァハァハァハァ・・・」

杉上の呼吸が粗い。


(ズキズキズキズキズキ・・・)


腕の痛みは相変わらずだ。
それでも杉上は止まろうとはしない。
杉上、今や雑念なし。
一心のみ。










手にした血液を届けねばの・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #191

#191




(ピタッ!!)


杉上が立ち止まった。
既にかなりの距離を歩いたにもかかわらず、中々、山道に出ないからだ。

『クッ!? 方角は間違ってはいないはずだ。 なのに・・・』

杉上は思った。
そして静かに目を瞑り、上空から最後に見た下界の情景を正確に思い起こそうとした。
天性の頭脳、持ち前の記憶力を駆使して。
すると、心の中にハッキリとヘリが墜落する直前見た景色を思い浮かべる事が出来た。

『ウム。 間違いない。 やはりこの方角だ』

気を取り直し、引き締め直して杉上は、山林の中を国道目指して進んだ。
それまでの気象状況を考えるとウソのように明るく周囲を照らす月明かりと、左手に持った懐中電灯だけを頼りに杉上は正しいと思う方向に向かい、一歩一歩足場を確かめながら進んだ。
山林の中である以上、当然そこは山だ。
とすれば、斜面を登るか下らねばならない。
だが運悪く、そこは特に傾斜のきつい急斜面だった。
下りも楽じゃないが、登りは更に辛い。
そして杉上は登りを選んでいた。
杉上の記憶の中の地図がそのルートを選べと告げていたからだ。
しかし腰には重たいケースをぶら下げている。
それが歩く度に腰から太ももにかけてドスンドスンと跳ねるように当たり、歩き難い。
加えて右手は使えない。
しかも、踏み固められた道にはまだ出てはいない。

『それが見つけられれば・・・』

そう思いながら杉上は急いだ。
ただし、今の杉上なりにであるのは言うまでもない。
右腕を負傷している今の杉上なりにである。


(ピタッ!!)


再び、杉上は立ち止まった。
耳を澄ませた。
音を感じたかったのだ。
車、音楽、出来れば話し声といった物、全てを。
人の気配を感じる音なら何でも良かった。
しかし、何も聞く事は出来なかった。
ただ、ひたすら静寂あるのみ。
虫の鳴き声すらない。
当然だ。
今はまだ春先なのだから。
再び気を引き締め直し、杉上は歩き始めた。
どの位歩いてからだったろうか?


(ズキズキズキズキズキ・・・)


それまで痺れていただけの右腕が、突然痛み始めた。

『クッ!? マズイ!! 急がねば・・・』

しかし一度痛み始めると、

それが気になるせいなのか?
あるいは本当にそうだからなのか?
それともその両方か?

その内のどれかは分からないが、


(ズキズキズキズキズキ・・・)


痛みが激しくなった。
そして急激に増して行く。
終に、それは激痛へ。
杉上は焦った。
如何(どう)にもならないと分かってはいても、状況が状況なだけに焦らざるを得なかったのだ。

不安、孤独、腕の痛み。
それらと戦いながら・・・

そして一刻を争う雪の輸血。(この時点で杉上はまだ、雪に不良の血液を輸血している事を知らない)
それを思いながら・・・

杉上は歯を食い縛って、正しいと思う方角を目指した。










すると・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #190

#190




『ハッ!?』

っとして、大河内が飛び起きた。
辺りをキョロキョロ見回して呟(つぶや)いた。

「こ、ここは?」

「あぁ、お目覚めですか?」

大河内に気付いて女性看護士が振り返って話し掛けた。
ここは外道達と同じ病院の一室。
大河内はそれまで着ていた燕尾服のままベッドに寝ていた。

「わ、わたくしは・・・? わたくしは一体・・・? このような所で・・・? 何を・・・?」

「覚えてないんですかぁ? 亀谷さんとかいう刑事さんに負(お)ぶって来られてココ来たの。 で、点滴打ったらそのままお休みになられたの」

「おうおう、そうでした、そうでした。 思い出しました、思い出しました」

「随分お疲れだったんですネ。 グッスリお休みでしたよ」

「いや~、お恥ずかしい。 よる年波には・・・。 ァハァハ、ァハハハハ・・・」

大河内が照れ笑いをした。

だが、

次の瞬間。

「アッ!? は、は、は、破瑠魔様!! ぶ、ぶ、ぶ、不良様!! ゆ、ゆ、ゆ、雪様!! そ、そ、そ、そうじゃったそうじゃった。 看護婦さん看護婦さん、あのお三方はあのお三方は?」

それまで普通に喋っていたその女性看護士の表情が急に曇った。

「・・・」

「・・・」

一瞬、ぎこちない間(ま)が出来た。
看護士のその表情を読み取り、不安になった大河内がグッと気持ちを押さえ、立て直し、再び聞いた。

「破瑠魔様、不良様、雪様は如何(いかが)なされておいでですか?」

「それがですネェ。 それがその~」

「ハッキリと申して下され」

「えぇ、それがですネェ。 あんまり芳(かんば)しくはないようなんです」

「と、申されますと」

「えぇ、わたしは担当じゃないので詳しい事は分からないんですヶどネ。 さっきナースセンターで聞いた話によると、破瑠魔さんは未だに意識が戻らず衰弱しきったまんま。 脈、呼吸、心音、全部弱り切っているみたいで。 それにあの娘さんは輸血用の血液がまだ届かずで。 ま、幸い不良先生の血液型が同型なので、今、その不良先生の血液を輸血中だそうです」

「そ、そうですか。 不良様の・・・」

「でも、その不良先生も側腹部(そくふくぶ)にある打身(うちみ)のような凄く大きな生々しい傷の所為(せい)でしようかネ? 衰弱が酷くって、本来なら輸血などとても耐えられる体じゃないんだそうです。 だって、そうでしょ。 それまで面会謝絶だった患者さんなんですから」

「そ、そうですか・・・」

「えぇ。 これは言いたくはないんだヶど、ホントならあの3人とも今頃、生死の境を・・・。 否、死んでてもおかしくない位なんだそうですよ。 それに・・・」

「それに?」

「えぇ。 破瑠魔さんはナゼあんなに衰弱しきってるのか理由が分からないので何とも言えないそうなんだヶど、ある程度理由の分かっているあの娘さんと不良先生の生命力は半端じゃないって。 普通の人間なら生きていられる訳がない。 疾(と)っくに死んるはずだって。 担当の先生方が驚いてました。 一体何が有ったんですかぁ?」

「いや~、それが私共(わたくしども)にもサッパリで。 分かっているのは一つだけです」

「なんですかぁ、その一つって?」

「はい。 あのお三方とも、人間離れしておるという事だけです」

「えぇ、確かに。 確かにそうですネェ。 人間離れしてますネェ、3人とも」

ここまで言った所で女性看護士が、

『ハッ!?』

っと、何かを思い出したような表情に変わった。

「アッ!? そうそう。 人間離れしてるで、思い出した思い出した」

それを見て大河内が、


(ドキッ!!)


として思った。

『な、何か悪い事か?』

と、同時に言葉が口を突いて出ていた。

「な、何をでございますか?」

「えぇ。 あの雪さんという患者さん」

「ゆ、雪様が!?」

「はい。 あの患者さんなんですヶどネ。 こちらに運び込まれて暫(しば)らくしてからベッドの上で突然カッと両目を見開いて、手の平パッって開いて、両腕をグゥーって伸ばして 『センセー!!』 って大声で叫んだんだそうですよ。 一言だけだったそうなんだヶど、それまで昏睡状態だった患者さんがですよ」

「そ、そんな事が・・・!? それからそれから・・・?」

「否。 ただそれだけだったそうです。 で、直ぐ又、昏睡状態に・・・。 『センセー』 って、言った所を見ると、もしかして不良先生の夢か幻覚でも見たのかも知れませんネ」

これを聞き、大河内は直感した。

『否、破瑠魔様じゃ。 そうじゃ、破瑠魔様じゃ。 きっと雪様は破瑠魔様の何かを感じ取ったのじゃ。 こちらに戻ってこられた時のあの弱りきった破瑠魔様達のお姿を見れば察しが付く。 そうじゃそうじゃ。 雪様は破瑠魔様達の身に何かを感じ取ったのじゃ。 それに間違いない。 だから・・・。 きっと・・・。 そうじゃそうじゃ、それに間違いない。 しっかし、ご自身も昏睡状態じゃというのに。 なんと健気(けなげ)なお方じゃ、あの雪様というお方は・・・』

大河内の直感は正しかった。

そぅ。

雪は昏睡状態だったにもかかわらず外道達の帰還を感じ取った。
そして外道を正しく導くため、外道の標識になるため、本能的に外道に念を飛ばしたのだ。
もっともホンの一瞬に過ぎなかったのだが・・・

「・・・」

視線をベッドの自らの足元に移し、急に考え込んだ大河内の姿を見て看護士は黙っていた。
暫しの沈黙があった。
それから大河内がユックリと顔を上げた。
そして看護士の顔を見た。

「もう起きても宜しいでしようか? お三方のお見舞いも致したい事ですし」

「あぁ、まだ、もう少し休んだ方が。 どうせ今行っても、3人とも面会謝絶ですし」

「そうですか、面会謝絶ですか」

「えぇ。 だからもう少し」

「では、もう少し」

大河内は看護士の手を借りて再び仰向けでベッドに横たわった。
眠ろうと目を瞑(つむ)った。
眠れる訳はないと分かっていた。
それでも眠って置きたかった。
少しでも体力を回復して置きたかったのだ。










3人の身に何か有った時のために・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #189

#189




「ここは部外者立ち入り禁止です」

鶴見区 辰吾(つるみく・しんご)が言った。
雪の担当医だ。
ここは集中治療室。
雪の寝ている部屋。
そこに亀谷に肩を借りた不良が、ブラっと入って来たのだった。
当然、鶴見区は二人を外に出そうとする。
それが今だ。
その鶴見区の目を身長1メートル90の不良が、上から見下ろし見据えてこう言った。

「俺の血液を使え」

「エッ!?」

鶴見区は驚いた。
亀谷が、

『ハッ!?』

として顔を上げ、不良の顔を見た。
不良が続けた。

「俺の血液型は AB の Rh- だ」

「エッ!?」

鶴見区は再び驚いた。
亀谷も驚いて不良に聞いた。

「ホ、ホントっスか?」

「ウソをついてどうする」

「し、しっかし不良先生。 この体で・・・。 先生だって病人なんっスよ」」


(ギロ!!)


不良が亀谷を睨み付けた。


(ゾクッ!!)


その目の恐ろしさに亀谷は震え上がった。
その亀谷から視線を鶴見区に移した。

「俺は使えと言ったんだ」

今度は鶴見区が不良に言った。

「し、しかし、そ、その体では・・・」

「構わん!!」

不良が厳しく遮(さえぎ)った。
そして続けた。

「もし今、この娘(むすめ)が死ぬような事にでもなったら・・・」

ここで不良は一瞬、言葉に詰まった。
それから半ば自分に言い聞かせてでもいるかのように鶴見区に言った。

「俺は破瑠魔に一生顔向け出来ん。 それにこの娘は俺の、否、俺達の命の恩人だ。 だから遠慮なく俺の血液を使え。 全部使っても構わん」

不良の気迫に押され、亀谷のみならず鶴見区も震え上がっていた。

「よ、よ、宜しいんですネ。 ほ、ほ、本当に宜しいんですネ」

鶴見区が不良に念を押した。

「構わん!! 何度も言わせるな!!」

鶴見区は、


(チラッ!!)


不安感丸出しにして亀谷を見た。
別に同意が欲しくてそうした訳ではなかった。
ただ、恐ろしい不良の視線を無意識で一瞬かわしたのだ。
それに亀谷が反応した。

「ウンウンウンウンウン・・・」

って。

無言で首を縦に振り続けた。
それは不良の言う通りにしろというサインだった。

「で、で、では。 お、お、お言葉通りに・・・」

鶴見区はおっかなびっくりだ。

斯(か)くして雪の輸血の準備がキューピッチで開始される事になった。
その血液の提供者は勿論・・・たった今、意識を回復したばかりの不良孔雀である。

だが、

当然、不良は・・・










衰弱しきっている。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #188

#188




(ガクン!!)


ヘリの機体が揺れた。
杉上が天井部に移動した事により重心の位置が変わったからだ。
急いで拳銃を元に戻し、杉上は左手でシートの背もたれ部分を掴んだ。
バランスを保つためだ。
機体が若干傾いた。
そのためそれまでブロックしていた樹木が、


(ガキッ!!)


ドアから外れた。

『良し!! ドアが開く』

杉上は思った。


(ガタン!!)


思った通りだった。
ドアが開いた。
急いで助手席のロープを緩め、血液ケースを取り外した。
ヘリの外は真っ暗。
しかも暴風雨のはず・・・だった。

しかし、

なんと言う幸運。
風もなければ雨もない。
凪(なぎ)状態だ。

でもナゼ?

それは台風の目。

そぅ。

杉上は今、不幸中の幸い、不運中の幸運。
ヘリは墜落したが、丁度その時、絵に描いたように 都合良く 運良く台風の目の中に入ったのだ。(これがふぃくしよんの良さでアリンス・・・ アッ!? 分かってくれてると思ふヶど、この物語はふぃくしよんダス。。。 分かってくれてると思ふヶど・・・)
当然、月明かりが射している。
杉上は着ていたスーツの内ポケットの中から左手で携帯電話を取り出し、


(ピ、ポ、パ、・・・)


何処かに掛けた。

直ぐに相手が出た。
杉上が電話の相手に現在の状況を説明し始めた。
以下がそのやり取りの一部である。

「・・・。 はい、そうです。 ここは丁度○○県と○○県の県境付近と思われます。 恐らく国道○○号辺りではないかと・・・。 はい。 何とか国道に出る手立てを講じます。 はい。 では長官。 後の手配、宜しくお願い致します」

電話の相手は佐伯(すけ・のり)長官だった。


(カチャ!!)


杉上は携帯を切った。
それを内ポケットにしまい、ヘリのサイドボードの中から懐中電灯を取り出した。
一旦、懐中電灯を天井(今は床になっている)に置き、杉上はズボンのベルトを緩め、その先を血液ケースの取っ手の部分に通し、再び締めた。
ケースを腰にぶら下げたのだ。
それは右腕が使えないからだった。
ここまでの動作を杉上は、左手1本で行なった。
それから懐中電灯を拾い上げ、足場を確認しながらヘリの外へ出た。
そしてユックリと国道があると思われる方へ樹林の中、時々山肌を手で探りながら歩き始めた。

しかし、
それでなくても血液が入っているため手で持っても重いのに、腰にベルトだけでぶら下げたジュラルミン製の血液ケースは更に重く感じられた。

だが、
利き腕の右手を負傷している今、これが杉上に取ってベストの方法だった。
一足毎(ひとあしごと)に血液ケースが動いて歩き辛い。
だが、そんな事を気にしている状況ではない。
杉上は左腕だけで道なき山林を国道目指して這い上がり始めた。

当て所(ど)もなく何処(どこ)までも。

ただ、上空から見下ろしていた時の記憶だけを・・・










頼りに。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #187

#187




「クッ!? 操縦桿(そうじゅうかん)が!? 操縦桿が利かない!?」

杉上は焦った。

杉上は今、緊急停車を強いられた寝台特急・フジヤマに乗っていた日赤血液センターの職員から、小型のジュラルミン製と思われるアタッシュケースに入れられている輸血用の血液を受け取り、ヘリで雪の待つ病院を目指していた。
たった一人で。
亀谷を病院に残したまま。
それは外道達の身にもし万一何かあった時ベストの対処を、という判断からだ。
そして単身吹き荒れる暴風雨の中、無事血液を受け取り、病院に向かう途中だった。

だが、

本土に上陸した台風にその進路を完全に塞がれてしまった。
しかし、その台風を迂回して戻る時間もなければ、燃料もない。
そのため杉上は、台風による暴風雨の中、一か八か強行突破を図った。
その結果がこの状況である。
暴風雨の勢いに抗し切れず、終に操縦不能となってしまったのだ。
そうならないようになるべく低空を飛行していたにも拘(かかわ)らず。

「クッ!?」

杉上は必死でヘリを立て直そうとした。
だが、無駄な抵抗だった。
一度、気流に飲まれたら如何(いか)に最新鋭の大型ヘリと言えども、単なる鉄の塊に過ぎなかった。
否、空中にある分、余計質(よけい・たち)が悪い。
しかも時は夜。
真っ暗な中での飛行。
有るのはヘリの照明と人家、街路、街明かりそういった物だけだった。
今の状況からは当然、月の光だの星明りだのは望むべくもない。

ヘリはプロペラを回転させたまま、その本体も回転し始めた。
そして、その状態のまま高度を下げ、山林の上に落下し始めた。
そうなれば翼を持たないヘリは呆気ない物だ。

「アッ!?」

っという間に、山林の中に突っ込んだ。


(ドッカーーーン!! ビシビシビシ!! メリメリメリ!! バキバキバキ!!)


激しい衝突音を上げ、樹木をなぎ倒し、ヘリが山林に突っ込んだ。
しかし、その山林の樹木は常緑樹だった。
それが幸いした。
一年を通して葉っぱを付けている。
そのヘリはかなり重量のある大型だったにも拘らず山林自体がクッションの役目を果し、激突による機体の破損や爆発は起こらなかった。

天は杉上を見捨ててはいなかったのである。

当然、雪をもだ。

杉上のヘリは樹木を数十本なぎ倒して着地した。
しかし、それ程都合良くは行かなかった。
機体がさかさまになって止まっていたからだ。
突っ込んだ拍子に半回転して天地さかさまになってしまったのだ。
世の中とはそんな物だ。
そんなに都合良く行く訳がない。(作者にとっては好都合 da ピョン・・・)
しかも、山林激突のショックで杉上は右腕にかなりのダメージを負った。
痺れて力が入らない。
従って天地がひっくり返った状態で、左手だけで杉上はヘリから脱出しなければならなくなっていた。
それも血液・・輸血用血液・・雪の輸血用の血液の入ったケースを持ってだ。
当然、懐中電灯も。
杉上は逆さまの状態から助手席にロープで固定して置いた血液ケースを見た。
ケースを固定して置いたのは季節外れの台風という暴風雨の中の強行突破、それを事前に考慮しての事だ。
杉上が行なった転ばぬ先の杖だった。
それが功を奏した。
血液ケースは無事。
恐らく中味の心配もいらないだろう。
しかし心配な事が他にあった。
ドアだ。
ヘリのドアが折れた樹木にブロックされて開けられなくなっていたのだ。
しかも杉上が自由になるのは左腕一本。

『クッ!?』

さしもの冷静沈着、クールな杉上も焦った。
だが、焦っても如何(どう)にもならない事も良く承知していた。
杉上は考えた。

『良し!! 一つずつ順を追って事を進めよう。 先ず、天地さかさまの状態からの脱出。 これから始めねば』

杉上は安全ベルトを外すのではなくユックリとそれを緩めた。
そしてずり落ちるようにヘリの天井部(今はそれが下部になっている)に左手一本で逆立ちするような格好になり全身を支えながら徐々に体を下ろして行き、なんとか四つん這いで天井部にへばり付く事が出来た。
次に、ヘリから外へ出なければならない。
だが、
ドアは開かない。
ガラスを割って出るしか方法はない。
ガラスは勿論、強化ガラスだ、それも “超” と付く程。
叩いて割れるようなチャチな物じゃない。

杉上は胸に装着してある拳銃を抜いた。
フロントガラスに向けた。
両腕でシッカリ固定して撃ってもかなりの反動のある拳銃を左手、それも利き腕ではない方の手だけで撃たなければならない。
下手をすれば骨折の可能性がある。
しかし今はそんな事を考えている余裕はない。


(チラッ!!)


助手席の血液ケースを見た。
無意識にそれを確認したのだ。
そして引き金に掛けてある左手人差し指に力を込め、拳銃を発射しようとした。










だが・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #186

#186




「亀谷」

不良が亀谷に呼びかけた。

「はい」

「起こしてくれ」

「エッ!?」

「起きるから手を貸してくれ」

「だ、だいじよぶなんっスか?」


(ギロッ!!)


不良が亀谷に冷たい一瞥(いちべつ)をくれた。


(ビクッ!!)


亀谷はビビった。
不良は別に睨み付けた訳ではなかった。
ただ、スゥ~っと目を流して亀谷の目を見据えただけだった。
だが、亀谷にしてみれば不良のその目は、大上段から真一文字に自分の身を斬り下すのではないかと思える程鋭かった。
まるで研ぎ澄まされた鋭利な刃物のように・・・

不良が言った。

「俺は手を貸せと言ってるんだ」


(ゾクッ!!)


不良のその一言に込められた迫力に今度は全身に悪寒が走った。
そして、

「ハ、ハィ!!」

言われるままに手を貸した。
先ず、不良の右に回り点滴を外した。
左に戻り、掛け布団と毛布を剥がし、最後に酸素吸入器。
それから不良が起き上がるのを手助けしようとした。
だが、

「クッ!?」

不良が呻(うめ)いた。
全身に激痛が走り、力が入らないのだ。


(グッ!!)


不良が歯を食い縛った。

「いきますよー、先生ー!! いっセーのーセっ!!」

亀谷が気合を入れた。
そして、


(ガバッ!!)


なんとか不良の上体を起こした。


(ズキッ!!)


「クッ!?」

再び不良の全身に痛みが走る。
歯を食い縛ってそれに耐える不良。

次に亀谷は不良の左脇に右肩を入れ、左手で患者着姿の不良の両足を下から持ち上げ、ユックリと体を回転させ、ベッドから両足を下ろさせた。
そして不良にスリッパを履かせ、再び気合を入れ、

「セーの!! ヨイショー!!」

なんとか立たせた。

「俺をあの娘(むすめ)の病室まで連れて行け」

「エッ!?」

亀谷は一瞬驚いた。
だが、直ぐに言う事を聞いた。
不良には逆らえないという事は既に学習済みだったからだ。
不良に肩を貸し、


(カチャ!! スゥー)


引き戸式のドアを開け、部屋の外に出た。
向かった先は、勿論、雪の病室である。
それも集中治療室。










面会謝絶の・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #185

#185




「ぶ、不良先生!? 気が付いたんっスか!?」

亀谷だった。
絶対安静、面会謝絶の不良の様子を丁度今、見に来た所だったのだ。
勿論、主治医の許可を得て。

亀谷が枕下に駆け寄った。
顔が不良の視界に入った。

「亀谷か」

「ハィ!! そうっス!!」

亀谷が元気良く返事をした。

「死神は? 死神はどうなった?」

「いや~!? その~!? なんつったらいいっスか!! 全くー!! ハィ~!! お陰さまで死神は消滅しましたっス!! 死人帖もっス!! ハィ~!! どうも有難うございましたぁっス!! ホントにホントにホントにどうも有難うございましたぁっス!!」

嬉しさの余り、亀谷の日本語はチョッと可笑しかった。
もっとも、言わんとするところはチャンと伝わってはいたが。

「そうか。 で、うえ・・・否、 R は?」

「勿論、無事っス!! 先生達のお陰っス!! 有難うございましたぁっス!!」

「ウム。 計画通り・・・か?」

「ハィ!! その通りっス!! 計画通りっス!! 先生の立てた計画通りっス!!」

「ところで破瑠魔は何処(どこ)だ? どうしている?」

ここで、それまで元気一杯だった亀谷の表情が一気に曇った。

「そ、それが・・・」

「ン!? 何だ?」

「・・・」

「どうした?」

「・・・」

「まさか・・・死んだのか!?」

「い、いえ。 け、決して死んだ等とは・・・」

「なら、どうしている? ハッキリ言え!!」

「はい。 い、今、面会謝絶んなってまして・・・。 ハッキリした事は何とも・・・」

「面会謝絶?」

「はい。 不良先生も衰弱酷かったっスヶど、破瑠魔さんはそれ以上で・・・。 脈も殆(ほと)んど・・・」

「そうか。 ・・・」

「はい。 ・・・」

「ところで今何時だ? 俺はどの位眠っていた?」

「今、11時チョイ前っス」

「夜のか?」

「はい。 で、先生は3、4時間位っスか? お休みんなってたのは・・・」

「・・・」

ここで不良は、

『ハッ!?』

とした。
突然、何かを思い出した。

「あの娘(むすめ)!? あの娘は・・・?」

「雪さんの事っスか?」

「そうだ」

「それがそのう~、・・・」

「何か有ったのか?」

「はい。 不良先生を追って破瑠魔さんが、あの亀裂つうんっスか? 自分達には全く見えない。 その亀裂ん中入って暫(しば)らくしてからっス。 急に 『先生が危ない!!』 つって叫んだかと思うと雪さん、破瑠魔さんが消えた空間向かって走り出したんっス。 それを自分等(じぶんら)3人掛りで押さえたんっスヶどネ。 それが何ともとても女の子とは思えない凄まじい力で、3人でやっとこさ押さえたんっスヶどネ、はい。 そしたらこんだその状態で固まっちまったんっス、雪さん。 全く意識がなくなったままなんっスヶどネ。 それが又、凄い重さで。 およそ人間の、しかも女の子の体重とは思えないぐらいの重さで、はい。 で、自分達も雪さんを放すに放せないまんま暫(しば)らくその状態でいたんっスヶども。 いやもうヘトヘトで。 しまいに雪さん急に体の力が抜けたかと思うとその場に倒れ込んだんっス。 ただ倒れ込んだだけなら良かったんっスヶどネ、はい。 こんだ下血しちゃたんっス。 それがもう大出血で。 だから今、集中治療室で輸血用の血液到着を待ってるトコなんっス、はい」

「輸血?」

「はい」

「今頃何を言っている? 輸血位なら疾(と)っくに終わっているはずだ」

「そ、それが。 そのう~。 血液型が・・・」

「血液型がどうした? ハッキリ言え!!」

「はい。 雪さん何やら2000人に1人しかいない。 AB 型の R ナントかつう型で」

「 Rh- か?」

「そうそう、それっス、それ!!」

「で、血液の手配は?」

「はい。 それがそのう~」

「一々口ごもるな!! ハッキリしないヤツだ!!」

「ハ、ハィ!! 予備の血液が本土にはなく九州から取り寄せる手配にしてたんっスヶど、それも台風の関係で特急列車なんっスヶどネ。 途中列車が止まっちゃったんっス、台風に捕まっちゃって」

「台風!? そうか、そういえば季節外れの台風が接近していたな。 こっちには関係ないと思っていたが・・・。 まさかそんな事になるとは・・・」

「はい、そうなんっス。 台風1号のヤツっス・・・。 台風1号のヤツに捕まっちゃったっス・・・」

「で?」

「はい。 今、左京さ・・・アッ!?・・・否、杉上がヘリで向かってるトコなんっス、連絡受けて直ぐ。 ただこの気象状況で・・・」

「それは何時(いつ)だ?」

「かれこれ1時間位前っス」

「連絡は?」

「はい。 まだ、何も」

「娘が下血してどれ位時間が経つ?」

「はい。 5~6時間位っス」

「そうか」

そう言って、目を閉じ、不良が考え込んだ。

「・・・」

微動だにせず、息も出来ず亀谷が不良を見守っている。
瞬き一つ出来ない。
恐ろしいまでの緊張感だ。
亀谷は手がジットリと汗ばんだ。
冷や汗だ。
今はまだ春先。
ジットリ汗ばむような気温ではない。
もっとも、室温はそれなりの温度設定では有ったが。
それでもやはり、汗ばむような事はないはずだ。
考え込んだというただそれだけで、自分の周りにいる者達にそれ程の緊張感を与えてしまう。
これが不良孔雀の持つ迫力である。

そのまま時間が経過した。
ホンの10数秒。
しかし亀谷にはそれが何時間にも感じられた。

突然、


(クヮッ!!)


不良が目を見開いた。










そして・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #184

#184




「ゥ、ゥ~ン」

一声唸って男は静かに目を明けた。

部屋の照明は暗かった。
意識がボンヤリしている。
再び目を閉じた。
別に眠るためではなかった。
目を開けているのが辛かっただけだ。
そのまま何も考えずにボーっとしていた。
暫(しばら)くそのままでいると音がしている事に気が付いた。
その音に注意を払った。


(チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、・・・)


置時計が秒を刻む音のようだった。

『時計か』

男は思った。

そして、


(チッ、チッ、チッ、チッ、チッ、・・・)


何も考えずにその音を聞いていた。
頭の中がボーっとして何も考えられなかった。
全身の感覚が麻痺している。
まるで雲の上にでも寝ているような、そしてそのまま虚空を漂(ただよ)ってでもいるかのような、全くの無感覚。
ただ、
時計の秒を刻む音だけが耳の奥で反響している。

男は暫(しばら)くジッとその音に耳を傾けていた。

突然、


(ポッ!!)


体の中で何かが弾けた。

すると、

それまで思考が停止していたのが嘘のように一気に記憶が甦(よみがえ)って来た。
まるで真夏の夕立。
いきなり降り出す雷雨のように。

『ハッ!?』

男は素早く目を開けた。
起き上がろうとした。

だが、


(ズキッ!!)


「ウッ」

全身に激痛が走った。
あまりの痛さに起き上がるどころか動く事さえ出来なかった。

『クッ!? 何がどうなっているんだ? ここは? ここは一体?』

男は部屋の中を見回すため頭を動かそうとした。

だが、

又しても、


(ズキッ!!)


「ウッ」

痛みが走ってそれすら出来ない。
仕方がないので目だけで見える範囲をチェックした。

如何(どう)やら自分は今、ベッドの上で寝ているようだ。
右手側に点滴器具が見える。
ならば自分は今、点滴を受けているのだろうか?
それに酸素吸入器も付けられているようだ。

が!?

感覚がない。
麻痺している。
点滴、酸素吸入器からすると、ここは病院か?

目線を動かしてみた。

天井は白かった。
壁は淡いクリーム色をしている。
この状態では床の色までは分からない。
他に見えた物と言えば、あまり大きくない窓が1つ。
それは出窓のようだ。
清楚な感じの淡い空色の薄いレースのカーテンが掛かっている。
その窓から見えるはずの外の日差しはもうなかった。
既に夕方、あるいは夜なのであろう。
部屋の広さは5~6坪か?
この状態からの目視(もくし)だけではハッキリした広さまでは分からなかった。

『ここは一体・・・?』

男は再びそう思った。

その時、


(カチャ!! スゥー)


音がした。
ドアの開く音だ。


(ガチャン!!)


ドアを閉め、誰かが入って来た。
誰だか見たかったが、頭を動かせない。
まだ視界に入ってこないのだ。
男か女か?
それすらも。
ただ、自分の足元に近付いて来る気配だけは分かった。










すると・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #183

#183




「破瑠魔様。 不良様。 お、お気を確かに・・・。 破瑠魔様。 不良様。 ・・・。 遅い!! しっかし遅い!! な~にをしておられるんじゃ、杉上様は・・・」

大河内が未だ意識の戻らぬ外道と不良に盛んに声を掛けていた。
心配そうだ。

『どうして良いやら?』

といった表情をしている。
出来る事なら自分の手で二人を担いで麓の駐車場に止めてある車まで運び、そのまま病院へと向かいたかった。
しかし、残念ながら大河内は既に年。
しかも、まだ腰が抜けたまま。
気は焦れど体がそれに全く付いて行かない。
せめてもと二人に毛布を掛けるのがやっと。
それは自分と杉上達の分だった。

そこへ、


(ババババババババババ・・・)


ヘリの音が聞こえて来た。

「来たーーー!! 来た来た来た来た来たーーー!!」

興奮して大声を上げ、音のする上空を見上げた。
微(かす)かにヘリらしき物が見えた。
大河内が再び外道達の方を向き、大声で呼び掛けた。

「は、は、は、破瑠魔様、不良様!! き、き、き、来ましたゾ来ましたゾ!! へ、ヘ、ヘ、ヘリが来ましたゾ来ましたゾ!!」


(ババババババババババ・・・)


流石、最新鋭のヘリ。
その姿が確認出来るようになるや、その直後には既に着いていた。


(タタタタタタタタタタ・・・)


杉上と亀谷が大河内達に駆け寄って来た。

「オーィ!! コッチじゃコッチじゃ!! 早く早く!!」

大河内がそんな事をしなくてもハッキリ分かるのに、地面に両膝突いたまま上体を起し、盛んに両手を杉上達に振りながら叫んだ。
外道と不良が心配の余り、思わず取った行動だった。
その大河内に駆け寄った杉上が聞いた。

「大河内さん。 お二人は?」

毛布に包(くる)まったまま地面に横たわっている外道達を指差して大河内が答えた。

「ご、ご、ご、ご覧の通りです!!」

大河内は興奮しっぱなしだ。


(バッ!!)


杉上が毛布を捲(めく)って外道と不良の様子を見た。
二人ともチャンと呼吸はしている。
キチンと脈も打っている。
だが、
どちらも弱々しい。
加えて、顔面蒼白、生気なし。

杉上が言った。

「亀谷君。 手を貸して下さい。 お二人をヘリに」

「はい」

杉上と亀谷が用意した担架を使い、外道と不良を順にヘリまで運び、手際良く二人をそれに乗せた。
最後に亀谷が今時のアイドルっぽく慣用表現全然無視して、

「これっ!? 全然軽いっスネェ。 何で出来てるんっスかネェ?」

ナンゾとほざきながら、不良の手にしていたあの槍も一緒にヘリに積み込んだ。

その間、大河内はズッと地面に両膝突いたまま、その様子を黙ってジッと見つめているだけだった。
その大河内に近寄って亀谷が聞いた。

「大河内さん。 立てないんっスか?」

「いや~、面目(めんぼく)ない。 破瑠魔様達のご帰還され方の余りの凄まじさに、思わず腰が、はい。 腰が抜けましてな」

「そ、そんなに凄まじかったんっスかぁ?」

「そりゃ、もう、凄まじいのなんのってアナタ・・・。 筆舌に尽くし難い位で・・・。 身の毛がよだつとは正にあぁいうのを・・・。 生きた心地が・・・。 はい」

「そうっスかぁ。 そんなに?」

「はい」

「じゃぁ、車の運転無理っスネ。 なら、俺っちが運転してお連れしましよう」

「そ、そうして頂けると有り難い」

亀谷がヘリの近くで自分を待っている杉上に呼び掛けた。

「左京さん!! 左京さんはヘリで病院戻って下さい。 俺っちは大河内さんの車で戻りますから」 

それを聞き、

「ウム」

頷いて、杉上はヘリに乗り込んだ。


(ババババババババババ・・・)


ヘリが飛んだ。
それを見送るように暫(しば)し見つめてから亀谷が大河内に言った。

「さ、じゃぁ。 俺等(おれら)も病院行きまっスか」

そして、道すがら何が起こったのか大河内から聞きながら、麓の駐車場を目指した。










腰が抜けて立てない大河内を負ぶって・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #182

#182




「そ、そ、そ、そうっスかぁ!? 終に・・・。 はい。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 い、今、左京さ 否 杉上は電話に出らんない状態っスから、自分がそう伝えときまっス。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 じゃ、長官。 後は宜しく。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 失礼致しまっス」


(カチャ!!)


亀谷が携帯電話を切った。
相手は佐長官だった。
ここは杉上操縦する所のヘリの中。
勿論、向かう先は重磐外裏。
破瑠魔外道、不良孔雀、救助のためである。

亀谷が興奮して杉上に言った。

「さ、左京さん!! つ、終にやりましたっスよ」

「死神ですか?」

「は、はい。 消えたそうっス。 死人帖も・・・たった今」

「そうですか」

「いや~!? やってくれましたっスネ、不良先生、破瑠魔さん!!」

「そうですネェ。 やってくれましたネェ」

「いや~!? しっかし、スーパーマンっスネ、あの二人。 死神殺しちゃうんっスからネ。 ホ~ント」

「・・・」

ここで杉上は黙った。

「どうしたんっスかぁ? 左京さん? 嬉しくないんっスかぁ?」

「えぇ。 素直に喜べませんネェ」

「何ででっスかぁ?」

「雪さんです」

「アッ!?」

「それに大河内さんからの連絡によれば、不良先生も破瑠魔さんも意識が全くないそうです。 浮かれていられませんネェ」

「そ、そ、そうっスネ。 浮かれていらんなぃっスネ。 そうっスそうっス・・・」

そして二人は黙った。

そのまま、


(バババババ・・・)


ヘリは向かった。
重磐外裏へと。










破瑠魔外道、不良孔雀、救助のために。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #181

#181




「そうですか!? 無事ご帰還ですか!? エッ!? ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 ・・・。 はい。 直ちに向かいます!!」

杉上が携帯電話の相手に興奮気味にそう言った。
そして亀谷に告げた。

「破瑠魔さん、不良先生御両名とも、ご帰還されたそうです」

「ヤッターーー!!」

亀谷が飛び上がって喜んだ。

「しかし、お二人とも意識がないそうです」

「エッ!?」

「行きますよ、亀谷君」

「ど、何処(どこ)にっスか?」

「二人を迎えにです」

「アッ!? そ、そ、そうっスネ。 そうっス。 アッ!? で、でも、雪さんは? 雪さんはどしたら・・・?」

「我々がいても今の所、何の役にも立ちません。 取り敢えずは不良先生、破瑠魔さんです」

「そ、そうっスネ。 ハィ!! じゃ、行(い)きますか」

「はい。 行(ゆ)きましよう」

二人は急ぎヘリに向かった。
その病院の大型駐車場に待機させてあった、杉上が必ずそれが必要になると判断して事前に手配してあった、燃料満タンの最新鋭大型ヘリに。


(ダァーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!)


って。。。










ダッシュで・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #180

#180




それは、

人影らしき物だった。

それも、

一人ではなく二人いるように見えた。
大河内は驚いて目を凝らした。

すると、

それは確かに人影だった。

しかも、

二人。

男女の区別は付かない。
しかし、見た感じが二人共、男のようだ。
少し身長差が有る。
そして中肉中背に見える方が背の高い方に肩を貸し、ヨロヨロと、時々、地面に手を着き、


(ドサッ!!)


っと倒れ込み、再び起き上がり、覚束(おぼつ)ない足取りでこちらに向かって来ていた。
背の高い方は何か長い杖のような物を手にしているようだが、ただ掴んでいるというだけで全くそれを使って体を支えている様子はない。
と言うより、殆んど全身に力が入らず、グッタリしている。
片足ではなく両足を引きずり、中肉中背の男に半ば担(かつ)がれているように見える。

大河内は老眼鏡を外し、燕尾服の胸ポケットからハンカチーフを取り出し、それで一度良~くレンズを拭き、再び掛けた。
ジッと目を凝らした。

次の瞬間、

大河内は興奮して叫んでいた。

「は、は、は、破瑠魔様!! ぶ、ぶ、ぶ、不良様!!」

と。

そぅ。

目の前に、グッタリとして意識なく自力歩行困難の不良を半ば担ぎ上げ、本人も又、意識朦朧(いしき・もうろう)として歩くのがやっと、ヨロヨロ歩きながらバタッと倒れ込み、又、起き上がり、再び不良を担ぎ上げ、ヨロヨロしながらこちらに向かって来る外道の姿があったのだ。

「破瑠魔様!! 不良様!!」

もう一度、大河内は叫んだ。
そのまま二人の元に飛んで行こうとした。

が!?

出来なかった。
腰が抜けて立つ事すらままならず、気は急(せ)くとも体がそれに付いて行かないのだ。

そして、

終に外道が力尽きた。


(バタッ!!)


大河内の目の前10メートル程の所で倒れ込んだ。
そのまま起き上がる様子を見せない。

「クッ!!」

大河内が何とか四つん這いになった。
その格好で地べたを這い始めた。
勿論、外道達に向かってだ。
赤ん坊が這い這いするようにして、なんとか外道達の元に辿(たど)り着いた。

「破瑠魔様!!破瑠魔様!! 不良様!!不良様!!」

「不良様!!不良様!! 破瑠魔様!!破瑠魔様!!」

 ・・・

大河内が交互に二人の体を揺すり、呼び掛けた。
と言うより叫んだと言った方が近いか?
大河内はまだ興奮冷めやらない。
しかし返事がない。

二人とも意識がないのだ。
否、
それどころか、顔に、全身に、生気が全く見られない。
二人ともだ。

大河内は急いで燕尾服の内ポケットから携帯電話を取り出した。


(ピ、ポ、パ、・・・)


過度の興奮と緊張のあまり、


(プルプルプルプルプル・・・)


手を震わせながら、何処(どこ)かに電話を掛けた。
相手が出た。
大河内が息せき切って喋(しゃべ)り捲(まく)った。

「は、は、は、破瑠魔様と、ぶ、ぶ、ぶ、不良様が、も、も、も、戻られましたーーー!! は、は、は、早く、早く!! ヘ、ヘ、ヘ、ヘリで、ヘリで!! む、む、む、迎えに来て下さーーーい!!」

と。

相手は・・・










杉上だった。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #179

#179




(ピカッ!!)


突然、目の前の空間が光った。
次の瞬間、


(ビキビキビキビキビキ・・・)


その光が恐ろしいうねりとなって迫って来た。


(ゴーーー!! ゴーーー!! ゴーーー!! ゴーーー!! ゴーーー!! ・・・)


真横を通り過ぎて行った。
直ぐ真横だ。


(ビヒューーー!! ビヒューーー!! ビヒューーー!! ビヒューーー!! ビヒューーー!! ・・・)


続いて凄まじい突風に煽(あお)られた。
まるでジャンボジェット機が殆(ほと)んど体を掠めて飛んでいったような衝撃だった。
体が吹き飛ばされそうだった。
恐ろしいまでの風圧だった。


(ドサッ!!)


大河内が腰を抜かしてその場に座り込んだ。

「あゎわゎわゎわゎわゎわゎわゎわ・・・」

恐ろしさのあまり言葉にならない。
大河内には何が何だか訳が分からなかった。
いきなり目の前の空間が光ったかと思ったら、直後に凄まじい破壊力を持つエネルギーが自らの体を殆んど掠(かす)めて飛んで行ったのだから。
失禁しなかったのがせめてもの慰めだ。
その場に座り込んだまま、暫(しばし)し呆然としていた。
ややあって、少し落ち着いたのだろう、うねりの飛んで行った方角を見ながら大河内は思った。

『な、な、な、何じゃ!? い、い、い、今のは一体!?』

だが、まだ立つ事は出来なかった。
全身に力が入らない。
完全に腰が抜けていたのだ。
そのままユックリと光の飛んで来た空間に目をやった。


(モァモァモァモァモァ・・・)


エネルギーの炸裂煙が上がっている。

『な、何じゃ!? あの煙のような靄(もや)は?』

大河内は思った。
暫(しば)らくそのままその炸裂煙を見つめていた。
徐々に炸裂煙が薄らいで行く。

すると、

そこに、

執事・大河内順三郎は見た。










ある物を・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #178

#178




『ハッ!?』

外道は驚いた。
思わずこの言葉が口を突いて出た。

「マ、マズイ、亀裂が閉じかかっている!?」

そぅ。

不良の指差している方向には例の亀裂があった。
だが、それは閉じかかっていたのだ。

入って来た時には高さが2メートル以上あった亀裂だったが、今は1メートルにも満たない。
外道がそこを通ってまだホンの数時間しか経ってはいない・・・はず。
それでも、いつの間にか亀裂は収縮していた。
だが、それだけではなかった。
幅もかなり狭まっている。
来る時は楽勝で入って来れるだけの幅があった。
しかし今は閉じかけてホンの10数センチしかなかい。
このため・・外道達がこの世界に来た時のサイズとは余りにも違い過ぎたため・・外道達は、不良がその秘めた能力を初めて発揮した位置からでは目視で亀裂を見つける事が出来なかったのだ。

そしてそれがその亀裂本来の大きさだった。
先程のは外道の百歩雀拳によって一時的に広がったに過ぎず、それが時間と共に収縮して元のサイズに戻り掛けていたのだ。

否、

事態はもっと深刻だった。

亀裂が閉じ掛けている!!

元々、空間に亀裂が存在する事事態、不自然な事だ。
不自然である以上、自然な形に戻ろうとするのは当然の帰結だ。
つまり何らかの切っ掛けが有りさえすれば、亀裂が消滅する方向に事は動く。
それが百歩雀拳だった。
つまり、
百歩雀拳の与えたショックのため亀裂が完全に塞がろうとしていたのだ。
そしてもし完全に塞がってしまったら、もう如何(どう)する事も出来ない。
如何(いか)に外道、不良と言えども二度と元いた世界に戻る術なし。
脱出するなら今しかない。
だが、既に亀裂を通る事は不可能。
あまりにも狭(せば)まり過ぎている。

『クッ!? ここまで来て!?』

外道は焦った。

みるみる亀裂が狭まって行く。
何か方法はないか?
そう思い、不良を見た。
再び不良は気を失っていた。
否、危篤かもしれない。
顔に、姿に、生気が全く見られないのだ。
呼吸をしている事さえ怪しい。

事ここに至ってしまった以上・・・

最早残された手段はただ一つ。

『アレしかない!!』

外道は思った。

しかし、今の外道にアレをやるだけのエネルギーは残ってはいなかった。
コレまでの戦いで全て使い果たしていたのだ。
心身共に既にヘトヘト。
フラフラ状態だった。
立っているのさえ辛いという有様だったのだ。
その状態でアレをやるという事は、それこそ命と引き換えに、と言っても過言ではない。
それにアレをやったからと言って、そんな状態で成功するか如何(どう)か?
もう一度亀裂を広げる事が出来るか否か?
それさえ疑問だった。

否、

それどころか更に悪い事に、元いた世界に戻るための道標(みちしるべ)とも言うべき雪の生命反応がない。
それが全く感じられないのだ。
雪の生命反応のリードなくして異次元の空間を超え、果たして正確に元の世界に戻る事が可能か否か?
それも瀕死の不良を伴って。
外道にはその自信も全くなかった。

だが、

最早、そんな事を言っていられる状況ではない。
自信の有無など関係ない。
目に見える速さで亀裂が狭まり始めているのだ。
迷っている時間などない。
亀裂が完全に閉じてからでは遅い。

『良し!!』

外道が覚悟を決めた。

不良に一服もられ、その状態で雪を追い、何度か使った縮地法、過度の緊張感の中で一度放った全力の百歩雀拳。
そして時空の超越。
更に異次元での百歩雀拳。
加えて、4回の縮地法と阿尾捨の法。
不良を背負ってヘトヘトになりながらの移動。
外道、使えるエネルギー既になし。
残るは、生命維持のための物のみ。

使うか外道、それを!?

「スゥ~~~、フゥ~~~、・・・」

終に外道が呼吸法を開始した。

そうだ!!

外道が最後の勝負に出たのだ!!

その全存在を賭けた・・・

命を懸けた・・・

外道、執念の・・・










百歩雀拳である。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #177

#177




雪だった。

不良の計算違い・・・それは雪だったのだ。

最後の最後で不良はしくじった。
この計画の大詰めに来て噛まれたのだ不良は雪に。
雪、必死の抵抗だった。
その潜在能力は外道をも遥かに凌ぐ雪に本気で噛まれたのだ。
何の影響も受けない訳がない。

一瞬、不良は全身が麻痺した。
ホンの一瞬に過ぎなかったのだが。
それでもその一瞬が、それまでの不良の目論見(もくろみ)全てをダメにしてしまった。
遅れたのだ。
中心核へテレポートするタイミングが。
この一瞬の遅れが不良に外道の念力波の直撃を許してしまった。
幸い外道の念力波に飲み込まれるまでには至らなかった。
そのため不良の受けたダメージは致命傷ではなかったし、目立った外傷もなかった。

だが、

エネルギー体を・・・

そぅ。

エネルギー体を・・・

不良は生きて行くための基本である、否、生命体の基本であるエネルギー体を傷つけられてしまったのだ、その時、百歩雀拳によって・・・外道の放った。

思えばこれは、死人帖最後の抵抗だったのかも知れない。
キャンセル回避のための。

しかし、例えそれがそのホンの一部分だったとはいえ間違いなく外道渾身の念力波を不良は喰らってしまったのだ。
ダメージを受けない訳がない・・・如何(いか)に心霊ドクター・不良孔雀とはいえ。
そしてその時受けたダメージは自力では元の世界に戻れない程、手酷かった。
同時に、受けたエネルギー波と共に空間奥深くまで飛び込んで来ていため方向を見失い、自分が入り込んで来た空間は何処(どこ)か、即ち、元いた空間が何処にあるのか、それすらも分からなくなってしまっていた。
つまり亀裂の場所を見失い、時空の迷い人になっていたのだった。

そして、気が付くと目前でマザーエイリアン対3匹のプレデターが戦っていた。
その戦いは、プレデターが仕組んだ物だった。
宇宙人プレデターは、宇宙で最も凶暴、且つ、強力なエイリアンを捕獲し、地球に送り込み、そこで選ばれたプレデターの戦士と戦わせていたのだ。
しかしそのプレデターの仕組んだ戦いは、遊び、あるいはゲームといった物とは異なっていた。
儀式だったのだ、それは。
つまりその3匹は、プレデターの成人式とでも言うべき一種の儀式のためにマザーエイリアンと戦っていたのである。

“首尾良く、且つ、素早くマザーエイリアンを倒し、それが産み落としていた無数の卵を破壊する”

これがその3匹に与えられたテーマだった。
即ち、
先ず、マザーエイリアンを倒す。
しかし、仮にこれに成功したとしても、時間を掛け過ぎるとその間に卵が孵化し、無数のエイリアンが相手となってしまう。
だからその3匹にとって、如何(いか)に時間を掛けずにマザーエイリアンを倒すかが問題だったのだ。
そして、首尾良くこれに勝利すれば一人前、敗れた時には死。
その儀式のためにそれを仕組んだプレデター達は舞台を地球と定め、場所を南極としたのだった。

だが、

そこには南極観測所があった。
当然、観測隊員がいた。
もっともこの観測隊は表向きで、実は、マフィアのボス 『ズル・クリキントン』 率いるギャングの集団だった。
彼等はその不正蓄財をそれが余りにも桁外(けたはず)れな額であったため他に隠し場所がなく、滅多に人の訪れる事のない南極に隠すのがその目的だったのだ。
そして当初の計画通り、首尾良く隠し終えた。
だが、
その帰路、プレデターによって地球に運び込まれたマザーエイリアンと遭遇し、全員マザーエイリアンの手に掛かって死んだ。
その最後の一人となったズル・クリキントンの妻で黒人女性 『ヒラメー・クリキントン』 がマザーエイリアンの尻尾の強打を受け、吹っ飛ばされた丁度その時、不良がここに外道のエネルギーと共に吹っ飛んで来たのだった。
本来ならば凄まじいエネルギー波と共に吹っ飛んで来る等というド派手な登場をした以上、不良の存在がマザーエイリアンに知られるのは火を見るよりも明らかだった。
だが、幸運にもその直後、不意に何処からともなく出現した3匹のプレデターがマザーエイリアンに襲い掛かった。
そのため不良の存在は気付かれずに済んだ。
そして怪物同士の3対1の凄絶なバトルが開始された。
しかし、マザーエイリアンのその圧倒的強さの前に3匹の内2匹が殺され、最後の1匹がその胸をマザーエイリアンの尻尾によって刺し貫かれた正にその瞬間、今度は不良を追った外道がその場所に姿を現した。
それにより・・つまり外道の出現により・・初めて不良は、自分が飛び込んで来た亀裂の大凡(おおよそ)の位置を知る事が出来た。

それから擦った揉んだした挙句(あげく)、漸(ようや)くマザーエイリアンを外道が倒した。
だが、その前にマザーエイリアンは何百個という卵を既に産み落としていた。
それが全て孵っていた。
その孵った卵から生まれたエイリアン達の攻撃を外道と不良は受けたのだった。
襲い掛かって来るその余りの数の多さに外道達はなす術なく追い詰められ、最早これまでという所まで来てしまっていた。
そこへ、今度は外道の窮地を察した雪がその本来の姿を現した。
そして覚醒した雪の能力(ちから)を借り、金剛秘密主・阿尾捨(あびしゃ)の法を用い、何とか外道と不良はエイリアンを全滅する事に成功した。
だがその騒ぎの中、不良も外道も本来自分達が所属している世界への出入り口たる亀裂を見失ってしまったのだった。
その亀裂を見つけ出すために、今度は手負いの不良がその秘めた能力を使わなければならくなった。
そして何とか亀裂を見つけ出す事に成功した。
だが、
その代償は余りにも大きく、不良の生命エネルギーの枯渇という所まで来てしまっていたのだった。


又、

不良が死神・苦竜にその存在を知られたくなかったのはナゼか?

それはもしこの計画に苦竜が気付いたら、苦竜が不良を殺しに掛かる可能性を否定できない、否、必ず殺しに掛かるのは間違いないからだった。


最後に、

不良がこの作戦を R 死亡予定時間の1分前に設定したのはナゼか?

それは作戦遂行に緊張感を持たせるため。
つまり、この作戦を自らと R との死亡予定時間ギリギリで行なうという背水の陣を敷く事により、杉上、亀谷、大河内に緊張感を与え、3人の持つ能力を最大限引き出すためだったのである。










解説・お・す・ま・ひ











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #176

#176




不良はワープした。

不良孔雀、第二の能力である。
不良は時空を渡る事が出来る。
そして外道の念力波が自らの体に触れた瞬間、そのエネルギーの中心核にワープしたのだ。
そうする事によりその直撃から来る衝撃をかわしたのだった。
本来ならこれで死人帖を破る事が出来たはずだ。
死人帖にはこう書くように命じていたのだから。

「・・・。 書かせる俺の死亡時間は R 死亡予定時間の1分前。 死因は、ある恐るべき念力使いによる念力波の直撃を受けてだ。 そして・・・」

そぅ。

『・・・念力波の直撃を受けて・・・』

と。

しかし死人帖がキャンセル回避のため、その瞬間、不良を心臓麻痺で殺すという手を打って来ないとも限らない。
そこで不良は自らの身の安全並びに R の命を担保するため、自らのジャスト死亡予定時刻に異次元空間に退避する、即ち亀裂の中に飛び込む、という手立てを講じたのだった。

案の定、外道の念力波の中心核に身を置いただけでは死人帖のキャンセルはならなかった。
それは死人帖並びに死神・苦竜が消滅せず、活動を停止した事で分かる。
不良の計算は正しかったのだ。

そして不良は、そのまま外道の念力波と共に亀裂に飛び込んだ。

その時、不良はこうやっていた。

先ず、念力波が自らの体に触れた瞬間、その中心核に身を置く事により念力波の直撃による衝撃を回避。
次に、そのエネルギー波と同スピードで同方向にジャンプ。
そして念力波の先端の一部によって押し広げられた亀裂の中にその念力波と共に飛び込む。
仕上げは、念力波と同じスピードで上下左右の内、状況に応じてベストと思われる方向に放物線を描いて飛び、自らと共に亀裂に入って来ていた部分の念力波をやり過ごす。

である。

如何(いか)に強大なエネルギー波と言えども、同時に同方向に移動すれば殆(ほと)んどその影響を受ける事はない。
しかもその中心は、丁度台風の目と同様、安全地帯でもある。
そして計算通り外道の念力波は亀裂を、自らが飛び込むのに充分な大きさにまで押し広げた。
後はその亀裂に飛び込むだけで良かったし、それに成功した。
ここまでは全て不良の思惑通りに進行した。

だが、

一つ、

そぅ、

一つ。

一つだけ計算違いがあった。
そしてそれは決定的な一つだった。

その一つ・・・










それは・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #175

#175




そこで不良はかつて出逢った事のある破瑠魔外道の存在を思い出した。
不良が外道と接触した期間はホンの数日では有ったが、それでも不良は外道の底知れぬパワーとその潜在能力を見抜いていた。
そしてその外道の力を借りる事によって亀裂を広げようと考えた。
即ち、外道の念力波なら間違いなく亀裂を広げる事が出来るに違いないと踏んだのだ。
しかし、
如何(いか)に強大とは言え、平常心で放つ外道の念力波に果(は)たして亀裂を広げるような真似が出来るか否か、不良には確たる勝算がなかった。
とすれば、必要なのは外道全力の念力波という事になる。
何としても外道には全身全霊を込めた念力波を打たせなければならない。
そこで不良は一計を案じた。
それが雪の拉致である。
不良は直接雪と会った事はなかった。
しかし不良の “見る” 能力(ちから)はその存在を知っていた。
外道最愛のフィアンセ・雪の存在を。
これはイコール、外道最大の弱点でも有った。
そこを不良は突いたのだ。
外道の眼前で雪を拉致し、外道にそれを追わせるという作戦である。
しかし不良は外道の恐ろしさが半端ではない事も良く承知していた。
そのため羽柴秀吉の執事・大河内順三郎に、事前に自分が調合した痺れ薬を一服盛らせる必要が有った。
幸い外道と大河内は顔見知りであり、大河内は外道の全幅の信頼を得ていた。
結果、事は全て不良の計画通りに進行した。
又、
不良が杉上達に命じた時、5分前にこだわった訳は計画の遂行に緊張感を保たせるため全てはギリギリで行なう必要が有ったからだった。
杉上と亀谷が雪を拉致し、それを一服盛られた外道が、薬が効いている間は大河内の車で、効果が弱まってからは縮地法で空間を切り裂いて追う。
次に、雪の拉致を不良自身が引き継ぎ、それを外道に遠目から見せ、今度は自分を追わせ、追って来る外道と自分と亀裂との位置関係を見定め、本気で雪を殺しに掛かり、その殺気を外道に悟らせ、外道の百歩雀拳を誘発させ、それを待つ。
しかも、この時には既に外道に盛った一服の効果が完全に切れていなければならない。
こういった全ての条件を勘案した結果が、不良死亡予定時刻5分前だったのだ。

そして終に運命の時は来た。

「百歩雀拳!! 哈(ハ)ーーー!!」

不良の本気の殺気を感じた外道が、あの恐るべき百歩雀拳を放った。
それは雪を守るため、外道渾身(こんしん)の念力波だった。


(ビキビキビキビキビキ・・・)


強大な外道のエネルギー波が不良を襲った。
その最先端が不良の体に触れた。
不良が吹き飛んだ・・・かに見えた。

だが実は、

この瞬間・・・










外道のエネルギーが不良の体に触れた正にその時、・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #174

#174




そこに亀裂が有った。

あの亀裂が・・・




解説しよう。


ナゼ外道達は亀裂の有る場所に到達出来たのだろうか?

これを知るには不良の特殊能力を知る必要が有る。
不良には外道のような剛の技はない。
つまり不良は外道のような強力な念力波は出せないのだ。

だが、

替わりに外道にはない柔の技を使う事が出来る。
その技の特徴を一言で言い表すと、

① 他人の思考の中に入る能力

と、

② テレポーテーション能力(しかしそれは、短い距離の瞬間移動という外道の縮地法とは異なり、一瞬にして時空間を超越する能力)

この二つだ。

先程、自らの盆の窪に不良が手刀を打ち込んで来たと外道が錯覚したのは、不良がこの①の能力(ちから)を発揮したためだった。
不良は自らのエネルギーを盆の窪を通して外道の脳に打ち込んだのだ。
そして人間の記憶中枢である大脳辺縁系(だいのう・へんえんけい)の海馬(かいば)並びに扁桃核(へんとうかく)にそのエネルギーの触手を伸ばし、外道の記憶に入り込み、外道が初めてこの世界に入って来た時の状況を読むと同時に不良自身も又その疑似体験を持った。
つまり、外道のこの時の記憶を共有したのだ。

次に、そのエネルギーの触手を側頭葉に入り込ませそこに軽い放電を起した。
そうする事によって外道の思考内に再認の追想錯誤(ついそうさくご)、俗に言う 『デジャ・ヴ(既視感)』 を誘発し、それに焦点を当てた。
つまり、狙いを定めたのだ。

最後に、②の能力を発揮し、空間の多重性を利用してこの狙いを定めた外道の記憶の中の世界、即ち、外道が初めてこの世界に来た瞬間の記憶の世界に肉体と共に “ワープ” したのである。
勿論、外道を伴って。



ここで不良が初めてこの世界に入って来た時の状況も解説しておこう。


 R 救助の相談を受けた時、先ず不良が考えた事。
それは死神殺し、即ち、死人帖のキャンセルだった。
そのためには如何(どう)したら良いか。
即座に不良は異次元空間への脱出を思い付いた。
そのヒントになったのが、かつて偶然発見したこの重磐外裏の不思議な亀裂だった。
もし、不良がこの亀裂の存在を知らなかったなら今回のこの方法は思い付かなかったかも知れない。
だが、
幸か不幸か?
あるいは運命の悪戯か?
不良はこの空間の亀裂の存在を知っていた。
しかもこの亀裂は皮肉にも、かつて妖(あやし)の女・雪が破瑠魔覚道率いるその一族によって仕掛けられた女切刀呪禁道禁断の秘術・小重裏虚(しよう・エリコ)の術を破った時に生じた亀裂の名残(なごり)だったのだ。
そして杉上の依頼を引き受けると直ぐに、不良は再びこの地を訪れ亀裂の再チェックをした。
しかし、自分がそこに出入りするにはその亀裂はあまりにも小さ過ぎた。
不良が出入りするためにはそれを広げる必要が有ったのだ。
しかし、不良にそんな能力はない。

そのため・・・










ここで外道の登場となる。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #173

#173




(ブヮーーー!!)


外道は全身に凄まじい風圧を感じた。
目を開けようとした。
だが、
出来なかった。
体を動かそうとした。
それも無理だった。
体の自由が利(き)かないのだ。

まるで、
うたた寝をしていて眼が覚め、否、眼が覚めたはずなのに起きようとしても起きる事が出来ない。
それどころか瞼(まぶた)を開く事すらままならない。
ならばと動こうとしても動けない。
もがく事さえも許されない。
当然声も出せない。
だが、意識はチャーンと目覚めている。
そういった事が時々起こるものだ。
俗に言う金縛りの一種である。
今の外道の状態はそれに良く似ていた。
外道の意思に反して全く体の自由が利かないのだ。

そういう時は、焦るものだ。

流石の外道もそうだった。
状況が状況なだけに尚更だった。

外道は声にならない唸(うな)り声を上げた。
必死に体をよじろうとした。
しかし無駄な抵抗に過ぎなかった。
身動き一つ出来ない、否、それどころか指一本動かせないのだ。

その時、

「破瑠魔!!」

不意に不良が外道の名を呼んだ。
すると、
恰(あたか)もそれが起爆剤ででも有ったかのように、


(スゥー)


自然に外道の目が明いた。
たった今までのアレは一体何だったのだろうか?
そう思える程、いとも簡単に。
そして何の苦もなく目前の光景に目の焦点も合わせられた。

瞬間、

外道は愕然とした。
目の前で信じられない事が起こっていたからだ。
一言も発する事が出来ず、外道はその眼前でたった今起こっている信じられないシーンを見つめた。
と言うより、目を切る事が出来なかった。


その信じられないシーンとは・・・


「ゥオォオォオォオォオォオォオーーー!!」

身の丈2メートル50は有ろうかという大男が胸を刺し貫かれて吠えた。
その大男は昆虫を思わせる顔、河童に似た体をしていた。
その大男の胸を刺し貫いた物は、尻尾だった。
その尻尾の本体はまるでトカゲのようだった。
しかもその大きさが半端じゃない。
恐らく30メートル位の立端(たっぱ)が有る。
その大トカゲが尻尾を巻いて、今し方それで胸を刺し貫いた昆虫を思わせる顔をした河童に似た体の大男を自らの顔の側に近付けた。
大トカゲは大男を食うつもりなのだろうか?

「ゥオォオォオォオォオォオォオーーー!!」

再び大男が吠えた。
断末魔の叫びのようだった。

それを見て、

『な、何だ、これは?』

たった今、重磐外裏の空間の亀裂を通り抜けてやって来た外道が思った。

 ・・・


という物だった。

そぅ。

外道は今、初めて自分がこの世界にやって来た時の出来事を今度は傍観者としてそれを見ていたのだ。
つまり、目の前で大トカゲ(マザー・エイリアン)と昆虫顔の大男(プレデター)との対決シーンを見つめている自分の姿を遠目から見つめていたのだ。

何が何やら分からぬまま外道は呆然として、マザー・エイリアンの尻尾に胸を刺し貫かれ断末魔の叫び声を上げているプレデターを見つめている自分を見つめていた。

その時、

「破瑠魔!! アレだ!! アレを見ろ!!」

外道の直ぐ後ろから不良の声が聞こえた。


(クルッ!!)


外道が振り返った。
不良がいた。
だが、そこに本来なら自分を見下ろしている筈の長身の不良の姿はなかった。
それまで体を支えていた槍を左手で握り締めたまま、地面にうつ伏(ぶ)せになって倒れ込んでいたのだ。
不良は必死の形相で自由になる方の右腕を伸ばし空間を指差していた。


(プルプルプルプルプル・・・)


その右腕が震えている。
極度に衰弱した不良にとってそれがやっとだった、右腕を伸ばすのが。
その状態で、再び不良が言った。

「破瑠魔!! アレだ!! アレを見ろ!!」

外道は不良の指差す先を見た。










すると・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #172

#172




(ズボッ!!)


左手で槍を杖代わりにしてやっと立っているはずの不良が、いきなり背後から右手手刀を外道の後頭骨直下、俗言う “盆の窪(ぼん・の・くぼ)” に打ち込んだ。

否、

打ち込んだように思えた。

「ヌッ!? な、何をする気だ?」

外道が振り返ろうとした。

「動くな!!」

不良が外道を一喝した。


(ビクッ!!)


流石の外道も一瞬、動きが止まった。
恐ろしいまでの不良の気迫だった。
外道は思った。

『クッ!? 一体コイツの何処にこんな力が残っていたんだ・・・』

不良が語気荒く外道に言った。

「余計な事は考えるな。 お前はあの亀裂の事だけ考えていればいいんだ」

「・・・」

「後は全て俺がやる」

「・・・」

「俺を信じろ」

「あぁ、分かった」

外道が押されている。

『ン!?』

突然、外道は項(うなじ)に風を感じた。
同時に、


(スゥー)


意識が遠くなった。
そして、


(ガクッ!!)


深い眠りに落ちた。

しかし外道が項に感じた物、それは風ではなかった。

「スゥ~~~、フゥ~~~、・・・」

不良の呼吸する息だった。

その時、不良孔雀。
一点を見つめた目は既に半眼。
呼気、吸気は静かに深く、無念無想。


(ピカッ!!)


瞬間、不良の全身が輝く。


(モァモァモァモァモァ・・・)


空間が歪む、不良の周りの空間が。
まるで真夏の蜃気楼のように。


 ・・・


そぅ。

終に不良が勝負に出たのだ。
初めて人前で、そして失敗すれば最後になるであろう心霊ドクター・不良孔雀、その秘めた能力発揮の瞬間である。










命を懸けた・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #171

#171




「ゥ、ゥ~ン」

「ヌッ!? 意識が戻ったのか、不良?」

外道が不良に聞いた。
それは不良を背負った外道が、貯水タンクを離れてから程なくの事だった。
雪の生命反応を感じ取る事の出来ない外道は、記憶ではなく直感を頼りに恐らく亀裂が有るであろうと思われる方向に向かって僅(わず)かばかりだが歩き始めていた。
しかし、暫(しば)らく歩いてはみたもののやはり亀裂のある場所を見つける事が出来ず、否、それどころか東西南北の方位すら掴めず、そのままその場で立ち往生していた。
そして念を飛ばし、雪の反応を探し続けていたのだった。
相変わらず不良を背負ったままでだ。
勿論、自らの体に不良の体を縛り付けた状態だったのは言うまでもない。
それは方向を掴んだ時、即、次の行動に移れるようにという思いからだった。

不良が聞いた。

「ン!? ここは?」

二人の周りは、見渡す限り一面焼け野原。
何処(どこ)を向いても皆同じ光景だった。
大炎城結界の残した痕跡だ。
逆に外道が不良に聞き返した。

「亀裂のある場所が分かるか?」

「亀裂のある場所か? 否、分からん」

「覚えてないのか?」

「覚えているも何もない。 あの時、俺はお前のあのエネルギー波に吹き飛ばされ、気付いた時にはもうここにいたんだからな。 そういうお前こそどうなんだ、覚えてないのか?」

「あぁ、俺もお前に付着した俺のエネルギーを追ってあの亀裂に飛び込んだ。 そして異空間の中お前を追った。 そして気が付いたら、いきなりアレだ。 位置を確認している暇はなかった」

「そうか」

「どうやら俺達は迷子になっちまったようだ。 亀裂が見つからん以上はな。 しかしここでぼやいていても仕方がない。 探すしかない」

「俺を降ろせ」

「大丈夫か? 歩けるのか?」

「あぁ」

外道が不良を地面に降ろした。
不良は自力で立とうとした。
だが、


(バタッ!!)


ムリだった。
まだ、とても自力で立っていられる程、回復してはいなかったのだ。

「待ってろ」

そう言って外道は今来た道を引き返した。
引き返した先は貯水タンク。
直ぐに戻って来た。

「これを杖代わりにしろ」

そう言って持って来た物を不良に差し出した。
それはあの大男の槍だった。
外道が突き刺したトカゲに刺さっていた方だ。
トカゲは燃えカスに変わっていたが、一体どんな金属で出来ているのだろうか、槍は何ともなってはいなかった。
外道が不良を抱え起こした。
不良が槍を杖代わりにして立ち上がった。
黙ってジッと外道の目を見つめた。
そして言った。

「破瑠魔。 目を閉じろ。 そしてあの時の事を思い出せ」

「ン!? あの時の事?」

「亀裂に飛び込んで、初めてこの世界に来た時の事だ」

「何のために?」

「いいから、言われた通りにしろ」

『何かあるな!?』

そう直感して外道は目を瞑り、重磐外裏の空間にあった亀裂からこちらに飛び込んで来た時の事を思い起こそうした。
しかし、その記憶はなかなか甦っては来なかった。
心身共疲れ切っているため上手く集中出来ないのだ。
暫らく心がアチコチフラフラしていたがやっとある一点に・・外道が始めてこの世界へ来た時の一点に・・集中出来るようにナントかなった。

その一点とは、勿論、あの大トカゲと大男の戦いの場面である。










その瞬間・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #170

#170




「どしたんっスか? 左京さん。 ヘリって? それも最新鋭の大型って?」

携帯のやり取りを聞いていた亀谷が杉上に聞いた。

「はい。 一応、何か有った時のためにと思いまして」

「何かって、何っスか?」

「何かです」

「あ、そ。 そっスか」

素っ気無い杉上の答えに、若干不満げに首を振りながら亀谷が続けた。

「あ、でも、ヘリならあるじゃないっスか、さっき乗って来たヤツが」

「有りますネェ」

「アレじゃダメなんっスか?」

「はい。 ダメですネェ」

「な、何でっスか?」

「あのヘリにはもう燃料が殆んど残ってませんから」

「そ、そっスか」

杉上の煮え切らない答えにチョッと苛(いら)ついた亀谷であった。










その頃・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #169

#169




「ここで気象の情報をお知らせ致します・・・」

テレビのモニターには脳天気なお天気オジサンの、意地悪 良純(いじわる・よしずみ)が映し出されている。

ここは病院内のロビー。
杉上と亀谷は椅子に座ってテレビを見ていた。
雪を運び込んだ直後の事だ。
その雪は今、集中治療室に運び込まれ面会謝絶となっている。
集中治療室の前で待っていても良かったのだが、反って落ち着かなかったため二人はロビーで待つ事にしたのだった。
ロビーには32インチ程の液晶テレビが据え付けられていて、夕方のニュースをやっていた。
その番組内のお天気情報。
そして訳知り顔でお天気情報クッチャべってんのは、脳天気オッサンの・・・意地悪 良純だったのである。

良純がほざいた。

「ここで気象の情報をお知らせ致します。 ただ今、九州地方に接近中だった季節外れの超大型台風1号が進路を北に変え、本日夜半、近畿地方に上陸する恐れが出て参りました。 この台風の規模はかつてない大規模な物で注意が必要です。 又、今後の台風の予想進路は本土上陸後そのまま北上を続け、深夜には東海、関東地方を直撃する見込みです。 どうぞ、戸締りなどを怠らず、夜間の外出にはくれぐれもご用心下さい。 では、 CM の後はスポーツ。 そして再びニュースとなります。 ・・・」

って。。。

これを聞き、亀谷がぼやいた。

「今頃、台風っスかぁ。 どうなっちゃんてんっスかネ。 まだ春先ですよ、春先。 今は」

杉上が答えた。

「異常気象としか言いようがありませんネェ」

「そう、それ。 それなんっスヶどネ。 異常気象、異常気象って、なんか毎年言ってないっスか? おんなじ事」

「そうですネェ、言ってますネェ」

そこへ、いい男なんだヶど時々悪役やる、矢沢永吉似の俳優っぽい医師がやって来た。
今回、佐伯(すけ・のり)長官の手配で雪の専任担当医となった鶴見区 辰吾(つるみく・しんご)だった。
それに気付き、杉上と亀谷が椅子から立ち上がった。

亀谷が聞いた。

「先生。 雪さん、どうっスか?」

鶴見区が口ごもった。

「それが・・・」

「エッ!? な、なんかヤバイんっスか?」

杉上も聞いた。

「どうなのでしよう? 雪さんは?」

鶴見区が重い口を開いた。

「今、あの患者さんには緊急輸血が必要です。 なにせ出血が酷く」

「じゃぁ、輸血お願いしまっスよ」

亀谷が杉上の同意を求めた。

「ネ、左京さん」

杉上も言った。

「はい。 お願い致します」

「それが・・・。 誠に申し上げ難いのですが・・・」

「なんっスか、先生。 ハッキリ言っちゃて下さいよ」

「それがですね。 あの患者さんの血液型は AB 型の Rh- なのです」

「あ、じゃ、その AB 型の R なんとかってのをお願いしまっス」

「ところがこの AB 型の Rh- は2000人に1人という大変珍しい型で、備蓄が殆んどないのです。 今、日赤血液センターに確認した所、生憎(あいにく)本州には在庫が全くなく僅かに九州にあるとの連絡が入りました」

「きゅ、九州!? 九州ですかぁ?」

「はい。 で、一応取り寄せる手配はしたのですが・・・」

今度は杉上が聞いた。

「どうされました?」

「はい。 現在の気象状況が状況なだけに空の便はムリ。 陸の便も今現在滞(いまげんざい・とどこお)っていて列車は運休、様子見状態という連絡が入りました。 当然、海上輸送は全く不可能。 なにせ相手が台風ですから、それも超大型の。 車も危なくて出せないとの事です」

「じゃ、じゃぁ、雪さんは?」

「はい。 もし血液が届かなければ、患者さんはもって今夜一晩・・・。 あるいはもう少し・・・。 ウ~ム。 いつまで持つかは・・・?」

「そ、そんなぁ!? せ、先生!? な、なんとかなんないんっスか?」

「血液がない以上・・・。 何も・・・」

「そ、そんなぁ、先生!! 何とかして下さいよ!! お願いしまっスよ!!」

亀谷が鶴見区を拝んで続けた。

「これ、この通り!! ネ!! この通り!! お願いしまっスよ!!」

「・・・」

鶴見区は顔を背け、無言のまま答えられなかった。
血液がない以上、手の施しようがないのだ。

そこへ、


(タタタタタタ・・・)


女性看護士が慌てふためいてやって来た。

「先生ー!!」

その姿を見て鶴見区よりも先に亀谷が看護士に聞いた。

「な、なんっスか? ゆ、雪さんどうかしたんっスか?」

「い、いえ、違います。 列車が、列車が走るそうです。 台風の進路が変わったので。 でも、鈍行、特急のみで新幹線はこのまま運休だそうです」

鶴見区が聞いた。

「で、血液は?」

「はい。 センターの方(かた)が直に持って特急に乗り込んだそうです」

「じゃ、もう・・・」

「はい。 出発したそうです」

ここで杉上が割り込んだ。

「その特急の名前はなんと?」

「はい。 寝台特急・フジヤマだそうです」 (寝台特急・富士は本年3月廃止ンなっちゃったので適当なの作っちゃいますたぁ。 doblog 壊れなきゃ、間に合ったのにぃ・・・プンプン : 作者)

それを聞き、杉上はその場を少し離れた。
そして携帯を取り出した。


(ピッ、ポッ、パッ、・・・)


何処(どこ)かに電話を掛けた。
こう言っていた。










「長官。 大至急、燃料を満タンにした最新鋭大型ヘリを1台こちらに回して下さい」











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #168

#168




「雪さん!! シッカリして下さい!! 雪さん!!」

亀谷が盛んに雪に呼びかけている。
ここはヘリコプターの中。
運転するのは杉上左京。

「左京さん!! 病院。 まだっスかぁ」

「もう少しです」

「冷たいっスよ、雪さんの体。 ダイジョブなんっスかね? 死んじゃいないようっスヶど。 一応脈もあるし、呼吸もしてますから。 ヶど、冷たいっスよ、雪さん。 ホント、ダイジョブっスかね?」

「下血が酷かったですからネェ、それで体温が下がったのでしよう」


(ババババババババババ・・・)


ヘリは病院を目指していた。
目指す病院には既に無線で連絡済だった。
それも警察庁トップの佐伯(すけ・のり)長官経由で。
従って、第一級の救急医療班が到着を待ち受けている手筈になっていた。

「しっかし、左京さんがヘリの免許持ってて助かりましたっスよ」

「いぃえ、持っていませんよ」

「へ!? む、無免許?」

「はい」

「い、いんっスかぁ、無免許で運転しちゃって?」

「非常事態ですから」

「ま、まぁ、そういやそうっスヶど・・・」


(ババババババババババ・・・)


「あぁ、アソコですネェ。 見えてきましたよ、亀谷君」

亀谷がヘリの窓越しに地上を見下ろした。

「あぁ、ホントだホントだホントだ」

亀谷が再び、雪に呼びかけた。

「雪さん!! 雪さん!! 雪さん!! 病院、もう直ぐっスからね、頑張って下さいよ。 死んじゃダメっスよ!!」

と、未だ意識の戻らない雪に。
その時、雪は昏睡状態だったのだ。

一方、

外道は雪のエネルギーを探っていた。
来た世界に戻るためにだ。
雪の生命エネルギーのみが外道を元いた空間に導けるのだ。

だが、

外道は混乱していた。

『ヌッ!? おかしい!? 雪に反応がない』

そして立ち止まった。
方向が見えないのだ。
雪という方向が。

そぅ。

その時、外道は道標(みちしるべ)を失っていたのである。










雪の生命反応という道標を。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #167

#167




「グハッ!!」

不良が吐血した。
貯水タンクの上に倒れ込んだ。
外道の阿尾捨法(あびしゃ・ほう)に耐え切れなかったのだ。

当然だ。

外道の百歩雀拳に傷付き、今、又、その身に半端じゃない霊格を降ろされたのだから。
それも一気に二人。
破瑠魔善道と破瑠魔死頭火の達人二人。
しかもそれだけではなかった。
夫々(それぞれ)が秘術、秘技を行なったのだ。
どちらも果てしないエネルギーを必要とする秘法を。

「不良!?」

外道が不良に駆け寄った。
抱き起こした。
不良は死んではいなかった。
気を失っているだけだった。
しかし、一刻を争う事は医術の心得のない外道にもハッキリと分かった。

『急がねば!!』

外道は焦った。
もうトカゲの心配はない。
だが、
今、外道達のいる所は貯水タンクの上。
高さはどんなに低く見積もっても15メートルはある。
先ず、ここを下りなければならない。
上った時は、縮地法で不良を担いで跳んだ。
外道は下る時も同じ事をしたかった。
しかし出来なかった。
外道のエネルギーも既に底を突いていたのだ。
しかも、これから意識のない不良を連れて異次元を超えなくてはならない。
そのためには殆んど残っていないエネルギーを、もうこれ以上ムダには使えない。
外道は考えた。
そして何を思ったか、着ていたシャツを脱ぎそれを破こうとした。
しかし、そのシャツは春物だったが仕立てのシッカリした物だった。
如何(いか)に外道とはいえ、そう簡単に素手で破く事の出来る代物ではなかった。

『クッ!? ダメだ、手ではムリだ。 何か・・・』

外道は辺りを見回した。
すると例の大男の槍がもう1本残っているのが目に入った。
不良が持っていた方だ。
それを拾い上げた。
どんな金属で出来ているのだろうか?
プレデターの槍は重さが殆んど感じられない程軽く、しかしその切味(きれあじ)には信じられない物があった。
世界の刀剣の中で最も良く切れると言われている日本刀に匹敵、否、それ以上だった。
名刀・正宗に優るとも劣らぬ切味だったのだ。
それを使い外道はシャツを切り裂き、それを縄に結った。
そして右膝を突き、身長1メートル90、体重75キロの不良を背負った。
それから今結った縄で不良の体を自分の体に縛り付けた。
多少のグラグラ感はあったが、そんな事を気にしている余裕はなかった。
その格好で外道が貯水タンクを下り始めた。
貯水タンクには階段もなければ梯子も付いてはいなかった。
タンクは直径約10メートルの金属製の円柱。
そのタンクから矢倉の鉄骨まではタンクを形作っている鉄板をまるでスパイダーマンのようにへばり付いて下りなければならない。
幸いその鉄板には所々固定用のボルトがあった。
そのボルトを頼りに何とか矢倉の鉄骨に辿り着いた。
そこからはタンクの時程の苦労はなかった。
とはいえ、力なく外道の体に縛り付けられている不良を背負っているのだからその大変さは計り知れない。
外道は不良を背負ったまま10分近く掛けて無事下まで下りる事に成功した。
だが、
その疲労感たるや半端ではなかった。


(ドサッ!!)


不良を背に負ぶったまま外道が地面に倒れ込んだ。

「ハァハァハァハァハァ・・・」

外道の呼吸が粗い。
地面に倒れこんだまま5分程休んだ。
何とか呼吸を整えた。
再び、不良を背負ったまま外道は立ち上がった。
そして歩き始めた。

ヨロヨロと。

空間の亀裂目指して。










そこに来た時とは逆に・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #166

#166




足りなかった。

それだけでは不充分だった。
今の不良の体力では全てのトカゲを焼き尽くす程の大炎城結界を張り巡らす事は不可能だった。
勿論、その不良の背後から不良に向け、外道も持てる全エネルギーを発してはいた。
不良援護のためだ。

しかし、

それだけではパワーが足りない。
外道はそれを良く承知していた、今の不良と自分の限界を。
だから止(や)めてはいなかった。
だから阿尾捨法(あびしゃ・ほう)を止めてはいなかったのだ、外道は・・・その時。

「ウ~ム」

再び外道が念を込めた。


(スゥ~)


善道が消えた。
一瞬不良の姿に戻った。

「ウグッ!!」

又しても不良が呻き声を上げた。
苦しそうだ。
いつもは感情を殆んど表に出さない不良の顔が苦痛で醜く歪んでいる。


(バタッ!!)


不良がタンクの上に倒れ込んだ。

だが、

次の瞬間、


(スゥ~)


再び不良が先程同様マリオネットのように真上に引き上げられた。
立ち上がった時には姿も変わっていた。
今度は女だ。
不良の姿が女に変わっていたのだ。
その姿を見て、

『ハッ!?』

外道はショックを受けた。
一瞬、外道は阿尾捨法を中断しかけた。
それは懐かしさ故だった。
その時、外道はこう思っていたのだ。

『お、おふくろ!?』

と。

そぅ。

外道は不良に母・破瑠魔死頭火の霊を降ろしたのである。
暫(しば)し、外道と死頭火は見つめ合った。
だが、それはホンの束の間の出来事だった。
しかし、外道の “時間” は止まっていた。

「フッ」

不意に死頭火が外道に微笑みかけた。
そして、優しく満足そうに一言こう言った。

「外道、立派になりましたネ」

これを受け、

「カーさま」

そう叫んで外道は懐かしい母・死頭火の胸に飛び込みたかった。

だが、今の外道にそんな余裕などない。
感傷に浸っている暇など全くなかったのだ、今の外道には。
全ての想いを打ち捨て、雑念を振り払い、

「ウ~ム」

外道は三度(みたび)念を込めた。
すると、


(クルッ!!)


死頭火が外道に背を向けた。
大火炎に向かったのだ。
大火炎に正対した時には、既に死頭火、右手を剣印に結び、それを下唇に置き、目は半眼。
そして、


 南無・一目連大神(なむ・いちもくれん・だいじん)
 南無・一目連大神(なむ・いちもくれん・だいじん) 
 南無・一目連大神(なむ・いちもくれん・だいじん) 
 
 ・・・


と、咒(じゅ)し始めていた。

突然、


(ピュー!!)


風だ!!

死頭火の咒に呼応するかのように風が吹き始めた。
善道が張った大炎城結界の中に風が。
それは何処(どこ)からともなく吹き始めていた。
死頭火と外道の周りを回転している。


(ピュー!! ピュー!! ピュー!! ピュー!! ピュー!! ・・・)


回転している風が徐々に広がり始め、


(ビヒュー、ビヒュー、ビヒュー、ビヒュー、ビヒュー、・・・)


激しく勢いを増した。

次の瞬間、


(クヮッ!!)


死頭火が目を見開いた。


(キッ!!)


前方、大火炎を睨(にら)み付け、右手剣印を下唇から離し一旦左肩に押し付けた。
そして、

「キェィ!!」

甲高(かんだか)い気合一閃、大火炎に向け一気にその剣印を切り上げた。

瞬間、


(ブァアァアァアァアァアァーーー!!)


風は突風に変わる。
変わった風は、


(メラメラメラメラメラーーー!!)


内部から大炎城を押し広げ、周囲のトカゲを焼き尽くす。


(ゴォオォオォオォオーーー!!)


一気に炎は大地を覆い。
全てのトカゲを消し去った。

外道の作戦勝ちである。

破瑠魔善道が 『秘術・大炎城結界』

そして、

破瑠魔死頭火 『秘技・神風流れ』

コンビネーション・ワーク勝利の瞬間だった。










しかし・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #165

#165




雪の姿が消えた。
即座に吹雪が止んだ。
同時に凍り付いていたトカゲ達が息を吹き返し始めた。
恐るべき生命力だ。
再びトカゲ達の体が動き始めた。

外道は不良の目を見つめていた。
そして厳しく、且つ、念を押すように言った。

「死ぬなよ、不良」

「お前こそしくじるなよ、破瑠魔」

これを聞き、外道は笑った。

「フッ。 相変わらず口の減らないヤツだ」

「フッ。 ソッチこそ」

不良も笑った。
だがその直後、

「ゥ、ゥ、ゥ、ゥ、ゥ、・・・」

不良のその笑い顔が苦痛の表情へと変わった。
苦しそうだ。
タンクの上に転がり七転八倒し始めた。
終に外道が始めたのである。

“あの大技” を。

そう、

『金剛秘密主・阿尾捨(あびしゃ)の法』

を。

外道、既に目は半眼。
手に秘密守・根本印。
口に秘密守・根本大咒。

そして、

「ウ~ム」

念を込めた。

すると、

「グハッ!!」

それまで七転八倒していた不良が一声唸った。
だが次の瞬間、
信じられない事が起こった。


(スゥ~)


不良が立ち上がったのだ。
それまで貯水タンクの上で苦悶の表情で七転八倒していた不良がだ。
それも普通に立ったのではなかった。
全身に全く力を入れず、横たわった状態からスックと立ち上がったのだ。
あたかもそれまで横たわっていたマリオネットが紐に引っ張られ、いきなり立ち上がったかのように。

しかも立ち上がった時にはもう、そこにいたのは不良ではなかった。
善道だ。
不良の姿が善道に変わっていたのだ。
外道直系の先祖で、あの破瑠魔大道の弟・破瑠魔善道に。


そして・・・

外道は思った。

『これが善道か?』 (善道のイメージは適当にご想像下さい。 めんどっちいから書かないよ~~~ん : 作者)

善道が外道の目を見据えた。
そして徐(おもむろ)にこう言った。

「外道、記憶せよ。 大炎城結界は我等が長兄・破瑠魔大道の命(めい)を受け、封印せし秘術。 じゃが、どうやらその封印を解く時が来たようじゃ。 本来、大炎城結界は五大力火輪の術者のみ使(つこ)う事の出来る秘術。 よってそれ以外の術者には使う事、相適(あいかな)わぬ。 そしてソナタは火輪の術者には有らず。 じゃが、ソナタは他の四大を司る五大力の中尊・空輪、その史上ただ一人の術者。 しかも神剣・軍駆馬の唯一の使い手。 よってソナタはこの術、例へ使う事適(かな)わずと言へども見知って置くべきなり。 故に、我、今、その史上ただ一人の空輪の術者に我等が秘術を示さん。 見よ、外道!! これが女切刀呪禁道五大力火輪(めぎと・じゅごんどう・ごだいりき・かりん)が秘術・大炎城結界じゃ」

そう言い終えた正にその瞬間、

既に善道、無念無想。
半眼に開いた目は一点を見つめ。
揃(そろ)えて上げられた両手は胸の前で手首を返す 『天破の構え』。

その体勢での、

「スゥーーー!! ハァーーー!!」

「スゥーーー!! ハァーーー!!」

「スゥーーー!! ハァーーー!!」

 ・・・

呼吸法。

そして善道、

「キェイ!!」

気合一閃、右手剣印を真上に向け、天に向け、突き上げた。
左手智印は左腰に当てている。


(ピカッ!!)


瞬間、善道の右手指先が光る。


(モァモァモァモァモァ・・・)


空間が歪(ゆが)む。
真夏の蜃気楼のように。


(ボッ!! ボッ!! ボッ!! ボッ!! ボッ!! ・・・)


突然、火の粉が上がる。
歪んだ空間から。


(ボヮッ!! ボヮッ!! ボヮッ!! ボヮッ!! ボヮッ!! ・・・)


上がった火の粉は炎に変わり、


(ブゥォーーー!!)


善道、外道の周りを回り出す。


(ボヮーーー!!)


それらは繋(つな)がり火の輪となる。


(ゴーーー!!)


火の輪は一転劫火(ごうか)と変わる。


(ビキビキビキビキビキーーー!!)


一気に劫火は拡大し、


(メラメラメラメラメラ・・・)


有る物全てを焼き尽くす。


(メリメリメリメリメリ・・・)


最後にそれは周囲を覆い、


(ビシビシビシビシビシーーー!!)


大火炎城の形を成す。

秘術・大炎城結界完了!!










だが・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #164

#164




「オィ、不良!!」

「何だ?」

「お前は根性無しか?」

「あぁ、根性無しだ。 だが、それ以外に方法がないのに、命懸けで自分を守ろうとしている女にそれをしろと言われても、臆病風に吹かれて後込(しりご)みしているヤツよりはマシだがな」

「フン。 利いた風な口を・・・」

不良にここまで言って、一旦外道は言葉を切った。
一呼吸、吐(つ)いた。

その時・・・

雪の姿が消え始めた。

「外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! ・・・」

雪が叫んでいる。

「外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! 外道ー!! ・・・」

外道の名を叫び続けながら、終に雪の姿が消えた。
最後の最後まで外道の身を案じての事だった。
しかし、そこに現れたのは雪の本体ではなくエネルギー体だったのだ。
本体を止められた雪は、無意識にエネルギー体を飛ばしていたのだった。
こんな真似は生半可な事では出来ない。
雪の持つ恐るべきパワーと潜在能力と外道への一途な想い。
それらが可能にしたのだ。
だが、さしものあの無尽蔵のエネルギーを有する雪とはいえ、外道同様、自らの所属しない空間におけるエネルギーの消耗は如何(どう)する事も出来なかった。

加えて、

雪はそれまで全くそういった事の訓練を受けてはいない。
生まれて初めての経験だったのだ、今回が。
そしてエネルギーを使い果たしてしまった。
如何(いか)に雪の天稟(てんぴん)の才(ざえ)が郡を抜いて優れているとはいえ、雪はまだ女子高生。
完全に精神と肉体が出来上がっているとはとても言い難い。
まだまだ不完全だった。

その精神と肉体のバランスの不完全な人間がいきなりこういった事を経験したらどうなるか?

簡単である。

雪は、杉上、亀谷、大河内の3人掛りで動きを止められていた。
しかし、外道を思う一心で少しでも前に進もうと、上体と両腕を外道の消えた亀裂に向け身を乗り出すように目一杯伸ばしていた。
そしてその状態でエネルギー体を飛ばしたのだ。
だから、本体はそのままの状態で意識を失いその場で固まっていた。


(クヮッ!!)


と両目を大きく見開き、外道の消えた空間を見つめ、瞬き一つせず、そこを睨み付けたまま意識がなくなっていたのだ。


(スッ!!)


不意に雪の体から力が抜け落ちた。
更に、


(ガクッ!!)


杉上達3人にに支えられたまま地面に崩れ落ちた。

「雪さん!!」

「雪さん!!」

「雪様!!」

3人が呼び掛けた。
しかし雪の意識は戻らない。
だが、それだけではなかった。
雪の太ももが真っ赤だ。
雪の太ももが真っ赤に血に染まっている。
それも半端な量ではない。
普通の生理どころではなかった。
血が流れ落ちている。
下血したのだ、雪は。

亀谷が叫んだ。

「た、大変だぁ!?」

その亀谷に杉上が命じた。

「取り合えず雪さんを毛布の上に寝かせましよう」

大河内が体が冷えないようにと、用意してあった毛布を地面に広げた。
先程亀谷が大河内の車から持って来ていた物だ。
その上に3人がかりで雪を寝かせ、杉上が脈を見た。
脈は打っていた。
だが、弱々しかった。
杉上が意識のない雪に断わりを入れた。

「失礼!!」

そして雪のスカートをめくった。


(パッ!!)


と、眩(まぶ)しい純白のパンツが目に飛び込んで・・・来なかった。
真っ赤だ。
雪の純白のパンツが真っ赤に血に染まっている。
そしてその血は、


(ドクドクドクドクドク・・・)


流れ続けている。
止まりそうな気配を見せずに。

「ウヮー!! こ、こりゃひでぇ!! ど、ど、ど、どうしましよう左京さん?」

亀谷が取り乱している。
杉上が命じた。

「兎に角、病院に運びましよう。 亀谷君、手伝って下さい。 下のヘリまで運ばなくては・・・」

大河内は色を無くして両手で雪の左手を握り締めていた。

「オォー!! 雪様、雪様、雪様、雪様、雪様、・・・」

と、ブツブツ言いながら。
その大河内に杉上が言った。

「大河内さん。 我々が雪さんを病院に運びます。 大河内さんには申し訳ないのですが、ここで破瑠魔さん達をお待ち頂けないでしようか」

「は、はい。 そ、それはお任せ下さい。 い、一刻も早く雪様を病院へ。 お、お願い致します」

大河内は血相変えてうろたえている。
亀谷が急かせた。

「左京さん!! は、早く!!」

「はい。 それじゃ大河内さん、後は宜しく」

「こ、こちらこそ。 ゆ、雪様をお願い致します」

毛布に包まれた雪を亀谷が負(お)ぶった。
雪が落ちないように背後から杉上が手を回して支えた。
そして坂道を下って行った。
その後ろ姿を大河内が心配しながら見送った。

こう思いながら。

『ゆ、雪様にもしもの事が有ったら・・・。 は、破瑠魔様に何と申し開きすれば良いやら・・・』

と、










酷く取り乱して・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #163

#163




「もしやと思うて来て見たが・・・やはり。 何をしておるのじゃ、外道」

「い、否、雪。 こ、これには・・・」

その時、


(ガタン!!)


トカゲが1匹タンクに飛び乗った。
外道達の背後だ。

「ヌッ!?」

気配に気付き外道が振り返ってそれを見た。
そして不良を突き放し、槍を構えた。
トカゲがそのまま一気に外道に飛び掛って来た。


(グィッ!?)


外道が槍を持つ手に力を込めた。


(ズブッ!!)


トカゲを下から槍で突き刺した。


(ドサッ!!)


トカゲがタンクから下に倒れ落ちた。
だが、槍が刺さったままだった。
それを握っていた外道も引っ張られるように転げ落ち掛けた。
外道は槍を離した。
だが、ついた弾みでタンクから体が飛び出した。
両手でタンクの縁を掴み何とか落下せずに堪えた。

だが、


(ズルッ!!)


手が滑った。

「クッ!?」

外道が指先に力を込めた。
しかし右手が縁から離れた。
左手一本で落下を支えた。
だがそれもガッチリ掴んでいる訳ではなかった。
指先がチョッと引っ掛かっているだけだった。
しかも振り子のように勢いが付いている。

そのまま落下か?

落ちればそこには・・・

外道危うし!!

その時、


(ニュー!!)


手が伸びて来た。
その手が外道の上着の背中を掴んだ。

不良だった。
不良が外道を掴んだのだ。
だが、今の不良にはそれがやっとだった。
両手で外道の上着を掴み、何とか外道を地上に落とさないというのが。
もし落ちればトカゲの餌食になってしまうのは火を見るよりも明らか。

しかし、


(ガタン!!)


今度は反対側からもう1匹トカゲがタンクに飛び乗った。
そのまま一気に不良の背後から跳びかかろうとした。

外道、不良、最早これまでか?

その瞬間、


(ドス、ドス、ドス、ドス、ドス)


そのトカゲの頭に氷柱(つらら)が5本、先程同様突き刺さった。
五指樹氷だ。
雪の投げた五指樹氷だ。

「キィィィィィーーー!!」

断末魔の悲鳴を上げ、雪の五指樹氷を頭に受けたトカゲがタンクから転げ落ちた。
そのまま数匹の仲間と共に地上に落下した。
それを横目で見ながら、不良の力を借り外道が何とかタンクに這い上がった。

だがそれもつかの間、


(ガタン!! ガタン!! ガタン!! ・・・)


トカゲ達が1匹2匹3匹と順次タンクに飛び乗って来始めた。
そして一気に飛び掛ろうとした。
最早、外道達に逃げ道なし。


(スゥ~)


トカゲがジャンプの体勢に入った。
後ろ足を踏ん張った。

『来る!?』

外道は思った。

だが、

次の瞬間、信じられない事が起こった。


(ピキピキピキピキピキ・・・)


今にも跳びかかろうとしていたトカゲ達がその場で一瞬にして凍り付いたのだ。
外道と不良は驚いた。
一瞬にしてトカゲ達が氷に変わったからだ。

『ハッ!?」

っとして外道が上空を見上げた。

雪だ!!

そぅ。

雪がトカゲ達を氷に変えたのだ。
破瑠魔大道のあの大炎城結界の中で逆結界を張った時のように、自らの肉体を氷と化したあの力を使って。

その雪が外道に発破(はっぱ)を掛けた。

「何じゃそれは? 何の真似じゃ、見苦しい。 シッカリせぬか、外道。 情けない」

「す、済まん、雪。 だが、この数ではどうにもならん」

「技を使わぬか」

「い、否。 そ、それが・・・。 残念ながらこれを切り抜けるような技はない」

「有るではないか」

「?」

「大炎城結界が有るではないか」

「大炎城結界!?」

「そうじゃ。 あれを今使わずして、何時(いつ)使うのじゃ」

「駄目だ。 あれは、あの技は、我が先祖破瑠魔善道が封印してしまった。 俺はやり方を知らない。 だから使えんのだ」

「ならば使える者を使役(しえき)すれば良いではないか」

「た、大道か?」

「そうじゃ。 大道様じゃ」

「ム、ムリだ。 大道はあの時、お前と戦ったあの時、成仏してしまった。 既に霊魂はない」

「善道とやらはどうじゃ? 使えぬのか?」

「そうか、善道なら。 善道なら使えるはずだ。 だが、・・・」

「『だが、・・・』 なんじゃ?」

「善道を呼び出す事は出来ない」

「ナゼじゃ?」

「それをするには人柱(ひとばしら)が必要だ。 だが、ここには人柱になる人間がいない」

「何を申すか? ワラワと戦(たたこ)うた時にはそのような者はおらなんだではないか」

「あ、あれは、あの時は、神剣・軍駆馬(しんけん・いくさかりば)の力が可能にしたのだ。 しかしここに軍駆馬はない。 軍駆馬なしでアレをやるには人柱が必要なんだ。 それも半端なヤツでは勤まらん。 善道を降ろすにはそれ相応のパワーのある者でなければならん。 だが、ここにそれに耐えられるヤツはいない」

「おるではないか」

「ン!?」

「ソチの直ぐ横じゃ」

「不良か?」

「そうじゃ」

「ムリだ。 健康体の時なら兎も角、今のコイツに善道のパワーを受け切れる力はない。 殺す事になりかねん。 ムリだ」

「ムリでもせぬか!! それ以外にないならせぬか!! 愚か者め!!」

「・・・」

「何を躊躇(ためろ)うておるのじゃ、外道!! もう、持たぬ!! もう、これ以上ワラハは持たぬ!! せぬか、外道!! 早くせぬか!!」

『クッ!?』

外道は迷った。
“あの技” を使うべきか否(いな)かを。
健康体の不良になら恐らく問題なく使えるであろう。
だが、今の不良は傷付いている。
その不良に・・・もし、受け切れなかったら死を意味する事になるあの大技を・・・

『クッ!? どうすれば・・・』

外道は迷った。

今の不良に “あの大技” を使うべきか否(いな)か・・・










を。











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #162

#162




(ドス、ドス、ドス、ドス、ドス)


突然、トカゲの頭を真上から何かが襲った・・・何かが?

「キィィィィィィーーー!!」

凄まじい悲鳴を上げ、トカゲが後ろに吹っ飛んだ。
タンクから転げ落ちた。
下から続いて上って来ていた仲間を何匹か巻き込んで、そのトカゲが地上に落下した。
仰向けになったまま動かない。
既に死んでいる。
そのトカゲの頭は5本の氷柱(つらら)に打ち抜かれていた。

ン!? 5本の氷柱?

この状況で?

も、もしや・・そ、それは・・五指樹氷!?

あの外道に倒された雪女が使った。

バ、バカな!? 雪女は死んだはずじゃ・・・

だが、それは間違いなく五指樹氷だった。
かつて雪女が使った物と全く同じ五指樹氷だったのだ。
外道の父・破瑠魔内道、母・死頭火と戦い、その命を奪った妖の女・雪の使った。

そう。

あの雪女の使った五指樹氷と全く同じだったのだ。

だが、

ナゼ今、雪女の五指樹氷が・・・?

すると、

「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ、・・・」

何処(どこ)からともなく笑い声が聞こえて来た・・・微(かす)かに。
それも女の・・・甲高い。

「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ、・・・」

笑い声が近付いて来る。
外道達に向かって。


(ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、・・・)


猛吹雪の中、その笑い声は間違いなく近付いて来る。
外道達、目掛けて。

「アハハハハハ、アハハハハハ、アハハハハハ、・・・」

終にその声はハッキリ聞き取れるほどになった。
それは頭上遥か高くから聞こえて来ていた。
外道と不良が宙を見上げた。

すると、そこに微かだが姿が見えた。
女のようだった。
全身純白の着物姿だ。
艶々として艶(あで)やか、且、黒々とした長髪以外は真っ白だ。
その女が更に近付いて来る。
終にその顔が分かるまでになった。
黒々とした艶やかな長髪。
抜けるような真っ白い肌。
男なら誰しもが 否 女でさえも、

『ハッ!?』

っと息を飲む程、美しい顔。
その中に黒曜石を思わせる、だが、底知れぬ深さと恐ろしさを秘めた大きく丸い瞳。
肉厚、それでいて輪郭の奇麗な真っ赤な唇。
見事に揃った真っ白な歯並び。
長身で八頭身。
豊かなハミチチ。
純白の着物に映(は)えるクッキリ乳首。

女の動きが止まった。
宙に浮いている。
そのまま女が外道を見下ろした。
外道と目が合った。

その瞬間、この言葉が外道の口を突いて出た。

「ゆ、雪!?」

そしてそのまま、

「・・・」

絶句した。
突然の、思いもよらぬ雪の出現で。

それを聞き不良が溜め息をついた。

「ヌッ!? 雪? そうかぁ・・・。 これがあの娘(むすめ)・・・。 あの娘の正体かぁ!?」

切迫した状況の中、直ぐに外道が気を取り直してこう呟いた。

「雪。 お、お前、その姿・・・。 終に来てしまったか・・・。 この時が・・・」

そぅ。

終に雪・・・

覚醒・・・










か?












つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #161

#161




それは白かった。(と、言ってもパンツの色ではありませヌ : 作者)


(チラチラチラチラチラ・・・)


空から何か降って来た。
白くて冷たい何かが。
無数に。
そしてユックリと。

『ン!? 雪か?』

外道は思った。
更に、

『おかしい。 如何(いか)に南極とはいえ今は夏。 しかもこの暖かさ。 降るのか、雪が?』

チラチラ雪が降り始めたのだ。
確かにそこは南極だった。

だが、

時は2月。
それは南極の夏。
そして外道の体感温度ではその日の気温は零度を遥かに超えていた。
確かに南極は一年中雪が降る・・・らしい。
だが、この気温で雪はない。
しかも、


(ピュー、ピュー、ピュー、ピュー、ピュー、・・・)


いきなり吹雪に変わった。
しかも次の瞬間、


(ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、ビヒューーー、・・・)


一気に猛吹雪となった。

その凄まじい猛吹雪を物ともせず、終に先頭のトカゲが貯水タンクを上り詰めた。
そして、


(ドカッ!!)


タンクに飛び乗った。
こっちを見た。

「クッ!? 来たか」

そう言って外道が立ち上がり、不良を抱え起こした。
そのまま後退(あとずさ)りした。

トカゲが若干身を屈めた。
ジャンプの体勢に入った。

「シャー!!」

一声吠えた。
そして外道達に向かって跳びかかろうとした。










その時・・・











つづく







死人帖(しびと・ちよう) ― the Last 'R'ule ― #160

#160




「ン!?」

外道が消えた空間の亀裂を見つめていた雪が、小首を傾(かし)げた。
大河内が雪の異変に気付いた。

「如何(いかが)なされました、雪様? 何か不審(ふしん)な事でも?」

空間の一点をジッと見つめたまま雪が叫んだ。

「先生が危ない!!」

「エッ!?」

「アタシ行かなきゃ」

突然、雪が亀裂目掛けて走り出した。
素早く亀谷が雪に跳び付いた。

「ダ、ダメですよ、雪さん!! 行っちゃ!!」

慌てて雪の後を追った杉上も亀谷に手を貸して雪を押さえた。

「そうです、雪さん!! ここにいて下さい。 破瑠魔さんのご命令です」

「ダメー!! 先生が先生が先生が・・・。 アタシ行かなきゃ、助けに行かなきゃ」

雪が二人を振り切ろうともがいた。
凄まじい力だった。
亀谷も杉上も手を振り切られないのがやっとだった。
その二人に抱き付かれたまま雪が亀裂目掛けて進んで行く。
大の男二人を引きずってだ。
凡(およ)そ女性の、それも女子高生の、もうチョッとで、あともうホンのチョッとでパンツが見える濃い赤のチェック柄の短~~~いスカートを穿いた女子高生の力とは、とても思えなかった。

そこへ、今度は大河内が加わって二人に手を貸した。

「雪様。 何卒、ここにお留まり下さい。 雪様にもしもの事が有ったら、わたくしめ、破瑠魔様に会わせる顔が。 ですから雪様、何卒ここに・・・」

3人がかりで雪をその場に押し止めるのがやっとだった。

「ダメー!! 先生が危ない!! センセー!! センセー!! センセー!! ・・・」

必死の形相で雪が叫び続けている。
顔面蒼白だ。
外道の窮地を雪はその天性の直感で感じ取ったのだ。
今の雪に二心なし。
有るのは外道を助けたい一心のみ。

「センセー!! センセー!! センセー!! ・・・」

雪は叫んだ。
外道の身を案じ。
空間に向かって。
亀裂に向かって。
その先に、間違いなく外道のいる空間の亀裂に向かって。
外道を助けたい一心で・・・

「センセー!! センセー!! センセー!! ・・・」

と、繰り返し何度も・・・

何度も何度も何度も・・・










一途(いちず)に・・・











つづく







死人帖(しびと・ちょう) ― the Last 'R'ule ― #159

#159




「い、1匹だけじゃなかったのか!?」

外道が思わず口走った。

そぅ。

今、外道と不良の周りには信じられない数のトカゲの群れがあったのだ。
それがグルっと自分達を取り巻いている。
勿論、襲い掛かるつもりで。


(ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、ジリ、・・・)


トカゲ達が間合いを詰めて来た。
そしてその中の1匹が飛び掛かって来た。
恰(あたか)もそれが合図ででも有ったかのように残りも一気に襲い掛かって来た。
そしてそれらが外道と不良に飛び付いた・・・はずだった。
だが、
一番初めに飛び掛って来たトカゲが辺りをキョロキョロ見回している。
そこに当然あるはずの外道と不良の姿がなかったからだ。
突然、二人が消えた。

ン!?

消えた???

縮地法・・・か?

外道が再度、不良を抱き抱えて縮地法を使ったのだ。
外道はトカゲが飛び掛って来た時、一瞬早く不良を抱き抱え先程の貯水タンクの真上まで跳んでいたのだった。
タンクの上で身を伏せ、二人は息を殺して目配せをした。
このままここで静かにしていてトカゲ達をやり過ごそう。
そうアイコンタクトした。
トカゲ達は相変わらず辺りをキョロキョロ見回し、外道達を探していた。
その仕種からやはり高い知能を持っている事が窺(うかが)われた。
そして終にその内の1匹が頭を上げた。
遠くを見たのだ。
貯水タンクを。
そこが怪しいと睨んだのである。
それに釣られ他のトカゲ達も貯水タンクに気付いた。
そして地面を踏みしめる鈍い足音と共に、


(ズサッ、ズサッ、ズサッ、ズサッ、ズサッ、・・・)


貯水タンクに近付いて来た。
タンクを取り囲んだ。
外道と不良は上からその様子を窺っていた。
そして不良が小声で言った。

「最早これまでだ。 奴等が気付いた。 1匹2匹なら兎も角、あの数では到底(とうてい)勝ち目はない。 しかしお前だけなら何とかなる。 だから破瑠魔お前だけでも逃げろ。 俺がいると足手まといになるだけだ」

「フン。 バカを言うな。 そんな真似が出来ると思っているのか」

「バカはお前だ。 こんな所で犬死するな」
 
「あぁ、そうだ。 犬死なんかしやしないさ。 勿論、お前もな。 俺はお前を生きたまま連れて帰ると言ってここへ来たんだ。 だから何としてもお前を生きたまま連れ帰る。 お前が死ぬのはその後だ。 死神を殺してからだ。 いぃな、あの死神はお前が責任を持って殺せ。 その後なら好きに死ね」

そうしている間、何匹かのトカゲがタンクの鉄骨を登り始めた。
外道は口では不良を助けると言った物の、成す術はなかった。
その時、外道はこう考えていたのだった。

『百歩雀拳は直線技。 よってこの数相手では使っても意味がない。 今必要なのは波紋状に広がる技だ。 ウ~ム。 どうすれば・・・』

そうだ。

例えどんなに強がってみた所で今の外道に成す術はなかったのだ。
既にエネルギーを使い果たした今の外道には。
仮に今、百歩雀拳を放てたとしてもそれは直線技、自分達をグルっと何重にも取り巻いているこの何十匹、否、何百匹いるか分からないトカゲ達全てを倒すのは不可能。
今必要なのは波紋上に広がる技。
かと言って、外道に波紋上に広がる念力技はない。
仮に有ったとしても、二度の百歩雀拳と4回の縮地法で外道のエネルギーは既に尽きて果ていた。
加えてこの窮地を脱出するために必要な技の心得はない。
そして手負いの不良は歩くのがやっと。

即ち、

この状況下で既に外道、万策尽きていたのだ。

ここを以って終に、

怨霊バスター・破瑠魔外道、

心霊ドクター・不良孔雀、

絶体絶命・・・










か?











つづく







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Author:コマル
ジョーク大好き お話作んの大好き な!? 銀河系宇宙の外れ、太陽系第三番惑星『地球』 の!? 住人 death 。

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